祐一は、 浩平と相向かって立ち、 どちらともなく、 右手をお互いに差し出した。

「 初めてお目にかかる。 御音帝国皇帝、 折原 浩平 だ。 」
「 …華音王国、 相沢 祐貴の一子、 相沢 祐一… 」

 二人は、 ガッチリと握手を交わし、 初顔合わせを果たした。


















           


第二章第19話 「 国主会議T 」









登場した10人? に対し、 驚きを隠せない、 各国の代表達。
最後の二人以外は、 全員、 名前を知らない者はいない位、 有名な者達だったからだ。
弱冠17〜18才で、 一国の軍の長を勤めている者がいる国など、 殆どない。
御音、 アルテミス、 東鳩、 AIR、 そして華音位のものだろう。 中でも華音は、 この時期若く優秀な者が、 多数輩出された事で、 もっとも恐れられていた。
加えて、 水瀬 秋子 の存在が有るのだから、 他国から見れば、 これ程の脅威はないであろう。
華音の国民性が、 他国を侵略せず、 自国防衛優先と言うのが、 他国にとっては一番の救いであるのは、間違いなかった。



「 紹介しよう。 最後に入った者が、 皆様が一番、 興味を持っていた 『 災いを招く者 』 、相沢 祐一 だ。 」

浩平の紹介を聞いて、 国主達は、 二つの言葉に驚きを隠せずにいた。
『 災いを招く者 』 と、 相沢 祐一 と言う言葉に。

「 相沢…? 」

柳也が、 今までで一番驚いた表情で、 祐一を見る。

「 相沢だって? 」
「 それって…あの? 」
「 人魔大戦の… 」

国主達は、 隣席の国主と語り合う様に、 相沢と言う氏について、 ヒソヒソと呟き始めた。
その時、 スッと柳也が手を挙げた。

「 何かな? AIR王国代表、 柳也殿。 」
「 私をご存知とは…。 一つ聞きたいのだが、 彼はあの、 人魔大戦の英雄、 相沢 祐貴殿が一子、相沢 祐一 殿でござるか? 」
「 それについては、 祐一さんの叔母でもあり、 今この場では、 華音の代表でもある、 私、 水瀬秋子 が保証致します。 」
「 これは…、 お初にお目にかかる。 ですが、 身内であれば、 その保証は信ずるに値するかは、甚だ疑問。 」
「 では、 華音王国王家を代表して、 倉田 佐祐理が保証致します。 」
「 ……解り申した。 今は信じましょう。 」

柳也はスッと、 着席した。

「 柳也殿、 その保証は、 我々御音もしよう。 」
「 私、 アルテミス王国女王、 遠野 秋葉 も、 保証致しますわ。 」

中心サークルから左手、 柳也の席と丁度反対側に座る秋葉が、 スッと立ち上がり、 発言した。

「……あい解った。これ程の信頼を得ているのであれば、拙者に疑念はござらん。
陛下殿、話を進められよ。どの道、各国共、華音には借りが有るのだ。会議進行の邪魔はせぬ。 」
「 心得た。 ( やっべ。 話し方が伝染ったか? ) 」

どーしょーもない事を思い浮かべながらも、 浩平は各国代表を一望する。 各国代表とも、柳也の言う通り、 邪魔をするつもりはない様だ。

「 では進める。 まず 『 災いを招く者 』 に関する事だが…、 この場で改めて申し上げる。
御音は、 『 災いを招く者 』 に対する依頼を取り下げる事になった。
理由はいくつか有るが、調べた結果、彼こそが最大の被害者である事が判明した為だ。よって、今この時点で、彼は賞金首ではなくなった。 これは、 法皇の方でもすでに了解済みだ。 」

浩平の発言に、 各国代表は、 隣り同士でヒソヒソと話し始めた。

「 特に東鳩王国代表殿。 」
「 …はい。 」

智子が、 浩平を見る。

「貴殿の国は、相沢 祐一 に、多大な借りが有る。そしてそれは、私御音も同じ…。
いや、先日の華音の動きは、彼の英断がなければ、実現出来なかった。その点では、世界各国が、同等に華音に、引いては彼、相沢 祐一に借りが有る事になる。 」
「 ……その通りです。東鳩は、その相沢 祐一と言う男に、助けられました。そんな恩人に対して、事も有ろうに、ウチんとこの馬鹿将軍達は、 いきなり剣を構えて、殺そうとまでしました。 それなのに、そこの男は、軽く4人をあしらった後、何も言わず、誰も責めず、王妃と挨拶を交わした後、国民の治療をしてくれたんや。 」

東鳩の証言に、 再び室内にどよめきが起きた。

「皆さん、これから祐一さんが、事の真実を話してくれます。それを聞いて、どう捉えるかは、皆さんの自由です。
ですが、今から話す事は、全て真実です。それを踏まえた上で、各国御判断下さい。 」

秋子が、 話をいっきに核心へと持って行った。
祐一が一歩前へ出て、 皆を見回した。
腰の2剣を舞に預け、 丸腰になる。






「 …俺がこれから話す事、 それは、 これからの人々の未来に関わってくる。 だから、 心して聞いて欲しい。 まず始めに、 俺は、 半年程前に、 『 災いを招く者 』 として戻って来るまで、北の最果ての大陸にある、 魔族の国、 パンデモニウムにいた。 …正確には、 華音魔族大急襲の折、当時の魔族の王、 魔王アフタリスに、 父と母を殺された上で、 俺は拉致された。 それからの10年間、俺は地獄の様な日々を送った。 無理矢理魔力を抽出され、 この身を解体され…、 義理の父となる、堕天魔王 ルシフェルによって、 蘇生されなければ、 今俺はここにはいなかった。 」

一度句切り、 祐一は辺りを見回した。
様々な表情が見て取れた。 半信半疑な者、 ただ面食らっている者、 嘘だと言いたげな者、 様々だった。

「この人間界に生きる、全ての人々に言う。魔族は、全てが敵ではない。中には、俺やみんなと、共に生きる道を望んでいる者達もいる。現に、俺の義父 ルシフェルは、人間との共存を望む魔王だった。 」

再び句切り、 祐一は一同を見る。 皆、 疑念の篭った表情をしていた。 秋葉以外、 柳也位だった。
表情を変えず、 ただ黙して話を聞いているのは。

「 現に、 俺と共に、 旅を続けてくれる、 この大切な仲間達の中にも、 一人魔族がいる。 」

そう言って、 祐一はアルクェイドを見る。 アルクェイドも、 祐一を見て、 お互いに頷き合うと、アルクェイドが祐一の隣りに歩み寄った。

「彼女は、アルクェイド・ブリュンスタッド。人間で言うところの吸血鬼で、その真祖に分類される、上級魔族だ。
現在、アルテミスに籍を置き、俺の親友、遠野 志貴と、恋仲の間柄だ。 」

アルクェイドは一歩前へ出ると、 ドレスのすそをつまんで、 貴族風に一礼した。

「 質問よろしいか? 」

柳也が手を挙げる。
祐一は、 黙ったまま頷いた。

「では。吸血鬼と言えば、我々人間の間では、人の血を吸い、吸われた人間は、吸った吸血鬼の下僕に堕ちる…、そう言われているが…、その彼女は如何なのだろうか? 」

至極もっともな質問だった。
祐一とアルクェイドは、 お互いに顔を見合わせ、 祐一が頷くと、 アルクェイドが一歩前へ出た。

「私自身から説明するわ。貴方の言う通り、私達ヴァンパイアには、人の血が必要。そして、吸われた人間が、吸ったヴァンパイアの下僕に堕ちるのも事実よ。
でも、私達ヴァンパイアには、大きく分けて2種類の種族が存在するの。 
まずは、私みたいに、生れ落ちた時からヴァンパイアである真祖。そして、その真祖に血を吸われ、下僕に堕ちつつも、大きな力を持ち、独立した死徒。
死徒は常に血を必要とし、 私みたいな真祖は、 本来血を必要としないわ。 そもそも私、血、 嫌いだし。 」
「 左様か…。 それならば、 拙者や皆様方も、 安心して良いと言う事でござるな。 」
「信じて欲しいな。私達魔族にも、心は有るのよ。
人が私達を殺そうとするから、私達魔族も、自分を守る為、大切なものを守る為、戦わなくてはいけなくなる。
何もしなければ、魔族だって何かしようとはしないわ。 」

その言葉に、 柳也は感心していた。
真実、 その通りなのだろうと、 柳也は思った。 人と魔族、 種族は違えど、 共に心有る存在なのだ。
大切な誰かが殺されれば、 人だろうと魔族だろうと、 悲しみ、 怒り、 憎悪する。 人でさえそうなのに、魔族がそうでないと、 果たして言い切れるものだろうか…。
だが、 ここにいる誰もが、 それを聞き入れる人間ばかりではないのも事実。 現に、 室内のあちこちから、
魔族に対する嘲りや蔑みの言葉が聞こえてくる。

「 話を進める。 俺や皆が、 この人間界に生きる様に、 魔族にも生きるべき世界、 魔界が存在する。その魔界は、 3人の大魔王によって、 領土を分かち合って治めている。 
一人は、 全ての魔族の祖であり、 全ての魔を司る、 初源祖大魔王 サタン。
一人は、 サタンの孫にあたる、 約3年前に生まれたばかりの、 大魔王 ラフェルベリート。
そして、 今回、 世界中の国々を襲った、 恐ろしく軍統制の取れた、 軍と言う形を持った配下を持つ、サタンの一人娘、 大魔王 神魔。
そして、 今北のパンデモニウムにいるのは、 全てのヴァンパイアの祖、 神祖 ローズレッド・ ストラウス。
同じく神祖で、 ローズレッドの妃、 アーデルハイト・ ストラウス。 他にあと二人、 魔王がいる。 」
「 祐一、 それホントなの? 」

アルクェイドが、 祐一に詰め寄った。

「 …ああ。 アルクェイドの、 祖父と祖母にあたる、 あの二人が、 今は北にいる。 」
「 …そう… 」
「 戦い辛いか? 」
「 ……ううん、 ただ驚いただけ。 人間に味方するって決めた時から、 いつかは敵対するだろうなぁとは、思ってたからさ。 大丈夫、 戦えるよ。 」
「 …済まないな。 」
「 祐一が謝る事ないわよ。 」

そう言って、 ケタケタとアルクェイドは、 笑った。

「 ウチからも質問やけど、 ええか? 」

東鳩の代表、 保科 智子 が手を挙げる。

「 どうぞ。 」

浩平が促す。

「 ほな。 さっきから、 アンタは荒唐無稽な事ばかり話してんけど、 それを裏付ける証拠、 又は根拠でも有るんかいな? 」

智子の質問に、 多数の国の代表が、 そうだそうだと賛同の野次を飛ばす。
祐一は、 ずっと肩に乗せていたあゆを下ろすと、 皆の前に立たせた。

「 あゆ、 真実の姿になれ。 」
「 うん。 」

あゆは目を閉じると、 一度深呼吸をし、 抑えていた力を徐々に開放して行った。
その力は、秋子でさえも冷や汗をかく程のもので、柳也でさえも、もし本気で戦うとなれば、 命を賭すものになるだろうと思わせる程だった。
現に、 味方で仲間である志貴や茜、佐祐理や香里でさえも、目の前のあゆの溢れ出る力を目の当たりにして、度肝を抜かれてしまっていた。
死、それを強烈に感じさせてしまっていたのだ。
漆黒の翼が2対4枚、背中に顕現し、さっきまでの幼女っぽい外見はすでになく、美貌の大人の女性へと変わっていた。

「こいつはあゆ。魔王 ルシフェルの一人娘で、肉体はすでに滅んで死んでいる。今のあゆは、俺からの魔力提供を受け、具現化している、使い魔的存在でしかない。 」
「…で、 それがどないな証拠になるん言うの? 」
「……ボクは、 祐一くんが魔族の国に連れられて来てから、ずっと祐一くんと共にいた。ボクは、こう見えても、殺されるまで、2000年生きてるんだよ。
だから、大魔王達が人間界侵略の為に、どれだけ様々な用意をしてるかを知ってる。今回の事もそう。数有る戦略の内の、一つを使ったに過ぎないんだよ。 」

あゆは、 秋子を見る。
秋子も、 あゆの方を見て、 コクンと頷いた。

「私から、詳しく説明致しましょう。 」













 あとがき

 阿修蛇櫨斗です。 皆様、 如何お過ごしでしょうか。

 未だ、 人物設定すらない悲運ですが、 読んで下さった方々、 私の作品を読んで下さり、 

 ありがとう御座います。

 二章も、 次話にて終了します。 第三章は、 華音編と、 魔族編になると思います。

 すでにラストの構図は有るんですけど、 恐らく皆様の予想は、裏切る事になると思います。

 それでは。


[PR]動画