第二章
第1話「戦火荒れ狂うアルテミス」





「 倒せ! 殺せ! 国王を倒し、 政権を奪うんだ!! 統治者が変わらない限り、 この国に未来はない!! 」

反体制軍の、 将校らしき騎士が、 自軍の兵に叱咤する怒声が、 戦場に轟く。
早朝に奇襲を受けた形の国王軍は、 取り合えず全軍出撃はしたものの、 未だ充分に対応しきれないでいた。

「 クソッ! こんなにも早く、 攻め込んで来るとは… 」

志貴は思わず柱を蹴飛ばし、 自分の対応の甘さを責めた。

「 落ち着いて下さい、 兄様。 冷静さを失いますと、 正しい判断が出来なくなります。 」

秋葉が志貴の手を取り、 諫める。

「 …そうだな。 済まなかった、 秋葉。 」
「 別にいいですわ。 …でも、 流石秋子様ですわね。 」
「 ああ 」

二人は、 謁見の間のベランダから、 戦場と化した王都 遠野の街を、 見下ろしていた。

城門前には、 只一人、 華音王国宰相 水瀬 秋子が、 佇んでいた。
すでに門の前には、 夥しい数の、 反体制軍の兵士の死体が、 横たわっていた。
と、 秋子が消え、 次の瞬間には、 突撃してきた数十人の兵の後方に立ち尽くしていた。
少しして、 敵兵達が血を撒き散らしながら、 地面に倒れた。

「 ……とても同じ SSS とは、 思えないな。 」
「 私も、 目で追うのがやっとですわ。 」
「 今の俺達だから、 目で追えるんだ。 …祐一と出会う前の俺達じゃ、 とてもじゃないが、 見えなかった。 」
「 そうですわね。 」

二人は、 水瀬 秋子 の強さを今、 現実に見て、 受け止めた。



「 うう〜! 倒しても倒しても、 一向に減らないんだお〜! 」

名雪は、 敵を倒しながら、 一人愚痴った。
そして、 あらかた自分の廻りの敵兵を倒すと、 一度戦況を観察する為、 後方で待機する魔術士団の中へと戻った。
そして振り返り、 戦場を見た。

…………遥か遠くの空に、 不気味な黒い大きな影を見つける。

「 ………何? ………アレ……… 」



同じ頃、 香里や舞も、 名雪が見つけた大きな影を視認していた。



「 ……何よ …… アレは …… 」
「 ……アレは ……… 」













そしてそれは、 同じく志貴や秋葉、 秋子も視認していた。

「 何だ …… あの黒いモノは …… 」
「 ……どんどん、 近付いていますわ。 」

二人が、 遥か遠く北の空を見つめながら呟く。





「 あれは …… あれは、 魔族!! 」

水瀬秋子は、 誰よりも早く、 黒い影の正体に気付いた。

「 くっ … 何てタイミングで…。 仕方有りませんね。 」

そう愚痴って、 秋子は魔法詠唱に入った。


『 澄みきった大気よ 我が声を 万人に知らしめよ 伝えよ我が意思を サイフォン 』


「 皆さん! あの黒い影は、 魔族です!! 両軍の兵は、 それぞれの陣へ戻りなさい!! 」

秋子の声が、 王都遠野の隅々にまで響き渡る。

「 お母さん? 」
「 秋子さん? 」
「 秋子さん… 」

3人の団長は、 秋子の声を聞き、 迅速に行動に移った。

「 反対制の貴方達も引くんだお! 今は、 人と人で争っている場合じゃないんだお!! 」

名雪の大声に、 反対制の兵も、 頷かざるを得なかった。 すでに黒い影は、 魔族の大群と認識出来る距離にまで、 近付いていたからだ。
反体制の将校の指揮の下、 退却していった。





「 志貴さん、 秋葉さん、 今すぐそこへ行きます! 国民の皆さんを、 一カ所に集めて下さい! ここから一番近い街、 商業都市 月姫に避難させますから!!! 」

秋子の言葉に、 二人は頷き、 すぐに近衛兵に命を下した。
半刻後、 両軍はすでに引き、 今は魔族が王都 遠野 の周囲を、 取り囲んでいた。
国民は、 順番に 水瀬 秋子 が作った、 転移ゲートから、 月姫へと転移し続けていた。
と、 何もない所から突然、 一人の美女が現れた。

「 志貴!! これは一体どうしたのよ!! 」

アルクェイドだった。 空間転移で、 急いで来たようだ。

「 アルクェイド!? どうしてここに? 」
「 洞窟を出て、 しばらく歩いていたら、 いきなり黒い煙と怒声が聞こえて来たのよ! だから、 祐一の許可を得て…… 」
「 アルクェイド!! 」

志貴が、アルクェイドの口を塞ぐ。
だが、 時すでに遅しだった。
秋子が、 名雪が、 香里が、 舞が、 他の華音軍の兵士が、 アルクェイドと志貴を見ていた。

「 ……今 ……何て? …… 」

秋子が、 珍しく恐る恐る志貴に尋ねる。

「 …… 」

志貴は、 口をつぐんだまま、 そっぽを向いた。
アルクェイドも、 冷や汗タラタラである。

「 … 祐一って ……言いましたよね? 」

秋子が、 下を俯きながら、 志貴とアルクェイドに歩み寄る。
逆に、 志貴とアルクェイドは、 2〜3歩後ずさった。
そんな事を何回か繰り返すうちに、 志貴達は壁際まで追いつめられていた。
追いつめた秋子は、 志貴の腕を掴んだ。

( 殺される )

志貴は一瞬そう思った。
だが、 次の瞬間見たものは、 大粒の涙をこぼす、 秋子の泣き顔だった。

「 …… 」

志貴は、 秋子の泣き顔に、 心を痛めた。

( ……血の繋がった、 実の姉の息子だからな…… )

志貴は、 うち明ける決心をした。

「 ……秋子様 …、 祐一は、 貴方の甥、 相沢 祐一 は、 確かにこの国にいます。 」
「 ……ホント…ですか? 」

秋子の不安げな問いに、 志貴は黙って頷いた。

「 アルクェイドには、 アイツの護衛をして貰っていたんです。 そうすれば、 人と人の戦いに、 介入しなくて済みますから。 」
「 …… 」

秋子は無言で頷くと、 涙を拭い、 少し笑った。

「 済みません、 取り乱してしまって…… 」
「 仕方有りません。 ずっと信じていた甥の生存を、 やっと確認出来たんですから。

こっちこそ、 黙っていて済みませんでした。 」
志貴が頭を下げる。

「 華音の皆さんに黙っていたのは、 祐一自身の願いだったからです。 
今はやる事が有るから、華音には帰れない。 今やるべき事が全て片付くまでは、会わない方がいいと。 」
「 そうですか。 」
「 実を言うと、 4ヶ月間、 祐一はこの王城に、 貴方達が同盟の件で来られる2週間程前まで、いました。 
その間、 世界情勢を彼に教えたり、 私達は修練や稽古をつけて貰ったり、 この王城にいる兵士は、 皆彼を慕い、 尊敬しています。 」
「 …… 」
「 ……私達アルテミスの皆は、 誰一人、 彼を 『 災いを招く者 』 だなんて、思っていません。 」
「 ……ありがとうございます。 … 」

秋子の涙は、再び溢れだし、 もう止まらなかった。

「 祐一は今、 ここに向かってるわよ♪ 余計なのが二人程ついて来てるけどね。 」

アルクェイドが、ニコニコしながら報告する。

「 余計な二人? 」

秋葉が尋ねる。

「 うん♪ 御音七将軍の内の二人、 里村 茜 と 七瀬 留美。 」
「 なっ!? 」

秋葉が、 驚きで言葉をつげられなくなった。

「 御音だと? 」

志貴がアルクェイドの肩を掴む。

「 うん♪ 祐一を捕まえようと、 わざわざ尾行して来たみただけど、 祐一に負けたわよ♪今は、 やむなく祐一と一緒に行動してるわ。 」

アルクェイドの言葉に、 志貴は呆然としていた。

「 フフフ、 大丈夫ですよ、 志貴様。 」

秋子が少し微笑んで、 安心させるような言い方で、 志貴の肩を軽くポンと叩いた。

「 里村 茜 は、 私の昔の仲間、 『 絶対の金 』 です。 
恐らく、 私が祐一さんの叔母と知って、 私がここにいる事を知ったのでしょう。 
恐らくは、今回限り、国は関係なく私達の味方になってくれるでしょう。 」

秋子は安心した微笑みを浮かべ、 志貴と秋葉を落ち着かせた。

「 …秋子様の言葉を信じますわ。 」

秋葉は、そう言って、 兵達を納得させた。






30分後、 国民の月姫への避難は完了し、 王都に残るのは、 王族と騎士や兵士、 華音軍だけとなった。
秋葉と秋子を城に残し、 全軍で魔族の掃討撃って出た華音・アルテミス軍。
今回に限り、 アルクェイドも参戦している。 
一人で一度に数十〜数百の魔物を屠って行くその様は、 ヴァンパイアとしての力の強大さを、 改めて皆に印象付けていた。
敵になれば恐怖の対象でしかないが、 味方になれば、 これ程心強い者もいないと。
そして、 反体制派の軍も、 魔族掃討に限り、 協力する旨を、 秋葉に伝えて来た。
今は、 王都内にて国王軍華音軍と共に、 魔族と戦っていた。




と、 そこへ蒼いロングヘアーの、ツインテールにした少女と、 
同じくロングだが金髪で、 3つ編みを両サイドに分けて、 前に垂らしている少女が、 王都内の中央大通りに現れた。
たまたま大通りにいた香里が、 二人を視認し、 近付く。

「 貴女達は!? 」
「 …今は、 自己紹介している場合ではないと思いますが? 」
「 魔族を滅ぼしてからでも、 良いと思わない? 」

二人は香里にそう宣うと、 武器を取り出し、 戦場へと繰り出した。

「 ……それもそうね。 」

猫の手も借りたい位だし…… と、 香里は思い、 自らも戦場へと再び繰り出した。












その頃、王都の門の前には、 これから王都内へと侵入しようとしていた、 夥しい数の魔物の死体が、 山の様に横たわっていた。
その数は、 王都内で暴れている数百体の魔物の、 3〜4倍に匹敵するだろう。
指揮していた魔族も、 すでに単なる肉に塊になっていた。
門の所には、 黒で統一された装備に、 銀髪の少年が、 両手に一本づつ剣を持ち、佇みながら、 王都内を見つめていた。

「 ………また、 俺を炙り出す為に、 関係ない多くの人を殺しているのか……」

頬を、一筋の涙が伝う。
祐一はその涙を拭うと、 ゆっくりと歩を進め始めた。

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