外伝第4話 「季節は巡り、想い芽生える」






 「 祐一……。 」

 「 何ですか? お姉ちゃん。 」

 今、 この部屋、 神魔の私室には、 祐一と神魔の二人しかいない。

 祐一の言葉遣いが変なのは、 従者としての敬語に慣れてしまい、 かつ二人だけの時はいつもの呼び方である為、

 両方がごちゃ混ぜになった話し方になってしまったのだ。






 「 時が過ぎるのを、 こんなにも早く感じたのは、 初めてじゃ。 祐一が、 このパンデモニウムに来てから、

 もう一年が経った。 」

 「 ……ボクも、 8才になりました。 」

 「 人間とは、 成長が早いものじゃの。 初めて会った頃より、 身長も高くなっておるし、 祐一の

 精神年齢は益々高くなった。 」

 眩しげにに祐一を見つめる神魔。

 最近、 神魔は祐一の姿を見る度に、 心がホンノリ暖かく様な感覚を覚える事が多くなった。

 祐一の事を見ているだけで、 上機嫌になる自分がいる事を、 神魔は自覚していた。

 最近では、 今現在の状況の様に、 祐一をかたわらに、 共に眠りにつく事が多く、 

神魔の祐一ベタベタ度は、 以前よりも更に度数を増していた。






 「 のう祐一……。 」

 「 ……はい? 」

 神魔に抱かれながら、 祐一は神魔の顔をみつめる。

 「 ……パンデモニウムには、慣れたか? 」

 「 はい。 」

 「 ……まだ、 ルシフェルやローズレッド以外の魔族は怖いか? 」

 「 ……敵意や、 見下してる方々は怖いです。 でも、 中にはルシフェル様やローズレッド様の様に、

 ボクを受け入れてくれる方々もいて、 その人達は怖くないです。 」

 「 ……そうか。 」

 「 ……神魔お姉ちゃん? 」

 「 ……祐一、 汝は、 人間達の国へ……、 華音へへ帰りたかろう? 」

 「 ……帰り ……たいです。 」

 「 ……そうか ……。 」

 「 でも、 それはもとおずっと先でいいですよ、 お姉ちゃん。 」

 「 ……。 」

 「 お姉ちゃんは、 ボクを秘密裏に人間の国に、 華音に帰してくれようと思ってるんですよね?

 でも、 そんな事したら、 今度はお姉ちゃんが責められちゃう。 ボクは、 そんなのは嫌です。 」

 「 …… 」

 「 ……お姉ちゃん? 」

 『 この子は……、 この子の親を、 大切な存在を殺させた、 そんな命令を出した我を……。 』

 「 …… 心配かけて済まぬな。 何故なんだろうな。 以前の我なら、 こんな気持ちになる事など、

 なかったと言うに。 」

 祐一を抱き締めている腕の力を、 少し強めてギュッとする神魔。

 「 ゴメンなさい。 ボクには解らない。 でも……。 」

 「 でも? ……何じゃ? 」

 「 ……いつも優しくしてくれて、 ありがとう、 お姉ちゃん。 」

 『 我は……、 我は……!! 』

 「 ホントに、 祐一は不思議な子じゃな。 」

 自分の心の内を悟られぬ様に、 精一杯の笑顔を浮かべた神魔。

 「 ……? 」

 「 ふふ♪ 」

 そうクスリと微笑を浮かべて、 神魔は祐一のオデコに、 そっとkissをした。

 「 明日の為に、 グッスリ眠ろう。 」

 「 ……うん、 お姉ちゃん。 」

 お休みなさい、 二人の言葉が重なり、 しばらくして、 祐一はスースーと寝息を立て、

 神魔は一人、 部屋からテラスへと出て、 物思いに耽っていた。

 『 祐一、 優しい子……。 優し過ぎる子……。 』

 『 我は、 この子の父や母を、 殺せと命じた。 父からの命令とは言え、 我がその命令の実行に、

 GOサインを出したのは事実。 』

 『 アフタリスが、 この子を連れて帰って来た時、 我は何て思った? 』

 『 気晴らし、 暇潰し、 いや、 違う。 ……我は、おもちゃ程度にしか思っていなかった。 』

 視線を上下から室内へと戻し、 ベッドの上で眠る祐一を見つめる。

 『 我は……、 何て事をしてしまったのだ!! 』

 自然と、 神魔の両目から、 涙が零れ落ちる。

 「 祐一、 我は汝を失いたくない。 だが、 私は祐一……、 汝にとって失いたくはなかった

 存在に、手をかけてしまった……。 きっと、 その事実を知ったら……。」

 「 やっぱり、 そうだったんですね……。 」

 ハッとして、神魔は視線を祐一の眠っている筈のベッドへと向けた。

 祐一は横になりながらも、 神魔の方を見つめていた。

 「 祐 …… 一 ……。 」

 目を見開き、 ガタガタと震える神魔。

 一番知られたくなかった相手に、 祐一に、 真実を知られた。

 その事が、 神魔を震えさせていた。

 祐一はベッドから出ると、 神魔の傍まで歩み寄った。

 そして……。

 「 お姉ちゃんが、 ここで一番偉い人だって知った時から、 もしかしたらって、 思ってました。

 でも、 ずっと身近にいてくれて、 誰よりも優しくしてくれたから、 ボクは、 お姉ちゃんを

 困らせたくなかったんです。 それに、 ボクはお姉ちゃんが大好きだから……。 」

 「 ……恨んで …… おらんのか? 汝の父を、 母を殺せと命じた我を……。 」

 「 アフタリス様とボクのお父さん、 お母さんが戦った時、 お父さんとお母さんが言ったんです。

 お互いに命を賭けて戦っている。 もし自分達が死んでも、 相手を恨むなって。

 逆の立場になる事も有るのだからって。 だから、 ボクは神魔様を、 お姉ちゃんを恨みません。

 ボクのお父さん、 お母さんを直接手にかけた、 アフタリス様も。 魔族の人達皆さんを、

 ボクは恨みません。 」

 「 祐一…………、 祐一!! 」

 神魔は、 祐一をその胸にきつく抱き締めた。

 「 済まない。 謝って許される事ではないのは解ってるのじゃ。 だが、 その事実を知られて、

 祐一に恨まれる事が、 何よりも怖かったのじゃ!! その償いのつもりで……。 」

 「 自分を責めないで下さい、 お姉ちゃん。 今のボクは、 結構幸せですから。

 大好きなお姉ちゃんと一緒にいるし、 アユちゃんもいる。 ルシフェル様やローズレッド様も、

 ボクに良くしてくれます。 だから、 いつもの神魔お姉ちゃんでいて下さい。

 我が儘だけど、 いつも自分本位だけど、 でもボクには誰よりも優しい神魔お姉ちゃんでいて

 下さい。 」

 「 祐一……。 」

 神魔は、 溢れ出る涙をそっと拭い、 ニコッと笑顔を浮かべた。

 「 ふ…… ふん、 言いたい放題、 言ってくれたな。 我が儘じゃと? 自分本位じゃと?? 」

 「 はい♪ 」

 さっきまでのシリアスを吹き飛ばす様に、 祐一も精一杯の笑顔を浮かべた。

 二人はそれから小一時間程じゃれ合った後、 ベッドで仲良く眠りについた。



 そんな二人の様子を、 ルシフェルとアユ、 ローズレッドとアーデルハイトの4人が、

 クリスタルを通して見ていた。

 「 ……人は、 ここまで他人に対して優しくなれるものなんですね……。 」

 「 全員が全員と言う訳じゃない。 だが、 祐一はその中でも取り分け優しいな。 」

 「 そうですね、 アーデルハイト、 ルシフェル。 神魔様の傍に、 祐一をいさせる事に、

 間違いはなかった。 」

 「 うぐぅ……、 神魔様が羨ましい。 ボクも、 一緒に眠りたい……。 」

 アユの言葉に、 他の3人からクスクスと笑いが起こる。

 「 今度私からお願いしてみよう、 アユ。 」

 「 ホント!? 」

 「 ああ、 お前も、 祐一にとっては大切な友人だろうからな。 今の神魔様なら、

 お許し下さるだろう。 」

 「 うん、 楽しみにしているよ、 お父さん。 」

 そうして、 夜は更けて行った。












 明けて翌日、 神魔と祐一は、 ローズレッドとアーデルハイトと共に、 街へと公務で繰り出していた。

 月に2〜3度、 神魔は国内の視察へと出て行く。

 だが、 決まって公務で出かける時は、 神魔は不機嫌になる。

 「 祐一さんは、 ホントにカワイーです〜♪ 」

 それは、 言わずもがな、 アーデルハイトのせいだった。

 初めて視察に祐一が同行した時から、 こうだった。

 アーデルハイトには、 6人の息子と、 3人の娘がいる。

 が、 全員が全員、 独立して自分の元を離れてしまった為、 幼い祐一を、 まるで自分の子の様に

 可愛がるのだ。

 今、 祐一はアーデルハイトに抱っこされていた。

 最初は少し怖がっていた祐一も、 神魔の次位には、 アーデルハイトにも心を開く様になっていた。

 「 アーデルハイト様、 そろそろ離して下さい。 神魔様の視線が怖いんです。 」

 「 あらぁ♪ ふふふ♪ 祐一さん、 あれは妬いてるのよ♪ ただでさえ公務で祐一さんの事を

 かまえないのに、 自分以外の女性と仲良くしているから♪ 」

 クスクスと笑い、 アーデルハイトは更に祐一を自分の胸にかき抱いた。

 と、 何処かでブチッと言う音がした。

 「 ……アーデルハイト? よもやお主、 この我に喧嘩売っておるのか? よもや、 祐一を

 自分のモノにしようとか、 考えておるのではあるまいな? 」

 いいえ〜、 殿下。 そんな気は御座いませんですわ〜♪ ただ、 子が全員独立してしまって、

 少〜し寂しいのです。 ですから、 祐一さんを抱き締める事で、 その寂しさを紛らわせている

 のですわ。 」

 そう言われてしまっては、 何も言えなくなってしまう神魔。

 アーデルハイトは、 少しからかい過ぎましたかしら? 等と想い、 祐一を解放し、 そっと耳打ちした。

 「 大丈夫ですよ♪ そっと神魔様と手を繋いで御覧なさい。 それだけで、 神魔様の機嫌は直りますよ♪ 」

 アーデルハイトの言葉に、 祐一は素直に頷き、 そしてすぐに神魔の傍へと行き、 そっと神魔と手を繋いだ。

 神魔は祐一を見つめて、 優しさ溢れる笑みを浮かべた後、 手を繋いだまま視線を街の視察へと戻した。

 だが、 その手はさっきよりギュッと固く繋がれていた。

 そして、そんな二人を、 アーデルハイトも微笑みを浮かべながら、 ローズレッドと共に見つめていた。

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