第二章
第15話「 人として 」









 ( 御音 エターナル城内 )

「 衛星兵、 早く医務室へ急げ!! 」

隊長らしき兵が、 4〜5人の若い兵士に命令を下す。
城内は人々が入り乱れ、 パニック状態近い状況だった。 怪我人は医務室に収まりきらず、
兵倉や会議室を使ったが、 到底足りず、 とうとう廊下をも使うに到った。





「 重傷者を最優先にして! 骨折や打撲は後回しにしなさい! 」

七瀬 留美 の大声が、 廊下に響き渡る。
今は将軍達も、 雪見を除き、 怪我人の治療にあたっていた。

「 こんな時…、 茜がいてくれたら… 」

今はあの男の下へと行ってしまった、 茜を今何よりも必要だと、 留美は思った。






 ( 謁見の間 )

 「 状況はどうだ? 先輩。 」

「 …エターナル城勤務の兵士、 200000万人内、 約50%が死亡。 怪我人は、 重・ 軽傷を合わせて、半分を上回ろうとしています。 」
「 …最悪だな。 」

浩平は溜息をついた。
今まで最強を自負してきた御音が、 ここまでコテンパンに、 一方的にやられたのだから。

「 やはり、 茜を手離すべきではなかったんです。 彼女さえいれば、 ここまで被害は… 」
「 今更言うな。 皇帝として約束した以上、 それを反故には出来ない。 」

口ではそう言うが、 浩平自身、 茜がいれば…、 と言う思いは、 誰よりも強く有った。






と、 突然部屋の外がガヤガヤし始め、 浩平も雪見も何事かと、 扉の方に目を向けた。
コンコンと扉がノックされ、 兵士の声がする。

「 申し上げます。只今、城内表玄関前に、華音王国宰相、水…、水瀬 秋子と申します方が、陛下にお目通りを求め、いらしておりますが… 」
「「 ……はっ? 」」

見事にハモッていた。
浩平と雪見は、 一瞬空耳かと、 自分の耳を疑った。

「 入っていいぞ。 」
「 はっ! 」

兵士は、 入って来るなり一礼して、 膝まづく。

「 確かに、 水瀬 秋子 と名乗ったんだな? 」
「 は、はい。 これを見せれば、 私が本物だと言う証明になると申されまして、 この杖を… 」

兵士が、 一本の杖を浩平に差し出した。

「 !! ……これは… 」

杖を受け取り、 全容をしげしげと見る浩平が、 驚きの表情で呟いた。

「 陛下… 」
「 先輩、 これは伝説の武器の一つ、賢者の杖だ。
認められた者にしか扱えず、認められた者がこれを一振りすると、地、水、火、風の中級クラスの魔法が、自動的に発動・発射される。 」
「 では… 」
「 ああ、本物だ。 これの今の持ち主は、 水瀬 秋子 だからな。 おい、 そこの兵士。 」
「 は… はい! 」
「 丁重に、 ココまでお連れしろ。 」 
「 はっ!! 」

兵士は一礼すると、 全速力で戻って行った。






 ( 数分後 )

 コンコンと扉がノックされ、 ガチャリと開く。
兵士のすぐ後に、青い髪を、三つ編みにした、浩平も雪見も良く知った顔の女性が 正式戦闘服姿で入って来た。
皇座の階段下まで来ると、一礼して敬意を表す。

「 謁見頂き、 感謝申し上げます。 」
「 率直に聞く。 何の為に、 御音にいらした? 」

言葉は丁寧だが、 語調は決して優しくはなかった。

「 他意は有りません。 華音は思いの他、 怪我人が少なかったので、 他の国の重傷者の治療に参りました。 」
「 何!? 」

浩平は、 秋子の言葉に、 素で吃驚してしまった。
それはそうだろう。 この時代、 他国の民を治療するなど、 誰も信じられない行為でしかなかったのだから。

「 その言葉を信じろと言うのですか? 水瀬 秋子 様。 」

雪見が尚も疑わしげに秋子を見ながら、 質問した。

「 攻撃の意思がない事は、 先程杖を預けた事で、 示しました。 」

無論、 浩平も雪見も、 それは承知していた。 自分の武器を他人に預けると言う行為には、 そう言う意味が含まれていると。
だが、 相手は世界三大魔女、そして、人類最強と言う二つ名まで持つ女性だ。
杖無しでも、充分脅威になりうる。浩平自身もSSSランクで、秋子と同ランクでは有るが、良くて相討ち、悪ければ一方的にやられるだろうと、常日頃思っている。

「 ……私は、 純粋に一人の人間として、 他を救う力を持つ者として、 人々を治療する為に来たのです。……信じて貰えませんか? 」

そう言って、 少し微笑んだ。

「 ……解った。 」
「 陛下!? 」
「 恥を忍んで、 こちらからお願いする。 一国の王として、 国民を救ってやって欲しい。 そう願う。 」
「 はい、 しかと承りました。 私も、 一国の宰相としてではなく、 一人の魔法使いとして、 治療にあたります。 」

そう言って、 浩平に対し一礼した瞬間、 ディパーティーションのゲートが、 3つ同時に開き、 3人の女性がゲートを潜り現れた。

「 あらあら、 貴女達も来たの? 」
「 師姉 」
「 秋子さん 」
「 秋子様 」






上から順に、フェリシア、佐祐理、茜が、秋子の存在に吃驚しながら、秋子の名を呼んだ。

「 茜、 お前も人として、 民の治療に? 」
「・・・はい、陛下。フェリシアも、佐祐理様も、同様の思いで参上致しました。そしてこれは、彼の発案で、私達も賛同してこうして今ここにいます。」

「 …… 」

浩平は、 人として負けたと思った。

「 相沢 祐一 はどうしている? 」
「 彼は、 東鳩の王都・心葉へと出向き、 あかり王妃に面会した後、 同様に東鳩の民の治療にあたっています。 」

信じられない事を聞き、 雪見も浩平も、 呆然としていた。

「 他の国にも、 華音から優秀な治療士を派遣しました。 多くの命は、 これで救われるでしょう。 」

秋子がそう断言する。

「陛下、最早、人間と魔族の、総力戦の火蓋は、切って落とされてしまったのです。
国と国がいがみあっている時では有りません。
そして、だからこそ国と国が手を取り合える様、 私達は国と言う概念を捨てて、 人だから、 人として、 人を救う為に来たのです。 」

秋子はそう言って、 再び一礼すると、 3人より先に謁見の間を後にした。

「雪見さん、まだ、魔族を偏見の目で見ますか?
今回、私達がこうして動けるのは、私達の仲間であり、上級魔族のハイ・デイライト・ウォーカー、アルクェイド・ブリュンスタッドが、守りの要としていてくれるからです。
そして、もう少しで、東鳩国王、藤田 浩之と、もう一人の味方する魔族も、 合流するでしょう。 」

「 そ……、 それは… 」

雪見は、 反論出来ずに口籠ってしまった。

「 私達も治療を始めます。 」

そう言って、 フェリシア、 佐祐理、 茜は、 謁見の間を後にした。
後に残されたのは、 人として負け、 自分の不甲斐なさを悔しがる浩平と、 何も言い返せず、
自分の認識の誤りを認めたいと、 必死に心の葛藤を静めようとしている、 雪見の暗い姿だけだった。






( エターナル城 廊下 )

「 レジェンディア! 」

秋子が、 数人まとめて、 治療魔法をかける。

「 キュア! 」

佐祐理が、 比較的軽傷の人数名に対し、 同様に治療魔法をかける。

「 レジェンディア! 」

秋子同様、 茜も数人まとめて、 治療魔法をかけた。

「 命賭し戦い負し者に 祝福の福音を! オールオブケルガディア!! 」

 フェリシアの目の前にいた、 約50人の重傷者が、 たちまち無傷になっていった。
民達は4人の女性達に、 感謝の意を示し、 口々にありがとうと言った。






だが、 いかに絶大な力を持つ4人でも、 限界が来た。
御音に来てから約6時間、 休みなしで治療魔法をかけ続け、 とうとう最後まで続けていた秋子も、
魔力が底をついてしまった。
6時間で治した人数は、 約20000人弱、 未だ30000人以上が苦しんでいた。

「 ハァ… ハァ… 、 も…もう出ません。 」

佐祐理がフラフラと倒れ、 気を失ってしまった。

「 私もです…。 」
「 これ以上は… 」

 茜とフェリシアも、 とうとうダウンしてしまった。
秋子は、 自分の魔力が限界に近いと思った瞬間、 魔法をやめ、 薬物療法へと方法を変更した
だが、 それも限界が来た
半日が過ぎた頃、 とうとう秋子も倒れてしまった。
4人は、 留美やみさきによって来賓室へと運ばれ、 ベッドへと寝かせられた。
大半の人々は怪我が治り、ピンピンになっていたが、未だ20000人近い人が、痛みに苦しみ、悶えていた。
そこで、七瀬は今まで有り得なかった光景を見る事になった。
治療を受け、回復した人達が、今度は率先して怪我人の看護をし始めたのだ。
いや、民間では普通に行っていた事だが、七瀬にとっては、それは初めて見る光景だったのだ。
と、 次の瞬間、 七瀬はかつてアルテミスで見たのと同じ光景を、目の当たりにする。
王都郊外の丘陵の上から、もの凄いスピードで、大多数の光の玉が、城へ、王都のあちこちへと 向かって飛んで行く。

「 …ル・セイクリッド・メアリー… 」

七瀬が、ボソリと呟く。 それは、 自身が見た2度目の奇跡。 恐らくこの世界で、 ただ一人だけしか使えないであろう、 究極の魔滅治癒魔法。
七瀬は、 丘陵に立つ人物を、 良く目を凝らして見た。
遠目でも解る、 黒い装備。 光が城の中へも入り、 光の玉が当たった者の傷は、 みるみる内に回復していった。
七瀬は、 浩平に報告する為に、 ダッシュで謁見の間へと向かった。







 謁見の間には、 すぐに辿りついた。

 ノックをする事なく、 七瀬は扉を開けた。

 急な事に浩平と雪見は何事かと七瀬の方を見たが、 七瀬だと解ると、 視線を外し悩む様な仕草に戻る。
少しは眠ったのだろう。 
少し前の暗さは、 一応霧散していた。

「 申し上げます。 」
「 ……どうした、 七瀬。 」
「はい。相沢 祐一が、御音に来ました。アルテミスで見た、奇跡の魔法を使用したのを、確認しました。御音の民は、これで残らず救われます。 」

次の瞬間、 皇都全体が、 暖かい金色の光に包まれた。
眩しさに、 浩平も留美も目を逸らす。




















光が収まり、普段通りの明るさに戻った皇都は、今起こった事で、国民同士が騒ぎ、皇帝 折原浩平 も、 廊下に出てその奇跡を目の当たりにしていた。

「…これが…、相沢祐一の力なのか? 」

七瀬は無言で頷き、窓から遠くのい丘陵を指差した。

「あそこにいます。あれが、相沢 祐一です。 」

浩平は、七瀬が指差す丘陵を見た。そこには、力なく両腕を下ろす祐一がいた。
と、祐一と浩平の視線が合い、お互いの存在を認める。

「 七瀬、 彼を…、 彼と彼のパーティーを、 丁重にお迎えしろ。 」
「 了解しました。 」

何故か、 七瀬の心は、 嬉しさを覚えていた。

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