外伝第2話 「二人の始まり 神魔との出会い」
アフタリスに連れて来られた祐一は、 フカフカのベッドの上で、 目を覚ました。
見慣れない天井、 いつもの自分のベッドより、 フカフカで大きいベッド。
部屋の広さも、 自分の部屋より何倍も大きい。
と、 タイミング良くドアが開き、 一人の少女が入って来た。
「 ん? 目を覚ましたか。 」
少女は歩み寄り、 上半身を起した祐一のすぐ足元に腰掛ける。
どうだ? 体の調子は。 」
「 …… ここ、 何処? 」
少女の問いには答えず、 祐一は自分の疑問を投げ掛けた。
「 ここはパンデモ二ウム。 魔族の国だ。 汝は三日前、 華音からここへ連れて来られた。 」
「 …… ボク、 三日も眠っていたの? 」
「 そうじゃ。 その間、 この我自ら、 汝の看護と言うものをしてみた。 」
「 …… そうなんだ ……。 ありがとう、 お姉ちゃん。 」
「 …… 不思議な人間の子だの。 汝は我が怖くないのか? 我もれっきとした魔族なのだがな。 」
祐一は、 ジーっと少女を見つめる。
「 …… お父さんとお母さんを殺したあの人は、 怖かった。 でも、 お姉ちゃんは怖くないよ。
だって、 ボクの看護してくれたし、 お姉ちゃんの目に、 優しさが滲み出てる。 」
「 …… そうか? 」
「 うん!! 」
「 そうかそうか。 アハハハハ! そんな風に言われたのは、 生まれ出でてより初めての事だぞ。
魔族に対しては、 一番似合わぬ言葉じゃな。 」
笑う少女を、 祐一は不思議そうに見つめた。
「 汝、 名は? 」
少女が祐一に尋ねる。
「 祐一……。 相沢 祐一。 」
「 祐一か。 我は神魔と言う。 我の事は……、 まぁ、 追々知るだろう。 汝は、 我の従者に
なって貰う。 これでも、 人間に対する処遇では、 かなり好待遇だと思え。 普通は、 下級魔族
共の嬲り者にされ、 心が壊れた状態にし、 それから実験材料じゃ。 我の従者なdお、 最高の
待遇じゃぞ? 」
少女、 神魔の言葉に、 祐一は神魔が魔族の中で、 かなり高い地位にいて、 自分は神魔に運良く
保護された事を、 幼心に悟った。
「 …… うん。 」
そして頷く。
「 では、 後数日、 完全に疲れが取れるまで、 休んでいるが良い。 従者としての使役は、
それからで良い。 」
「 …… はい。 」
「 他に聞きたい事は有るか? 」
「 …… ボクのいた華音は、 どうなったの? 」
「 大分破壊されたが、 それでも王と王妃以下大部分の者は生きておる。 死んだのは、
汝の両親、 主だった将校位のものだ。 」
「 そうなんだ……。 ありがとう、 お姉ちゃん。 」
「 構わぬ。 では、 又見に来る。 それと……。 」
「 ……? 」
「 次、 我が来た時から、 言葉遣いを直せ。 城の外ならば、 今のままでも良いが、
城内では父の監視下。 ただでさえ、 汝はかなりの特別扱い。 色々妬む者もいる。
汝の為だ。 解ったな? 」
「 う …… うん……。 じゃなくて、 解りました。 」
「 よろしい。 」
そうニコリと笑みを浮かべて、 神魔は部屋を後にした。
祐一は神魔を見送ると、 再びベッドに横になった。
そして、 天井を見つめる。
「 ……お父さん、 ……お母さん……。 」
祐一は、 やっと悲しみと惜別の涙を流した。
三日後、 祐一は神魔の傍に就いて、 従者として初めての任に就いた。
数多いる強面の魔族が、 左右にズラリと並ぶ中、 王座に向かって真っ直ぐに伸びる赤絨毯の上を、
神魔と一緒に歩く。
王座の前に来ると、 座っていた黒いマントを羽織り、 優しそうな、 涼しげな顔をした魔族が席を立ち、
段差を降りる。
入れ替わりに、 神魔が玉座に腰掛けた。
祐一は、 幼心にそれで神魔の立場を悟り、 すぐに膝を付き、 臣下の礼を取った。
「 祐一、 汝はこれで我の立場を知った。 だが、 汝は我の従者だ。 祐一に最初の命令だ。
汝はこの謁見の間及び、 我と共にいる間は、 我に臣下の礼は要らぬ。 だが、 立場は弁えよ。
良いな? 」
「 はい。 」
「 うむ。 では段を上がり、 私の横で座ってるが良い。 」
「 はい。 」
そう返して、 祐一は神魔の横に、 チョコンと跪いた。
「 皆の者にも言うて置く。 祐一への手出しは、 一切許さぬ。 まだコヤツは子供じゃ。
いずれ見合う年になったら、 その時に厳しくする。 良いな? 」
「「「「「「「 御意!! 」」」」」」
魔族達の返答が、 謁見の間に響く。
「 ローズレッド、 アーデルハイト。 」
「 はい。 」
「 ここに。 」
ローズレッド ・ ストラウスと、 アーデルハイト ・ ストラウスの夫婦二人が、 神魔の前に
膝を付く。
「 後は汝に任せる。 祐一、 行くぞ。 」
「 はい。 」
祐一は、 再び神魔の後ろを、 神魔について行った。
後ろでは、 ローズレッドとアーデルハイトが、 神魔に対して臣下の礼を取っていた。
謁見の間を出た後、 二人は城を出て、 街へと出た。
そこには、 殆ど人間と変わらない生活が営まれていて、 祐一はかなり吃驚してしまった。
「 どうじゃ? 祐一。 」
「 ……人間と変わらないね …… お姉ちゃん。 」
「 ……そうじゃな。 我等とて、 生きている。 当然、 食事もすれば、 毎日の生活の為に、
働く事もする。 そこら辺は、 人間と変わらん。 」
神魔は、 そうしてちょくちょく祐一と出掛けては、 祐一に様々な事を教えていった。
そんな日々は、 この後2年間続いた。
だが、 悲劇はすぐそこまで、 足音を忍ばせてやって来ていた。