第二章
第10話 「 新たな出会い 」









フェリシアと和解した祐一は、 魔族の国での事や今までの事を、 志貴や茜達も交えて、 ほぼ全ての事を話した。 ( 詳しくは、 外伝1話を参照 )

「 ……今でも、 その事だけは、 良く覚えている。 」

祐一が少し俯いた。

「私には、祐一さんのその時の気持ちが、痛い程良く解ります。
目の前で、父や母を、無惨に殺されるのを、見ている事しか出来なかった、自分の無力さ、不甲斐なさそして、悲しみや孤独感……。
私も、秋子様に手を取って頂くまで、ずっとそれらの激しい感情を抱えていましたから… 」

フェリシアが、 目元を拭った。
フェリシアとの一騒動から、 今日で三日が経過していた。その間、祐一とフェリシアは、色々な事を話し合っていた。 
個人的な事から、世界に関する事まで。傍目から見れば、それはお互い恋人同士で、イチャついてる様にしか見えなくもなかったが、実際は至極真面目な内容だった。
茜も舞も佐祐理も、 それなりに嫉妬はしていたが、 同じ様な過去を持つ同士、 今は仕方ないと言う事で、 暗黙の了解と言う事で、 今は暖かく見守っていた。

「 …それで…、 今後はどう動きますか? 祐一。 」

茜が、 丁度良いタイミングで、 話題転換を促した。

「……茜、 今後は、 みんなで話し合って今後の行動を決めよう。 俺が何もかも決めてしまっていたら、 パーティーの意味がない。 」
「解りました。( 何か…、 変わりましたね… )
まずは、当初の目的だった、第四の禁呪-を修得するのを優先させますが、これには祐一とアルクェイド、後一人誰かを連れて行けば、事足りるでしょう。
折角パーティーが増えたんです。ココは、幾つかのグループに別れて、それぞれに任された目的を果たすと言うのは、どうですか? 」
「俺は賛成だ。 その方が修行にもなるし、又、主目的以外で祐一の手を煩わせる事もなくなる。 」

茜の提案に志貴が賛成し、 他の仲間も頷く。

「私としては、禁呪修得に祐一、アルクェイド、そして名雪さんか香里さんのどちらか。
志貴さんと私は、初音島の領主、朝倉一族に、先日の騒動のお詫びと、禁呪修得の許可を頂戴しに。
教会との今後については、フェリシアと修得から外れた二人の内のどちらか。
佐祐理様は、今回は連絡係、そう考えていますが…、祐一はどう思いますか? 」
「 … 名雪、 香里、 どっちが行くんだ? 」

祐一は二人に尋ねた。

「 どうする? 名雪…。 」
「 う〜〜〜ん……、 行きたいけど…、 香里に行かせてあげたい気持ちも有るんだお〜… 」

名雪は、 一生懸命、 ウンウン唸りながら、 悩んでいた。

「 そこまで悩む事かな? ジャンケンで決めたら♪ 」

アルクェイドの一言で、 結局それで決める事になり、 今回は香里が行き、 最後の時には、名雪が行く事に決まった。

「 では、 フェリシア、 教会の方針転換と、 祐一に頼まれた件についてのバックアップ、お願いします。 」
「 解りました。 万全を期します。 行きましょう、 名雪さん。 」
「 は、 はい。 」

名雪とフェリシアは、 フェリシアのディパーティーションで教会本部の有る御音へと向かって行った。

「 祐一さん、 アルクェイド、 香里さん、 それでは試練の場へと向かって下さい。 」
「 解ったわ。 」
「 私だけ、 何で呼び捨てなの? 」
「 …… 」

3人は、 宿を後にし、 徒歩で目的地へと向かった。

「 では佐祐理様、 今回だけ、 それぞれの連絡係をお願いします。 さっき皆さんに渡した、魔導伝達器で、 話す事が出来ますので。 」
「 あはは〜、 解りました。 でも、 次回はちゃんと冒険の方に入れて下さいね。 」
「 約束します。 では、 志貴さん、 行きましょう。 」
「 了解。 」
 茜と志貴も、 徒歩で宿から領主館へと向かって行った。





( さて……、 皆さんが帰って来るのを、 気長に待ちますよ〜♪ この間にも、 瞑想とかして、 修行しちゃいましょう♪ )

佐祐理は自室へ戻り、 早速修行へと入った。





〔 30分後  領主の館前 〕



「 …これが領主の館か… 」
「 はい。 領主は 朝倉 純一 、 SSSランクの、 最少年記録取得者で、 義妹の音夢と結婚し、 他に第二婦人にことりを迎え、 今に至っています。 」
「 …ことり? …あの、 歌姫 ことり? 」
「 ええ、 そのことりです。 さあ、 行きましょう。 」
「 えっ? あ、 ちょっ… 」

茜はスタスタと門前へと行ってしまい、 志貴は戸惑いながらも、 後を追った。





「 済みません、 門兵さん、 領主 朝倉 純一 さんに、 お会いしたいのですが…。 」
「 失礼だが、 事前のアポイントを取られましたか? 」

どうやら、 兵の教育は行き届いている様だ。 少なくとも、 二人はそう感じた。

「 いいえ、 有りません。 ですが、 里村 茜 が来たと言えば、 解ると思います。大至急の用件なので、 失礼なのは解っているのですが…。 」
「 解りました。 少々お待ち下さい。 急いで、 確認して参ります。 」
「 お願いします。 」

兵は、 すぐに門内へと消えた。

「 ココの兵は、 随分と礼儀正しいな。 」
「 …音夢の教育の賜物です。 彼女、 そう言う礼儀作法には、 かなり五月蝿いので… 」
「 さっきからの話し方からすると…、 茜さんはどうやら二人と、 面識が有る様に聞こえる。 」
「 有ります。 御音の将軍になる前、 私はここを本拠地に、 ハンターとして活動してましたから。 」
「 …成る程。 」

と、 さっきの兵士が、 駆け足で戻って来た。

「 どうぞ、 お入り下さい。 里村 茜 様、 お連れの方も。 玄関から正面の階段を上がりまして、そのまま正面の部屋にて、 お待ちしています。 」

兵は頭を垂れて、 二人を促した。

「 ありがとうございます。 」

謝意を述べて、 茜と志貴は門を潜り、 館内へと入った。
階段を上がり、 真正面のドアをノックする。

「 どうぞ。 」

女性の声で、 返事がし、 ガチャリとドアが開いた。





「 ……茜さん? 」
「 お久し振りですね、 音夢。 」
「 ……はい♪ 」

音夢が茜に抱きついた。

「 コラッ! 音夢、 何をそんな羨ましい……、 じゃなかった。 節操のねえ事をしている。 」

低く太い男の声が、 音夢の後ろからした。

「 クスクス、 音夢ちゃんにとって、 茜さんはお姉さんみたいな存在だもんね♪ 」

髪の赤いロングの女性が、 その隣りでクスクス笑っていた。

「 お兄ちゃんのイジワル。 久し振りに会えたんだから、 いいじゃない! 」
「 …… はぁ、 かったる……。 解った解った。 今日一日、 好きなだけ甘えろ。 」
「 …私の意思は無視ですか? 」

茜が突っ込みを入れる。

「 里村がコイツの甘えん坊に対して拒絶出来た事、 有ったか? 」
「 ……解りました。 ですが、 それよりも先に、 用件を片付けましょう。 」
「 そうだな…。 」









茜、 志貴は、 純一、 音夢、 ことりと対面する形で、 ソファに座った。

「 それで…、 急の来訪の用件は? 」
「 兄さん、 その前に、 自己紹介しませんか? 」
「 はぁ? 要らないだろう? 」
「 …兄さん、 一人名前も知らない方がいるのに、 それはないんじゃ? 」

見ると、 音夢の右手には、 いつの間にか 『 広辞苑 』 が握られていた。

「 馬 …、 解った。 だから、 それしまえ。 」

音夢は言われて 『 広辞苑 』 をしまった。

「 ふぅ……、 じゃあ俺からだ。 俺は 朝倉 純一。 東鳩国領 初音島の領主だ。よろしく。 」
「 妻の 朝倉 音夢 です。 小さい時、 朝倉に養子として引き取られましたが、色々あって、 お兄ちゃんの妻になりました。 」
「 朝倉 ことり です。 縁有って、 純一君の第二夫人になりました。 」
「 私はしなくていいでしょう。 お互い、 私の事は知っていますから。 」
「 で、 茜の連れの男は? 何処の誰さんなんだ? 」

純一が、 志貴をまっすぐ見据えて、 自己紹介を促す。

「 …… 俺の名は、 遠野 志貴。 アルテミス王国第一位王位継承者だ。 」
「 ……王 ……族? 」

音夢が目を見開いて、 やっとこさっとこそう呟いた。

「 …… 本物? 」

ことりも同様に、 驚いている。

「道理で気質が並じゃない訳だ。で、エンピールゴールドと、直視魔眼が何故ココに?俺の殺害依頼でも、請け負って来たか? 」

「それは有りません。それ以前に、純一を殺す依頼なんて、私は受けませんよ?それに、今はもっと大切な人の事で、動いていますから。 」
「 そうか、それは安心した…って、大切な人〜!? 」
「 はい…。 純一は、 相沢 祐一 の名を、 ご存知ですよね? 」
「 ああ、 華音の英雄、 相沢 祐貴 の、 たった一人の息子で、 華音での争乱で失踪。 だが、 つい最近、 その存在が確認された男だろう? 」
「 ……はい。 私と志貴さん、 そして華音は、 相沢 祐一 と共に、 世界を救う為に、 共に行動しています。 」
「 何!!!? 」

純一は思わず立ち上がり、 大声をあげた。

「つい先日、 法皇 フェリシアも、 私達の仲間になりました。 今は、 教会も祐一さん支援に舵を転回する為、 御音に戻っています。 」
「……馬鹿な…、 それでは、 超巨大な権力が、 たった一人の男に集まってしまうじゃないか?何故止めない。 」
「祐一に会えば、純一も理解出来ます。祐一は、そんな権力なんかに、目もくれません。むしろ、今回の別行動を、私達に考えさせる程です。
今回、彼はこう言いました。『 これからは、自分一人で行動を決めたりしない。仲間全員で考えよう。 』 と。だから、こうして私達二人がココにいるんです。 」
「……そうか。 聞こえてくる内容よりも、 茜の言葉の方が信じられる。 信じよう。…で、 用件って何だ? 」
「……禁呪の試練、 許可下さい。 と言っても、 すでに祐一は向かっていますが。 」
「…それは、 本来の目的にどうしても必要なのか? 」
「…必要です。祐一は何も言いませんが、恐らく魔族は、私達が考え想像しているのよりも、遥かに膨大で、強力なんでしょう。だからこそ、万全を期したいのだと思います。 」
「 ……だが、 禁呪を修得してしまったら、 この島にある聖桜樹は… 」
「 …枯れます。 あれは、 試練に当たる大精霊が、 その力を与えてなっているものですから…。 」
「 …そうか。 となると、 俺やことりが持つ能力は…… 」
「 消えます。 」
「 …… 」

純一は、 思案に入った。 正直、 特殊能力はない方がいいと、 常々思っていた。
なまじ、 そんな能力のせいで、 ことりは人知れず苦しみ、 悩んでいたし、 自分もそんな力に違和感を感じていたからだ。

「 祐一は、 一言も世界を救うなんて、 言った事は有りません。 ただ、 自分の敵は、 人々に仇為す魔族だけとしか…。 でも、 私や志貴さんには、 解ってしまいました。 」
「 祐一の、 本当の願いは、 人間と魔族が、 共存出来る世界、 そんな世界を創り上げる事、 それはアルテミスが国として考えている事と同じだった。 だからこそ、 共に歩んで行く決心をしたんだ。 」
「私は……、 祐一の悲しそうな表情を、少しでも、たった一度でも笑える様にしてあげたい。ただ、それだけでした。
…でも、今は違います。私もそんな世界にしたい。
最初から拒絶し、憎み合うのではなく、少しずつでもいいから、お互いに受け入れられたら…。それはどんな素晴らしい事でしょう…。 」
「アルテミスの王子としてではなく、 一個人の 遠野 志貴 としてお願いする。 祐一に、 第四の禁呪の試練を受ける許可を、 お願いする。 」

志貴は、 スッと純一に対し、 頭を下げた。
それを見て、 純一と音夢、 ことりは面喰らったが、 少し間を開けて、 口を開いた。

「 …一国の王子が、 他国の、 それもこんな田舎の一領主に頭を下げる事を躊躇わせない程の男…。一度、 会ってみてぇな。 」
「 お兄ちゃん… 」
「 純一くん… 」
「 試練が終わったら、 相沢 祐一 に会わせてくれるのを条件として飲むなら、 許可するよ。 」
「 …ありがとう。 」
「 私と志貴さんで、 祐一さんを説得します。 純一、 ありがとうございます。 」

二人はホッと胸を撫で下ろした。これで、何の弊害もなく、試練を受けられると。数分後、茜から魔伝法で佐祐理に交渉成功が伝えられた。
そして、その情報はすぐにフェリシア、祐一にも伝えられた。

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