第2章
第9話 「 運命の出会い2 」








( …何て綺麗な人… )

佐祐理は、 素直にそう思った。

( …色々負けてるわね… )

香里は、 女性としてパーツパーツで負けてる事を悔しがった。

( ……お腹空いた… )

舞は、 空腹を素直に訴えていた。

「 貴方が、 相沢 祐一 ですね? 」
「 …… 」
「 …お答え、 頂けませんか? 」
「 …… 」
「 …… 」
「 …… 」
「 …… 」
「 …謝罪も無しにか? 」
「 謝罪? 誰が、 誰にですか?私が貴方に謝罪する必要は有りません。
全世界の民は、法皇の要請には、すべからく従わなければならないと、世界協定にも定められておりますので。 」
「そうか。なら、帰らせて貰う。いくら法皇でも、それは出来うる限りであって、絶対に従わねばならんと言う事ではないからな。
放棄する自由もある。俺は、法皇に用事はない。 」

そう言って、 祐一はドアを開けた。

「 逃げるんですか? 」

フェリシアが、 挑発する様に言う。

 「 …それで挑発してるつもり? アンタ、 祐一の事、 なめすぎてるんじゃないの? 」
「 黙りなさい、 魔族。 貴様等、 この世界にいるのも汚らわしい。 」
「 あっそ。 昔の私じゃ、プッツンきてただろうけど、生憎と、私は我慢というものをおぼえたのよね。そんなやっすい挑発にはのらないわよ? 」
「 …… 」
「 あら? もう何も言えないの? 法皇と言うのも、 たいしたもんじゃないわね。 」

アルクェイドが言い終えた瞬間、 法皇はアルクェイドに対して、聖属性の中級魔法を放った。
アルクェイドは軽く避けようとしたが、その前に祐一が立ちはだかり、祐一に当たる寸前で、 魔法は掻き消えてしまった。

「 …対魔力・魔法障壁( アンチ・マジックシールド ) ですか…。流石ですね。 」
「 …… 」
「 ちょっと!! いきなり何すんのよ!!? 」
「 黙れ魔族! 殺さないだけ、 有り難いと思え。 」
「 ちょっ… 」

アルクェイドはなおも法皇 フェリシアに掴み掛ろうとしたが、 祐一に制されて、 大人しく引き下がった。

「 あら? もうやめるのですか? 」
「 ……帰らせて貰う。 」
「 それは出来ません。 」
「 法皇に、 そこまでの拘束権はないわ。 」
「 こんなのおかし過ぎるお〜。 」
「 だな。 やり過ぎだ。 」
「 法皇 フェリシア。 」

茜が、 フェリシアの名を言う。

「 あら? 茜さんも一緒でしたの。 御音の将軍が、 何故この様な人間の敵と、行動しているのですか? 」
「 …… 今の貴女は、 病的なまでの、 魔族や人間に害なす者への恨みや怒りのせいで、 真実がまったく見えていない様ですね。 貴女らしくもない。 」
「 …… 」
「 アルクェイドは、むしろ人間の味方をしている吸血鬼です。
人間を害する吸血鬼に、粛清を与える役目を負った……。祐一は……、人間で、一番の被害者です。 」
「 …… 」
「フェリシア、貴女の昔を知る、数少ない人間として、私は今の貴女の考え方も、納得出来ます。
貴女には、魔族に対して、仇討ちをする、それなりの理由が有りますから。ですが、 祐一を討つのなら、 私が全力で阻止します。 」
「 …… 」
「 祐一は……、 私達の、 リーダーですから。 」
「 リーダー? それは何の冗談ですか? 」

フェリシアは、 クスクスと笑った。
茜はフェリシアの傍まで行き、 バチン!! と、 フェリシアを引っ叩いた。

「 …痛いですわ。 何をなさるんですの? 」

口調は柔らかいが、 その表情は、 怒りで満ちていた。

「貴女は、彼の何を知ってると言うのですか?彼を捕まえる為に、魔族が虱潰しに街を襲撃している事しか、 知らないでしょう。 」
「 相沢 祐一 を捕まえるのに、 理由はそれだけで充分では有りませんか?彼が生きて、
人間の社会にいるだけで、関係ない数億と言う人々が、常に魔族の脅威に晒されるんです。
人一人の死で、脅威を退けられるなら、私は法皇として、心を鬼にしてでも、人々を守ります。 」

そう言って、 フェリシアは戦闘態勢に入った。

「 …… 法皇フェリシアに、 一つ聞きたい。 」
「 …何でしょう? アルテミス国王子、 遠野 志貴 様? 」
「 …祐一を魔族に差し出して、 それで本当に脅威を退けられると、 本気で思っていらっしゃるのか? 」
「 …少なくとも、 時間稼ぎは出来ますわね。 人も無力では有りません。 力有る人間が、 私の下に、今続々と集結しています。 
ランクSが1000人、 SSが100人、 SSSが5人、 集まってますよ。
それだけいれば、 魔族と言えど、 脅威ではないでしょう。 」

「 …… 」

志貴は、 何も言えなくなってしまった。 確かに、 それだけの猛者がいれば、 魔族を滅ぼせるかも知れない。

「 ……確かに、 それだけいれば、 中級魔族までなら、 一掃出来るだろう。 」

祐一が、 フェリシアの目の前まで出て、 素手で戦闘態勢を取りながら、 語りだした。

「だが、中級魔族までだ。上級には決して敵わない。
そして、その上にいる四魔王、コイツ等相手には、俺や秋子さん、アルクェイドクラスじゃないと、100%勝てはしない。
SやSSが何人いても同じ事だ。 俺の魔法一つで終わる。 」
「 …… 」
「 …魔族を甘く見ない事だな。 秋子さんにさえ勝てないお前が、 俺に敵う訳がない。 」
「 …それは1年前までの話です。それに、水瀬 秋子師姉には、昨日、アルテミスにて手合わせをし、私が勝ちました。それでも、貴方には敵わないと? 」

フェリシアは、 祐一を挑発する様に、 ニヤッと笑う。
瞬間、 辺り一帯の空気が一変した。
それは、怒気を通り越して、殺気の域へ。
香里や名雪は、思わず身震いし、アルクェイドや志貴、茜、フェリシアでさえも、一瞬たじろいだ。
そしてこの時、初めて皆は、祐一が感情を表に表したのを見た。
歯をくいしばり、眉を吊り上げ、半眼にて、フェリシアを見据える双眸は、ギラギラと輝いていた。
佐祐理はすでに、 腰を抜かしてヘタリ込んでいる。

「 フッ…フフ…フ…、 キレましたか? 叔母を倒されて… 」
「 黙れ… 」

それは、 今までになく、 凍える程に冷やかな口調だった。

「 この程度で理性を保てなくなるなんて、 茜さん、 貴女の眼も… 」

瞬間、 フェリシアの体は、 空へと浮いていた。

( …エッ? )

フェリシアには、自分の身に何が起こったのか、 すぐに理解出来ないでいた。
が、 体に染み付いた本能なのか、 体勢を立て直し、 床に着地する。
寸刻、 ズキリと鳩尾が痛んだ。 呼吸が困難になり、 ゼェゼェと乱れる。
それも数秒で、 すぐに体勢を整えるが、 すでに祐一は、 フェリシアの眼前に迫っていた。
間髪入れず、 フェリシアの横腹に廻し蹴りを入れた。
フェリシアは後方へと飛び退き、何とかダメージを減らしたが、 それでも祐一の技から受けたダメージは、 想像以上に大きかった。
思わずフェリシアはしゃがみ込んでしまう。 だが、 戦闘意欲は失われていなかった。
寸刻、 息を整え、 自分の負ったダメージを、 冷静に分析する。

( 肋骨を数本…、 内臓も少しダメージを受けてる…、 脇腹も…少し抉れてるわね… だけど、 まだ戦える… )

フェリシアは、2本の小太刀を取り出し、 構えた。
対する祐一は、 未だ素手のままだった。

「 剣を抜かないんですの? 」

フェリシアが、腹立たしげに祐一に問うた。
だが、 祐一は何も答えず、 まっすぐにフェリシアを睨んでいた。

「 私程度には、 抜く必要もない…と、 言う事ですか? 」

フェリシアは、 挑発をかましてみたが、 今の祐一は、 恐ろしい程冷静だった。

「 ……… 茜 さん…… 」

名雪が、 茜の服を掴んだ。

「……名雪さん…、私は、 これまで、誰よりも祐一の実力を、この目で見てきたつもりでいました。
ですが…、ですが、ここまで凄いとは…、思いもしませんでした。彼は、本当に私達相手には、 本気なんて出してなかったんですね。 」
「 あの人、 お母さんと戦って、 勝ったって… 」
「 それは事実でしょう。 彼女は、 そう言う事で嘘は言いません。 さっき言った事も、本気でやろうとしているのでしょう。 
だからこそ、 すでに敗北すると解ってる死闘でも、フェリシアは引き下がらない。 
そう言う意味では、真の意味で、彼女ほど法皇の立場に相応しい女性はいません。 」

と、 祐一が無詠唱で魔法を放つ。

「 えっ!? 」

 間髪入れず、 茜が驚嘆した。
無詠唱じたいは、 普通の魔術師から見たら、 驚くべき技術だが、 『 絶対の三大魔女 』である自分から見たら、 ごく普通の技術だった。 
だから、 無詠唱では驚きはしない。
そんなのは、 自分達以外でも、 出来る魔術師は存在している。
茜が驚いたのは、 それを上級魔法でやってしまった事だ。
祐一が放ったのは、 雷属性の上級魔法、 「 ギガクラッシュ 」 。
教会の天井が裂けて、 部屋全体に幾筋もの一メートルは有ろうかというイカズチが、 落雷する。 
数本、 茜達にも襲いかかったが、 いつの間に展開させていたのだろうか、 茜が防御するまでもなく、 アンチ ・ マジックシールドが展開し、 茜達を守った。
それを見て、 改めて茜は、 祐一を見た。

(今、改めて思います。私は、祐一…貴方が恐ろしい。だけど、相反して恋しいと言う気持ちも有ります…。 )

茜は、戦慄していた。 
人類の中で、魔術師としてほぼピラミッドの天井にいる自分にさえ、気付かせないで魔法を展開させてしまう祐一の戦闘能力に、今改めて恐怖を感じた。
そっと、 舞が茜の腕を掴む。

「 舞さん? 」

舞は、 茜の顔を見ながら、 そっと言った。

「鍛錬をして貰っている頃から、これは予想がついていた事…。祐一が、私やみんなに対して、全然本気じゃないのは、みんな感じてた事…。
今茜が思っている事は、みんなも今まで感じてた事…。それでも、私は祐一を信じる…。
怖いのは同じ…。でも、信じなければ、私達は祐一と共に戦えない…。 」

いつの間にか立ち上がっていた佐祐理も、 茜の腕を掴んで、 呟いた。

「茜さん、祐一さんを信じましょう?私だって、今祐一さんがやった事は、正直怖いです。
でも、私達が信じてあげなければ、祐一さんは味方が誰もいなくなってしまいます。
それは、今までずっと辛い生き方をしてきた祐一さんには、あまりにも酷と言うものですよ。 」
「 ……そうですね。私とした事が…。彼が、 常識外な人だと言う事を、 忘れていました。ありがとうございます。 舞さん、 佐祐理さん。 」

3人は微笑み合うと、自分達に出来る事、他の仲間を気遣い、戦闘の邪魔にならない様に、フェリシアと祐一から距離を取り、
すっかりなくなってしまった天井の穴から屋上へと上がった。
すかさず、祐一とフェリシアも、教会内から外へと、 飛び出して来た。
秋子に勝ったと言うのは、嘘偽りのない事実の様で、祐一と秋子の手合わせの時同様に、名雪や香里には肉を打つ音や、壁や地を蹴った音しか聞こえていない。
茜や志貴、 アルクェイドは以前よりは眼で追える様になっていた。
佐祐理や舞は、何故かそれなりに余裕を持って眼で追っていた。
が、 それも突然終焉を迎える。 

ドガッ!! ゴキィッ!!

「 キャアアアアアアアッ!!! 」

フェリシアの悲鳴と共に、フェリシア自身が大地に打ち付けられ、祐一はフェリシアから少し離れた所に、構えを解いたリラックスした状態で、フェリシアを見下していた。
表情も、 いつもの無表情に戻っている。
茜や佐祐理がすかさず降りて行き、 フェリシアの状態を見た。

「 スキャンニング… 」

茜が魔法で、 フェリシアの状態を看た。

「 ………右側肋骨第二、第三、第四、亀裂骨折、及び胃内に微量の出血、左脇腹に、中度の裂傷及び出血、左腕、完全骨折…、かなりの重傷ですね。 」

茜は、 祐一を見た。
祐一は茜の傍まで来てしゃがみ込むと、 左手をかざし、 詠唱を始めた。



「 戦い傷ついた者に 神々の祝福を与え給え 今幸福と言う名の 幸せを与えん レジェンディア 」

詠唱が終わった途端、 祐一の左手が眩く光り輝き、 フェリシアの全身に光が注がれる。
皆の見る目の前で、 みるみるうちに、 傷が治っていく。
数分後、 フェリシアの傷は、 完全に完治した。
志貴がすかさずフェリシアを抱き抱え、集まってきていた兵に、ベッドの有る部屋へと案内する様に言い、兵に案内されてフェリシアを寝室へと運んだ。
皆もそれに続く。
志貴は部屋へ案内されたらすぐに、 フェリシアをベッドに寝かせた。
程なくして、 フェリシアが目を覚ます。

「 …… 一手も、 入れられず終いですか… 」

さっきまでの態度とはうってかわって、 おしとやかで、 清楚な雰囲気が漂う。

「 …何故、 こんなやすい挑発を? 」

茜が尋ねる。

「 ……どうしても、相沢 祐一 と言う人物を自分自身の目で見定めたかったのです。
…彼のせいで、消滅した街は沢山有ります。でも、それと同じ位、彼がいたおかげで、救われた街も有るのです。
中には、最初、彼がいたせいで、街が全滅寸前にまで追い込まれたと言っていた人々が、時が経つにすれ、本当に悪いのは誰なのか、気付いた所もあるのです。
…だから、 しつこく挑発して、本気で戦ってくれる様に、行動しました。そうでないと、本当の彼を、見誤ってしまうから… 」

フェリシアは、 茜や志貴の後ろ、 壁にもたれたままの祐一を見た。

「 …御免なさい。 」

フェリシアは、 素直に謝罪した。

「 そんな事だろうと思いました。 それで、 貴女の目から見て、 祐一はどう映りました? 」
「 ……怒りを露にした時は、 恐怖を感じました。 
でも、 戦っている時は、 逆に恐ろしい程に冷静で、 結局私相手にも、 本気ではないと映りました。 
…秋子様の件で、 感情を露にした事で、 本当は情に深い人だと思いました… 」
「 そうですか。 では、 もういいのですね? 教会は、 相沢 祐一 を認めて頂けますね? 」
「 ……私は認めます。 ……… 」
「 ………何故 、 それ程までに、 魔族を憎む。 」

壁にもたれかかっていた祐一が、 いつの間にかベッドの傍まで来て、 フェリシアに尋ねた。

「…私は、幼い頃に、魔王 アフタリスに、両親と一族を皆殺しにされました。 
…それからは、孤児として、毎日空腹と貧困に喘ぐ日々を送り、一年位そんな生活を過ごした頃、
成人の数十倍に匹敵する魔力を持っている事を、秋子さんが知り、秋子さんに保護されて、秋子さんのつてで、 教会へと入ったんです。 
同じ頃、茜さんと、もう一人のお姉様にも出会いました。秋子さんと戦ったのは、いつか超える目標だったから。秋子師姉とも、 そう約束していましたから……。 」
「 …… 」

祐一は、 手をフェリシアの頭にのせると、そっと撫でた。

「 済まなかった。 何故か、 力加減があまり上手く出来なかった。 」

祐一が謝罪した。

「 いいんです。 私は、 私の信念と職務の為に、 貴方をわざと怒らせたのですから… 」
「 ……アフタリスは、俺がパンデモニウムから脱出する際、俺が倒した。
 …アイツは、俺の両親を殺した、憎むべき相手だったが、魔族の中では、ルシフェルと同様、俺を守ってくれもしたやつだった。 
それに、魔族の絶対的階級社会を知った時、 俺は正直仕方ないとも思った。
ルシフェルと同じ、人間と共存を望む派閥の者だったとしても、いかに四魔王でも、大魔王の命令には逆らえない。それだけは、理解して欲しい。 」
「 …魔族にも、社会が有り、立場的に嫌でもしなければならない時も有った…、と言う事ですね…。解りました。 」

フェリシアが右手を差し出した。
祐一も、 ゆっくりと右手を差し出し、 そして、 ゆっくりと握手した。

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