「 ……ボクは、 祐一くんが魔族の国に連れられて来てから、 ずっと祐一くんと共にいた。ボクは、 こう見えても、 殺されるまで、 2000年生きてるんだよ。 
だから、 大魔王達が人間界侵略の為に、 どれだけ様々な用意をしてるかを知ってる。 今回の事もそう。 数有る戦略の内の、 一つを使ったに過ぎないんだよ。 」

あゆは、 秋子を見る。
秋子も、 あゆの方を見て、 コクンと頷いた。

「 私から、 詳しく説明致しましょう。 」























           


第二章
最終話 「 国主会議U 」









「先日の世界規模での、魔族の急襲の中、ただ一国、アルテミスだけは、一切攻撃を受けませんでした。
この事実に対し、各国の皆様は、アルテミスに対し、疑念を持った事でしょう。ですが、それこそが、あゆさんの言う、戦略の一つなんです。 」

一度句切り、 一同を見回す。

「一つの国を、ワザと攻撃せず、攻撃された国に疑念を抱かせる。
次第によっては、国同士の戦争になり、どちらかが壊滅するか、そうならないまでも、国としての力を削ぐ事が出来る。
そうなれば、付け入る事はいくらでも出来る。……それが、今回の魔族の王の狙いだと、 私達は見ています。 」
「 ……そんな…、 馬鹿な…。 魔族が、 そんな高度な知略を? 」

呟いたのは、 ある国の代表。

「 魔族だからこそです。 皆さんが、 普段街中や野外で戦っているのは、 人の言葉を解さない魔物です。
ほぼ本能に従い動きますので、 経験さえ積めば、 ほぼ大抵の人は勝てます。 
しかし、 人の言葉を解し、尚且つ人の言葉を話す魔族は、 人と同等、 もしくは人以上の知能を持つ者もいます。 
そして、 その中でヴァンパイアは、 魔族一の知能の高さ、 知識の深さ、 広大さを持つと言われています。
今回の様な、高度な戦略を用いて来たとしても、 何の不思議も有りません。 」

秋子の説明に、 各国の代表は、 ガヤガヤとざわつき始める。

「 皆さん、 魔族との大戦の火蓋は、 魔族の世界各国に対する大急襲で、切って落とされてしまったのです。
今一度、 先の大戦の時の様に、 国と国、 種族を超えて、 手を取り合い、 共に戦いませんか? 」

秋子の提案に、 場内がシーンと静まり返る。
今日の最大の目的は、 それに尽きるだろう、 柳也はそう思った。

「 無論、 今すぐ返答を頂きたいとは言わない。 だが、 敵が本格的に動いて来るまで、 左程時間がない

 のも事実。 一週間後、 必ず各国の返事を頂きたい。 直接でもいい。 教会を通してでもいい。 よろしく頼む。 」

浩平が最後に頭を下げて、 会議は終了した。
その後、 盛大な宴が催され、 祐一達も出席した。 
大抵の者は、 祐一の事を気味悪がり、 横目にチラチラと盗み見るだけだったが、浩平と純一、柳也だけは、祐一の傍に集まっていた。
今はあゆも、七瀬達と行動を共にしていた。






「 皆、 お疲れさん。 」

浩平が、 他の4人に対し、 労いの言葉を言う。

「 うむ。 」
「 …ったりかった。 」
「 …… 」
「 陛下こそ、 大役… 」
「 ストップ! 」

浩平が、 最後の志貴に対して、 ストップをかける。

「 ? 」

ハテナ顔の志貴。

「 そんなカチカチな言葉は、 公の時だけにしてくれ。 今は、 一人の男として、 ココにいるんだ。呼び捨てでいい。 」

その台詞に、 ホゥッとする柳也。

「 ……解った。 大役お勤め、 ご苦労さん、 浩平。 」
「 おっ? 案外柔らかいじゃねーか、 志貴。 」
「 …… 」
「 柔らかくなかったら、 祐一とは付き合って行けないんでね。 」
「 …それもそうだな。 無口だし、 無表情だし。 オマケに俺の城、 ボロボロにするし、 そうかと思えば、 
俺が絶対にマスターになるんだと、 目標にしていたエクスカリバーの、現マスターだし。クソッ! フェリシアよこせ!! 」

そう言って、 浩平は祐一の首を、 脇で絞めた。
突然の事に、 目を白黒させる祐一。 だが、 不思議となじんでいる自分に、 祐一は驚いていた。

「 ほほう…、 浩平殿は、 法皇殿に惚れておられる様だな。 」
「 …妃がいるのに、 更にもう一人増やす気か? 浩平。 」
「 お前に言われたくねーぞ、 純一。 何気に美人を二人も妻にしやがって。 」
「 ……結構大変だぞ? 色々とな… 」
「 だろうな。 」

浩平も、 想像がついたのか、 ウンウンと頷いた。
祐一は、 浩平の首絞めから逃れると、 柳也の方を向いた。

「 ……天翼人 ・ 神奈 は元気か? 」
「 …やはり、 旧知の仲か。 」

柳也の言葉に、 祐一は黙って頷いた。

「まだお主が華音にいた幼き頃、良く遊んだそうだな。帰国して早々、拙者や妻・裏葉に、嬉々として話していた。
お主の両親が殺され、お主が攫われたと言う情報を聞いて 一ヶ月もの間、泣き続けていた。
お主が帰って来たかも知れぬと聞いて、今は嬉しさ半分、違う人かも知れないと言う恐怖が半分と言う所だろう。
本人と言う確証を得た今、帰って報告すれば、大喜びだろうな。 」
「 …そうか。 俺はこの後、 華音に帰国する。 戦いの準備の為、 父や母の墓参りも有るが、
俺の生存を、 頑なに信じて、 待っていてくれた、 華音の人々に礼を言いたいしな。 」
「 それが良かろう。 その間に、 神奈や部下を連れて、 華音に行こうと思う。 その時、
拙者と手合わせして貰いたいが、 よろしいか? 」
「 …ああ、 構わない。 」
「 では、 楽しみにしている。 」
「 俺もだ。 」

二人は、 握手を交わした。

「 ところで祐一。 」
「 何だ、 浩平。 」
「 これは俺からの提案なんだが、 S/Sクラス以上の者を、 何処か一国に集めて、 集中的に鍛えたらどうだ? 
少しでも戦力は増強した方がいいし、 各国の強者にとっては、 いい刺激になるだろうしな。
もっとも、 自分の国の守りが薄くなったら意味ねえからな。 100人いたら、 30人づつとかよ。 」

浩平の提案に、 志貴や柳也がほうっ? と言う表情をした。

「 ……悪くはないな。 」

祐一が頷く。

「 それだけじゃない。 今日出席した国の中には、 祐一の強さを知らない国が多い。 強者と直に手合わせすれば、 すぐに理解させる事が出来る。 」

志貴は、 大いに賛成の様だ。

「 うむ。 だが、 世界のS/S以上を一カ国に集めるのは、 少し無理が有る。 一大陸で2国ないし、3国に分けて集合すると言うのは、 どうであろうか? 」
「 それだ! よ〜し、 早速明日から、 取り掛かるとするか。 」

浩平は余程名案が得られたのが嬉しいのであろう、 ガハハと大笑いしながら、 バシバシと祐一の肩を叩いた。






そして、 パーティーも宴たけなわとなり、 自分に割り当てられた寝室へ、 それぞれ戻った。



 ( 祐一自室 )

祐一は、自室へ戻るなり、 着ていた礼服を脱ぎ、 いつものズボンを履き、 ベッドに横になった。
しばらくボ〜っとしていたが、 ふと目を開け、 横目で窓の方を見る。

「 …いるのは解っている。 出て来い、 ラディアバーレ。 」
「 …よもやお気付きとは…。 恐れ入ります。 」

窓がスッと開き、 人間型だが、頭部は鳥の魔族が、 部屋内に入って来た。

「 ……何だ、 用は。 」
「 はっ、 ローズレッド様を介して、 あの御方よりの、文を持参致しました。 」
「 …置いて行け。 」
「 御意。 」

 ラディアバーレは、 祐一に言われた通り、 文をベッド横の机の上に置いた。

「 では、 今宵は失礼します。 」
「 …ラディ。 」
「 はっ、 祐一様。 」
「 …あまり、こう言う事はするな。アイツからの手紙だとしてもだ。ここには今、お前に近い力量の人間が、 数多くいる。 
相手次第では、お前でも危ない。今後は控える様、ローズレッドや、アイツにも言っておけ。俺と、 前の理想の為に、今は軽はずみな行動をしていい時ではないとな。 」
「 …畏まりました。 …祐一様も、 無理のなき様に。 」
「 ……ああ。 」

ラディアバーレは、 そう言うとスッと窓から出て行った。 どうやったかは知らないが、 律儀に窓を閉めて。
そして、 一夜は過ぎた。






翌日昼、 祐一は華音メンバー達との集合場所へと向かっていた。 城の外、 街の外れ、 正門より少し出た所が、 集合場所だった。
何故そんな場所を集合場所にしたのか、 それは昨日、 祐一が秋子に頼んだ件が、 関係している。
数分後、 祐一は集合場所に到着した。

「 …悪い、 待たせた。 」
「 あらあら、 大丈夫ですよ、 祐一さん。 時間前です。 」

そう言いつつも、 実は祐一が最後だった。

「 …そっちの二人が? 」
「 ええ、 そうです。 」

祐一と秋子が、 同時に初顔の二人の方を見る。
視線に気付いたのか、 初顔の二人が、 祐一と秋子の方へと歩み寄る。

「祐一さん、このお二人が、東鳩王国国王・藤田 浩之さんと、アシュタロトさんです。 」
「藤田 浩之 だ。 国王なんて言われているが、今は違う。
俺は、事の真実を知り、そしてこの世界に生きる者として、何が一番いいのか、それを見極めたくて、こちらのアシュタロト殿と共に、アンタに会いに来た。 」

そう言って、 利き手の右手を差し出す。 祐一も、 右手を差し出し、 握手を交わす。

「 ……久しいな、 祐一。 」
「 ……ああ、 そうだな、 アシュタロト。 予想はしていたが、 一族はどうした? 」
「 我が息子に、 跡目を継がせた。 皆、 私の意思を尊重してくれている。 今力を使わねば、真に望む世界は、 得られぬ。 」
「 ……俺は義父じゃない。 それでも、 俺の下にくるのか? 」
「 ルシフェル様が認めたお前だからこそ、 私はお前に従う。 それに、 親しい者が命懸けで事を成そうとしている時に、 何もせぬのは、 それはもう友とは呼べぬ。 」
「 ……ありがとう。 」

祐一とアシュタロトは、 ガッチリと握手を交わした。



その後、 アシュタロトとアルクェイドが、 旧知の仲と言う事も解り、 いっきに浩之とアシュタロトは、パーティーに溶け込んでいった。
又、 アシュタロトがあゆと再会し、 男泣きしたのは御愛嬌。
数分間話し込んだ後、 アシュタロトが呟いた。

「 …祐一…。 」
「 …何だ。 」
「 ここにいる人達は、 本当に良い人達だな。 アルクェイドや私に、 普通の人と同じ様に、 接してくれる。 さも当然だと言う様に。 」
「 …… 」
「 だがそれは、 簡単な様で、 実は難しい事。 」
「 …… 」
「 お前がいなければ、 こんなに良い人達は、 きっと集まらなかった。 」
「 ……そんな事はないさ。 」

否定する祐一。 だが、 アシュタロトは更に言う。

「 このパーティーは、 お前を中心に集まっている。 お前の考え方や、 目指す未来に賛同してな。 」
「 …… 」
「 いずれ、 全ての真実を、 打ち明ける事だ。 この人達なら、 受け止めてくれる筈だ。 」
「 ……解った。 」

祐一は頷いた。
アシュタロトも、 同様に頷く。






「 じゃあ、 華音へ帰りましょう! 」

秋子が、 皆に対して叫ぶ。

「 俺も行っていいのか? 」

浩之が質問する。

「 あはは〜、 浩之さんは、 もう私達の仲間ですから、 構いませんよ〜♪ 」

佐祐理が、 一秒半で答える。

「 じゃあ祐一、 俺は一度、 秋葉と一緒にアルテミスに戻る。 2〜3日したら、 華音に行く。 」
「 ああ、 華音で待ってる。 」

二人はガッシリと抱き締め合った。



「 それでは… 」
「 秋子さん、 帰りは召喚獣で帰りませんか? 」
「 ……はい? 」

突然の祐一の申し出に、 秋子にしては珍しく、 素っ頓狂な声を出す。

「 召喚獣… ですか? 」
「 …俺が、 パンデモニウムにいた頃、 一時期ルシフェル義父さんに連れられて、 魔界に行っていた

時期が有って、 その時に契約した召喚獣が、 10体程いるんですが… 」

「 ……私達全員が乗れる程、 大きいのですか? 」
「 ええ。 」
「 …… 」

秋子は、 今更ながら、 祐一の底の見えない力の深さに、 驚かされていた。

「 では、 お願いします。 」
「 解りました。 」

そう言うと、祐一は両手を空へと掲げ、空中に立体魔方陣を展開させる。
いとも簡単に、魔術師の中でも絶対の三大魔女と、片手で数えられる人数にしか出来ない立体魔法陣を展開させる祐一に、 秋子は素で驚いていた。



『 我は命ずる 血の盟約を交わしし 我が命の友よ 我 汝の主として命ずる 相沢 祐一 の名において 今ここに姿現さん! 出でよ バハムート! 』



召喚詠唱が終わった途端、 辺りの空が暗雲に覆われる。
立体魔方陣は、 グングンと空へ上がり、 大きくなって行く。
そして、 その魔方陣の中心から、 体長30m程の、 大きい黒い翼竜が現れた。
翼竜は翼を拡げ、 2〜3度翼をはためかせた後、 静かに祐一の前に、 着地した。

「「 久しいな、 我が友、 祐一よ。 よもや、 人間界に召喚されるとは、 思わなかったぞ。 」」
「 済まない。 それで用件なんだが… 」
「「 解っている。 だが、 今回だけだぞ? 魔竜族の長が、 乗り物の役目をするのは、 お前じゃなければ、 殺していたぞ。 」」
「 解った。 じゃあ、 頼む。 」
「「 ああ 」」

そう言うと、 バハムートは、 人が乗りやすい様に、 大地に寝そべる様に、 体を低くした。

「 さあ、 乗ってくれ。 」

祐一の言葉に、 誰一人応える事なく( アシュタロトとアルクェイド除く )、 ただポカーンと、
バハムートを見ている面々。 正気に戻るのに、 一番速かった秋子でさえ、 5分程を要した。

「 いつもながら、 驚かされますね。 」

秋子はそう言いながらも、 初めて見るバハムートに、 ある意味興味深々だった。






数分後、 バハムートの背中に、 全員が乗り( 志貴除く )、 バハムートは空へと飛翔した。

「 では、 華音へ! 」

秋子が叫ぶ。
華音メンバーは、 全員頷いた。
























 今、 祐一は10年振りに、 生まれ故郷へと向かって、 帰国の途についた。























 第二章 完

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