第二章
第6話「蠢く闇〜旅立ちの時」







 「 ……以上です。 」

 シスターの修道服を着た女性が、 机に向かい、 書類を片付けている女性に対し、 報告を終えた。

 「 解りました。 ご苦労様です。 引き続き、 彼の監視を続けて下さい。 」

 「 ハッ。 」

 椅子に座り、 机の上の書類を片っ端から決裁していた女性が、 報告に来たシスターに対し、

 命令を下した。




 シスターが退室した後、 女性は立ち上がり、 外の風景を見つめた。

 「 ……アルテミスを襲った魔物達を、 『 災いを招く者 』 自身が倒した。 ……彼の

 目的は? いったいどうやってそんな力を? ……どちらにしても、 厄介な存ですね。 」

 思案が終わった後の女性の顔は、 何か決心したのか、 厳しいものになっていた。







 〔 帝都 エターナル 〕

 「 以上で、 報告は終了です。 」

 「 そうか、 ご苦労だった、 茜、 七瀬。 」

 浩平は、 祐一の捕獲へと向かっていた茜と留美の報告を受けていた。

 「 …後、 相沢 祐一 より、 皇帝陛下へ、 伝言が有ります。 」

 「 伝言? …どんな? 」

 「 はい…  『 俺の敵は人間じゃない。 人間を滅ぼそうとする魔族だ。 』 と… 」

 「 ……解った。 確かに受け取った。 二人とも、 下がって休め。 今後の事は明日

 話し合おう。 」

 「「 ハッ!! 」」

 二人とも敬礼し、 そして謁見の間を後にした。







 ( 翌日 エターナル会議室 )

 「 では、 今後はしばらく様子を見るのですか? 陛下。 」

 雪見が、 浩平の意見に対し、 質問した。

 浩平は、 相沢 祐一 に対し、 今しばらく静観するようにと、 七将軍達に命じた。

 「 ああ、 どうも七瀬と茜の報告を聞くと、 相沢 祐一 はどちらかと言えば、

 被害者に入るらしい。 なら、 今現在調査を続けている教会からの報告が上がるまで、

 様子を見る事にした。 」

 「 留美ちゃん、 その人、 そんなに強いのかな? 」

 「 ……強いです、 みさき先輩。 恥を忍んで、 彼に稽古をつけて貰いましたが、

 まったく敵いませんでした。 」

 「 みゅ〜… 」

 『 信じられないですの。 』

 「 会って、 戦えば解ります。 彼の強さは良く言えば 水瀬 秋子 と同等か、

 もしくはそれ以上、 悪く言えば、 すでに人外レベルです。 その上、 伝説の剣、

 聖剣 エクスカリバー、 魔剣 レヴァンティンの2剣のマスターで、 聖と魔を同時に

 兼ね備えているんです。 …それに… 」

 「 それに? 」

 瑞佳が復唱し、 尋ねた。

 「 それに…… 相沢 祐一 の目は、 とても悲しそうでした。 幼くして殺された、

 魔族の少女の魂と共に、 旅をするその様は、 あまりにも悲しく見えました。

 ……私は、 七将軍としてではなく、 『 絶対の三大魔女 』 として、 彼のサポート

 をしたいと思います。 」

 茜は、 将軍の証である、 腕輪を外すと、 テーブルの上に置いた。

 「 浩平…、 辞退自由の権限、 今こそ使わせて頂きます。 」

 「 なっ!! そんな事出来るわけ… 」

 雪見が叫びかけたが、 浩平自身がそれを途中で遮った。

 「 いや、 唯一 茜 にだけは、 俺が認めた。 その自由を与えるのを条件に、 御音七将軍

 の役職について貰ったんだからな。 」

 「 … 」

 そう言われると、 雪見も何も言えなくなってしまった。

 「 後任には、 先輩が入ってくれ。 」

 「 了解しました。 」

 「 では、 私は辞退します。 」

 「 … 相沢 祐一 のサポートに行くのか? 」

 「 …はい。 その方が、 彼を狙う魔族による被害を、 少なく出来ると思いますし。 」

 「 ……惚れたか? 」

 「 ………はい…… 」

 「 そうか…。 解った。 …茜、 相沢 祐一 に伝えろ。 」

 「 はい? 」

 「 『 一度御音に来い。 』 とな。 真実茜の言う通りの男なのか、 この目でしっかり

 と見極めたい。 」

 「 …解りました。 お伝えしておきます。 それでは… 」

 茜は、 ディパーティーションを唱え、 会議室からフッと姿を消した。






 〔 ??????? 〕

 ココは、 北の最果てに有る、 魔族の国 パンデモニウムの主城 ヘル イン ザ ヘル 。

 その邪悪な外観のほぼ一番上にある一室にて、 王座に座るほぼ人間と同じ外見を持つ魔王が、

 部下の上級魔族数人から、 報告を受けていた。 

 「 …解った。 下がれ、 アウンシュトーレン。 次、 べりアル。 」

 「 はっ。 」

 ベリアルと呼ばれた、 人間と山牛が融合した様な姿の上級魔族が、 一歩前へ出て、 傅いた。

 「 報告します。 私が監視していました、 龍人族でしたが、 ローズレッド様の予見通り、

 動きだしました。 」

 「 ほう… 」

 「 一族は未だ、 あの隠者の森にて静かにしておりますが、 当族長、 聖龍魔人 アシュタロス

 が、 森より旅に出ました。 恐らくは… 」

 「 良い。 行き先など、 とうに見当はついている。 やはり、 彼の部下だっただけに、 

 そう動くか… 」

 「 いかがなさいますか? 」

 「 ……一族は放っとくがいい。 ベリアル、 お前はアシュタロスの監視につけ。 」

 「 畏まりました。 では、 一足先に失礼します。 」

 「 ウム。 」

 ベリアルは一礼すると、 瞬時に姿を掻き消した。

 「 次、 ラディアバーレ。 」

 「 はっ! 」

 鷹の頭に人間の上半身、 狼の様な下半身に、 黒き翼を持つ上級魔族が、 一歩前に出て、

 跪いた。

 「 報告します。 先日、 アルテミスへとけしかけた兵は、 全て 相沢 祐一 以下大多数

 の人間の手によって、 全滅致しました。 やはりあの少年は、 あの御方の力を受け継いで

 おられる様です。 」

 「 …だろうな。 でなければ、 魔王の一人を倒して、 ココから逃亡など、 出来る筈も

 ないからな。 …例えそれが魔王でも最弱だとしてもな。 」

 ローズレッドが、 少し微笑を浮かべた。

 「 私でも、 死闘になるだろう。 もっとも、 今の姿のままなら、 まだ解らないがな。 」

 そして立ち上がると、 玉座の後ろからテラスに出て、 遥か遠くを見つめる。

 「 ラディ、 お前は引き続き、 相沢 祐一の監視を続けろ。 頃合いを見て、 兵を嗾けるんだ。

 アレの使用も許可する。 」

 「 はっ! では、 任務に戻ります。 」

 そう言って、 ラディアバーレは、 空間を渡り、 姿を消した。

 ( …逃げ廻れば逃げ廻る程、 お前は哀しみを増やすだけだぞ…、 相沢 祐一 )

 ローズレッドは玉座へ戻ると、 一人肘をついて、 思案に入った。






 〔 3日後 アルテミス 〕

 アルテミス国遠野の正門前には、 馬に騎乗する騎士、 弓兵、 魔術士、 歩兵、 そして、 街を

 守る守護門に近付くにつれ、 国民達が大通りに一列に並んでいた。

 今、 城内では、 祐一と共に旅に出る者達が、 それぞれ別離の挨拶や祝福をしていた。

 「 兄さん…、 どうか、 体には気を付けて下さいね。 」

 秋葉は、 志貴の手を取り、 心配そうに言った。

 「 …解った。 …たく、 秋葉は少し心配性過ぎるな。 」

 「 当然です。 ……兄さんは、 私の大切な兄さんなんですから。 」

 「 ……心配するな。 祐一やアルクェイドが一緒なんだぞ? ちょっとやそっとの事で、

 危うくなると思うか? 」

 志貴の問いに、 秋葉は首を横に振った。

 「 …大丈夫だ。 ちゃんと生きて帰って来る。 」

 そう言って、 志貴は秋葉のおでこに、 そっとkissをした。

 「 …もぅ、 兄さん… 」

 そう言って、 志貴から離れる秋葉は、 しっかりと笑っていた。




 「 祐一さん……、 必ず華音に帰って来て下さいね。 」

 「 ……必ず一度は帰国します。 父さんや母さんの墓に、 生きている事を知らせたい

 ですから。 」

 「 解りました。 それと…、 私からお願いが有るのですが…。 」

 「 何ですか? 」

 「 …名雪、 香里さん、 いらっしゃい。 」

 秋子は、 いつの間にか旅仕度を済ませていた二人を、 自分達の元に呼んだ。

 「 秋子さん… 」

 「 ……この二人を、 旅に同行させて貰えませんか? 」

 「 ……国の護りはどうするのですか? 」

 「 心配には及びません。 それぞれ、 優秀な副団長がいますから。 実力的にも、

 実務的にも、 充分大丈夫です。 」

 「 ……これは二人の意思なのか? 」

 祐一は、 名雪と香里に質問した。

 「 ……ええ、 私と名雪、 それぞれで決心し、 秋子様にお願い申し上げました。 」

 「 祐一…、 私ね、 香里と違って、 一度も華音を出た事なかったんだよ…。

 今回、 初めてアルテミスまで来たんだお。 このまま、 世間知らずのままなのも、

 今の実力のままなのも、 すっごく嫌なんだよ……。 だから、 祐一の旅に同行して、

 実力を上げたい。 世間を知って、 腕を上げて、 もっともっと大切な何かを、

 自分の力で守れる様になりたい。 駄目かな? こんな理由じゃ… 」

 少しの間沈黙が流れる。 …が、 ポフッと、 祐一が名雪の頭の上に手を置くと、

 ゆっくりと撫でた。

 「 ……それでいい。 今の思いのままの、 名雪でいい。 」

 「 あ… 」

 「 一緒に来るか? 名雪、 香里、 茜。 」

 香里までは、 皆普通にしていたが、 最後に、 茜と祐一が言った瞬間、

 祐一、 秋子、 アルクェイド以外の者は、 驚き、 辺りを見廻した。

 「 ……流石です。 私の気配を察知されてましたか。 」

 突然、 フッと、 名雪と香里の背後に、 茜が姿を現した。

 名雪と香里は慌てて振り返り、 身構えた。

 「 …御音には? 」

 「 帰りました。 そして伝言をお伝えし、 七将軍の地位を返上し、 今こうして

 ここにいます。 」

 「 七将軍を… 」

 「 辞めたですって!? 」

 名雪と香里が、 突然の重大情報に、 思わず叫んでしまった。

 「 あらあら? 茜も思い切った事をしましたね。 」

 「 師姉…、 私も同行してよろしいですか? 」

 「 それは祐一さんが決める事ですよ。 」

 「 では相沢さん…、 私もよろしいですか? 」

 「 ……俺はすでに、 真意を聞いてるんだが… 」

 「 ……では、 私も行きます。 」

 「 解った。 」

 こうして、 茜も同行する事となった。







 相沢 祐一、 遠野 志貴、 アルクェイド・ブリュンスタッド、 川澄 舞、 倉田 佐祐理、

 美坂 香里、 水瀬 名雪、 里村 茜、 以上8名が、 今、 大通りをアルテミスの人々

 に見送られながら、 行進していた。 そして、アルテミスを出国した。






 「 これから、 何処へ向かうのですか? 」

 茜は祐一に尋ねる。

 「 ……第4の禁呪の眠る、 西の最果ての島、 初音島に渡る。 」

 「 聖桜樹の有る、 魔女の棲む島ですね。 ここからだと、 一週間ですか… 」

 「 上手く交通手段が噛み合えばな。 」

 「 10日を見た方がいいですね。 」

 「 …ああ 」

 旅慣れた二人と、 旅自体が初めてのその他メンバー。 いかに軍での遠征の経験が有る舞や香里

 でも、 個人単位での旅の経験は皆無な為、 口をはさめずにいた。

 祐一は他メンバーの様子に気付いたのか、 後ろを振り返り、 皆に言った。

 「 最初は解らなくて当たり前だ。 俺も、 脱出してきたばかりの頃は、 金の単位さえ知らなかった。

 …だが、 すぐ慣れる。 だから、 今は経験を積め。 一週間もすれば、 だいたい解る筈だ。 」

 そう言って、 再び祐一は歩き出した。








 途中、 何度か魔物に遭遇し、 その度にこの中では一番弱い香里と名雪、 佐祐理が戦闘し、 目的である

 実力向上に向けて頑張っていた。

 夜になると、 皆は祐一との稽古をし、 そして眠る。 そんな日々を一週間繰り返し、 一行は御音と

 東鳩の国境に有る関所に到着した。

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