第一章
第5話「慌ただしい動き」








【御音】



私達が、華音王国を旅立ってから、かれこれ1ヶ月が過ぎたわ。
今、私達は御音の帝都、エターナルに2週間前から滞在し、『災いを招く者』に関する情報を、収集し続けてるわ。
ここにくるまでに、御音と華音の国境に有り、華音の御音に対する砦でもある、砦の街ガーディアンフォールを通り、
国境を越えて、ついこの前襲撃された街、御音の七瀬領オトメを通り、帝都エターナルへと着いたのよ。 
まだまだあちこち破壊の跡は残っていたけど、わずか2週間ばかりでかなり復興していたわ。
あれなら、完全に立ち直るまで、そんなに時間はかからないわね。 悔しいけど、七瀬の手腕は認めざるを得ないわね。

え?敵国である御音で、華音の兵士がそんなに堂々としていていいのかですって?
 ………………(只今例のブツを装着中)…………………




ドカッ!!バキッ!!ゴスゥ!!















そんな訳ないでしょ!!?? ちゃんとオトメに入る前に、商隊に変装させたわよ。

「読者さんを殴っては駄目だろう…。 」

う…五月蠅いわね! いいのよ。 
私はどうやらこういうキャラらしいから。 久瀬君も喰らいたいの?

「う…遠慮しておく… 」

あら……、そんなに謙遜しなくてもいいのに……。






話が逸れたわね。 とにかく今は、御音帝国帝都・エターナルにいるのよ。
この2週間、それとなく情報を収集してみたけど、だいたい指名手配書と同じ様な事しか聞けなかったわ。
あら? 自己紹介してなかったわね。 私は美坂 香里。 これでも華音第二騎士団の団長よ。
香里って呼んでもいいけど、カオリンと呼んだら、ぶん殴るから、覚悟しておいてね。










「あう〜〜〜、全然情報ないよ〜〜〜……」

真琴ちゃんが帰って来た様ね。 真琴ちゃんは、上手く事が進まない事にイライラしてるわね。
まあ、そんなに簡単に手に入る様なら、もうとっくに御音かハンターが、捕まえてるでしょうけど。
御音で手に入ったのは、4日程前に、御音で活動しているSSランクハンター10数人、
偶然にも『災いを招く者』を見つけ戦ったが、一瞬で再起不能にさせられたと言う、少し耳を疑ってしまう情報しか、手に入らなかったわ。 
でも、そのハンターに直に会って話を聞いた事で、私も久瀬君も、その情報が本物だと言う核心を得たわ。
そのハンター……いいえ、今は違うわね。 元ハンターにおおよその戦った場所を聞いて、久瀬君がおよその見当をつけてくれたのよ。

「…成る程ね、東鳩か…。 美坂君、彼は恐らくオトメからずっと南下している。 」

久瀬君が地図を広げて、オトメから東鳩を指でなぞる。

「このまま南下すれば、アルテミスに入る。 恐らく彼は、アルテミスに向かっている筈だ。 」
「恐らく久瀬君の言う通りね。 栞、真琴ちゃん、アルテミスへ向かうわよ。 いいわね? 」
「えぅ〜〜〜…、今日はもう夕方だし、しっかり休みましょう、お姉ちゃん。 」
「あう〜〜〜、しおしおに賛成〜〜〜………」

二人はこの2週間、休み無しだったせいか、相当疲れてるみたいね。

「ハァ…しょうがないわね。 今日はここに泊まるから、明日はしっかりしなさい。 いいわね? 」
「「は〜〜〜い 」」

……大丈夫かしら?











ここ2週間宿泊していた宿は、帝都に有るだけあって、流石に豪華で、しっかりしていたわ。 
サービスも食事も洗練されていて、言う事なしね。

と、誰かに肩をポンポンと叩かれたわ。 後ろを振り向くと、久瀬君が立っていたわ。

「あら、久瀬君。 何? 」
「ちょっと話が有るんだが…、いいかな? 」
「話って…今回の件で…? 」
「そうだ…」

私は少し考えてから頷いたわ。

「では、他の皆が寝静まった頃にロビーで…」
「ええ」

久瀬君は、再び兵達の中に戻って行ったわ。




















(深夜)



私がロビーへ降りて行くと、すでに久瀬君がロビーのソファーに座って待っていたわ。
私は彼の前に座り、ゴメンなさいとジェスチャーで謝罪したわ。

「それで、話って何?」
「その前に、君は今回の捜索対象の彼について、どう思う? 」
「?……どう言う意味? 」
「いや、今までの話を総合した上で、今の君の、捜索相手への印象を聞いてるんだが… 」
「ああ…、そうね、まず個人戦闘力に関しては、正直疑わしいと思ってるわ。 秋子さんや国王様も、期待し過ぎじゃないかとは思うけど…… 」
「…そうか…」

久瀬君が難しそうな顔してるわ。

「どうしたのよ? 」
「彼に関して、華音魔族大急襲の時のと、今現在のと、2つ諜報部に情報が有る… 」
「……話して……」

内心、私は諜報部の存在を怖いとも、頼りになるとも思ったわ。

「これは、国王様や秋子様でも知らない事だが、当時7歳の彼が、火系上級魔法《イグニートジャベリン》を使ったと言う記録が有る。 
目撃者は、私の父だ。 資料に保存されていた、確実な物だ。 」

「……7才の子が?……」

私は久瀬君の情報を聞いて、呆然とした。 7才の子が? イグニートジャベリン? 私でさえ、いまだマスターしてないのに……。

「それだけじゃない。 彼の両親を殺した、魔王アフタリスに、彼は大ダメージを与えているんだ。 」

……言葉が出ないわ。 7才にして、魔王を退け得る力を持っていたなんて…。

「もう一つは、昨晩アルテミスと東鳩の国境付近の街が、魔族の集団に襲撃された。 」
「…では、ほぼ確実ね。 」
「…そう見ていい筈だ。 」
「解ったわ。 久瀬君、いい情報をありがとう。 もう遅いから、速やかに就寝した方がいいわよ。 」
「ああ、そうするよ。 」
「では明日」
















(翌朝)



「何ですって!?」

私は兵士の言葉を聞いて、思わず叫んでしまったわ。

「アルテミスが、御音や東鳩との国境を封鎖!!?? 」

いざ出発!!…と言う時に、御音の兵士が宿にやってきて、宿泊客に対して公示して行ったわ。

「何が有ったんだろうか… 」
「久瀬君…」
「国境封鎖をすると言う事は、余程の事が有ったに違いない。 」
「そうね。 」
「…美坂君、僕は部下に調査命令を出して、アルテミスを調べさせる。 4〜5日、待ってくれないか?」
「…解ったわ。 情報は有るにこした事はないものね。 」
「確かに。 」

そう言って久瀬君は、何処かに出掛けて行ったわ。






華音の諜報部と言うのは、部長が久瀬君、その補佐が美汐ちゃんと真琴ちゃんと言う事以外、まったく正体不明で、私が知っているのは、その構成員が500人と言う事だけ。 
後は、どんな人材がいるのか、どういった活動を何処でしているのか、各団長でも知らないわ。 
全ての正体を知っているのは、国王様や秋子さんだけらしいわ。






















 一方、東鳩とアルテミスの国境を跨いで続く森の中で、一人の黒衣の男と、8人のハンターが対峙していた。

 否、すでに5人のハンターが、地面に横たわっていた。

 8人の内、4人が黒衣の男を囲み、一斉に斬りかかる。

 残りの4人も、同時に魔法詠唱に入った。

 キンッ!!       ギキキッ!!

黒衣の男は、左右両方に持った2剣で前方二人の攻撃を受け止め、するりと流すと、そのまま時間差で
攻撃してきた後ろの二人の剣撃を、半歩横に移動する事で避ける。
と、魔法詠唱していたハンター達が、一斉に魔法を放ってきた!

「アイシクルエッジ!!」

数本の氷の槍が、黒衣の男をめがけて飛んで行く。 だが、男に当たる直前、男は逆に氷の槍を2剣で斬り捨てた。
そして男は何故か剣を収めて地面に置いた。 
そして構えをとり、直後、ハンター達へともの凄い速度で駆けだした! 
人間離れした速さで、一番近くにいたハンターの懐へと入り、みぞおちに強烈なパンチを喰らわせた。

パンチをモロに喰らったハンターは、見事に気絶。
その背後から攻撃しようとしたハンターを裏拳でぶっ飛ばし、ジャンプして頭上から攻撃しようとしたハンターを、ジャンプしてハンターを掴み、そのまま投げ飛ばした。






数分後、黒衣の男の足元には、10数人ものSSランクハンターが、全員再起不能にさせられていた。
男は剣を背中と腰に装備し直すと、倒したハンター達の傍へと歩み寄った。

「……殺……殺せ……」

倒され再起不能にさせられたハンター達の中で、ただ一人意識を保っていた者が、男を睨みながら言った。

「……殺さない……」
「何故だ!!…何故…」

ハンターが悔しさと、怒りを含んだ目をで、黒衣の男を見る。

「……悲しみを、これ以上増やしたくないから…」

男はそう言って、ハンターに背を向け、歩き去ろうとした。

「待ってくれ!! 」

ハンターが叫ぶ。
黒衣の男が少し振り返った。

「名を…名を…聞かせてくれ…」




















「…………………相沢………………相沢………祐一………」
















『…あの方の息子が………生きておられたか………完敗だな……』



ハンターの表情は、完全に負けたにも関わらず、とても澄んだ笑顔だった。



















  後書き
 皆様どうも。阿修蛇廬斗です。第5話、お届けにあがりました。
 いかがでしたでしょうか?
 何分初心者ですので、どうかよろしくお願いします。
 それでは

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