第二章
第3話「祐一の過去〜序章〜」










祐一と秋子が、 実に10年振りの再会を果たした数時間後、 祐一や茜と留美を含む華音・ アルテミス軍は、王都遠野より数q離れた平地に陣を作り、 構えていた。
再会直後、反体制軍の中の七夜一族が、勝利に酔う王軍の隙をつき、ほぼ空に近かったアルテミス城を急襲、秋葉を人質にし、やむなく王軍は王都外へと退去したのだった。

「 済みません、 志貴様。 私が、 感情に任せ、 外へ出なければ、 こんな事には… 」

秋子が、 深々と頭を下げる。

「 いや、 秋子様は悪くないです。 私のミスですよ。 殆どの兵を、 王都内へと出撃させたのは、 他でもない私と秋葉ですから。 」

志貴はそう言うと、 祐一の方を向いた。

「 済まない、 祐一。 約束、 破ってしまった。 」
「 …… 」

祐一は、 ただ首を横に振った。

「 だが… 」
「 ……いいんだ。 どうせいつかは、 話していた事だ。 それが早まっただけの事だ。 」
「 ……そうか、 ありがとう。 」

志貴は祐一に頭を下げた。

「 よせ、 志貴。 何故頭を下げる。 俺はお前にとって、 親友ではなかったのか? 」
「 ……これは、 一国の、 今現在の代表としてのケジメだ。 」
「 ……解った。 」

祐一が引くと、 今度は御音の2人を見た。

「 貴女方も、 手を貸してくれて、 本当に感謝する。 」

そう言って、 再び頭を下げた。

「…成り行き上、 私は相沢 祐一 に手を貸しただけです。 」
「色々学ばせて貰った恩返しみたいなものね。 …借りを返したと言う事にしておいて。 」
「では、 そうしよう。 」

志貴はその申し出を受け入れ、 改めて祐一に感謝した。
その後、 緊急会議でも、 御音の2人の事は、 問題として提起されたが、 祐一の預かりと言う事で、 皆納得した。






そして夜、 秋子は志貴の元に訪れていた。

「 …志貴様、 お教え下さいませんか? 」
「 何をですか? 」
「 …祐一さんの、 過去をです。 」
「 …… 」
「 本人には、 もう尋ねてみました。 ですが、 いっさい話してくれません。

知りたいのなら、 志貴様、 貴方に聞いてくれと、 言われましたものですから… 」

「 ……アイツがそう言ったのなら、 話しましょう。 」
「 本当ですか? 」
「 ええ 」

秋子はやっと空白の間の出来事を知る事が出来る、知れば祐一さんに対して、今後どの様にすればいいのか、対処法も作る事が出来る、そう思い、少し微笑んだ。

「 ………まず最初に、 秋子さん、 貴女は祐一が笑ったり、 怒ったりした表情を、 今この時までに見ましたか? 」
「 …いいえ、 ずっと同じ表情です。 」
「 ……結論から言います。 祐一は、 空白の10年の間に、 自分の身に降り懸かった出来事のせいで、 全ての表情を、 奪われてしまったのです。 」
「 …… 」
「 …心の中では、 嬉しかったり、 怒ったりしている事でしょう。 だが、 それを祐一は、 表情に出して、 表現する事が出来ない。 」
「 …そんな… 」

秋子は、 祐一に関するあまりにもの事実に、 ヘタリ込んでしまった。

「 …祐一が連れていかれたのは、 この大陸から北へ海を渡り、 北の果てにある、 魔族の国パンデモニウム。 
そこで3年間、 拷問に等しい待遇の日々を送り、 その後、一人の魔王へと払い下げられ、 魔王と共に暮らす様になりました。 
この魔王は、 実はかなり変わった者で、今の大魔王を倒し、人間達と共に共存する未来を創りたいと願う者だったのです。 だが、 
7年後、 その野望が大魔王の知るところとなり、 大魔王とその魔王が戦う事に。 
実力伯仲-でしたが、 大魔王が勝利し、 
魔王は死に行く体で、 祐一の元に向かい、 滅びる寸前、祐一に自分の持つ血の力を、 祐一へと継承し、 それと共に、 あの二振りの剣を祐一に与えたんです。 
魔王が滅んだ後、 祐一はパンデモニウムを脱出し、 現在に至る、 これが全てです。 」

「 ……魔王の名は? 」
「 ……堕天魔王 ルシフェル 」
「 ……ルシフェル…、 元神界の大天使長、 実質天使達のトップで、 神にもっとも近い存在とされている、 
神と考え方で袂を分かち、 自ら神に戦いを挑んだが、 負けて堕天した、 あのルシフェル。 」
「 …祐一に、 剣術や体術、 そして魔法を教えたのは、 ルシフェルだそうです。 SSSが2人でも敵わなかったのは、 道理と言えましょう。 」
「 ……祐一さん、 今日まで、 そんな地獄の日々を、 生きて来たんですね。 」
「 …… 」

2人はその後何も語らず、 秋子は自分の幕舎へと戻った。







「 ……これでいいか? 祐一。 」

志貴が後ろを向き、 声をかけた。
と、 衣装箱の影から、 祐一がそっと出てきた。

「 …ああ、 あれでいい。 」
「 …言わなくていいのか? 」
「 言わない方がいい。 秋子さんは、 もうこれ以上、 俺の事で悲しみや責任を背負いきれない。 
廻りの見ている以上に、 秋子さんは情に厚いし、 責任感も強い。 そして反面、凄く脆い面も持っている。 」

「 それは俺も同じだ、 祐一。 お前にだって有る。 」
「 ……だが、 すでに俺は人間じゃない。 形はしてるが… 」
「 ……悲しい事を言うな。 俺は、 お前を人間と思っている。 」
「 ……感謝する。 」

そう言うと、 祐一も秋子が出て行った入り口と同じ所から、 出て行った。








翌日の朝、 再び会議が行われた。

「 さて、 何か良い案はないですか? 」

秋子が議長の様だ。
と、 名雪が手を挙げる。

「その前に、 その人は誰なんだお? 」

名雪が祐一を指差して尋ねた。

「名雪、 昨日の会議、 寝てたでしょ! 」

隣の香里が、 名雪の頬を引っ張る。

「ヒャッ!? … イヒャヒャ! イヒャインヒャオ〜!! ヒャオイ〜… 」
「寝てた名雪が悪い。 貴女、 自分の従兄弟に何て事言うの? 」
「 ………ヘッ? 」
「 へっ? じゃない。 彼が、 私達が探していた、 亡き祐貴様と夏美様のたった一人のお子、 相沢 祐一 よ。 」
「 ………祐一? 」
「 …… 名雪 … 」
「 ……祐一〜 」

名雪が祐一の傍に駆け寄り、 祐一に抱きついた。

「 あらあら♪ 」

そんな2人を、 秋子は微笑ましく見ていた。

「 … 祐一 … 」
「 ……舞なのか? 」
「 …うん … 久し振り… 」
「 ああ… 」
「 …私も抱きついていい? 」
「 …… 」

祐一は何も言わず、 名雪と舞に抱き締められていた。

「 もう逢えないと思った。 」
「 私もだよ〜 」
「 ……済まない。 」
「 祐一は悪くない。 悪いのは魔族。 」
「 ……それでもだ。 」
「 …はちみつくまさん … 納得しておく。 」

舞は祐一から離れると、 自分の席へと戻った。
名雪もそれに倣う。

「 さて、 再会を喜び合ったとして、 何かいい手は有りませんか? 」

秋子が、 再び話を戻す。
と、 志貴が手を挙げた。

「 どうぞ。 」
「 …今ネックになっているのは、 秋葉です。 秋葉さえ取り戻せば、 後は何の躊躇いもなく、

攻める事が出来ます。 …そこで、 数人でアルテミス城へと潜入し、 まず秋葉を救出。

そのまま門を開け、 攻め入る、 と言うのはどうでしょうか? 」

「 …… 」
「 …それは … 良い案ですね。 」

秋子が同意する。

「 誰が潜入するんですか? 」

香里が志貴に尋ねた。

「 まず俺、 そして祐一、 アルクェイド、 川澄さん…… 」
「 … 舞 でいい……… 」
「 ……では舞さんの4人で行こうと思う。 」
「 志貴さん、 祐一さん、 アルクェイドさんは解りますが、…、 何故 『 討魔 』なんですか? 」

茜が志貴に尋ねた。
舞は、 本名より二つ名の方が有名で、 皆あまり本名では呼ばない。 実質、 下の名で呼び捨てにしているのは、 祐一と佐祐理だけとも言える。

「 ……川澄さん… 「 …舞… 」 ……舞さんは、 今は近衛団長だが、 一時期潜入の

プロとして、 諜報活動をした事も有る。 
その時の潜入先が、 たまたまここで、 彼女とは刃を交えた事も有る。 
腕は信用出来るし、 この任にはうってつけの人材だからだ。 」

「 ……… 」
「 ……… 」
「 ……… 」

名雪、 香里、 留美は黙ったままだ。 

「 そうですね。 潜入は、 その4人にお任せしましょう。 」
「 ありがとう御座います。 …祐一、 一緒に行ってくれるか? 」
「 ……秋葉も友だ。 俺は俺が心を許した人を、 必ず守る。 」

それは、 祐一なりの了解だった。

「 ありがとう。 」
「 …まあ、 妹がいないと、 この先つまんないからね〜♪ 」
「 ……祐一と任務…… 」

舞は、 少し顔を赤らめる。

「 では、 夜まで待機、 深夜を持って、 祐一達が潜入班は行動を開始。 他の皆も、 再度遠野へ進軍。 それでいいですか? 」

秋子の言葉に、 皆が頷いた。

皆が陣幕から出て、 それぞれの隊へと戻って行く中、 祐一は志貴に肩を叩かれ、 ちょっといいか……… と、 促された。







それで、 話は何だ? 」

「 まずは…、 結局お前を巻き込んでしまい、 本当に済まない。 」

志貴は、 祐一に頭を下げた。

「 ……志貴、 俺は、 俺の意思で、 今この戦いに参戦している。 けして巻き込まれた訳じゃない。 」
「 … だが … 、 結局はお前の目的を果たす旅の、 邪魔をしてしまっている。 」
「 ……気を使うな、 志貴。 こんな事でなかったら、 俺は今この世界で生きる人達に、一方的に迷惑をかける事しか、 出来ない男だ。 
お前や秋葉、 アルクェイドは、 俺が人々の生きる国へ帰ってきてから、 初めて心から俺を受け入れてくれた… 。 
今の俺には、 華音と同じ位、 大切な国だ。 親友が困っていれば、 手を貸し助ける。 それだけの事だ。 」

祐一は、 ポンと志貴の肩を叩くと、 そのままその場を後にした。
志貴は、 去って行く祐一の背を見ながら、 思った。

『 ありがとう 』 と。
















    〔  深夜  〕



志貴、 祐一、 アルクェイド、 舞は、 予定通りに行動を開始した。

「 志貴、 あの城に、 窓のない部屋は、 何処にいくつ有る? 」
「 ?? … それ、 関係有るの? 」
「 関係は有る。 もし捕らえられてるのが平民なら、 地下牢でいい。 だが、 秋葉は王族だ。 
身分が高い者の場合、 常識通りなら、 窓が一切ない部屋に幽閉 ・ 軟禁するのが、 常識だ。 」

「 祐一の言う通りだ、 アルクェイド。 祐一、 窓のない部屋は、 北の塔の最上階と、

その下に一つずつ、 メインキャッスルに一つだ。 」

「 解った。 アルクェイド。 」
「 何? 」
「 アルクェイドは、 舞と志貴を連れて、 北の塔を頼む。 俺はメインキャッスルに行く。 」
「 …… 大丈夫? …… よね? 」
「 はちみつくまさん… 。 祐一、 気をつけて… 」
「 無茶するなよ? 」
「 …ああ… 」

4人は、遠野に到着すると、 すぐに散開し、 自分の担当区分へと向かった。

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