第二章
第2話「 再会 」








時が止まった。 華音の、 アルテミスの、 反体制派の、 それぞれの兵士達や、 たまたま大通りにいた香里、 茜、 留美の時も、 止まっていた。
祐一が現れた途端、 王都の各所で暴れていた魔物の動きが止まり、 戦っていた兵士を無視し、 次の瞬間には、 祐一めがけて、 全ての魔物が集まって来ていた。
祐一は、 自分めがけて次々と襲いかかって来る魔物を、 その2剣で次々と倒していく。
流麗な体さばきでかわしつつ、 一撃の下に魔物を屠っていくその様は、 まるで舞を舞っている様に、美しく見えた。
すでに魔物の攻撃対象が、 祐一一人になっている為、 兵士達は皆、 その様をただ見ている事しか出来なかった。

「 ……… 」

香里ですら、 二の句がつげず、 その美しい闘舞に、 見入ってしまっていた。
と、 ポンと肩を叩かれ、 香里は我に帰り、 後ろを見る。 留美と茜だった。

「 どうしたのよ? 貴女らしくないんじゃない? 華音第二騎士団長、 美坂 香里 。 」
「 …… それは貴女達も同じでしょう? 『 絶対の金 』 里村 茜 、 『 戦乙女 』 七瀬留美。 」

お互いに、 少しの間睨み合うが、 同時に微笑みを浮かべ、 たった一人で戦っている男を見た。

「 …… 凄いわね …… 」
「 …… まだまだ全然本気じゃないわ。」 
「 !! … あれで、 本気じゃないの!? 」

香里は、 七瀬の言葉に驚きを隠せないでいた。

「 …… SSS の、 私達二人がまったくかなわなかったのよ? 」
「 彼の本気は、 まだ誰も見ていません。 」
「 …… SSS 二人に勝つ存在…… 」

香里は、 目の前で戦う男に、 畏怖の念を感じた。

「 … 良かったわね、 香里。 彼が、 貴女達が探していた、 相沢 祐一 よ。 」
「 !!! …… 相沢 … 祐一 …彼が… 」

香里は、 あまりの衝撃に、 思わず体を震わせた。

「 早く、 水瀬 秋子 に伝えなさい。 私達は、 彼の援護をするから。 」

そう言うと、 留美は茜と共に、 祐一に襲いかかる魔物達を、 かたっぱしから倒し始めた。

「 …… ハッ! 私ったら… 。 … 早く伝えなければ… 」

香里は、 七瀬と茜にこの場を任せると、 城へと向かって走って行った。






「 何だか、 魔物の動きが変わりましたわ、 秋子様。 」
「 …ええ、 先程まで、 バラバラに、 手当たり次第暴れていましたが、 つい先程から、 表門一カ所に集中しています。 」

二人はベランダから状況を見ていた。
そこへ、 息も絶え絶えに、 香里が走って入って来た。
全力疾走で城内謁見の間まで来た為か、 なかなか息が整わない。
秋子は、 香里が落ち着くのを待って、 そして何事か、 問いただした。

「 どうしたんですか? 香里さん。 貴女の様な人が、 こんなに取り乱して…… 」
「 …… 秋子さん …… 、 いえ、 秋子様、 今現在、 門前にて、 御音七将軍の内の
二人、 『 絶対の金 』 里村 茜、 『 戦乙女 』 七瀬 留美 が戦闘に参加。 ある男の援護をしています。 」

秋子の微笑みが固まり、 一転して真剣な表情になる。

「 男の名は…… 相沢 祐一! 私達がずっと探し続けていた人物と、 二人の証言により判明。 
今現在、 己に群がって来る、 数多の魔物を、 圧倒的な強さで、 屠り続けています! 」

香里は、 報告を終えると、 再び戦場へと戻って行った。
秋子は再びベランダから表門前を見る。 表門から大通りを城方向へ向かって数多の魔物の死骸が見える。
秋子は秋葉を見つめると、

「 私も、 あそこへ向かいます。 」

と言い、 秋葉も、

「 … どうぞ、 御対面して来て下さい。 」

と発言し、 二人はニコッと微笑んだ。
そして……、 秋子はベランダから飛んで行った。










圧倒的な勢力差とは裏腹に、 祐一は悠然と前に進み、 逆に数百いた魔物達は、 急激に数が減っていき、 押されていた。
残りが50を切った時、 祐一は双剣を鞘に収め、 茜と留美に魔物を抑えるのを任せた。
そして、 魔法の詠唱に入る。





王都内のあちこちで戦っていた、 華音・アルテミス軍及び反体制軍の者も、 今現在唯一の戦場と化している、表門大通りへと、集まって来ていた。
第一騎士団も、 魔術師達も、 舞や反対制軍の兵達も、 今や唯一戦っている3人に見とれていた。
そこへ、 秋子とアルクェイドが、 ほぼ同時に現れる。

「 あ、 お母さん。 」

名雪が秋子の存在を見つけ、 声をかけた。

「 名雪… 」

秋子は一瞬、 名雪を見たが、 すぐに戦っている3人へと、 視線を移した。

「 ? 」

名雪は不思議に思いながらも、 同じく視線を戦う3人へと戻す。

アルクェイドは、 そのまま戦いに乱入していった。

「 面白そうだから、 私も混ぜてね♪ 」
「 貴女は私達より早く来て戦ってたでしょ!? 」
「 …… 好戦的過ぎです。 」

3人が、 数匹の魔物を、 一度に屠る。

「 魔物相手じゃないと、 戦えないからね♪ 今の内に思い切り発散させないと。 」
「 …… 仕方ないわね。 でも、 祐一がフィニッシュを用意しているから、 貴女は護衛に廻りなさい! 」
「 … この数でしたら、 私達で抑えられますから。 」
「 ブ〜〜〜〜〜〜ッ♪ 仕方ないわね♪ 」

アルクェイドは、 祐一の前に立ち、 詠唱を続ける祐一を守る。




 『 月と聖の大精霊 アルテミス よ。 今こそ、 汝の姿を現せ。 』

祐一は、 ムーンストーンを天高く掲げた。
ムーンストーンが輝き、 一瞬後、 祐一の目の前には、 アルテミスが現れていた。
銀色の、 足元まで伸びた、 美しい髪、 整ったプロポーション、 美しい羽衣を纏うその姿は、 威厳に満ち、 神々しくもあった。



〈 出番ですね? 〉

アルテミスの言葉に、 祐一は黙って頷く。



「 … あれは… 、大精霊アルテミス!? 」

秋子が大声で叫ぶ。
普段、 殆ど動揺しない秋子が、 今日は動揺させられっぱなしだった。すでに祐一の姿は見ている。
姉の夫、 祐貴にそっくりの容貌、 正に、 亡き義兄と姉の、 たった一人の息子だった。



『 聖を司る大精霊よ 邪を葬るその力を 我等に与え給え

魔なる者を 聖光の彼方へと導き滅っさん 』



「 !! 」

祐一の詠唱を聞き、 秋子は祐貴と夏美の最後を思い出していた。



『 聖の精霊よ その力を持ちて 全ての魔を滅っせよ 』

「 えっ? 」

祐一の詠唱を止めに入ろうとした秋子が、 自分の知る正式詠唱とは違う詠唱を聞き、 立ち止まった。
と、 アルクェイドが秋子の前まで来て、 ニコッと笑った。

「 大丈夫よ、 秋子♪ 祐一は死なないよ♪ 祐一の両親が亡くなったのは、 精霊の力を借りなかったから。 
だから、 必要な魔力に足りない分を、 生命力で補ったからよ。
本来は、 精霊を介して使用する魔法なんだって♪ ココに向かう前に、 祐一が説明してくれたわ 」

アルクェイドの言葉に、 秋子は自分でも知らなかった知識を持つ祐一に、 少なからず畏怖した。
そして同時に、 何故この魔法を今使うのか、 その心をも、 秋子は察してしまっていた。

『 …… 宣戦布告… なんですね? 』

秋子はもう何も言わず、 もうすぐ来る魔物に対する勝利を、 ただ黙って待つ事にした。



『 光あれ 幸あれ 裁きあれ 』

『 昇天! 』

直径3メートル程はある光球が4つ、 光の線で繋がる。

そして……

『 大天舞讃歌!! (ル・セイクリッドメアリー) 』

空へと一筋の光線が、 祐一の廻りに展開した光球の中心から放たれる。

「 …… 拡散…… 」

一定の高さに達した光線は、 祐一の言葉で幾筋もの細い光線へと分裂し、 王都内のあらゆる生物へと降り注いだ。 
魔物や魔族の死骸は、 砂の様に崩壊し、 存命の魔物も、 滅びの時を迎えた。 
人々に死体は昇天し、 傷ついた者は、 完全に回復した。








しばしの間、 沈黙が続いたが、 やがて、 魔族を完全に撃退した喜びか、 歓声が上がり始める。 
王都はかなり破壊されてしまったが、 人々は確かに勝ち残った。
祐一の元に、 アルクェイドと留美、 茜が集まり、 お互いにハイタッチした。 そこに秋子が近付いた。

祐一達も、 秋子の方を見る。

「 …… 」
「 …… 」

祐一と秋子の視線が、 長い時間ぶつかる。
と、 秋子が視線を外した。

「 …… 祐一さん ……ですね? 」

涙でグシャグシャの顔を上げて、 秋子は再び祐一を見た。

「 …… 秋子さん…… 」

祐一が、 秋子の名をしっかりと呟いた。

……次の瞬間、 秋子は祐一をしっかりと抱き締めた。

「 …… 信じていました。 … 生きていると…。 再び逢えると…。 」

華音の人々は、 皆、 信じていました。
その言葉は、 祐一にだけ、 聞こえていた。

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