第二章
第13話「 分かち、 旅立つ 」









「 国王様、 いや、 この場では浩之、 何故、 この場に魔族がいるのよ? 」

大陸で唯一、 徒手空拳のみで戦う、 格闘歩兵部隊隊長、 来栖川 綾香 が、 アシュタロトに怒気をぶつけながら、 浩之に尋ねた。

「 ……昨日の戦いで、敵の7割を、アシュタロト殿が倒してくれた。言わば、昨日の最大の功労者だ。力を借りた手前、国としてしっかり感謝し、功を労うべきだと思うが?綾香。 」

至極もっともな正論を言う浩之。 だが、 綾香は バンッ!!  と円卓を叩いて、 立ち上がった。

「 それは人間ならでしょう!!? 何故魔族に、 国を挙げて感謝しなければならない訳!? この心葉を襲った、 魔族と同種の奴なんかに!!! 」

綾香の叫びに、 廻りの者も同意の叫び声を上げる。 そして、 それがアシュタロトを殺せと言う明確な意思の集団になるまで、 そんなに時間はかからなかった。

「 殺せ!! 」
「 魔族は信用出来ん!! 今すぐ抹殺するべきだ!! 」
「 昨日の戦いに、 魔族の介入はなかった!! それが真実だ!! 」

終いには、事実を捻じ曲げようと言う声まで挙がった。
将軍職にいる3人の男女、佐藤 まさし 、宮内 レミィ 、斉藤 志保 が剣を抜き、
アシュタロトに剣先を向けようとしたその時、アシュタロトの目の前に、 浩之は立ちはだかった。

 「 ……そこをドクね! ヒロユキ! 」

 レミィの叫びに、 浩之は首を横に振った。

 「 浩! 今を逃せば、 死んで逝った者達の恨みを、 晴らせなくなるのよ! だから…、 そこをどいて!! 」

志保の叫びにも、 浩之は首を横に振る。

「 何故…? 何故そんな奴を守るんだよ、 浩之… 」

まさしの問いに、 ただまっすぐに、 浩之はまさしを見据えた。

「 ……アシュタロトさんを殺して、 それで本当に恨みが、 晴らせるのかな? 」

不意に、 あかりがボソッと呟く。 その言葉に、 志保やレミィ、 綾香や他の重臣達も、 あかりを見た。

「……それって、私達人間側だけの、ただの自己満足なだけの様な気がする…。
死んで逝った民達が願っていたのは、争いのない世界だった筈…。
死んで逝った兵士も、国を守る為に、争いをなくす為に、その礎として死んで逝った…。
争いのない世界、それは人間と人間以外の種族が、壁を越えて、手を取り合わなきゃ、絶対に叶えられない事だと思うよ。 」
「 あかり… 」

志保が、 信じられないと言う顔で、 あかりを見た。

「 何を言うネ! あかり。 人類にガイナス存在は、 スベカラク倒さなくちゃダメ! 」
「 ボクは、 レミィや志保の意見に賛成だよ。 」

3将軍の発言に、 再びアシュタロト抹殺コールが再燃する。

「……済まない、アシュタロト。この国を救ってくれたアンタなら、こいつ等も受け入れてくれると…、半ば賭けでアンタを、この場に連れて来たんだが……、どうやら俺は、部下の教育を誤ったみたいだ。 」
「私の事なら、心配無用だ、浩之よ。この者達の剣では、私の体は斬れん。逆に剣が折れる。それに、どんなに誹謗・中傷されようが、私の信念は、絶対に変えん。 」

「 …… 」

浩之は、アシュタロトと、アシュタロトを殺そうとしている友人達を見て、どっちが人らしく見えるか、一目瞭然だなと思った。 
片や、命を奪う事でしか、道を見出せなくなってしまっている友人達、片や、その命を賭してでも、友との夢の実現に道を立ち止まる事なく、歩いて行くアシュタロト。
-一番正しき道は、 すでにあかりが示してくれたと言うのに…。
浩之は、 バシッと自分の横っ面を、 拳で殴った。 そして剣を抜き、 3将軍に対して構える。

「 なっ…… 」
「 浩…… 」
「 何故?… 」

レミィ、 志保、 まさしは、 驚きに動揺した。

「…俺は…、俺はアシュタロトを守る。あかりの言う通りだ。他種族と共存して生きて行けない人なんざ、存在する価値もない。今のこの場合、どう見ても悪いのはお前等だ! 」

そう言って、 3将軍達に斬りかかり、 元々強さが段違いなのか、 浩之が3人を軽くノシて、 気絶させてしまった。

「 何してるのよ! 浩之! 」

綾香がすかさず浩之の懐に飛び込み、打ち上げ型のパンチを繰り出す。
だが、浩之はそれすらもバックステップで軽くかわし、すかさず逆に綾香の懐に入り、鳩尾にパンチを入れて、綾香を気絶させた。

「 …済まないな。 」

浩之は、 誰にでもなくそう呟き、 そして一同の方を向いた。

「 皆に言う! 俺は、 今日限りで、 国王を辞める!! 後任は、 俺の妻、 あかりに任せる。 」

そう言うと、 浩之は王として身に付けていた物を外し、 あかりに手渡した。

「 …浩之ちゃん… 」
「 済まねぇな、 あかり。 俺は… 」

「 解ってるよ、 浩之ちゃん。 …アシュタロトさんと、 一緒に国を出て旅に出るんでしょう? 」
「 ……ああ。 お前の言う通り、 俺は共存こそが真の道だと思っているからな。 …留守、 頼んだぜ。 」
「 …うん…。 寂しくなるけど、 頑張るよ♪ 芹香さんもいるし。 」
「 …… 」

お互い、 目だけで別れの挨拶を済ませると、 浩之はアシュタロトの傍に歩み寄った。

「 …いいのか? 私についてくると言う事は、 国の皆を裏切る事になるのだぞ? 」
「 …こいつ等だって、馬鹿じゃない。じきに気付くさ。…でもな、今から自分の信じた道を歩いて行かないと、俺はきっと後悔する…。だからアシュタロト、アンタと共に行くぜ。 」
「 ……解った。 もう何も言わん。 男がこうと決めた事だ。 その信念、 貫くが良い。 」

そう言うと、二人はズカズカと会議室から出て行き、城も後にした。
会議場には、気絶させられた将軍達と、その4人を少しかなしそうに見るあかりと芹香、
そして連合の要だった王の出奔により、今後の王政に不安を感じる重臣達だけであった。




浩之とアシュタロトは、 王都に住む人達に怖がられると思っていたが、 まったく逆の反応に、少なからず驚いていた。 昨日の活躍に、 国民達はアシュタロトを受け入れ、 感謝し、 喜んだ。
聞けば、 昨日の農夫から、 話を聞いたのだと言う。
無論、 全員が喜んでいる訳ではなかった。 中には、 魔族と言うだけで、 恨みのこもった目で見る者達もいた。 
国を守る国軍には受け入れて貰えず、 逆にその国に生きる人々に受け入れられたアシュタロトを見て、浩之は内心もの凄く嬉しかった。

「 見ろ、 浩之。 お前の統治は、 決して誤りばかりではない。 国民は、 ちゃんと解っている。 」
「 …ああ 」

浩之は、 感無量だった。
城のテラスから、 あかりと芹香は、 その様子を見ていた。

「 軍が間違った道を行こうとしても、 国民はちゃんと解ってくれている…。 」
「 ………… 」
「浩之さんが治める国ですからって。……そうですね。……芹香さん、浩之ちゃんを、お願いします。
私には、旅に同行する様な、 行動力が有りません。 でも、芹香さんなら、浩之ちゃん達の旅について行ける。その力を持っている……。 だから… 」

自分の力のなさに、悔しさに腕を震わせているあかりを、芹香がやさしく撫でた。

「 ………… 」
「 …はい。 」






芹香はスッとあかりから離れると、同じ様にスッと消えた。そしてほぼ同時に、アシュタロトと浩之の下に現れた。

「のわ! 先…先輩? 」
「…… 」
「え? もう先輩はないんじゃないですかって? …スマン、 いきなり現れたからさ。 」
「…… この御婦人は? 」
「ああ、俺の第二王妃、芹香さん。学校の時は、先輩だったからつい… 」
「………… 」
「え? あかりに同行してくれと頼まれたって? ……ったく、 あかりの奴。 」

そう言いながらも、 少し嬉しそうな浩之。 城のテラスを見上げ、 あかりの姿を確認すると、スッと手を高く上げて、 行ってくるとサインを送った。

「……行ってらっしゃい。 …貴方と、 貴方がこの先出会う人々に、 幸多き事を… 」

あかりは、 笑顔で3人を見送った。






東鳩国や他大陸、同大陸の各国への魔族大急襲の一報は、茜や志貴が朝倉の館に訪れた翌日に、茜達の所にも、情報は入って来た。
同時に、東鳩の王位交代のニュースと、一人の魔族の情報も。
それは、あかりが意図的に流したものだった。
魔族は敵、 だが味方になってくれる魔族もいるのだと。
東鳩はそうして救われたと言う、 メッセージとして。



一報を聞いて、 純一は早馬を出し、 宿に戻っていた茜と志貴、 佐祐理、 フェリシア、 名雪を、館まで大至急連れて来させた。
昨日、 茜達が会談したのと同じ部屋に、 今日は新たに3人増えた形で、 お互いに向かい合って席に座る。
しばらくして、 純一が険しい顔をして、 部屋へと入って来た。

[PR]動画