第一章
第9話「試練の洞窟」





〔 華音からの手紙が、 アルテミスに届いた当日 〕



……もうどれ位、 彼は地下へ、 更に地下へと降り続けただろう。
彼が洞窟に入り、 すでに4日が経っている。
食料は、遠野兄妹が、保存の利く物を、かなり多く持たせてくれたので、今のところは心配ないが、いかんせん、迷路の様な道のりに、大分時間をとられてしまっていた。
加えて、 魔物が外の物より格段に強く、 それでいて複数で襲ってくる為、 手こずる訳ではないが、 それでも時間をかけさせられていた。





( うぐぅ… 大丈夫? 祐一くん。 )

今、彼の右肩の上には、 小さな光が浮かんでいた。 
良く見ると、 小さな白い羽を生やしていて、 妖精の様にも見える。

「 …… 」

彼は頷いた。 
そして、 そっと光に触れる。

( あんまり無理しないでね。 …今の祐一くんには、 余計な心配だと思うけど… )

「 …いや、 そんな事はない。 」

滅多に話さない祐一が、 光?に対して返答した。

( ありがとう… )

光が、 少し強く輝いた。





結局、 最深部へ彼等が到達したのは、 洞窟に入ってから10日後の事だった。
今、 彼等の前には、 大きな地底湖と、 そして2体の大きな石像が存在していた。
彼はゆっくりと、 湖に近付いて行く。
湖に入り、 体が半分位まで水に入った時、 何処からか、 威厳のある声が、 彼等にかけられた。

 " 大いなる力を求めし者よ! 汝の名を答えよ! "

「 …相沢…祐一 」

名を答えると、 今度はさっきとは違う、 女性の声がした。

〈 何故、 禁呪を求めるのですか? 〉

「 …人々には、 真の平和を…。 争う魔族には、 滅びを…。 共和の道を選ぶ魔族には、共存、 共栄の道を、 与える為…。 」

 " 汝にそれが出来うるのか? "

〈 それはもっとも険しく、 遠き道程、 かなえ難き願いですよ? 〉

「 ……誰かがやらねばならない。 …その誰かに……、 いくつもの運命を重ね、 織り合わせた
結果、 俺が選ばれた。 出来る出来ないではない。 
幾人もの想いを背負い、 そして俺自身も、そんな世界を望んだ。 俺がやらなければならないんだ。 」

彼は、 双剣を抜いた。
一つは、 聖光を絶えず放ち続け、 邪を滅する、 聖剣エクスカリバー。
もう一つは、 闇を纏い、 罪を纏い、 邪悪な雰囲気漂う、 魔剣レヴァンティン。

 " その剣は…… "

〈 まさしく 〉

「 …俺は、 アイツの遺志を継いだ。 フォールダウンし、 魔王と言う身分になってさえも、
人々の事を案じ、 全ての生きとし生ける者が、 共存出来る世界を、 誰よりも望んでいた、
アイツの思いを… 」

 " その力と共にか… "

〈 ……… 〉

「 ……… 」

哀しい雰囲気が、 辺りを支配する。

 " 覚悟は、 とうに出来ているのだな? "

〈 その悲しい運命を、 貴方はすでに受け入れて歩んでいるのですね? 〉

「 ……だからこそ、 先に2つの禁呪をマスターし、 その精霊と召喚獣と契約を済ませ、

ここに来た。 」

 " 認めよう "

〈 石像の傍まで来て下さい。 〉

祐一は頷くと、 ジャブジャブと石像の傍まで歩み寄った。
と、 石像からゆっくりと、 2体の半透明な存在が現れる。

〈 私の名はアルテミス。 聖を司る、 大精霊と呼ばれる、 その一人です。 〉

 " 我の名はアレクサンドロス。 聖の守護召喚獣である。 "

祐一は、 空間に召喚陣を描き、 又、精霊との契約の証であるアクセサリを天高く掲げた。



辺りを眩い光が支配する。
光が収束したそこには、 二人の大精霊と、2体の召喚獣がいた。

{ 久し振り♪ アルテミス。 }

〈 シヴァ…… 〉

 ' ガルルルルル… '

〈 シリウスまで… 〉

『 久し振りに会うな 』

 " イフリートか "

【 私もいますよ 】

 " 金毛九尾狐… "



精霊と召喚獣の、 遥か遠い昔以来の、 再会だった。





〈 何故、貴方達が祐一様に? 〉

 " 我も聞きたいな "

{ 私が説明するわ。 }

 シヴァの声に、 他の精霊と召喚獣が頷いた。






{ 祐ちゃんは、 前の私達の主の、 血の力を受け継いだのよ。 
そして、 前の主は、 祐ちゃんに自らの遺志を託して、 滅んだわ。 
血の力を受け継いでいるから、 自然と私達は、 祐ちゃんを次のマスターに選んだのよ。 }

〈 …あの御方が… 〉

 " …滅んだ?… "

{ ええ }

アルテミスとアレクサンドロスの二人?は、 自分達の創造主の死に、 しばらく呆然とし、 そして悲しみに顔を歪ませた。

{ 私達が今、 こうして存在していられるのは、 祐ちゃんがいるから。 祐ちゃんが死んだら、
私達の存在も、 一緒に消滅する。 なら、 祐ちゃんや、 前主が願う世界を作り上げて、 それから共に滅んだ方がいいと思ったのよ。 }

〈 ……そうですね… 〉

 " 悲しき者だな… "

{ では、契約の儀式をサッサとしちゃいましょ♪ }

〈 …ええ… 〉

 " うむ "

シヴァとシリウス、 イフリートと金毛九尾狐は、 それぞれの宝玉へと戻り、 アルテミスとアレクサンドロスは、 祐一との契約の儀式に入ろうとしていた。















「 そこまでです!! 」

線の細い、 アルトな女性の声が、 地底湖ある空洞に響く。
祐一はゆっくりと振り返り、 自分が降りてきた道に、 二人の完全武装した女戦士を見つめた。

「 …… 」
「 …相沢祐一…ですね? 」

二人の内、 金髪のロングで、 左右に三つ編みにして前へと垂らしている方が、 祐一に質問した。

「 …… 」
「 貴方…、 口有るんでしょ!? どうなのよ? ハッキリ答えなさい!! 」

青い髪のロングで、 ツインテールにしている、 見た目男勝りな少女が、 早速しびれを切らして、祐一に怒鳴る。

「 ……そうだ… 」
「 そうですか。 …では相沢祐一、 貴方を、 国内を乱した罪で、 逮捕します。よろしいですね? 」
「 ……… 」
「 又ダンマリな訳? 」

七瀬が全身を戦慄かせながら、 祐一を睨んだ。

「 俺が何をした? 」
「 貴方が街に立ち寄るせいで、 その街はことごとく、 魔族に襲われ、 死者や負傷者が多数出ています。 」
「 一番最初は、 私が統治する街がやられたわ。 」
「 …… 」

祐一は、 スッと七瀬と茜に背を向けた。

「 ……捕まえたいなら、 力尽くでしろ。 俺には、 やらなければならない事が有る。 」

祐一は、 契約の儀式の型に入った。

「 では、そうさせて頂きます。 」
「 ナメないでよね! 私、 七瀬なのよ!! 」

留美と茜は二手に別れ、 祐一の丁度左右5メートル程で立ち止まり、 構えた。
祐一は尚も、 儀式を続けている。
と、 七瀬が猛スピードで駆け込み、 上段から思い切り剣を振り下ろす!


ドガァーーーン!!

だが、 祐一には当たらず、 地面の周囲1メートル程のクレーター状にしただけだった。

「 !? …何で!? 」

七瀬には斬った様に見えていた。

だが、 実際には、 祐一はひとっ飛び前に出て、 余裕でかわしていた。


〔 清浄なれ 賛美の流れ 罷り通るは 浄化の流れ タイダルウェイヴ!! 〕

地底湖の水が高くうねり、 祐一めがけて流れ落ちてくる。


〔 全ての魔を断ち切る壁よ 我が身を守護せし物となれ ピュアレジェンド… 〕

祐一の体を、 厚さ20p程の純水の渦が覆う。

茜のタイダルウェイヴは、 ピュアレジェンドで無効化され、 水はそのまま地面に落下した。

「 …アンチマジック魔法……」

茜の背に、 冷たいモノが走った。





アンチマジック魔法、 それは、 人類が1500年以上歴史を紡いできた中で、 片手で数える程しか、 使える者がいなかった、 多大に才能が必要な魔法。 
魔法を無効化する事を、魔法でやると言う矛盾が発生する為、 微細な魔力調整の出来る才能がないと、 100年経っても修得は出来ない。 
それ程修得するのが難しい魔法なのである。
それを、 自分と同じ年齢くらいの青年が、 今目の前で使ったのだ。
充分驚きに値した。




と、祐一の背後から、 留美が祐一へと向かって突進してきた。
一歩手前でフェイントをかけ、 右側から刀を横薙ぎにする。

スカッ!!

「 えっ? 」

又もや、 手応えのない事に、 留美の動きが止まった。
と、 留美の額に、 祐一の人差し指が当てられ、 そのままコツンと軽く突いた。
途端に留美は気を失い、 祐一にもたれかかる様に倒れる。

「 七瀬さん!! 」

茜が援護の為に詠唱していた魔法を途中でやめ、 祐一と祐一に抱かれる形で気を失っている留美を見る。

「 ……… 」

スッ……

祐一は留美の腰を片手で支えたまま、 茜の方へと差し出した。

「 ……仲間なんだろう…。 気を失わせただけだ。 この女を連れて、 今日は引き上げてくれないか? 」
「 私と七瀬さんだけでは、 どうやら貴方には敵いそうにも有りませんね。 ……自分では、 そんな弱いつもりはないんですが……。 解りました。 」

茜は、 武器を引いて、 まずこれ以上戦う意思のない事を示す為に、 武器を地面におくと、

祐一と留美の傍まで近付き、 留美を受け取った。
そして、 10m程離れた所で留美に喝を入れ、 意識を戻してあげた。

「 ………アレ? ………私……… 」
「 相沢 祐一に、 失神させられたんです。 」
「 ……負けたのね? 」
「 ええ。 もうこれ以上ない位に…。 完璧に負けました。 」

二人は、 契約の儀式を見ながら、 相沢 祐一と言う男を、 真剣な眼差しで見つめていた。




「 我 ここに願う 汝と共に 歩む事を

月と聖を司る 大精霊 アルテミスよ

アルテミスの守護召喚獣 アレクサンドロスよ

ムーンストーンに ホーリーストーンに宿り

契約の証とならん! 」






アルテミスがムーンストーンに、 アレクサンドロスがホーリーストーンへと、 吸い込まれる様に入って行く。



〈 これで、 貴方は第三の禁呪、 『 ホーリーレインスパーク 』 をマスターしました。 〉

 " 力は正しき事に使ってこそ力。 ゆめゆめ、 忘れぬ様にな… "

「 …… 」

祐一は、 ただ無言で頷いた。
そして、 茜と留美の目の前まで近付く。

「 今日はこのまま引きます。 今の私達では、 貴方の足元にも及びませんから。 」
「 次戦う時、 楽しみにしてなさい。 」

二人が祐一を睨む。

「 ……俺の成すべき事の邪魔をするなら、 退けるだけだ。 戦いたいなら、 好きにすればいい。 
だが、 次は容赦はしない。 本気は出さないが、 無傷で帰すつもりはない。 ハンター生命、 国軍兵士生命を賭けて来い。 」

祐一はそれだけ言うと、 元来た道を上り始めた。 茜と留美も、 帰り道がその一つしかない為、 
祐一の後に続く。 帰路の五日間、 祐一と共に、 行動するハメになった。



その間、 祐一に手合わせを申し込み、 何度か手合わせをしたのは、 又別の話。

茜がアルテミスから、 魔法のレクチャーを受け、 
留美がシリウスと、 格闘の手合わせをしたのも、 それはそれで別の話。

この五日間の同行で、 留美と茜の、 相沢 祐一に対する見方が、 かなり変わったのは、ご愛嬌♪。 

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