第一章
最終話「アルテミス内戦勃発」








華音軍 総数 8000は、 アルテミスに到着すると、 それぞれの団長クラスの者と、 水瀬秋子のみ、 アルテミス城へと赴き、 秋葉女王と謁見した。
今回来ている団長は、 水瀬 名雪、 美坂 香里、 川澄 舞 の、3人だった。
北川は、 華音本国の総指揮官の任務の為、 華音に残っている。

「 華音同盟軍 8000、 只今到着致しました。 」

秋子が礼を尽くす。

「 迅速な対応、 心より感謝致しますわ、 秋子様。 」

秋葉も、 一国の女王として、 感謝の意を示した。

「 早速ですが、 反体制派の情報を頂けますか? 」
「 ええ、 シエルさん、 説明お願いします。 」
「 了解しました。 」

シエルが秋葉の前に出て、 書類を読み始める。

「 反体制派の主な隊は、 レグリア候 4000、 ラザフォード卿 6000、 七夜家一族8000の、 計 18000。 
うち、 七夜家はプロの暗殺集団で、 一番危険な存在です。
魔導士がそれぞれの隊に 1000人づつ配置されてる様で、 兵力の上では、 互角ですね。 」

そう言って、 書類を秋子に差し出した。

「 詳細な情報は、 それに書いて有ります。 私が読み上げるより、 水瀬様が直接読まれた方が、 早いと思います。 」

シエルは一礼すると、 列の中へと戻って行った。
秋子が書類を読む間、 謁見の間は、 静寂に支配されていた。
そして、 殆どの兵の視線が、 秋子に向けられていた。
世界最強とされている、 しかも美貌の女性が目の前にいるのだから、 仕方のない事だろう。
およそ 4〜5分で、 秋子が書類に目を通し終わり、 顔を上げた。

「 良く調べられていますね。 立てられてる作戦についても、 何も言う事は有りません。 」
「 それは良かったですわ。 一つ二つの注意は覚悟の上でしたから。 」

秋葉はホッと、 胸を撫で下ろした。

「 一つお聞きしますが、 今回の戦い、 アルクェイドさんはどうするんですか? 」

今この場にはいない、 真祖の姫の動向を、 秋子は確認の為に尋ねた。
その質問には、 志貴が秋葉の代わりに答える。

「 アルクェイドは、 今回は一切戦いません。 今後も人と人の戦いに参加はさせません。
彼女は不満そうにしているけど、 それが彼女の為ですから。 」

志貴は、 そう言うと、 スッと席につく。

「 …志貴様は、 心からアルクェイドさんの事を、 愛していらっしゃるんですね。 」
「 ……はい。 」

志貴は照れる事なく、 真摯に返答した。

「 私もそうした方がいいと思います。 アルテミスだけですから。 
魔族と共存する事を、 国を挙げて選択なされたのは、 華音も、 行く行くはそう言う国になりたいと思います。 」

志貴は、 いや秋葉も、 すでに貴女の国の人で、 そう言う人がいると言う事を、
伝えたかったが、 今は耐えた。
祐一との約束が有ったからだ。 
自分が今、 アルテミスにいる事は、 誰にも秘密にして欲しい。
それが祐一の願いだったから。
用事が済み、 アルテミスを出たら、 好きにしてもいいとも言われている。
祐一との、 親友との約束が、 この二人にとっては、 何よりも優先される事だった。

「 では、 私は軍に戻ります。 又明日、 お目にかかりましょう。 」
「 ええ、では又明日、 お待ちしていますわ。 」

秋子は一礼すると、 各団長と共に、 城を後にした。





「 …アルテミスの様に、 華音もそうなりたい……。 同盟を組んで、 良かったですわね、 お兄様。 」
「 祐一の様な男が育ったのも、 今なら頷けるよ。 」

二人は、 久し振りに、 心からの微笑みを浮かべた。

「 アルクェイドは、 ばれずに護衛してますかしら? 」
「 …どうだろうな。 祐一の事だから、 気付いていながら、 黙ってるんじゃないか? 」
「 ……それもそうですわね…… 」






       〔 その頃、 同時刻 〕


「 ……クシュッ! 」
「 …風邪か? 」

アルクェイドのクシャミに、 祐一がティッシュを差し出した。

「 …魔族でも、 風邪を引くのですか? 」
「 だったらお笑いね。 」

やむなく同行している茜と留美も、 アルクェイドにツッコミを入れる。

「 ………ゥゥゥ… 皆にツッコまれる私っていったい…… 」

目に見えて落ち込んでいる、 アルクェイドだった。

「 何故、 俺についてきた。 」

祐一が無表情のまま質問する。

「 ……志貴に頼まれたのよぅ…… 」

アルクェイドは、 視線を逸らしながら、 答える。

「 …嘘ね。 」
「 嘘ですね。 」

速攻でツッコまれるアルクェイド。

「 ……… 」

アルクェイドは、 徐々に態度が小さくなっていく。

「 ……ん〜もう! 解ったわよ! 素直に言う!! 祐一について行った方が、 楽しそうだからよ! 」
「 ……逆ギレね。 」
「 逆ギレですね。 」
「 !!………アゥゥ…… 」

茜と留美のツッコミに、 最早アルクェイドは、 完全に落ち込んでしまった。

「 ………これから戦いが始まる。 その中に、 魔族のお前が参加するのは、 非常にまずい。
志貴の考えた最善の方法が、 俺の護衛だった。 違うか? 」

祐一の言葉に、 アルクェイドは素直に頷いた。

「 それに、 お前の日頃の鬱憤晴らしをさせようという、 志貴の配慮だろう。 」
「 あ…… 」

アルクェイドは、 今気付いたらしく、 志貴の思いやりに、 顔を紅くした。

「 魔族が人に惚れる。 そんな事も有るのね。 」
「 ………少し羨ましいです。 」

二人は、 アルクェイドを見て、 ここまで人間らしい魔族もいるんだなと、 魔族に対する認識を、 少し改めた。 
もっとも、 バレてお互いに自己紹介をした時には、 いきなり戦闘に突入してしまったが……。
止めたのは、 祐一だった。

「 …… 」

祐一は、 胸元のネックレスをそっと服の外に出し、 見つめた。
と、 光が溢れ、 白い翼の、 妖精の様な少女が、 皆の目の前に現れる。

『 うぐぅ。 』

出現して開口一番、 謎の台詞が飛び出した。

『 あ、 祐一くん。 どうしたの? 』
「 お前に紹介したい奴等がいてな。 」
『 紹介? 』
「 後ろを見ろ。 」
『 うぐ? 』

祐一の言う通りに、 後ろを向くうぐぅ……、 もとい、 あゆ。
3人の女性陣は、 可愛い物を見る目で、 あゆを見つめていた。

『 この人達? 』
「 ああ 」
『 始めまして、 ボク、 あゆです。 』
「 ………ハッ!! いけないいけない。 始めまして♪ アルクェイドよ♪ 」
「 …里村 茜 です。 」
「 七瀬 留美 よ。 」

3人は我に返り、 自己紹介した。

『 うん、 覚えたよ。 』

あゆが、 祐一の方に向き直る。

『 女の子ばかりだね♪ 』

ニコニコと、 嬉しそうに話すあゆ。

「 たまたまだ。 一人男もいる。 後々、 紹介してやる。 」

『 うん、 楽しみにしてるね♪ 』

そう言うと、 あゆは再びネックレスについた、 宝珠の中へと、 戻って行った。

「 祐一♪ 今のは何なの? 」

アルクェイドは、 興味津々に尋ねた。

「 ……幼馴染み、 同族に殺され、 魂のみの存在になった、 俺の師の一人娘だ。
師が、 魂のみのあゆを、 この宝珠に封印し、 娘の願い通り、 いつでも一緒にいれる様にしてくれた。 」

祐一が、 ネックレスを再び服の中へ戻す。

「 ……すでに、 亡くなっているんですね。 」

茜が、 今にも泣きそうな表情で、 小さく呟いた。

「 …… 」

留美に至っては、 あまりにも悲しい出来事に、 何も言えなくなってしまった。

「 …私も、 もし死んだら、 志貴の傍に、 ずっといれる様になりたいな… 」

アルクェイドは、 祐一の胸元を触り、 宝珠を服の上から撫でた。

「 ……生きてる方がいい。 生きて、 志貴の傍にいろ。 」

祐一はそう言うと、 真っ先に横になり、 睡眠に入った。

アルクェイドは、 祐一の背中に向かって頷き、 同じく横になる。
それに倣い、 御音の二人も、 横になる。
夜はそうして、 更けていった。





    〔  翌日早朝  〕


戦闘の合図は、 華音 ・ アルテミス連合の予想よりも大分早く、 鳴り響いた。
まだ太陽も昇りきらぬ早朝、 突如、 王都 遠野の西 ・ 東 ・ 南側から、 反体制派軍が、 大挙して攻め込んで来た。




「 起きて下さい! 皆さん!! 奇襲です!! 」

秋子自らも、 兵達を起こしに懸かる。
兵達は迅速に装備を整え、 王都内へと繰り出した。
名雪 ・ 香里は、 それぞれの部下達を指揮し、 西 ・ 東 の敵軍と、 すでにぶつかっていた。



「 うぅぅ〜〜〜〜〜〜〜!! こんな早朝から、 非常識なんだお〜〜〜!! 」

緊張感まるでなしの台詞だが、 その間にも、 敵兵を次々と倒していく。



「 寝不足は、 お肌の大敵なのよ!! もし荒れたら、 どうしてくれるのかしら? 」

香里は、 自己の不満を、 敵兵にぶつけまくっていた。



「 皆さん、 それぞれの部隊へと急いで下さい。 騎士団では、 限界が有ります。魔法で、 援護して下さい! 」

秋子の言葉に、 魔術師達が、 それぞれの配属部隊へと散って行く。

「 では、 私も行きますか。 」

秋子は一人ごちると、 魔術で空へと飛翔し、 城の門前へと向かった。




一方アルテミス城でも、 同様に上や下へのてんやわんや状態になっていた。
どうにか隊列を整えると、 秋葉はすぐに出陣の号令をかけ、 アルテミス軍も遠野内に繰り出した。
入れ替わりに、 国民が城内へと収容される。
早朝だった為に、 殆どの者が、 着のみ着のままだった。
秋葉は、 一人一人にタオルケットを配布した。




こうして、 アルテミス内乱は、 戦争へと突入した。

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