第三章
華音編第4話「 リリアンの攻防 」









 ( 華音王国王都 華音より南へ10km リグレット平原 )



 キンッ!! ドォウッ!! ズガーンッ!! キン! キキン! ガキィッ!!



この場所へ来て、 どれ位経っているのか、 ベルゼブブにはえらく長時間に感じられた。
実際には、 突如の戦闘に入り、 まだ10分程しか経っていない。
当初、 ものの数分で終わるだろうと、 タカをくくり、 楽観視していたベルゼブブだが、実際には自分達3人に対して、 たった一人で、 互角の勝負をさせられていた。

『 ……これは、 少々侮り過ぎていましたね……。 よもや、 これ程の実力とは……。 』

今、 目の前にいる相沢 祐一 は、 大精霊シヴァを召喚し、 その召喚獣にレミリアを任せ、リンドブルムとベルゼブブを一人で相手していた。
リンドブルムの武器、 ボルティックアックスと、 魔剣レヴァンティンが、 幾度となく激しくぶつかり合い、 火花を散らす。
ベルゼブブは隙を見つけては上級魔法で援護するが、シヴァが自主的に魔法障壁を展開し、ことごとく防いでしまう。
正に鉄壁の攻防一体であった。

「 フフフ♪ いやいや、 まさかここまで強いとは、思いませんでした。どうやら私は、いささか貴方の事を、甘く見ていた様です。 」
「 ハァッ … ハァ … クッ! 認めたくねえが、 相沢 祐一、 アンタ強ぇわ。 」
「 ……強い人間、 初めて会った……。 」
「 …… 」
「 どうでしょう。 どうやら王都に放った魔物は、全て倒されてしまったみたいですし、今日はお互いに引き上げに致しませんか?この後貴方は忙しくなるでしょうし♪ 」

ベルゼブブの提案に、 祐一は剣を鞘に収める事で答えた。

「 どうも♪ では、 リンドさん、 レミリアさん、 約束通り、 今日は引き上げましょう♪ 」
「 そうだな。 」
「 …… うん …… 」

3人は宙へ浮くと、 もう一度 相沢 祐一 を見た。

「 又、 戦いましょう♪ 貴方とは、 不思議な縁が有りそうだ。 」
「 …… 俺は願い下げだ。 」

祐一は呆れた表情で、 首を横に振った。
 
「 どうやらあんたの仲間も来たみたいなんでな。 又今度サシで殺り合おうぜ! 」
「 …… 再び戦う …… 」

そう言って、 3人は空間を転移して、 平原から去った。



入れ替わりに、 柳也と秋葉、 茜が祐一の下に到着する。

「 祐一! 」

茜が叫ぶ。

「 ……大丈夫だ。 アイツ等は引き上げた。 ……街の方はどうだ? 」
「 全て倒しました。 今は、騎士団の方々が、負傷者等の捜索と搬送、死亡者の回収、治安維持と住民の城内への避難誘導を行っています。 」

「 そうか……。俺達も戻ろう。 済まないが、 皆も力を貸して欲しい。 」
「 私は喜んで。 」
「 私もですわ。 」

茜と秋葉が笑みを浮かべ、 答える。

「 私も手伝おう。 」

柳也も答える。

「 ありがとう。 」

祐一が感謝の意を示す。
数分後、 ディパーティーションが展開し、 一同がゲートの中へと消えて行った。






だが、 王都に戻った祐一を待っていたのは、 秋子による更なる出動要請だった。
秋子は、 祐一一人に話が有ると、 別室へと招いた。

「 何ですか? 秋子さん。 」
「 いえ……、 先に聞きましょう。 あの上級魔族達は……。 」
「 ……強いですね。 今日のところは、 小手調べと言うところでしょう。 俺や、 他の者達の強さを測りに来たと言うとこでしょうね。 」
「 ……そうですか。 ……祐一さん、 実は、 今回の魔族の襲来、 ここ王都だけでは有りません。 」
「 ……他の街にも? 」
「 ええ、 先程、 セントフォレストの街にある、 リリアン女学園から、 救援要請が有りました。 」
「 ……先日詳しく話してくれた、 魔術師養成の為の……。 」
「 はい。 」

華音に帰ってきての折、 祐一は秋子から国内の政情や内政の詳細を、 事細かく引き継ぐ形で教えられていた。

「 お蔭様で、華音魔術士団の9割が、リリアン出身になるほど、高レベルの魔術士を多数輩出出来る程になりました。
リリアンには、魔術士養成の他に、セントフォレストの守護も担って貰ってますが、そのリリアンが今も襲われています。数的にはこちらよりも魔物の数が多いみたいです。 」

「 ……。 」
「 このままだと、 後2〜3時間程しかもたないでしょう。 ……そして、 先程の戦いで、皆が消耗しています。今余裕が有る人は、 祐一さんしかいないんです。 」
「 ……解りました。 秋子さん、 こっちの指揮、 お任せします。 」
「 了解しました。 」

祐一は、 すぐ様ディパーティーションで、 セントフォレストへと飛んだ。

「 ……祐一さん、あの娘に会って、驚かないで下さいね。あの娘は、貴方にとって、とても重要で大切な存在になる事でしょう。
私の知る限り、貴方を受け止められるのは、 あの娘しかいないでしょうね……。

 ……さて、 私はこちらの問題を処理しますか……。 」

 そう一人ごちて、 秋子は皆の下へと向かって行った。






 ( セントフォレスト リリアン女学園内 )

「 剣道部の者は、 率先して迎撃を!! 文科系クラブの者は、 怪我人を救助 ・ 避難させて!! 」

長身のショートヘア、 ミスターリリアンとあだ名される女生徒、 支倉 令 が陣頭指揮を取り、声を張り上げる。

「 令ちゃん!! 魔術士団の所が、 もう保ちそうもない!! 」
「 何だって!? ……クッ! 由乃、 志摩子の所へ行って、乃梨子ちゃんと可南子ちゃんを、 ロサ・ギガンティアの所に応援に廻す様、 伝えて!! 」
「 解った! 令ちゃん、 何とか凌いでね!! 」
「 うん。 」

二人は刹那の時間、 視線を交し合うと、 お互い背中を向け合った。
一人は未だ数えきれぬ程いる魔物へと。
一人は姉から下された命令を、 同級生の親友へと伝える為に。



( 薔薇の館 )

「 痛い……。 痛いよう……。 」
「 ウウッ……。 」

並べられた負傷者の呻き声が、 薔薇の館のあちこちから聞こえる。

「 待ってて、 すぐ治療するから。 」

おかっぱ頭の女生徒が、 治療魔法をかけながら、 負傷者を励ます。

「 ここは私がまとめて治療するわ。 乃梨子は、 新たな負傷者の受け入れをお願い。 」
「 はい。 ……ですが、 救援はまだ来ないのでしょうか? 志摩子さん。 」
「 ……真美さんが飛んでくれたみたいだけど……、 華音も襲われてるのかも知れないわね。 」
「 そんな……、 人員をこちらに割けないかも知れない、 と言う事ですか? 」
「 ……希望は有るわ。 水瀬 秋子 様なら、 絶対に私達をお見捨てにならないわ。 それに、

今は相沢将軍も帰還してらっしゃるし……。 」

「 あの、 10年振りに生還なされたと言う……。 」
「 だから、 希望を持ちましょう? 私達まで希望を捨ててしまったら、 守れる者も、 守れなくなってしまうわ。 」
「 はい、 志摩子さん! 」

と、 バタンとドアが開き、 由乃が駆け込んで来た。

「 由乃さん! 何事!? 」

志摩子が少しうろたえながら、 由乃に尋ねた。

「 ハァハァ……、志摩子さん、令ちゃんから伝令!ロサ・ギガンティアの所が、そろそろもたないかも知れないの!!乃梨子ちゃんをお姉さまの所へ。可南子ちゃんも!! 」
「 解ったわ。乃梨子、可南子ちゃんを連れて、ロサ・キネンシス と、祐巳さんの所へ大至急行って。 」
「 はい!! 」

乃梨子は、 すぐに駆け出すと、 丁度治療を終え、 2階会議室から出て来た可南子に事情を話し、 共に薔薇の館を後にした。



「 さて、 由乃さん手伝って。 」
「 OK。 ……って、 あまり治療魔術得意じゃないけど……。 」
「 今は、 一人でもいてくれると助かるのよ。 」
「 うん、 じゃ、 頑張りますか!! 」
「 うふふ♪ 頼もしいわ。 」

志摩子と由乃は、 気合いを入れ直し、 怪我人の治療へと再び取り掛かった。






 ( 御聖堂前 )

「 祐巳! 」

祥子が叫ぶ。

「 祥子様、 ここは私がガードします。 魔力が尽きかけてる皆さんは、 魔力回復に努めて、待って下さい。 時間は……、 私が、 稼ぎますから! 」

そう言って、 祐巳は対物理 ・ 対魔術障壁を、 半径50m程にまで拡げた。
祥子達200名近い魔術士が、 たった一人、 祐巳に守られる形になっていた。

「 祐巳! 無茶よ!? 生命エネルギーまで使う気なの!? 」
「 ……私一人の犠牲で、 皆が助かるのなら……。 」
「 祐巳!! 」
「 他に、 手がないんです、 祥子様。 魔力が残っているのは、 私だけ。 そして、 残された方法も、 これだけなんです。 だから……。 」

祐巳は、 更に障壁の範囲を拡げた。
障壁の拡大により、 徐々にリリアン女学園の敷地外へと押し出される魔物達。

「 …… 祐巳 ……。 」

祥子は、 涙をポロポロこぼしながら、 青褪めた顔で祐巳の背中を見つめていた。
祥子から見ても、 祐巳は限界を超えて見えた。
額から嫌な汗をかいているし、 体がフラフラだ。
顔色が急激に悪くなり、 今にも力尽きようとしていた。
だが、 魔物の攻撃は、容赦なく祐巳が展開する物理 ・ 魔法障壁へと加えられる。

「 お姉さま!! 」
「 祐巳さま!! 」

と、 乃梨子と可南子が、 走って御聖堂前へと駆け付けて来た。

「 乃梨子ちゃん、 可南子ちゃん、 祐巳を下がらせて! 祐巳は、 生命を削っているのよ!! 」
「 祥子様……、 解りました! 」

乃梨子は、 すぐに祐巳の下へと駆け寄る。
可南子は、 すぐに敬愛する祐巳を、 祐巳の妹である乃梨子へと任せ、 自主的に廻りを囲む魔物を駆逐し始めた。






「 お姉さま、 もうやめて下さい! このままでは、 お姉さまが死んでしまいます! 」
「 乃梨子ちゃん……、 でも、 今みんなを守れるのは、 私しかいないの……。 物理障壁は、

乃梨子ちゃんも不得意でしょ? 可南子ちゃんは出来ないし……。 祥子様達も、 あまり得意じゃない。
でも、 私はこれが一番得意だから……。 」

「 だけど……、 だけど!! 」
「 ……御免ね……、 お姉さまらしい事、 あまりしてあげられなくて……。 」

祐巳は、 更に物理障壁の範囲を拡げた。
半径300m四方から、 魔物が全て押し出される。
そして、 物理障壁は更に拡大し、 リリアン女学園全体が、 包み込まれた。

「 ……お姉さま……。 」

乃梨子は愕然とした。 祐巳の髪の毛が、 スーッと黒から白へと、 変色して行くのを見て。
そして、 物理障壁がフッと消え、 祐巳は、 乃梨子の腕の中へと倒れた。

「 お姉さま……、 いや……、 いやあああああ!! 」
「 祐巳……。 」
「 祐巳様……、 そんな……。 」

祐巳の下に集まる、 200名の生徒達。 だが、 非情にも再び魔物達の攻撃が、 祥子達を襲う。
余力のある乃梨子と可南子が前面に出て戦うが、 数的に、 戦力的に、 魔物の方が圧倒的に有利だった。
そして、 数分の戦闘の末、 とうとう乃梨子と可南子も力尽きた。
廻りには、 イブル ・ カトラやワー ・ ウルフ、 オークや ゴブリンが、 未だかなりの数がいる。
乃梨子と可南子は膝をつき、 覚悟を決めた。
それは、 祥子達も同様に……。

魔物達は、 祥子達を取り囲み、 一斉に襲いかかった。

『 マリア様!! 』

乃梨子は、 目を閉じ死を覚悟して蹲りながら、 心の中で叫んだ。



























『 ……? 』

死を覚悟した乃梨子だったが、 いくら待っても、 何も起こらない。
不思議に思った乃梨子は、 目を開いて状況を見た。









一人の男性が、 両手に剣を持ち、 乃梨子達の前に立っていた。
辺りに無数の魔物の死体を撒き散らしながら。













 あとがき

どうも、 御久し振りです。
新しくクロスする作品のキャラが、 今話より多数出て来ました。
マリみてです。
それも、 弱冠設定を変えています。

まあ、 某マリみてSSサイトのSSの影響なんですが……。
祐巳は今後、 話の中でもっとも重要なキャラの一人になって行きます。
彼女の成長を、 見ていて下さい。
色々話の中で、 間違ったり矛盾を作ってしまってる私ですが、
頑張りますので、 平にご容赦を。
それでは。

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