第二章
第14話 「絶望の日は、希望の日」







「待たせたな、 茜。 」
「大丈夫です。 そんなに待ちませんでしたから。 」
「それと…、わざわざここまで御足労、申し訳ない、法皇 フェリシア様、倉田 佐祐理 王女様、水瀬 名雪 第一騎士団長様。 」

純一の言葉に、 ことりと音夢は度肝を抜かれた。
言わば、 世界のVIPと、 大国の重鎮二人が、 目の前に座っているのだから。

「大丈夫です。私の方には、すでにほぼ全ての情報が来ています。まだ仲間には打ち明けていませんが、……恐らく、私の持つ情報と同じ様なものでは? 」
「そうですね。同等の物でしょう。 」
「朝倉さん、今の私や皆さんは、王子や王女、法皇としてではなく、同じ未来を夢を描く仲間として、共に旅をしています。
フェリシアさんが私達に情報を流さないのは、何となくですが、 理由も解ります。
ですが、 今朝倉さんが私達に知らせようとなさっている情報は、 少なからず、 私達に影響が有るからじゃないですか? 」
「 ……ええ、 かなり影響が有るでしょう。 」

純一は、一度書類に視線を落としてから、 再度佐祐理達の方を見て、 簡潔に答えた。

「…では、 お教え下さい。 」
「…解りました。まず第一に。昨日、東鳩国王都・心葉が、魔族の急襲を受けました。
これに軍が抗戦していたところ、龍人型の魔族が、何故か王国軍に味方し、魔族の軍団を殲滅。 心葉はかなり破壊されましたが、 全滅を免れました。 」

ここまででも、 驚くべき情報が有った。

「 …人間に味方する……、 もう一人の魔族? 」

名雪が呟く。

「 もう一人…ですか? 」

ことりが、 名雪の呟きに対して、 そう質問した。

「 ことりさん、 昨日は話しませんでしたが、 私達のパーティーには、 魔族が一人います。真祖の吸血鬼、 アルクェイド・ ブリュンスタッドと言う、 上級魔族が。 ですから、 他にそう言う魔族がいても、 驚きはしません。 」
「続きいいか?昨日の魔族の襲撃は、東鳩だけではなく、世界規模で行われ、
公式に認められた国の内、4分の1が全滅、同じく4分の1大壊、後の半分が中壊から小壊と、ほぼ被害のない国はない。
それと、ついさっき入った情報だが、今日の午前中、東鳩国国王、藤田浩之 が、議会で将軍達と意見や意思の食い違いで対立、例の魔族と共に、国を出奔した。
魔族が、あんたらの大将 相沢 祐一の名を言ってた事から、 恐らくここに向かっている。 」
「 …藤田 浩之 が…ですか? 東鳩が、 彼抜きで保つでしょうか… 」

茜は信じられない面持ちで、 率直な意見を出す。

「 俺から見ても、 王妃の人気で何とか…って、とこだと思うが… 」
「 あかりさんですか…。 彼女なら、 悪政には絶対なりませんね。 」

あかりが代理と言う事で、 茜も少し、 安心した様だ。

「魔族の名は、アシュタロト。どうやら、アンタ達のリーダーに会う為に、ココに向かっている様だ。 」
「…不思議じゃないな。祐一は、 10年間魔族の国にいた。しかも、後年はルシフェルと言う魔王を義父とし、ルシフェルから様々な事を教え込まれている。
しかも、 ルシフェルは人間と共存を望む魔王だった。当然、部下にも同じ未来を望む者を選ぶ筈…。その部下が、祐一を慕って来るのは、当然と言える。 」
「 そうですね。 」

茜も同意する。

「 それと、 これは奇妙な情報なんだが・・・。 」

そう言い切って、 純一はチラッと志貴を見た。
志貴も純一の視線に気付き、 恐らく自分に関係する事なんだろうと、 純一に対し、 頷く事で情報の公開を促した。

「 ……たった一国だけ、ほぼ無傷で済んだ国が有る。 それは……、 アルテミス王国だ。 」聞いた瞬間に、 志貴の顔はサーッと青褪める。
「 ……まずい…。 アルテミスが危ない。 」
「 ? …何が危ないんだ? 無傷なんだぞ? 」

純一は不思議そうな表情で、 一同を見る。
同様に、 その危うさに気付いた茜やフェリシアも、 難しい顔をしていた。

「無傷だからだ。殆どの国が、何かしらの被害を被ってるんだぞ?
その中で、無傷の国が有れば、他国は疑念を持つだろう?そのまま行くと、人と人、国と国で戦争になるぞ。 」

あくまでこじれにこじれたらな……と、志貴は心の中で付け加えた。
志貴の言葉に、 純一もハッとして、 一気に青褪めた。
純一は、 もし自分が国王だったなら…、 一切被害を受けなかった国を疑うだろうと、 すぐに思った。

「詳細を申し上げますと、華音、御音を除く、他の国々から、すでにアルテミスは抗議と釈明を受け、求められています。
教会からも、各国の国王様達に、推し留まる様、説得を試みてはいるのですが…… 」

フェリシアは申し訳なさそうに、 態度を小さくした。

「 …魔族の狙いは、 人と人での潰し合いだ。 」

突然、 応接室のドアが開き、 4人の男女が部屋へと入って来る。

「 誰だ? 」

純一が、 訝しげに無断で入ってきた4人の男女に名を尋ねた。

「私は美坂 香里。そこにいる、ボケクィーン騎士団長、水瀬 名雪と同じ、華音王国第二騎士団長よ。 」

ファサっと掻き揚げた髪の下には、出かける前とは明らかに違う、精悍な顔つきをした美少女の顔が有った。

「香里、 酷いよ… 」
「それ位が丁度いいのよ。名雪がノホホンとしてる間、私は地獄の中の地獄を見てきたんだから。 」

言葉では喧嘩になりそうでも、その表情は、お互い無事で嬉しそうだった。

「 ハァ〜イ♪ 私がパーティーの中の魔族、 アルクェイド・ブリュンスタッドよ♪ 」
「 聞こえていたのですか? 」
「 これでも上級魔族よ? 使い魔からずっと見てたわよ。 」
「 使い魔? 」
「 ほら、 そこ 」

そう言って、 アルクェイドは外の木の枝で、 こちらを見ている、 リボンをつけた黒い子猫を指差した。

「 おいで、 レン。 」

 アルクェイドがそう言うと、 子猫は窓を不可視の力で開け、 中へと入り、 何故か祐一の肩に乗った。

「 ……川澄 舞。 寝てて、 一人除け者にされたから、 祐一を迎えに行って、 一緒に来た。 」
「 あっ……(汗) 」

佐祐理は、気持ち良さ気に眠っていた舞を、起こすのは忍びないと思い、起こさずに他の皆と、ココへ来た事を思い出した。

「 ゴメンネ、 舞…。 あまりにも気持ち良さそうに眠っていたから… 」
「 …ポンポコタヌキさん、 大切な用の時は、 どんな時でも起こす。 」

ポカッと、 舞が佐祐理の頭に、 ちょっぷした。

「 うん、 次からはちゃんとそうするね。 」
「 はちみつくまさん。 」

どうやら丸く収まった様だ。







そして、 皆の注目は、 一番最後に入って来た祐一に集まった。

「 ……相沢 祐一 だ。 」

名を名乗った次の瞬間、 ことりがガタンと椅子を倒して立ち上がり、 ガクガクと震えながら、 祐一を青褪めた顔をして、 見ていた。

「 どうしたんだ? ことり… 」

純一が心配して声をかける。 が、 ことりの耳には届いてないらしく、 逆に首を振り、 ガタガタ震えながら、 後ずさっていく。

「 ことり! 」
「 ことりさん? 」

尋常ではないことりの状態に、 二人がことりを抱き締める。

「 イヤ… 見せないで。 ……こんなの…私に見せないで!! ……イヤ〜〜ッ!! 」

泣き叫び、 半狂乱に陥ったことりを、 純一はやむを得ず、 気絶させた。 そして、 祐一を見る。

「 …何をした? 」

言葉こそ穏やかだが、 皆には純一の怒気がヒシヒシと伝わっていた。

「 朝倉…純一と言ったな。 …この女性、 もしかしたら、 思考感応能力の持ち主じゃないか? 」
「 !! 」

祐一の問いに、 押し黙る純一。

「 …どうやら、 当たりらしいな。 恐らく、 俺の記憶を見てしまったんだろう。 」

そう言って祐一は、 ことりの傍まで歩み寄り、膝をつく。

「 普通の人間には、 とても耐えられない、 直視すら出来ない、 おぞまし過ぎる記憶ばかりしかないからな。 」

祐一は、ことりに手をかざし、光を当てると、何やら呪文を唱え始めた。

「 何をする気だ? 」

訝しがる純一。

「 能力を封印する。人の思考が解ってしまう事は、不幸でしかない。解らないからこそ、人は解り合おうと、努力するんだからな。 」
「 …… 」

純一は、 いつの間にか掴んでいた祐一の肩から、 手を離した。
光がことりを包み、 数秒間輝き続けた後、 スゥッとことりの体内へと、 光が吸い込まれて行った。
そして、 上半身を立たせ、 背中に活を入れるやると、 ことりはゆっくりと目を覚ました。

「 う…うう…ん…… 」

目の前の純一を、ボヤける目で見て 少しづつ意識が回復して行き 5分も経てば、ハッキリと回復した。
が、同時に先程見てしまったあまりにも残酷なシーンが脳裏に焼きついてしまっているのだろう。
祐一と目が合うと、 瞬く間に顔を青褪めさせた。 
だが、 それでようやく、相手の思考が読めなくなっている事に、 ことり自身、 気付いた様だ。

「 あれ? ……思いが…記憶が入ってこない…。 」
「 俺が封じた。 今後、 余程の事がない限り、 その力が君を苛む事はない。 」

祐一の言葉を聞き、 今までずっと悩んできた事から解放された今、 ことりは心から喜んでいた。
純一に抱きつき、 嬉し涙を流して・・・
ひとしきり喜び合った後、 ことりは祐一の方を向き、 丁寧に頭を下げた。

「 ありがとうございます。 」
「 …礼はいらない。 ただ、 君が見た俺の過去、 それを一切他言しないでいてくれれば、 それでいい。 」
「 解りました。 誰にも言いません。 」

ことりは承諾したが、茜やフェリシア、佐祐理や名雪、舞は後で聞き出そうと、密かに思っていたとかいないとか。

「それと、出来れば忘れて欲しい。あんな過去、知ってるのは自分とあゆだけで充分だからな… 」
「? あゆさんは誰だか解りませんが…、 解りました。努力します。 」

ことりは素直に頷いた。






一騒動有ったが、 どうにか場も落ち着き、 祐一達のパーティーと、 朝倉夫婦達が向かい合って席についた。
純一は、 先程からずっと祐一を見ている。
ことりも音夢も同様だった。 3人が祐一を見て思った事、 それは悲しそう…。
何がそう見させているのかは、解らない。
ことりだけは、 他の誰よりも理解出来るが、 それでも他の理由を見つける事が出来なかった。






「改めて自己紹介する。俺はこの初音島の領主、朝倉 純一だ。両隣りの二人は、俺の妻の音夢とことりだ。 」

紹介されて、 改めて二人は会釈した。

「美坂 香里よ。そして、アルクェイド、リーダーの祐一よ。 」

純一と香里が握手を交わす。

「 それで、 さっきの続きだが… 」
「 魔族の狙いは、 国家間に戦いの火種を蒔き、 人間同士で潰し合いをさせる事だ。 アルテミスは

その標的にされた。 理由はただ一つ、 国として唯一、 魔族との共存を奨励しているからだ。 」

「 !! そうか。 祐一、 魔王軍としては、 魔族が人間と手を取り合い、 団結するのを、何よりも恐れているんだな。 」
「 志貴、 それも有る。 だがもうひとつ、理由が有る。 それは志貴、 お前が一番知っている筈だ。 」

祐一の言葉に、 志貴はすぐに思い当たったのだろう。 すぐに頷いた。

「 遠野一族の血脈か…。 」

今度は逆に、 祐一が頷く。

「 血脈?… 」

今まで口をはさまなかった音夢が、 尋ねる様に呟く。

「詳しい事は、志貴のプライベートにも関わっているので、今は言えないが、敵はそれだけアルテミスを、強いて言えば、遠野一族を脅威と見てる。
俺がパンデモニウムにいた頃から、奴等は警戒していた。 」
「 全ての事は、近々行われる、国主会議の時にしませんか?志貴様も、祐一さんも、話す内容の選択や、心構えの準備や時間がいると思いますし。 」

フェリシアがいいタイミングで、 閑話休題を申し出た。
一同も、 それに同意する。

「 そうだな。 」
「 …解った。 」

祐一と志貴は頷くと、 純一と一言二言話した後、 部屋を後にした。
他の面々も同様に挨拶をして、 部屋を後にする。

「 では、会議の日に又お会いしましょう、 純一。 」
「 ああ、解った。すでに半分以上の国から、出席の返事が来ている。準備に早速とりかかるとするぜ。…それはそうと… 」
「 何ですか? 」
「 ……あれが、相沢祐一 か? 」
「 ……はい。 」
「 そうか…… 」
「 …? …どうしたんですか? 」
「 いや、 ……あまりにも悲しげに見えてな。 それに、 恐ろしく強い。 」
「……それは、私やフェリシアも、同じ様に感じました。今のパーティーの皆が、そのイメージを持ったんです。
もう少し付き合って行けば、おのずと本当の祐一さんを見る事が出来ますよ。 」
「 ……そうだな。 巷で言われてる様な、 悪人には全然見えなかった。 」
「 きっと、 会議でだいたいの事は話してくれるでしょう。 」
そう言って、 茜も一礼し、 部屋を後にした。

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