第一章
第3話「華音王国」







大陸の最北端に位置し、回りを連なる山脈に囲まれ、一年の3分の2を雪に覆われる国、それが私のいる華音王国です。
自然豊かで、作物を育てるには、あまり恵まれた環境ではないので、貿易による輸入にその殆どを頼っています。
ですが、決して弱小国と言う訳では有りません。自然が天然の要塞みたいな役割をし、他国の侵入を容易にさせません。
この国に入るには、数本有る山道を通らなければ来れませんし…。





私は今、華音王国王都、華音にある王城『白鍵』(ホワイトキー)に来ています。
申し遅れました。私は水瀬秋子といいます。
この華音の宮廷魔術師や宰相などの重任を任せられています。
今日は、国王倉田典善様からの急な招集で、私以下国の重役についている方々が急遽呼び出されました。
これから緊急の会議なのですが、国王様より事前に話したい事が有ると言われ、今は王の私室へと向かっています。
あ、つきました。ドアをノックし、声がしましたので、私は王の私室に入りました。






「国王様、お話とはなんでしょうか? 」
「うむ…実は、今日これから行う会議についてなんだが… 」
「何なりと。 」
「…秋子君、まずこれを見たまえ。」

国王様は私に一枚の書類を差し出されました。

「………御音からのハンターギルドに対する依頼書ですね。これが何か…… 」
「良く読んでみたまえ。君程の者なら、その文の中に、私が君を呼んだ理由が解る筈だ。」

そう言われて、私は依頼書を、一字一句気を付けて読んでいきます

「…………………!! 」

私は、ある一文のところで、国王様が何故私を会議前に呼んだのか、やっと理解出来ました。

「気付いたかね。…秋子君、もしかしたらこれは、君があの日以来、君がきっと生きていると信じ、ずっと探してきた、あの二人の忘れ形見の可能性がある。 」

「………………」

私は言葉が出ませんでした。今の私の顔は、驚きや喜び、その他色々な感情が混ざった、何とも言えない表情をしているのでしょう。
国王様も、うんうんと頷き、同意してくれました。そしてそっとハンカチを差し出されます。
涙が止まりません。





「……もし生きていて、逃亡する事に成功していたとしたら、私が魔族なら、必ず探し出して殺す。例えどんな手段を用いても…。 
あまり組織的に動かない奴等が、御音の七瀬領オトメを、素晴らしく組織的な動きで襲い、多大な被害を与えた。私はそこに何か有ると思った。 」

それは、私も同感です。

「考えられる可能性はいくつも有るが、その中で彼が逃亡し、命を狙われている事象は、必ずしも低くはない筈だ。 」
「はい……そうですね……。 」

どうしましょう。涙が止まりません。11年目にして、やっと一筋の光明が差した感じです。
姉さんと義兄さんの子ではないかもしれません。でも今は……、この情報に賭けてみましょう。





「国王様、お願いが有ります。 」
「解っている。 この件に関しては、全権限を君に与える。その為の資金も、国に影響を与えない限界までの使用を許可する。
アイツとの約束だ。我が命を賭けてでも必ず守る。 御音やハンター達よりも先に見付け出し、彼と接触し、華音に連れて帰ってくるのだ。
だが強制はしてはならない。 もし彼だとしても、何かしら理由が有って来たくない場合も有る。 」
「了解しました。……国王様、ありがとうございます。 」








10分後、白鍵内に有る大会議場に、私を含め今の華音を代表する方々が、すでに集まっていて、隣同士の人と話をしています。
皆さんの情報も早い様で、だいたいの方が2日前の御音帝国七瀬領オトメ街の魔族襲撃事件について話しています。

しばらくして国王様が入って来ました。皆さん話をやめ、姿勢を正します。





「今日集まって貰ったのは、2日前の御音で発生した事件により派生したある事について、諸君等の力を借りようと思う。 」

皆さん、 ? と言う顔をしていますね。

「本日付けで、事件の原因になったと思われる者が、教会やハンターギルドにより指名手配になった。 」

皆さん初耳だったのでしょう。隣の人と顔を見合わせて不思議そうにしています。
 
「率直に言おう。 事態の原因と思われる者を、御音やハンター達よりも先に接触し、華音へと連行して貰いたい。 」

国王様の言葉に、皆さんホントに吃驚しています。

「…若い者が知らぬのも、無理ない。 だが、11年前を戦い生き抜いた者にとっては、忘れ得ぬ者の、たった一人の忘れ形見の可能性が有る。 」

あらあら、年輩の方達は、もう口を全開きにしてポカーンとしてますね。香里さんや名雪、舞さんや北川さんは、訳が解らないと言った所でしょうか。



…もし…もしもあんな事がなければ…きっと……いい友人、又は恋人になっていたかもしれない……。そう思うと、又悲しくなってきてしまいました。





「今回の件に関しては、その全権を宰相殿に一任する。これよりは、主だった者は彼女の指揮に従う様に。 」

あらあら、先だってお話は有りましたが、責任重大ですね。
年輩の方達は皆さん、ほぼ同意して頂けたみたいですね。
若い方達は、まあ、少し疑問に思いながらも、従ってくれる様です。

後でしっかりお話しないといけませんね……。







国王様の招集から半刻程して、今は私の執務室に、私が必要とする主だった人達が集まりました。



   華音王国第一騎士団『深蒼の戦乙女』の団長であり、私の娘の水瀬 名雪。

   華音王国第二騎士団『煉獄』の団長であり、名雪の親友の美坂 香里。

   華音王国の、王城近衛騎士団の団長で、同じく親友の川澄 舞。

   華音王国の、王城宮廷騎士団長の団長で、同じく親友の北川 潤。

   華音王国魔術師団の団長補佐であり、この華音王国の王女様で皆さんと親友の倉田 佐祐理。

   華音王国の第一王子であり、皆さんの親友の倉田 一弥。

   華音王国魔術師団の団長補佐であり、香里さんの妹の美坂 栞。

   諜報部の部長であり、皆さんの一つ先輩である久瀬 透。

   諜報部長補佐であり、名雪達の親友の天野 美汐。

   同じく諜報部補佐であり、名雪たちの親友の沢渡 真琴。

   華音王国の貴族階級の家系で、子爵の位を持ち、秋子に継いで高い役職についている、芹名 貴明。

秋子を含め、計12名がここに集まりました。

では早速詳細をお話しましょうか。

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