第一章
第7話「アルテミス入国1」



 〔 アルテミスで、祐一と志貴、アルクェイドが出会ってから、4ヶ月後 〕

《 御音帝国 帝都エターナル  城内 会議室 》


       バンッ!!!!!!!!!!!

「 まだ、 捕らえられないのかっ!!?? 」

思わずテーブルを殴ってしまった。 ……ったく、 イライラする。
たった一人の男を、 我が御音の者が、 どうして捕らえられない。

「 あれから半年が経つんだぞ? それだけ時間をかけてるにも関わらず、 何故男一人捕まえられないんだ!!?? 
アルテミスの件にしてもそうだ。 いつまでかからせる気だ!! お前等七将軍の名は飾りか? 」

言いたくはないが、これだけの有能な者が集っているのに、 今持って捕らえられんのが、 不思議でならない。

「 陛下… 」
「 何だ? 里村 」

珍しく、 茜が立ちやがった。 いつもは、 何も言わず、 決定に従うだけだが、 今日は珍しく何か言う様だ。

「 皆、 良く頑張っています。 相沢 祐一に関しては、 現在の所在地まで、 把握しています。 
アルテミスの件も、 後は時間の問題でしょう。 今しばらくお待ち頂けますか? 」
「 ……すでに半年待っている。 アルテミスの件に関しては、 もう一年だ。 」
「 では、 私と七瀬将軍で、 『災いを招く者』の討伐・捕獲に赴きます。 出立の許可を。 
そして、アルテミスの件は、 深山様と、 川名様にお任せして頂ければと思います。 」

 ……ほう……、 茜の奴、 何か考えが有るらしいな……。

「 …許可する。 やってみるがいい。 」
「 ありがとうございます。 」

茜は一礼すると、 七瀬を伴って、 会議室を出て行った。

「 いいのですか? 」
「 何がだ? 深山…。 」

雪見が少し訝しげに言ってくる。……茜を疑ってるのか?

「 二人で大丈夫でしょうか……。 」
「 ……仮にも、 SSSクラスの猛者だ。 何かしらの勝算有っての事だろ? 」

じゃなければ、 失敗したら、 何か処罰を考えなきゃならんな……。
やっぱアレか? 額に正義超人の刑か?
…………………正義超人って、 何だろうな?
















 《 華音王国 王都華音 白鍵城内 会議室 》



        バンッ!!!!!!!

「 いい加減にして下さい!! 貴方達は、 国王様の命令に、 従わないつもりですか? 」

私は思わず円卓を叩き、 立ち上がって叫んでしまいました。

「 従わぬとは言っておらん。 我々は、 国民と、 彼の息子、 どっちが大切か、それを問うてるだけじゃ。 」
「 ……どちらも大切です。 だからこそ、 必要最低限の人員のみで、 捜索をしているのでしょう?
それとも、 国王様や私が、 国民や貴方達をないがしろにしているとでも、言うのですか? ジャミル侯爵? 」

その後の言葉は、 容易に予想出来ますよ? ジャミル侯爵♪

「 私が言っているのは、 そんな事ではない。 ただ、 彼の息子は、 今現在、 御音に追われる身だ。 
もし今、 彼の事が原因で、 御音と戦争にでもなったらどうするのかね? 宰相殿は、責任を取れるのかね? 」

……予想通りです。

「 私が誰だかお忘れですか? 『絶対なる三魔女』(エンピールトライウィッチ)の、 『絶対の蒼』(エンピリアブルー)、 『グレートオブグレート』、 水瀬 秋子ですよ。 」
「確かに貴方は、 世界最強のハンターであり、 かつ世界三大魔女の一人だ。 
並みの者相手では、一万や二万、 いや、十万人いたとしても、 貴女には敵うまい。 
だが、 貴女に近い腕を持つ者が、複数人来たらどうなる? 御音には、 同じ三大魔女の里村 茜が、 武では七瀬留美が。 
東鳩には、武の来栖川 綾香、 黒魔の天才、 来栖川 芹香、 藤田浩之、 
アルテミスには、 遠野兄弟、そして、 つい最近居着いた上級魔族、 今解ってるだけでも、 貴女に対抗しうる人物が、 これ程多くいる。 
もしこの国々の内、 2カ国が同盟を組んで、 攻めて来たら? いくら貴女でも、 対抗しきれる物じゃない。 違うかな? 」

ジャミル候の言葉に、 彼の取り巻き連中や、 一部の諸侯達が頷いていますね。 ですが、それならそれで、 手は有るんですよ♪

「ジャミル侯爵、 確かに貴方の言われる通り、 一対一なら勝てる相手ですが、 徒党を組まれれば、いくら私でも、 負けるでしょう。 
しかし、 我々華音も、 御音以外の国と同盟を結べば、 どうなるでしょうか? 」

「 何? 」

ジャミル侯爵が、 面食らった顔をしています。 誰も同盟を思いつかなかったのでしょうか?

「 御音は、 華音だけでなく、 東鳩やAIR、 アルテミスに取っても、 極めて脅威の存在です。
単一での戦いをすれば、 国力の差で必ず負けるでしょう。 ではどうすればいいか? ……簡単な事です。 一国で無理ならば、 二国で対抗すればいい。 」

「……確かにそれは名案だが……、 宛はあるのかな? 」

……嫌な笑みですね。 難しいのは、 解っています。 でも、 やる時には やらなければならないですよ。

「 私は、アルテミスと同盟を組もうと考えています。 」
「アルテミス? 馬鹿な!? 貴女はお忘れか? この華音とアルテミスの関係を……。 」
「 知っています。 もう200年近く続く、 過去の戦いの遺恨の事ですね? でも、 私はこうも思います。 
お互い、 もうあれから何代も世代が代わりました。 遺恨と言っても、 親がそうだったから、
自分も何となく…。 そういう方が多いのが現実じゃないでしょうか? むしろ、 今が時期でしょう。 
アルテミスと組めば、 御音を挟む事になります。 御音もうかつには手を出せないでしょう。 」
「……解った。 確かに、 貴女の言う事にも、 一利有る。 ここは、 一つ同盟を組む方向で動く。もし駄目だったら、 自国防衛を最優先にする。 これでいいかな? 」
「 解りました。 」

ジャミル候は、 そう言って会議室を後にされました。 決して悪い人ではないんです。 
むしろ、愛国心では誰にも負けない人ですから。





「 さて、 アルテミス同盟の件ですが……、 使者は、 私と、 佐祐理様、 舞さんで行きます。その間は、 香里さん、 貴女が総指揮を執って下さい。 」
「 了解しました。 」

香里さん、 やる気満々ですね。

「では久瀬さん、 貴方のつてで、 アルテミス女王、 遠野 秋葉さんへ、 同盟の書状を届けて下さい。 」
「 了解しました。 」

久瀬さんも、 早速動きだしました。






 ………………祐一さん………………いつか必ず、 再会しましょうね………………




















 《 アルテミス国 アルテミス城前 》


「 じゃあ、 行って来い。 祐一 」

僕は、 祐一の肩を、 ポンと軽く叩いた。

「………」

「 祐一♪ 貴方の強さは、 私も志貴も知ってるから、 全然心配ないけど、 頑張ってね♪ 」
「………」
「 本来なら、 他国の方に、 許可は絶対に出さないところなんですが、 お兄様のたってのお願いですから、 無下には出来ませんわ。 必ず成し遂げて下さいね、 祐一様。 」
「………」

祐一は、 軽く僕、 アルクェイド、 秋葉に一瞥すると、 少し頭を下げて、 試練の洞窟へと向かって行った。
試練の洞窟に入るには、 国の許可の他に、 封印の関係で、 4ヶ月に一度の満月の日でなければ、 中には入れない様になっている。 
故に、 この間、祐一には城で待って貰っていた。 
その間、僕やアルクェイドは、 世界情勢や、 祐一がハンターギルド及び教会から、お尋ね者として賞金がかけられている事、 『災いを招く者』についての全てを教えた。 
その代わりに、 祐一には手合わせに付き合って貰ったり、 修行や稽古をつけて貰ったりしていた。



祐一が無表情なのは、 理由が有った。 
今は言えないが、 それこそ地獄の様な少年時代を過ごしてきた為、 彼は一切の感情が失われてしまったんだ。
心の中では、 悲しんだり、 嬉しがったりしても、表情に出す事が出来ない。 
それを知った時、 アルクェイドは泣いてしまった。 
理由は解っている。
魔族である自分が、 こんなにも幸せな境遇にいるのに、 祐一はまさに、 自分とは正反対の立場に置かれているから。






祐一は、 僕がまったく敵わない程に、 恐ろしく強かった。 
僕はこれでも、 SSS / SS+ だ。
その僕が、 まったく敵わなかったんだ。 
現に祐一は、 手合わせで、 一度も剣を抜いていない。 
更には、 僕相手に左手だけしか使っていなかった。
アルクェイドとも手合わせしていたが、 彼女相手でも、 両手を使っただけで、 剣さえ抜いていない。
血が騒いだのか、 最後には 「マーブルファンタズム」 まで使っていたが、祐一の肩に一撃入れたのみで、アルクェイドは次の瞬間、祐一の当て身で気絶させられていた。
いったい祐一の強さは何処に有るんだろう?





僕は、その強さの秘密を、 後々知る事になる。





そして、 祐一が全ての秘密を打ち明けた、 6人の男女の一人になる。










彼の目指すモノも……………………………。















 〔 祐一が試練の洞窟へ向かってから5日後 〕



僕がアルクェイドと昼食を食べている時、 城の兵士が僕のところへ走って来た。
話を聞くと、 秋葉から城へ至急来て欲しいとの事だった。 ……ったく、食事位、 ゆっくりさえてくれよ……。
仕方なく、 食事を適当に済ませ、 アルクェイドと共に城へと向かった。

その道中……。

「こんにちは、 遠野君。 デートですか? 」

……何で貴女がいるんですか? シエル先輩。

「 あ〜!! 尻デカ女〜!! 」

アルクェイド、 煽るなよ……(汗)。

「 ムカッ! あーぱー吸血鬼に言われたくはないですね。 私のは、 安産型と言って、 もっとも男性に好まれるお尻なんです! 」
「 ブ〜ッ……いいもんね〜♪ 女は胸と顔と愛情だも〜ん♪ 私は貴女よりは全て勝ってるし〜♪ 」
「 ムムムッ! ……まあいいでしょう。 今は城へ行かないといけませんから。 」
「 先輩も城へ行くんですか? 」
「 遠野君達もですか? なら、一緒にいきましょう。 」
「 別にいいですけど…… 」

アルクェイドを見ると、 不機嫌顔全開だった。
でも、 この二人、 しょっちゅうこうやってぶつかってるけど……、 ホントは仲良いんだよな。



城に到着すると、 僕達はすぐに王の間に通された。 
王の間には、 アルテミスの重鎮達が既に集まっていて、 どうやら僕達が一番最後らしい。

「遅かったですわね、 お兄様。 又痴話喧嘩ですか? 」

流石秋葉、 血は繋がってないが、 兄弟だけの事は有る。

「まあ…ね。 で、 呼び出しの用件は何だい? 秋葉。 」
「 これですわ 」

秋葉は僕に、 何枚綴りかの書類を渡して来た。

「 ……これは……華音との同盟の書類じゃないか? 」
「 …ええ… 」

秋葉は当惑しているな。
どれどれ、 読んで見るか。



 " 貴国 アルテミス国女王様へ
我が華音は、 貴国アルテミスとの同盟の意思が有ると言う事を、 まず先にお伝えしたく、 こうして書状をお送りしました次第です。
我が華音と、 貴国アルテミスとの、 長い間続いている遺恨・怨恨の事は、 私 水瀬 秋子も、 良く存じています。 
ですが、 長い時の流れの中、 世代は幾代も代わり、 昔程激しく、 固いい想いではないと、 思っています。 
今こそが、 お互いの国交修復の、 絶好の機会ではないでしょうか?
又、 今現在御音帝国は、 我が華音としても、 貴国アルテミスにとっても、 脅威である事と思います。
その事も含めて、 今こそお互いに手を取り合い、 脅威に対抗致したいと考えております。
もし一度会談をして頂けるのであれば、 近い内に、 お返事を頂きたいと思います。
その意思がなければ、 返事は無用で結構です。
もし御返事頂きましたら、 私 水瀬 秋子、 華音王国第一王女 倉田 佐祐理様、 近衛士団長 川澄舞の3人で、 貴国アルテミスへと、 参上します。
それでは、 良き返事が頂ける事を、 期待してお待ちしています。

華音王国宰相 水瀬 秋子                      "



 …成る程。 
これは秋葉でも当惑するな。

「 秋葉はどう思うんだ? この件。 」
「 ……私としては、 良案と思っています。 むしろ、 渡りに舟ですわ。 この一年、 ずっと御音には、 煮え湯を飲まされて来ましたから。 」
「 そうだな。 俺もいい考えだと思う。 」

もっとも、僕の本心には、 別の理由も有るけどね。
僕は家臣達を見た。

「 お前達はどう思う? 」
「 恐れながら…… 」

騎士団長か。

「 言ってみろ。 」
「 ハッ。 私としても、 良き案とは思います。 
相沢様の故国ですし、 相沢様を理解し、 受け入れた私達としては、 喜んで受け入れたいと思います。 
ですが、華音に対しては、 皆懐疑的なのは、 長い時の諍いが有りましたので、 仕方のない事。 
更に、 御音受け入れ賛成派の事も有ります。 
ここは一度、 華音の代表者と秘密裏に会談をし、 彼等の人となりを見てから、 我等の意思を決めればいいと思いますが…。 」
「 …そうか。 今は賛否保留と言う事だな。 」

流石は、 水瀬 秋子だ。 人心を良く理解している。 
僕としては、 無条件で同盟したいところだけどな。 
祐一の故国だし。 
騎士団長の言は、 これ以上の国内の内乱を危惧しての事だろう。

「 秋葉、 一度会談してみよう。 どうするかは、 それからでも遅くない。 」
「 解りましたわ。 早速、 返事致します。 」



かくして数日後、 会談の日程が組まれる事になった。

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