第二章
第4話「 潜入 アルテミス城 」
祐一はアルテミス城の遥か上空から、 金毛九尾狐の背中に乗り、 様子を伺っていた。
「 …… 厳重だな…… 」
♪ 貴方なら、 魔法一つでカタがつくのに… ♪
「 …だが、 同じ人間だ。 出来れば、 殺したくない。 」
♪ …解っています。 そう言うとこ、 本当ルシフェルそっくりね。 ♪
「 …… 」
♪ クスクス … 。 どうします? ♪
「 …気殺しながら行く。 」
♪ かしこまりました。 では、 行きます。 ♪
九尾狐は、 同様に気を抑えると、 グングンと下降し、 兵達の目につき難い所へと降りた。
一方、 アルクェイドと志貴、 舞も、 舞の潜入テクニックを駆使して、 塔の目の前へと来ていた。
「 流石に厳重ね。 」
「 …向こうも、 祐一の存在を知ってるからな。 当然この奪還作戦も読んでいた筈だ。 ならこの人員警備は、 充分納得出来る。 」
「 ……行く…… 」
舞は塔への唯一の入り口である扉を、 一刀両断し、 堂々と入って行った。
「 大胆ね♪ 」
「 …どちみち戦いは避けられないからな。 なら、 少しでも蹴散らしておいた方がいい。 」
2人も舞に続き、 武器を構えて、 塔へと入って行った。
そして、 秋子率いるアルテミス ・ 華音軍も、 遠野の近くまで、 すでに進軍して来ていた。
後は、 潜入班の合図が有れば、 一気に攻め入る事になっている。
『 皆さん、 気を付けて下さいね。 』
…… ゴスッ
「 ガッ… 」
ドサッ … ズルズル……
……ドゴッ
「 ウグッ… 」
バタン … ズルズル……
祐一は、 兵を一人一人丁寧に気絶させ、 人目の付かない所へと引き擦りながら、 目指す部屋へと歩を進めた。
4ヶ月いた城は、 最早祐一にとっても、 手に取る様に構造を理解していた。
が、 祐一は急に歩を止めた。 辺りの気配に気を配る。
「 …… 出てこい、 七夜の者達。 」
「 ……気付いていたのか? 」
スッと、 何もない所から、 幽霊の様に白髪の青年が姿を現した。
「 無視していたが、 ほぼ潜入開始時よりずっと追っていただろう。 お前含め、 後4人 」
「 ……やはり、 噂通り、 腕は立つ。 」
「 何故、国家転覆を目論む? 」
「 …我々は、 政治には興味ない。 」
「 …何が言いたい? 」
「 …和解を申し入れたい。 これは、 他の諸侯達の総意である。 」
「 ……なら、 秋葉を解放しろ。 それで、 信用するかどうかを決める。 」
「 …解った。 」
男が片手を上げると、 同様に隠れていた者達が数名、 廊下の奥へと行き、 消えていった。
「 … それともう一つ。 」
「 …何だ? 」
「 …和解の議にて、 どうしても国王側に伝えたい要求が幾つか有る。 」
「 …それは俺に言うな。 だが、 志貴には伝えておく。 」
「 ありがたい。 宜しく頼む。 俺は、 七夜一族頭領、 七夜 四季。 」
2人は、 お互いに戦闘態勢に入った。
「 …何故構える? 」
「 ……今度の城占拠は、 我々七夜の独断で行った。
我々は周知の通り、 暗殺者集団だ。 雇い主がいて、初めて動く。
その雇い主が我々を裏切り、 和解派へと寝返った。 そう言う事だ。 」
「 …事態に収拾をつける為か。 」
「 ああ… 」
「 解った。 ……では、戦おう。 」
祐一はそう言うと、 縮地で間合いを瞬時に詰め、 その勢いのまま、 四季に斬りつけた。
四季は、 後方へバックステップで間一髪で避け、 直後前へダッシュし、 同じく小太刀で斬りつける。
が、 祐一は無詠唱でアイシクルエッジを放ち、 四季の小太刀を持つ右手を負傷させた。
「 …クッ 」
その首筋にソッと剣を中てる祐一。
「 …勝負あったな… 」
「 殺せ 」
「 ……… 」
祐一は少しの間まったく動かなかったが、 やがてスッと剣をしまい、 柱に背をもたれかけて、手下達が戻るのを待った。
「 …何故殺さない!! 俺に情けをかけるのか!? 」
「 ……俺は、 人を殺す剣も、 人を倒す剣も、 持っていない。
俺の持つ剣は、 この世界で生きる人々の脅威となる魔族を倒し、 殺す剣、 それしか持っていない。 」
「 …お前にそこまでのそこまでの力が有ると言うのか? 現実はそこまで優しくはないぞ。
現に、 お前のせいで死んだ者もいる。 それは、 直接手を下していなくとも、 お前が殺めた事と同義だろう。 」
「 ……解っている。 志貴やアルクェイド、 華音の皆が、 どれだけ俺を受け入れ、認めてくれたとしても、 世界から見れば、 俺は多大な災いをもたらす危険分子だ。
いずれ、 教会も動くだろう。 」
「 …そこまで解っていて、 何故まだ歩める…。 前へ進んで行けるんだ? 」
「 ……それが、 俺を育ててくれた義父との、 血や種族を超えた約束だから…。
義父の目指した世界を、 義息の俺が継いで、 俺の命を賭けてでも、 実現させる為…。 」
「 …… 」
「 …だから、 覚悟を持って歩いていける。 犠牲者の屍の上を歩んでいける。 」
「 …余程の覚悟か…。 」
四季の言葉に、 祐一は頷いた。
「 解った。 」
「 ……四季に頼みが有る。 」
「 何だ? 」
「 …これは、 志貴や華音にも頼もうと思っていた事だが… 」
2人はヒソヒソと、 一言二言言葉を交わした。
「 …… そ … そんな事が … 可能なのか? … 人間の出来る範疇から、 かなりはずれているぞ。 」
「 ……無事目的を達成すれば、 俺には成す術が有る。 俺を信じて、 七夜一族の力を貸して欲しい。 」
「 ……元々お前にくれた命だ。 そのお前が俺を生かす道を選んだ。 俺は黙ってお前の命令に従う。 これでいいな。 」
「 ああ、 頼む。 」
2人の話がついた丁度その時、 四季の部下達が、 秋葉と別の目的地へ行っていた志貴達を
連れて戻って来た。
「 祐一〜♪ 」
アルクェイドが、 祐一に抱きつく。
「 …志貴、 舞、 秋葉、 アルクェイド、 話は聞いたか? 」
「 ああ、 聞いた。 何でも、 諸侯達がお前の力を見て、 和解を申し込んで来たそうだな。 」
「 それで、 今度の城占拠は、 七夜一族の独断と言う事になったと…、 そこの頭領様にお聞きしましたわ。 」
「 …志貴、 七夜一族は今後、 俺の頼んだ件について、 一族を挙げて動く事になった。
ついては詳細をお前とも話し合いたい。 明日にでも、 話し合う場を作ってくれないか? 」
祐一が志貴をまっすぐ見つめる。
志貴はしばらく見つめ合った後、 スッと視線を外し、 頷いた。
「 解った。 四季、 明日の昼まで、 頭領のお前を拘束 ・ 軟禁 しておかなければならないが……、 いいか? 」
「 国のトップが何を躊躇っている。 事が起こった以上、 誰かが責任を取らねばならん。俺が捕まり、 祐一預かりとなれば、 皆納得するだろう。 」
「 解った。 じゃあ、 戻ろう。 」
志貴の言葉で、 皆、 アルテミス城の正面玄関から街へと出た。
すでに反体制軍は、 武器を放棄し、 何十列にも並んで、 膝をついていた。
主だった諸侯が、 兵達の最前列に並び、待機していた。
「 レグリア候、 ラザフォード卿、 今日はゆっくりと休み、 明日昼、 ここアルテミス城へ登城する様に。
今回の内乱、 命までは取らぬが、 それ相応の厳罰が有る事、 覚悟しておく様に。
七夜頭領のみ、 こちらで拘束する。 以上だ。 」
『 ははーっ 』
こうして、 アルテミス内乱は、 一応の終結がついた。
〔 翌日昼 〕
アルテミス城大会議室には、 議長席に女王 遠野 秋葉 、そのサイドに志貴と祐一、アルクェイドとシエルが座り、
左側に華音・アルテミス軍の団長や、 騎士達、 右側に反体制軍の二候と、 七夜 四季 、 隊長クラスの騎士が座った。
「 これより、 和解の為の議会を開催します。 」
秋葉の宣言により、 議会が始まった。
「まず初めに、レグリア・ラザフォードの二候の処罰だが、今までのアルテミスの判例に沿えば、一族完殺の上、領地没収だが、今回の件、こちらにも非が有った。
両候、 今回の争いで、 命を失った者達や家族に対し、 それ相応の補償をする様に。 それだけだ。
2人共、 アルクェイドと、 もう少し心を許して接して見ろ。 人間と魔族、 解り合う事は出来る。 」
「 恩赦頂き、 有り難く努力致します。 」
「 同様に。 」
2人は立ち上がると、 一同に対して頭を下げた。
昨夜の内に、この処断は決まっていた。
提案は意外にも秋葉で、 今から未来の為に、 少しでも戦力になる者は、 残して置くべきだと言う理由によるものだった。
四季が反対をしたが、 最終的には、 祐一の一言で納得した。
「 ……俺一人で勝てる相手じゃない。 戦力は出来るだけ有った方がいい。 」
と言う言葉一つで。
「 続いて、 七夜一族に関してだが…、 ここにいる私の心の友、 相沢 祐一 の預かりにしてもいいか? 」
その言葉に、 秋子が手を挙げた。
「 何でしょうか? 秋子様。 」
「 はい、 何故、 祐一さんに預けるのですか? 聞けば、 今回の城占拠は、 七夜一族の独断との事ですが… 」
「 …今回、 祐一と七夜 四季 は、 一度戦いました。 結果、 祐一が勝ち、 四季は命を祐一に与えました。
その祐一が、 四季を生かす事を選んだ。 四季も、 祐一の命令に従う事を選んだ。
ならば、 祐一に預ける事が、 誰もが納得いく筋と思いますが? 」
「 それは、 かなり個人的では有りませんか? 」
「 今回の内乱での、 祐一の活躍を考えれば、 私は妥当と思います。
結果、 魔族を滅ぼしたのは祐一ですし、 潜入でも祐一が丸く治めた。
ならば、 祐一の思う解決案を実践した所で、 我々アルテミス側は、 誰も文句言いません。 」
「 ……いいのですか? 祐一さんは、 元々は私達華音の人間ですよ。 」
「 ……秋子さん……、 俺は、 何処の国の人間でもない。 」
「 祐一さん? 」
「 ……俺は、 何処の国にも属さない。 俺は大切な人達を守っただけだ。
七夜にも、 ある事を専門にやって貰うだけだ。 アルテミスにも、 華音にも… 」
「 祐一さん…… 」
秋子は少し思案した。 祐一の言いたい事は、 理解している。
志貴から過去を聞き、 今の祐一には、 常人には計り知れない何かが有る事も知っている。
でも、 だからこそ生まれた国である華音を、 もっと頼って欲しい、 その思いも、 本物だった。
「 祐一さん、 華音やアルテミスにやって欲しい事とは、 何ですか? 」
「 ……今から言う事は、 すでに四季には話してある。 皆も、 他言無用に願いたい。 」
その言葉で、 他の者は一斉に頷いた。
それを見て、 祐一は四季にした説明を、 皆に対して再度言った。
その後の反応はそれぞれに微妙に違ったが、 殆どは四季と同様だった。
「 …解りました。 国王様に掛け合い、 華音は国を挙げてその方向で動きましょう。 」
秋子が頷く。
「 我々アルテミスも了解した。 」
志貴がそう言うと、 秋子と志貴2人と握手し、 頭を下げた。
「 …ありがとう 」