第三章
華音編第一話 「 待ち望まれた帰国 」









 この日、 華音王国 王都 華音に、 実に全華音国民の、 70%以上が集まって来ていた。
祐一に関する情報は、逐一秋子や同盟国のアルテミスから入っていた為、
又その情報を華音国王は殆ど包み隠さずに国民達に広告していた為、おおよその見当をつけて、この日の一週間程前から、王都に人が集まりだしたのだった。
すでに大通りは人で溢れていた。 相沢の血筋の人気が垣間見れる瞬間でもあった。
国王 倉田 典善も、 王妃 沙織も、 10年振りの再会に、 今か今かと心待ちにしていた。
そして、 その傍にいる一弥も、 護衛の北川も、 内心ドキドキしながら、 その時を待った。
と、 しばらくして、 ディパーティーションのゲートが謁見の間に開き、 中から秋子が出てきた。

「おおっ、 秋子。 」
「只今戻りました。国王様。祐一さん達は、後10分程で、竜に騎乗のまま、華音へと御帰国なさいます。私はそれをお伝えに、先に戻って参りました。 」
「そうか! では、 コロシアムに降りる様に指示を。 私達も移動する。 」
「了解しました。 」

秋子は再び、 ディパーティーションで祐一達の下へと戻った。






きっかり10分後、 王都 華音の上を、 一匹の巨大な竜が飛び横切った。
竜は一度華音を突っ切ると、 旋回して再び街の方へと向かって来た。
そして、 コロシアムの手前でホバリングに入ると、 ゆっくりとコロシアムの中へと降りた。
近くにいた人々は、 我先にとコロシアムの中へ入って行く。






竜の背中から、 一人、 また一人と降りてくる。 大部分が、 華音国民なら誰もが知ってる面々だった。
アシュタロトの姿を見て、 コロシアムの中に入った人々は驚いたが、 事前に情報が入っていた為に、 不穏に動く事はなかった。
そして、 最後に銀髪の髪の少年が、 地上へと降り、 竜と一言二言交わした後、 竜を消した。
秋子が祐一を、 国王の前へと促す。

「……祐一…くんか? 」
「……10年間、ずっと、私の生存を信じていて下さり、本当にありがとう御座います、国王様。
相沢祐貴、相沢夏美が一子、相沢祐一、只今華音に、帰国致しました。 」

感極まったのか、国王倉田典善は、祐一の肩を掴んで、その後祐一を抱き締めた。

「 …良く…、 良くぞ生きて戻ってくれた…。 私が不甲斐ないばかりに…。 」
「 …誰も悪くは有りません。 父や母の、 そして俺自身の運が、 悪かっただけです。 」
「 だが!! ……だが…、 あの時、 もっとしっかりと、 祐一くん、 君を見ていれば… 」
「 …自業自得です。 国王様や、 王妃様に非は有りません。 自分を責めないで下さい。 」
「 祐一くん。 」
「 …祐一さん。 」

王と王妃が、これでもかと言うほど、祐一を抱き締め、 涙を流した。
祐一が味わった、地獄の10年間を、秋子伝手に聞いて知っていたので、何も出来なかった自分達の不甲斐なさへの、悔しさも入った涙だった。
しばらく抱き締め合った後、 ふと祐一が沈黙を破った。

「 王国に生きる人々も、 ずっと俺の生存を、 信じていてくれたんですね。 」
「 ……この国にとって、 相沢一族は、 守り神様の様に、 認識されてるからな。 それでも、

人々は純粋に、 彼等の息子である祐一くん、 君の生存を、 誰一人疑う事なく、 信じていたよ。 」

「 …… 」

祐一は空を見上げた。 溢れ出そうな涙を、 祐一はグッとこらえる。
そして、 再び国王と王妃を見た。

「 行きましょう、 みんなの前に。 」

祐一の言葉に、 国王と王妃が頷いた。






コロシアムの外に出ると、 そこには大多数の人々が集まって来ていた。
国王と王妃のすぐ後に、 宮廷騎士団長の舞、 近衛騎士団長の北川 潤、 第一騎士団長の水瀬 名雪、
第二騎士団長の美坂 香里、 魔術師団長兼華音王国宰相 水瀬 秋子の5人が、 並んで現れた。
途端に民から、 歓声が上がる。 国軍の人気の高さが、 これで垣間見れた。
5人の後に、 アルクェイドとアシュタロトが、 国民達の前に、 姿を現した。
一瞬、 沈黙が人々を支配したが、 すぐに歓声の声が上がった。

「 俺達華音に生きる人間は、 アンタ達を歓迎するぜ! 」
「 ねぇねぇ、 あの女の人、 すっごく美人じゃない? 」
「 あのピンクの人、 見た目からして、 凄く強そうね〜♪ 」






「 …ねえ、 アシュタロト…。 」
「 何だ? アルクェイド…。 」
「 …やっぱ、 祐一の生まれた国だね。 」
「 ……そうだな。 こんなに国と民が、 一心同体な国は、 私も初めて見る。 これが、 この国の強さなのだろう。 
民は国を頑なに信じ、 国も民を頑なに信じ、 お互いに全力で協力し合う。
そして、 国と民は、 相沢一族を信じ、 相沢一族も、 全身全霊でそれに応える。 これ程強い国はない。 」

まさに、 奇跡とも言える国が、 アシュタロトの眼前に存在した。






そして、 その後に 藤田 浩之 が、 姿を現した。
更にフェリシアが現れ、 国民達から歓声が上がる。
そして、 倉田 佐祐理 が姿を現し、 更に歓声が上がる…が、 それはすぐに沈黙に変わる。
佐祐理にエスコートされて、 最後に祐一が姿を現した。
人々は沈黙を続ける。 だが、 少しして人々の間から、 すすり泣く声がし始めた。

「 祐貴様の面影が有る… 」
「 夏美様の面影も有るわよ… 」
「 ホントに…、 生きていてくれたんだ…。 」
「 生きて……、 私達の国に、 帰って来てくれたんだ…。 」
「 祐一様…。 」
「「 祐一様〜!! 」」

人々は、 誰もが涙を流しながら、 祐一の名を叫んだ。
祐一は、 佐祐理を伴って最前列に出ると、 一度民達に礼をした。

そして……



















 笑った。


























横にいた佐祐理も初めて見る笑顔、 はにかむ様に、 微笑を浮かべただけだったが、 今初めて、祐一は笑った。
傍で見ていた秋子達も、 思わず涙汲んだ。

『 やっと…、 笑ってくれましたね、 祐一さん。 』

秋子は、 少しづつ表情が戻って行く祐一を、 嬉しそうに見つめた。

笑顔。

それだけで、 国民達は泣くのをやめて、 再び歓声を上げた。

「 ……10年間、 俺の生存を、 頑なにに信じていてくれて、 本当にありがとう。 相沢 祐一、

華音へ、亡き父と母の下に、生きて帰る事が出来ました。…世界情勢は、再び最悪の方向へと向かっています。
だからこそ、皆の、華音の力を、俺……いや、世界中の人々の為に、貸して欲しい。 」

「 …祐一様…。 」

目の前で、 再び頭を下げた祐一。

「 祐一様〜!! 私達の力、 いつでも貸しますよ〜!! 」
「 そうだぜ!! 祐一様!! 俺は剣を作るしか、 能はねえけどよ! こんなんでも必要なら、いつでも貸すぜ!! 」
「 私は治療士です。 人を治すしか、 力は有りませんが、 こんな私でも役に立つのであれば、いつでもお貸ししますよ。 」

ところどころで、 祐一の呼びかけに対する支援の声が上がる。

「 …ありがとう。 それと、 皆に一つ頼みが有る。 」
「「 …… 」」
「 …祐一様は、 やめてくれないか? 呼び捨てか、 最低でもさん付けの方が、 俺は嬉しい。 」

その声に、 再び歓声が上がる。
だが、 今度は誰も祐一を様付けで呼ぶ事はなかった。






その後、 祐一達はパレードみたく王都内を廻り、 夕暮れに王城 白鍵へと入った。
国王に連れられて、 謁見の間へと通される。 そこには、 大臣や重鎮達が、 勢揃いしていた。
国王が玉座に座り、 すぐ隣りに王妃、 その斜め前に佐祐理と一弥が並んで座り、 王側の席に秋子が座る。
その秋子の隣りは、 空席になっていた。
祐一は玉座階段下で、 礼をしたが、 それを国王が止めた。

「 祐一くん、 君の席は、 秋子くんの隣りだ。 」
「 …俺は、 華音の軍人では有りませんが… 」
「 いいのだ。 代々、 相沢の者は、 その席に座る事を許されている。 正式に言うと、 祐一くんの両親、

祐貴と夏美の二人も、 華音の軍人ではなかったよ。 」

「 …… 」
「 それでも、 代々の相沢の者は、 その席に座る事を許されている。 それは、 華音王国が建国されて以来、変わってはいない。 」
「 …解りました。 」

そう言うと、 祐一は段上へ上がり、 秋子と国王の間の席に座った。
と、 臣下一同が膝を付き、 臣下の礼を取った。 続いて、 王女や王子に臣下の礼を取り、 最後に秋子と
祐一の方を向き、 一礼した。

「 着座。 」

王の一言で、 騎士以外の大臣や重鎮達が着席する。

「 皆の働きで、今日めでたく、今は亡き相沢祐貴、夏美二人の一子、祐一くんを、 華音へと生きて帰還させる事が出来た。 
一同、 改めて礼を言う。本当に、ありがとう。 」

国王自らが、 臣下達に対して、 謝意を述べた。

「 ありがたきお言葉。 臣下一同、 長年の願いが叶い、 皆喜んでおります。 」

代表して返答したのは、 以前秋子に対して疑問を呈した大臣だった。
だが、 生存が確認されてからは、 秋子達に賛同し、 国内での情報流通を、 一手に引き受けていた。

「 そうか。 それは何よりだ。 祐一くんが帰って来てくれて、 私も嬉しい。 」

王は、 満面の笑みを浮かべた。

「 では、 殿下。 」
「 うむ。 皆の者、本日只今を持って、華音王国全軍の指揮権を、相沢一族の者、相沢祐一 に託す。
各団長以下一兵士に至るまで、 相沢 祐一 の指揮下に入る様に!! 」
「「「「 ハッ!! 」」」」

国王一族以外、 秋子と臣下一同が、 命令を受諾し、 頭を垂れた。

「 …陛下、 これは… 」

祐一が、 あまりにも突然の事に、 国王に疑問を投げかけようとしたが、 先に手で制されてしまった。

「 祐一くん、君はこれから、大魔王率いる魔族の軍と、戦わねばならない。
そんな時、祐一くんの仲間達だけでは、どうしても倒しきれなくなってくる筈だ。
だからこそ、我々華音軍が、祐一くんと仲間達をバックアップする。雑魚は軍の騎士に任せて、祐一くんや仲間達は、 魔王や大魔王と戦う様に。 」
「 …そこまで。 」
「 …悔しいが、我々では、魔王や大魔王と戦うには、あまりにも力の差が有り過ぎる。
祐一くんや、祐一くんの気のおけない、彼女達程の強さや戦闘力は持っていない。
敵のボスは、祐一くん達に頼むしかない。それが現実なのだよ。
なら、私達の取る行動は一つ。祐一くん達をサポートし、出来るだけ力を温存させて、決着の場へと送り出す。それが華音が国を挙げて出来る、只一つの事だから。 」

「 …… 」

祐一は、只無言で、国王 倉田典善に頭を下げた。

そして、

「 謹んで、 受諾致します。 相沢 祐一、 相沢の、 華音の名にかけて、 責務をまっとうする事を、ここに誓います。 」

祐一は、 エクスカリバーとレヴァンティンを抜き、 剣をクロスさせて、 皆の前で誓った。
臣下一同、 祐一に対して臣下の礼を取った。






翌日から、 祐一は大臣クラスの重鎮や、 秋子と各団長を集め、 会議に入った。 会議の内容は多岐に渡り、
同盟の話から、 兵士の訓練方法、 精鋭部隊の募集、 集中鍛錬方法にまで話し合われた。






「 秋子さん、 御音、 東鳩、 AIRと同盟を結ぶ事に、 何か有りますか? 」
「 いいえ、 問題は有りません。 同盟を結び、 結果人同士の戦いがなくなれば、 これ程良い事は有りませんし、 今は世界情勢があれですから… 」
「 大臣や各団長からは? 」
「 反対する理由が有りませんな。 」
「 私達各団長も、 特にないわよ。 」
「 そうか。 …では、 香里。 同盟の件は、 君に一任する。 」
「 わ… 私に!? 」
「 …何か? 」
「 …私で務まりますか? 」
「 香里、君は頭がいい。学問や知識だけではなく、誰よりも柔軟に物事を捉え、考える事が出来る。
だからこそ、秋子さんと相談した結果、君にこの件を任せる事を、会議前に決めていた。 君はそろそろ、国政の表舞台に立つべきだ。 」
「 …… 」
「 それから、 香里は今後、 秋子さん直属の部下になって貰う。 秋子さんの下で、 戦闘に、 政治を学べ。 君は今日から、 次期宰相候補だ。 」
「 …… 」
「 どうした? 」
「 ……ふぅ、ちょっとね、ビビッていたわ。でも、貴方は出来ない事を人にしろとは言わない人だと言う事を、思い出したのよ。
貴方がそう言うからには、私にはそっち方面の才能が有ると見ているんでしょ? 」
「 …… 」
「 沈黙は認めているのと一緒よ。 解ったわ。 その命令、 受け賜ります。 」
「 …頑張れ。 」

二人は視線で、 信頼を更に深め合った。

「 大臣の皆さんには、香里と秋子さんのサポートをお願いします。ですが、サポートだからと言って、力を落とさないで下さい。
表舞台に立つ人間は、裏で支える人達がいてこそ、輝けるんです。 ある意味、サポート役は一番重要です。
そして、そんな重要な役だからこそ、大臣の方々にお任せしたい。
華音という、何処の国と比較しても劣らない、素晴らしい国を支えて来た貴方達だ。きっと、最高のサポートが出来る筈です。 」

祐一の言葉に、 大臣達が一人違わず、 臣下の礼を取った。

「 宮廷騎士団長 北川 潤
      近衛騎士団長 川澄 舞。
  第一騎士団長 水瀬 名雪。
  魔術士団長  水瀬 秋子。 」
「「「「 はっ!! 」」」」
「 4人は、自分の所から、ランク S/S以上の、特別修練に参加意思の有る者を、集めて欲しい。更には、ハンターや国民からも、募集をして欲しい。
貴方達4人は俺とアルクェイド、アシュタロトが。集まった人達は、貴方達が更に鍛え上げる。
特に秋子さん、そして舞。二人には、 更に俺から色々伝授する事が有ります。 その覚悟で。 」
「「 了解しました。 」」
「 はちみつくまさん。 」
「 …祐一さん、 私に何を? 」
「 …精霊との契約と、 俺の契約している召喚獣から、 2体程を、 秋子さんへと引き継がせます。 」
「 …私に…。 ですが、 大丈夫でしょうか? 」
「 俺は、 無理は言いませんよ。 頑張れば、 必ずものに出来る事しか、 絶対に任せません。 それに…。 」
「 それに? 」
「 どうやら、 精霊の一体が、 貴女を俺より気に入ってるみたいなんで。 だったら、 俺にいるより、秋子さんと共にいさせる方がいい。 」
「 ……解りました。 お引き受けします。 」
「 では、 皆さん。 各々の任務、 よろしくお願いします! 」
「 了解!! 」 × ?

会議はこの後、 毎日行われ、次々と物事が決められて行った。
帰国後、3日目に志貴が、5日目にAIRから神奈を伴い、柳也他6人が、御音からは茜が、華音へと来国した。












 あとがき

阿修蛇櫨斗です。 第三章、始まりました。
祐一は、 事実上華音の軍のトップに立ちました。
華音の歴史上、 そして華音の国としてのシステム上、 戦いの度に、 相沢の家の者が、軍のトップにたつ事になっています。
常は軍人ではないが、 危機の時には軍を指揮する。 相沢の家は建国以来、 そう言う家柄なんです。
未だ、 真琴と美汐が出てきませんが、 後2〜3話のうちに、 出そうと思います。
それでは、 悲運を読んで下さり、 ありがとうございます。

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