第二章
第11話「 良き兆候 」









私は、 つい先程、 名雪さんを連れて、 御音の教会本部へと戻って来ました。
今は、 本部の執務室で、 名雪さんと色々な書類の作成をしています。
大幅な路線変更の為、 作成しなければならない書類は多岐に渡ります。 …後で皇帝陛下にもご報告しなければなりませんし…。
名雪さんは、 一見ポ〜ッとしていますが、 やはり秋子様の娘さんですね。 テキパキと書類を作成して行きます。 …ポ〜っとは、 失礼でしたね。

「 名雪さん、 それを作成し終わりましたら、 ひと休みしましょう。 」
「 は…はい。 」

私と名雪さんは、5分程で書類を完成させ、 休憩に入りました。
紅茶と茶菓子を用意し、 テーブルの名雪さんと真向かいに座った時に、 名雪さんが私に問いかけて来ました。

「 ……フェリシアさん…、 フェリシアさんは、 祐一の事、 どう思っているの? 」

と。 正直、 好きなのだと思います。 祐一さんの事を思うだけで、 私の心がカ〜っと熱くなり、
切なくなってしまいます。 だから、 嘘偽りなく名雪さんに返答しました。
「 好きです。 」 と。

「 …やっぱりなんだお〜… 」

名雪さんは、 急にショゲてしまいました。

「名雪さん? 」
「フェリシアさん、私も、王女様も、茜さんも、祐一の事が好きなんだお。私も大好き。
でもでも、私は香里やフェリシアさんみたく、美人さんじゃないし、王女様みたいに可愛らしさもないし、茜さんみたく、知的でもないんだお〜…。 
勝てるものが何もないと、 物凄く不安なんだお。 」
「 ……でも、 名雪さんには、 絆が有るじゃありませんか。 」
「 だお? 」
「 ……私も、 幼い頃に出会いたかった…。 どうしたって、 私は祐一さんの幼かった頃を知る事は、
出来ないんですから…。 そして、 祐一さんは誰よりも名雪さんい対しては、 心を許していると思います。
無条件で、 自分を信じてくれる、 ただ一人の人なんですから、 名雪さんは。 」
「 そ…そうかなぁ…? 」
「 ええ…、 だから、 自信を持って下さい。 」
「 ……うん、 頑張ってみるお! 」
「 でも、 恋に関しては、 正々堂々と、 ライバルですよ♪ 」
「 うん!! 」

二人は握手を交わし、 正々堂々戦う事を誓った。

「 さて、 書類も全て作成しましたし、 後は各支部へ送付。 その後は皇帝にお会いしに行きますか。 」
「 大丈夫かな? 私が行って… 」
「 事情は私が説明します。 私を信じて、 同行して頂けませんか? 」

名雪は少しの間思案したが、 最終的には了承した。
その後、 側近達に書類を送付する様命令し、 一週間後、 初音島の領主の館へ来る様、 各支部の
支部長に通達した。 そして、 フェリシアと名雪は、 馬車で皇城 エターナルへと向かった。






 ( 御音 エターナル城内 謁見の間 )

二人はすぐに謁見の間へと通された。
しばらく待っていると、 不意に右側のドアが開き、 
先頭から七瀬 留美、 川名 みさき、 上月 澪、 椎名 繭、 折原 瑞佳、 深山 雪見、 そして最後に皇帝、 折原 浩平が入り、皇座に座った。
同時に、フェリシアと名雪も深々と礼を尽くす。

「 お久し振りです、 皇帝陛下。 」

フェリシアが上品に頭を下げた。 慌てて名雪もフェリシアに倣う。

「 登城ご苦労。、 法皇 フェリシア。 今日は、 相沢 祐一 に関する報告だな? 」
「 はい。 」

フェリシアは、 調査に関する書類(厚さ6cm程)を、 手近にいた雪見に渡し、 雪見は浩平に書類を渡した。

「 これを見る前に聞きたい。 その横にいるのは、 華音の水瀬 名雪 に見えるが… 」
「 陛下のおっしゃる通り、 彼女は華音王国第一騎士団長、 水瀬 名雪さん本人です。 」

フェリシアの言葉に、 七将軍や重臣からどよめきが起こる。

「 ですが、 今は私の手伝いとして、 相沢 祐一 のパーティーから、 各自任せられた事を

まっとうする為、 彼女はこうして私と共に行動しています。 」

「 …そうか。 では、 法皇は、 彼に会ったのだな? 」
「 …直にこの目で見て、 そして戦って参りました。 」
「 それで、どうだ? 法皇の目で見て、 相沢 祐一 はどの様に映った。 」
「 ……正直、 どうして自分の足で立ち上がって、 自分の道を歩んで行けるのか、 不思議に

思える程、 悲しい過去を背負った人に見えました。 」

「 …… 」
「 私も、 両親を魔族に殺されています。 それは彼も同じ。 ですが、 私には差し伸べられた

暖かい手が有った。…でも、 彼にはそれすらもなかった。ようやく差し伸べられた手は、魔王ルシフェルの手で、でも、それでも彼にとっては救いだったと思います。
彼に出会い、 彼を知った事で、私の考え方も変わりました。今までは、魔族は全て悪と、決め付けていましたが、それは間違いでしかないと。 」

「何を言ってるの?フェリシア。魔族は全て悪。それは世界中の人間の認識なのよ!? 」

深山 雪見が 苛立たし気に、 フェリシアに対してつっかかった。

 「 それなら、 いっそうのこと、 認識改善に取り組むべきではないでしょうか? すでに、 アルテミス

 を筆頭に、 華音でもその運動は始まってます。 大国として諸外国に威厳を示すなら、 これ程効果が

 望める事もないと思います。 」

「……話にならなわね。 アルテミスと華音も何を考えているのかしら? 違う種族同士、 そう簡単に相容れあう訳がないのに…。 」
「……フェリシア。 」
「はい。 」
「率直に聞く。 教会は今後、 どう対応する? 」
「……一週間後、東鳩国領 初音島において、教会の各支部長、
東鳩国国王 藤田浩之様、
アルテミス王国女王 遠野秋葉様、
華音王国国王代理、水瀬秋子様、
そして私と彼のパーティーとで、首脳会議を行うべく、すでに動いております。つきましては、 陛下御自身にも、 御越し頂きたいのですが… 」
「 な…!? 」

雪見がなおも怒鳴りかけたが、 浩平自身がそれを制した。

「 …どう言う事だ? 」
「各国には、いまだに彼に対する偏見、偽りの情報等が蔓延しています。 
それなら、 各国の代表や、教会の支部長に彼の本当の姿を見て貰えれば、誤解も解けると思い、 そう動きました。 」
「 …解った。 俺も行こう。 」
「 陛下!? 」

雪見が、 信じられないと言う面持ちで、 浩平を見た。

「 雪見、 留美、 みさきを連れて行く。 各国のトップには、 俺の要請でもあると、 付け加えとけ、フェリシア。 」
「 ありがとう御座います。 」
「 それにしても……、 フェリシアまで、 相沢 祐一 に負けたか。 」
「 …一撃も入れられませんでした。 」
「 そうか…。 会うのが楽しみになってきたぞ。 」

浩平は、 久し振りに愉快気に笑った。

「では、 私達は失礼します。 」
「ああ。 二日前にここを発つ。 初音島までの旅程、 用意頼む。 」
「かしこまりました。 教会の方で、 ご用意致します。 それでは。 」

フェリシアと名雪は一礼すると、 ディパーティーションで、 次の目的地へと向かった。

「陛下! 」
「そう怒鳴るな、先輩。考えても見ろよ。いまや相沢 祐一は、世界に冠たる魔術師や戦士がパーティーを組む、そんな奴等のリーダーなんだぞ。
茜も、フェリシアも、相沢 祐一に会って、 ガラリと変わって帰ってくる。そこにいる七瀬にしてもそうだ。なあ、 七瀬。 」
「…否定はしないわよ。だけど、事実彼に会えば、誰もが変えられてしまうわ。それは性格だったり、今までの考え方や生き方だったり、私の場合は、後者だけどね。」
「 ほらな。 だから、 俺が興味を持って、 会ってみたいと思うのは、 自然の摂理だと思わないか? 先輩。 」
「 ……はぁ…。 解ったわ。 取り合えず、 会う事にしましょう。 貴方の言う通り、

私にも興味は有るし、 本当の相沢 祐一を知りたいしね。 」

「 よし、 まとまったな。 澪、 繭、 留守を頼む。 」
「 うん、 任せてよ。 」
「 みゅう 」
『 任せてなの 』

御音の意思は、 こうして纏まった。-







 ( 華音王国 王都 華音 )

フェリシアと名雪は、 数瞬後、 華音王国王都 華音へと到着した。

「 あれ? 華音だよね? ここ 」
「 ええ、 そうです。 今度は、 名雪さんのお母様、 秋子師姉にお会いします。 」

そう言って、フェリシアと名雪は、王城 白鍵へと向かった。
数分後、王城に到着した二人は、名雪の顔パスで入城し、秋子の政務室へと来た。

ノックをし、 中へと入る。

「 あらあら、 名雪、 それにフェリシアまで。 どうしたんですか? 」
「 お母さん、 もう動いて大丈夫なの? 」
「 ええ、 大丈夫よ。 そう、 もう私とフェリシアが戦った事を、 知っているのね。 」
「 う…うん。 」
「見ての通り、怪我も有りませんよ。
確かに、 手合わせをした時は、手酷くやられましたが、フェリシアの回復魔法で、治して貰いましたから。
それに、祐一さんの事を、直接会って自分の目で確かめる様促したのは、私ですから。 」

「 そうなの? 」

名雪はフェリシアに尋ねた。 

「はい。師姉に言われ、師姉の言う事に間違いはないと解っていても、私には半信半疑だったんです。 ……でも、 あんなに怒りを露わにするとは… 」
「何ですって!? 」

秋子が急に立ち上がり、 驚嘆したままの表情で、 フェリシアを見た。

「 師姉? 」
「 お母さん? 」

二人は、 秋子の突然の驚きに、 どうしたのかと思った。

「 フェリシア、 祐一さんは怒りを表情に出したのですね? 」
「 はい…、 ハッキリと。 殺気を浴びせられて、 私も恐怖…を? 」
「 お…お母さん? どうしたの? 」

フェリシアと名雪は、 秋子が涙を流すのを見て、 言葉を詰まらせた。

「名雪……、まだ解らないの?祐一さんが、私達と再会してから、表情を顔に出した事が、有りましたか? 」
「 う…ううん、ないよ。 」
「 その原因は、 知っているでしょう。 全てを聞いてなくとも、 その片鱗は知った筈です。 」

秋子は、 かつて志貴から聞いた事を、 二人に話した。

「だから、嬉しいんですよ。
怒りにせよ、感情が出せる様になって来た事は、 良い兆候ですから…。
貴女達は、 祐一さんに様々な事を学ばせて貰っています。
ですが、 逆に祐一さんは、貴女達と一緒に旅をする事で、少しづつ、心が癒されてるのでしょうね。 」

 そう言って、 秋子は涙を拭った。

「 師姉… 」
「 お母さん… 」

二人も、 何だか泣けてきた。

「 祐一さんは、 誰よりも辛い人生を歩んで来ました。だからこそ、 これからは幸せになって欲しい…。

大魔王を倒すと言う、 偉業を成し遂げられたなら、 今度こそ、 幸せに… 」

「 ……そうですね。 」
「 …うん… 」

3人は、祐一の幸せを、心から願った。
そして、その思いは、最悪の形を持って、裏切られる事になる。
だが、それを知るのは、もっとずっと先の話……。 」

「それで、フェリシアの用件は何ですか? 」

しばらく感慨に耽っていた後、 秋子が切り出した。

「実は、一週間後、東鳩国領 初音島にて、各国の教会支部長と、国の代表を集め、祐一さんに関する会議をする様に、教会が動いています。
ついては、秋子師姉にも参加頂きたいのですが…。 」
「 了承 」

……一秒で話がついた。

「……早いですね、 相変わらず…。 解りました。 つきましては、 アルテミスにもお伝え下さいませんか? 」
「解りました。 私から、 秋葉さんには伝えておきます。 」
「お願いします。 」
「お母さん、 一週間後にね。 」
「ええ 」
「それでは、 戻ります。 」
「祐一さんに伝えて下さい。 体に気をつけてと。 」
「はい。 」

二人は、その場からディパーティーションで初音島へと戻って行った。





( ………正念場ですね……… )

秋子は、一週間後の会議で、信用を得られるにはどうするべきか、思案に入った。 

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