第2章
第8話 「 運命の出会い 1 」








東鳩に到着した翌日、 私達は昼の便に乗り、 今は客船の上にいます。 
香里さんと名雪さんは、志貴さんとアルクェイドさんと一緒に、船内の売店で購入したトランプで、今はババヌキをして遊んでいます。 
茜さんは舞さんと一緒に、 精神修行の為、 客室で
瞑想をしていますね。 今、 佐祐理は祐一さんを探しています。 
何処にいるんでしょう?と、 最上階の天覧室に、 祐一さんがいました。 ずっと、 海の彼方を見つめています。
佐祐理は、 少しの間そんな祐一さんを見つめていましたが、 意を決して話しかけました。

「 祐一さん… 」

祐一さんは、 ゆっくりと私の方を振り返り、 私を見ると、 何? と尋ねてきました。

「 …祐一さんは、 何を見ていたんですか? 」
「 ……海、 空、 飛んでる海鳥、 太陽、 たまにすれ違う船、 全てだ。 」
「 …… 」
「 …俺にとって、 全ての事が、 新鮮な体験だ。 海を船で渡るのも、 仲間と共に行動するのも… 」
「 …佐祐理も、 初めてですよ? 船で海を渡るのは初めてではないですけど、 こうして、

心のおける人達と、 パーティーを組んで旅に出るのは、 初めてです。 」

「 …そうか… 」
「 はい。 」

その後、 しばしの間沈黙が続いたが、 その沈黙を破ったのは、 意外にも祐一の方だった。

「 一つ、 聞きたい事がある。 」
「 何ですか? 祐一さん。 」
「 …俺の…、 父と母は、 どんな人だった? 」
「 はい? 」
「 …俺には、 どんな父や母だったのか、 曖昧な記憶しかないんだ…。 殺された事は覚えている。 
…が、 その悲しみの記憶があまりにも強烈だったせいか、 どんな父母だったのか、 すっかり忘却してしまってる。 …だから教えて欲しい。 」
「 ……優しい人でしたよ、 祐一さん。 私も、 弟の一弥も、 たくさん可愛がって貰いました。 
時には厳しくも有りましたけど、 祐貴様も、 夏美様も、 本当に強くて、 優しくて、 素敵なご夫婦でした。 」
「 ……そうか。 」
「 はい♪ 」

私は、 満面の笑顔で答えました。 
祐一さんは、 再び外へと視線を戻し、 景色を眺め始めました。
佐祐理は、 そんな祐一さんの隣りに座り、 一緒に景色を眺める事にしました。
……ザザーン…ザザーンと、 波の音が、 船内に聞こえてきます。 時の流れ忘れ、
佐祐理と祐一さんは、 志貴さんに声をかけられるまで、 3時間も黙ったまま、 外の景色を眺めていました。










翌日の昼、 客船は無事、 初音島へと到着しました。
港へと降り立った私達に待っていたのは、 数十人に及ぶ兵士達でした。

「 相沢 祐一 以下7名だな? 」
「 …そうだが… 」
「 …教会からのお達しで、 貴様の身柄を拘束する。 」
「 …言われのない拘束は拒否する。 」
「 黙れ!! これは法皇様の勅命である! 貴様に拒否権はない! 」
「 …… 」
「 何この馬鹿? 」

アルクェイドが、 呆れ顔で呟いた。

「 恐らく、 法皇様の勅命に逆らう者なんか、 この世にいないと本気で思っている、 長い物に巻かれるタイプの、 馬鹿集団ではないですか? 」

茜も呆れ返っていた。

「 ふぇ〜、 強引な兵士さん達ですね? 」
「 …佐祐理、 中にはこう言う馬鹿もいる。 華音にもいるから、 勉強しておくといい。 」
「 うん、 舞 」

二人はコクンと頷いた。

「 法皇と言えど、 それは越権行為な筈だ。 」
「 誰だ貴様! 」

祐一に対し勅命を突き付けた兵達の隊長と思われる男が、 志貴に対し怒鳴った。

「 遠野 志貴、 アルテミス国王子だ。 」
「 王子? 」

王子と聞き、 一瞬怯んだが、 何を勘違いしたのか、 隊長と思われる男は更に威丈高に、志貴に突っかかってきた。

「 一国の王子ともあろう人が、 何故こんな所にいる? 普通、 こんな辺境になど来ない筈だ。貴様、 正直に言え。 騙ったな? 」

志貴は両手を広げ、 呆れのポーズを取ると、 チラッと皆の方を見た。
皆も目を合わせ、 同じく呆れのポーズを取った。

「 いいのか? 確認もしないで。 これでもれっきとした本物なんだがな。 」

志貴は懐に手を忍ばせ、 スッと王族の証である印証を見せた。

「 …… 」

隊長の男は、 その印証を確認し、 本物である事を確認した為か、 先程とはうって変わって、黙り込んでしまったが、 それでも兵の戦闘体勢を解かずにいた。

「 …どうしても、 俺達を法皇の下に連れて行く気か? 」

祐一がそう尋ねると、 隊長あはコクンと頷いた。

「 …なら、 ココに三日間滞在する。 法皇自らが出向いて来いと言え。 俺は逃げも隠れもしない。 
ただ、 用事のない所に出向いている時間がないんだ。 用事が有るなら、 そちらがこっちに来るのが筋だろう。 」

祐一の言葉に、 兵士は黙って頷き、 一人部下を報せに向かわせた。

「 念の為、 宿には何人か兵士を監視につけさせて貰う。 」

隊長がそう言うと、 祐一も黙って頷いた。







宿は、 それなりに良かったと言っておこう。 女性部屋を2つ、 
一つは私佐祐理と舞、 アルクェイドさんが入り、 もう一つは、 香里さん、 名雪さん、 茜さんが入りました。
勿論、 祐一さんは志貴さんと同室です。
街に出てもいいと言われましたが、 兵士さんの同行者が付くと言うので、 誰も出かけません。
結局、 皆で瞑想したり、 魔法や旅での知識の学習をしたりして過ごしました。
ここでも、 やはり祐一さんは誰よりも広く、 深く、 あまりにも膨大な知識を披露してくれました。
私達は知らなかった、 精霊やそれを守護する守護召喚獣の存在、 様々な伝説上の武器の事、
魔術の修行の仕方についてから、 魔力増大の修行にやり方等、 
今まで私も皆さんも知らなかった事を、 祐一さんは、 丁寧に教えて下さいました。 
そして、 祐一さんの持つ伝説の剣を、皆にも、 試しに持たせて下さったんですよ〜♪ 
この手でエクスカリバーとレヴァンティンに見て触れるなんて、 夢にも思いませんでした。

…凄く重かったですけど……。

舞だけは、 レヴァンティンを軽々と持ってましたね。 聞けば、 舞は祐一さんの唯一の弟子として、 一番最初にレヴァンティンに認めて貰うと言う、試練を受けたそうです。 
だから、レヴァンティンは舞にとって、 凄く軽い剣になっていると言う事だそうです。
はぇ〜、 伝説の魔剣に認められちゃうなんて、 舞も頑張ってますね〜。
と、 突然、 祐一さんは、 私に一本の杖を、 空に開いた黒い円形の中から取り出して、私に手渡してきました。

「 祐 … 祐一さん? 」
「 …それは、 アルテミスの杖。 」

そう言うと、 祐一さんは宝石を取り出し、 部屋内にアルテミスを召喚しました。
佐祐理は初めて見ますが、 はぇ〜…、美人さんですね〜。

< お呼びですか? マスター >

「 …アルテミス。 俺は、 お前のパートナーを、 佐祐理にしようと思っている。 …だが、 無理強いはしたくない。 お前の意思が聞きたい。 」

…は … はぇ〜、 精霊さんです〜。 しかも、 八大精霊のリーダー格、 アルテミスではないですか〜。 
秋子さんから教わって、 知っていましたが、 お話以上の美しさですね〜。
祐一さんのセリフからすると、 佐 … 佐祐理がアルテミスのパートナーになれと言うんですか?

< ……正直、 祐一様の下にいたいと言うのが、 私の本音…。 でも、 それでは駄目なんですね…。 >

「 ……ただでさえ、 俺には人外な力が有り過ぎる。 それに、 皆にも、 今以上の力を身につけて欲しい。 この先、 魔族と戦っていく為にも… 」

< …解りました。 祐一様がその目で選んだ方です。 祐一様の意思に従います。 >

「 ありがとう…。 佐祐理。 」
「 …は … はぇ? 」

佐祐理は、 いきなり名前を呼ばれたので、 変な返事になってしまいました。

「 その杖は、 アルテミスのパートナーである証。 今日から三日間、 佐祐理はアルテミスのパートナーになる為に、 アルテミスに色々教わるといい。 」
「 ……私で … いいんですか? 祐一さん、 アルテミスさん。 」

正直、 期待に応えられるかどうか、 不安です。

「 ……佐祐理だから、 アルテミスと組む相手に選んだ。 相性も同じ光属性同士、 性格も、佐祐理なら充分申し分ないと判断したからだ。 」

< ……私は、 祐一様の判断に従います。 それに、 佐祐理さん、 貴女となら、 私は仲良く協力して戦える。 そう思っています。 ですから、 自信を持って下さい。 >

「 祐一さん……、 アルテミスさん……、 解りました。 頑張ってみます。 」
「 ああ…、 頑張れ、 佐祐理。 」

祐一さんからアルテミスの杖を譲り受け、 儀式として祐一さんの血を数滴、 口から吸い飲み干すと、 正式にアルテミスは佐祐理のパートナーの精霊さんになりました。
それは同時に、 守護召喚獣の主になったと言う事で、 アレクサンダーとも、 少しお話ししましたよ〜♪





祐一さんの血を、何故飲むのかと言うと、
精霊や召喚獣を創造した、祐一さんの師でも、義父でもある墜天魔王 ルシフェルの血を、祐一さんが色濃く受け継いでいる為、
その血を数滴飲めば、 精霊や召喚獣を受け入れやすくなるのだそうです。 血筋はかなり大切なんだそうですよ〜♪
他にも、 香里さんや名雪さんには、 今のレベルには少し良すぎる剣を、 
舞にはレヴァンティン程ではないにしろ、 やはり伝説クラスの剣、 アポカリプスを、 
志貴さんには、 剣ではなく槍、 ホーリーランスを、 
里村さんには、 物理攻撃をほぼ全てカットする伝説クラスの指輪を、 
アルクェイドさんにも、オリハルコンでできたファングを、 ポンと手渡してくれました。

…あの穴の中を、 一度じっくり見てみたいです。

「 …最初は、 それぞれの武器の威力の強さに、 右往左往させられるだろう。 
だが、 今のレベルでは、 この先絶対に敵に勝てなくなる。 皆、 今渡した武器の力を、 一日でも早く自分のモノとしてくれ。 」

祐一の言葉に、 皆が頷いた。
そして、 祐一は胸元の宝珠を取り出し、 魔力を込めた。







『 ……うぐ? 』
「 あゆ 」
『 あ、 祐一くん、 久し振り♪ 』
「 ああ、 このところ、 呼び出してなかったからな。 」
『 うん。 今日はどうしたの? 』
「 ああ、 この前約束した通り、 仲間を紹介しようと思ってな。 」
『 ホント? 』
「 ああ、 アルクェイドと茜は知ってるな。 ほら、 これが、 今の俺の仲間だ。 」

祐一は、 あゆを皆の前に差し出した。

『 うぐぅ… 知らない人、 いっぱい… 』

「 だから、 紹介する。 」
「 祐一さん、 そのコは、 何ですか? 」

佐祐理が、 可愛い物を見る目で、 あゆを見ながら、 祐一に尋ねた。
…私には解る。 同じ様な存在を、 私自身、 持っているから…。
良く見ると、 アルクェイドと名雪も同様で、 香里も興味深々の様だ。

「 コイツはあゆ。 本名は、 アユアリィ ・ ルシフェル。 
俺の師であり、 義父でもあった、 ルシフェルのたった一人の娘で、 俺の幼馴染みだ。 
肉体はすでになく、 魂のみ、この宝珠に封印する事で、 俺と共にいる。 」

「 ルシフェルですって!? 」

香里が、 突然叫んで立ち上がった。

「 香里? 」

名雪が吃驚して、 香里の名を呼ぶ。

「 香里さん? どうしたんですか? 」

佐祐理も、 訳が解らず、 香里に尋ねる。

「 …私は…、祐一様の言う血の力、 ルシフェルの血を…、 血の力を受け継いでると言うのを、 半信半疑でした。 
……でも、 こうも立て続けにその事実を示せる事象を突き付けられると…、信じない訳にはいきません。 …佐祐理様、 ルシフェルは、魔王の一人です。 」

香里は、 簡潔に答えた。

「 え? 」
「 …その通りだ。 …正確には、 魔王だった… だがな。 」
「 祐一、 私から、 皆さんに説明しましょうか? 」

茜が、 辛そうな祐一を見かねて、 申し出た。

「 …ああ、 頼む。 」

祐一の返事を聞き、 茜が名雪、 香里、 佐祐理に、 祐一の過去で聞いた事を全て話した。
 …無論、 それが全てではないのだが…。

「 ……御免なさい。 何も知らなかったのに… 」

香里が、 頭を下げて謝罪した。
名雪、 佐祐理に至っては、 元々情に脆い性格の為か、 ポロポロと泣いていた。

『 ……理解してくれてありがとう。 ボクは、 あゆだよ。 』

あゆは、 場を明るくしようと、 わざと明るく振舞った。

「 グスッ…、 フフッフフフ♪ 始めまして、 水瀬 名雪 だお。 」
「 倉田 佐祐理と言います。 佐祐理って、 呼んで下さいね。 」
「 男では初めてか? 遠野 志貴 だ。 よろしく。 」
「 川澄 舞 。 …舞でいい。 あゆは…、 妖精? 」
『 ボクは、 人間で言うと、 幽霊だね。 死んじゃってるし。 元々魔族だし。 』
「 …魔族? 」

舞が、 僅かに魔族と言う言葉に反応した。

『 でも…、 全ての魔族が、 人間の敵とは思わないで欲しいんだ。 
中には、 人間と共存したいと願う魔族もいるんだよ。 お父さんの部下だった皆は、 全員お父さんと同じ願いを持っていたよ。 』
「 …信じる。 現に、 アルクェイドと言う実例がいる。 」
『 …ありがとう。 』

そう言うと、 あゆは宝珠の中へと戻って行った。
その後は、 各自祐一から課せられた鍛錬をし、 その日は終わった。










二日後、 祐一達の部屋に、 見張りの兵が来て、 教会へついて来いと言う旨の連絡を受けた。
皆、 出発の準備をし、 兵達について行く。
教会についた後、 武装解除を求められたが、 祐一はそれを拒否。
他の者も、 犯罪者でもないのに、 一方的な理由で、 こちらから出向いて来てるのに、そこまでする筋合いはないと、 断固拒否した。
仕方なく兵達は諦め、 教会の一番奥の、 一番広い部屋へと案内された。

「 フェリシア様、 相沢 祐一 以下7名、 只今連行しました。 」
「 …どうぞ、 入れて下さい。 」
「 ハッ。 」

兵士はドアを開けると、 祐一達に手でどうぞと合図し、 祐一達もそれに従った。
祐一達は横一列に並ぶと、 真正面の椅子に座る、 金髪碧眼の女性を正面から見た。









………運命の出会いが、 今訪れた。







あとがき

 こんにちは。(または、こんばんはorおはようございます)

 阿修蛇櫨斗です。
 あまりあとがきをしない私ですが、皆様、いかがお過ごしでしょうか?
 最近は、仕事も忙しく、またプライベートも忙しくで、話を考えるのに、
 1話に対して10日位かかってしまっています。
 清書は、1日で終わるんですが、いつもノートに下書きしてから、清書
 しているもので、2度手間とツッコまれそうですが、それが今の私の
 やり方になっています。外伝の2話&3話の構想も、ほぼ100%固まり、
 後は下書きand清書して、お届けするだけになりました。
 5月までには、投稿しますので、読んで下さる読者の皆様、楽しみにして
 いて下さい。
 …外伝1話、通常で読める様、管理人のマタヌキさんにお願いしてみよう…。

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