第三章
第7話 「リリアンの生徒の近況」






 福沢 祐巳は、 歩いていた。

以前は憧れだった、 今では大切な仲間であり、 上級生のロサ・キネンシス、
小笠原 祥子と、 その妹であり、 親友の藤堂 志摩子と一緒に。
祐一の要請により、 華音へリリアン選抜隊が来てから、 一ヶ月が経過した。

その間、 リリアンの女生徒達は、 水野 蓉子等前薔薇様達から、 学園ではあり得ない程過酷な修練を受けていた。
三日に一度は、 祐一も参加して、 その日は蓉子達も教える側から教えられる側に廻り、祐一や秋子の修練を受けていた。

「 ねぇ、 祐巳。 」
「 何ですか? 祥子様。 」
「 この一ヶ月で、 私達、 以前とは比べ物にならない程、 強くなったわね? 」
「 そうですね。 ……私も、 祥子様も、 志摩子さんや由乃さん、 他の皆さんも、リリアンでは伸び悩んでいましたけど、 
まだまだこんなに上達出来るなんて、 思ってもみませんでしたし。 」

三人が三人共、 この一ヶ月での自分の成長に驚いていた。

「 お姉様や蓉子様、 江利子様も、 私達が知っている頃より、 遙かに強くなってましたし。 」
「 そうね。 それでも、 秋子様にはまったく敵わなかったけど……。 」

と、 志摩子が少し青い顔をして、

「 ……ですが、 私は祐一様の実力が、 一番怖いです。 」

その言葉に、 祐巳はわりと平然と、 祥子は志摩子と同様、 少し青くなった。

「 そうね。 お姉様方が束になっても敵わないなんて……。 」
「 私も、 最初は夢か幻か、 そう思ってしまいました。 」

紅薔薇姉妹はそう言うが、 一人祐巳だけは平然としていた。

「 そうですか? 確かに祐一さんは、 私達より遙かな高みにいますけど、 私はそんな風に感じた事は有りませんよ? 」
「 それは祐巳、 貴女が弟子として、 常に傍で見ているからよ。 私や志摩子から

見たら、 祐巳も一つ二つ上の高みにいる、 そう思えるし、 見えるわ。 」

「 そうですか? 」

祐巳は首を傾げた。

「 私や志摩子には、 立体魔法陣は出来ないわ。 それが出来る祐巳は、 ハッキリと私達の一つ上にいると言える。
でも、 それが私には嬉しいのよ。 前々から、 貴女は私より才能が有る、 私より上に行ける、 そう思っていたわ。 」
「 ……祥子様。 」

祐巳は、 祥子にそう言われた事が嬉しくて、 少し涙が出て来た。
と、 三人の前に、 空から祐一が着地した。

「 ごきげんよう、 祐巳、 祥子さん、 志摩子。」
「 ご……ご…ごきげんよう、 祐一様!? 」
「「 ごきげんよう、 祐一様。 」」

何故か、 祐巳だけがどもる。

「様は要らないんだが……。 」
「いいえ、 これはケジメですから……。 城にいる間だけは、 キチンと公私のケジメをつけませんと。 
お姉様も私も、 城以外でしたら、 祐一さんと呼ばせて頂きます。 」
「 ……解った。 俺もそれにならおう。 」
「 あ ……あああの!? 」
「 ん? どうした祐巳? 」
「 いえ、 その……、 どうして空から来たのかと思いまして……。 」

次第に口籠もる祐巳。

「 魔術のトレーニングをしていただけだ。 飛翔魔術は、 あらゆる要素を修練するのに、適しているからな。 」
「 そうなのですか? 一つ、 学ばせて頂きました。 」

祥子が真に感心しながら、 ぺこりとお辞儀した。

「 いや、 いい。 それよりも、 祐巳と祥子さんには、 後で秋子さんの下に行って貰いたい。 いいかな? 」
「 はい。 」
「 は… はい。 」

二人とも了解し、 志摩子も頷く。

「 では。 」

そう言って、 祐一は再び空へと飛翔して行った。
その姿を見て、 3人は呆然としていた。

「 …今、 詠唱してませんでしたね? 」
「 そうね…………。 」
「 う ……うん。 」

ハァッ……と、 3人の溜息が、 辺りにこだました。

 数時間後、 祥子と祐巳、 そして令は、 秋子のいる祐一の政務室へと出頭した。

「「「 失礼します。 」」」
「 どうぞ。 」

返事を聞き、 3人はドアを開け、 中へと入った。
部屋には主である祐一はおらず、 秋子と香里、 前薔薇様の3人が一同に会してした。

「 3人共、 お座りなさい。 」

蓉子の言葉に、 3人は素直に従った。
と、 香里が今まで座っていた専用の机から離れ、 3人の前に腰掛けた。
その隣りには秋子が座り、 横面には前薔薇様達が座った。

「 呼び出しして、 御免なさいね。 」
「 いえ、 そんな……。 」

祐巳がすぐに謙遜する。

「 軍属している以上、 上司の命令は絶対。 私共に気を遣わないで下さい。 」

祥子の言葉に、 令が黙したまま頷く。

「 ありがとう。 では、 早速本題に入らせて貰うわ。 」

そう言って、 一度咳払いをする香里。

「 貴女達に、 この政務室での事務の手伝いを頼みたいのよ。 私と秋子さんだけでは、すでに手が廻らないところまで来てる。 
どうかしら? ちなみにこれは命令ではないから、断っても大丈夫よ。 」

そう言って、 香里は皆を一瞥する。
と、 祥子が手を挙げた。

「 何かしら? 」

香里が促す。

「祐一様は? 」
「相沢くんも、 いつもは私や秋子さんの倍以上をこなしているわ。 だけど、 それでも人手が足りないのよ。 出来れば、 この中の3人は欲しいわね。 」
「そうですか……。 」
「祐巳、 貴女はやりなさい。 」

聖が祐巳に促す。

「聖!? 」

蓉子が窘める様に呟く。

「 はい、 私もそう思ってました、 お姉様。 蓉子様、 大丈夫ですから。 
私は祐一さんの弟子なんです。 師が困っているのに、 何もしない訳にはいきません。 」
「 …………ならいいけど。 あまり無理しないようにね? 」
「 はい。 ありがとう御座います。 」
「 じゃ、 一名は決まりね? 」

香里の確認に、 祐巳は頷いた。
その後、 姉の聖も手を挙げ、 祥子も手を挙げて、 最低ラインの3人が決まった。
3人を残し、 後の3人が政務室を後にしてから少しして、 祐一が政務室へと戻って来た。

「 決まったか? 香里。 」
「 ええ、 今さっきね。 相沢くんの弟子もいるわよ。 」
「 別にそこまでしなくてもいいんだが…………。 」

祐一が祐巳を見た。

「 いいんです。 私が好きでやっている事ですから。 あまり気にしないで下さい。 」
「 ならいいんだが…………。 」

そう言って、 祐一は目線を祐巳から香里へと戻す。

「 で、 どの方面を任せるんだ? 」
「 対国関連の事は、 今まで通り私と秋子さんでやるわ。 軍関連もね。 3人には、国内に関する事を全て任せるつもりよ。 」
「 ……妥当なセンだな。 」
「 福沢さん、 小笠原さん、 佐藤さん、 では、今言った通り、 国内に関する事をお願いするわ。 」

「「「 解りました。 」」」

そう言って、 香里達は握手を交わした。

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