外伝第5話「魔界は良いとこ♪一度はおいで♪」






 祐一がパンデモニウムに連れて来られてから、 一年半が過ぎた。

 神魔は、 相変わらず祐一にベッタリで、 祐一の廻りには、 祐一と共に時間を過ごす事を、

 楽しみにする様になった魔族が、 沢山集まる様になっていた。

 初めは見下し、 敵意を向けていた魔族の中からも、 次第に祐一を認め、 或いは興味を示し、

 打ち解けて行った者もいた。

 神魔も、 この頃は毎晩いつも一緒にいる為か、 昼間そうやって集まって来ても、 特に機嫌を悪くする

 事は無かった。

 「 祐一……。 」

 2〜3人の魔族と談話していた祐一に、 神魔が声をかける。

 祐一は、 すぐに話を切り上げ、 神魔の方を向いた。

 「 何ですか? 神魔様。 」

 「 …… 一度、 魔界へと行って見るか? 」

 「 魔界…… ですか? 」

 「 …… 一度、 我の生まれた世界を、 祐一に見せたくてな。 」

 「 …… お父さんやお母さんから、 人間には、 魔界の瘴気が濃すぎて、 とても行ける様な所じゃないって、

 教わってますけど……。 」

 「 確かにな。 だが、 大丈夫じゃ。 ルシフェルの力で、 祐一の身の廻りに、 特殊な防護膜を張る。

 それで瘴気は大丈夫じゃ。 他にも、 聖霊と契約を交わし、 聖霊の加護を受けると言う手も有るがな。 」

 「 …… 私が行って、 大丈夫ですか? 神魔様のお父様が……。 」

 「 父の国には行かぬ。 我が生まれたのは、 今の父の国ではないのでな。 」

 「 …… 行って見たいです。 」

 「 そうか。 ルシフェル、 ローズレッド。 」

 「 はい。 」

 「 ここに。 」

 「 今のを聞いていたな。 」

 「 はい。 」

 「 しかと。 」

 「 なら準備にかかれ。 今回は、 お忍びで行く。 いいな? 」

 「 はっ。 」

 「 畏まりました。 」

 二人は立ち上がると、 自分達の部下に命を下し始めた。






 魔界へ行く事が決まってから二日後、 神魔御一行は、 パンデモニウム国王都、 デモンズヘブン内にある、

 王城 ヘル インザ ヘル 内に有る、 魔界と人間界を繋ぐ扉、 デモンズディメンションゲートの前に

 集まっていた。

 「 では、 行くぞ。 アーデルハイト、 留守を頼んだぞ? 」

 「 はい、 神魔様。 祐一さんと、 楽しんで来て下さいね♪ 」

 「 うむ、 目一杯楽しんで来る。 」

 そう言って、 神魔はルシフェルに防護膜を張って貰った祐一と手を繋いで、 ゲートを潜って行った。

 「 それじゃ、 頼んだ。 」

 「 後で埋め合わせはするからね、 アーデルハイト。 」

 「 はい♪ ルシフェル様も、 貴方も、 アユちゃんも、 行ってらっしゃいませ♪ 」

 ルシフェルもローズレッドも、 アユを連れてゲートを潜った。






 「 うわあああああ♪ 」

 珍しく、 祐一が感嘆の声を上げる。

 今、 祐一の眼前には、 何処までも続く地平線、 人間界とは違う、 青く輝く太陽と

 同時に出ている赤く光る月。 そして見た事もない花が、 辺り一面に咲き乱れている場所だった。

 瘴気のせいで、 少し空気が汚れて見えるが、 そこは正に祐一にとっては初めてみる、

 幻想的な世界だった。

 「 どうじゃ? 祐一。 魔界も捨てたもんではなかろう? 」

 「 …… うん …… じゃなくて、 はい。 」

 慌てて言い直す祐一。

 「 今は敬語は不要じゃ。 気の置けない者しか居らんからな。 」

 「 ありがとう、 神魔お姉ちゃん。 魔界がこんなに幻想的で綺麗な所だって、 初めて知りました。 」

 祐一の言葉に、 神魔がニッコリと笑顔を浮かべた。

 余程祐一に気に入って貰えたのが嬉しかったのだろう、 神魔は祐一を抱き締め、 頬擦りをしている。

 「 そうか♪ 祐一に喜んで貰えて、 我も嬉しいぞ。 」

 神魔は、 祐一を肩車して、 歩き出した。

 「 お ……お姉ちゃん!? 」

 いきなり肩車されて、 慌てる祐一。

 「 今限りじゃ。 魔界にいる間だけは、 普通の姉弟の様に過ごしたい。 ダメか? 」

 「 ……ううん。 ……でも、 いいの? 」

 「 構わん。 一度、 こうして主従の関係なく、 祐一と何処かへ行ってみたかったのじゃ。 後ろの3人

 の内二人は、 我の心を読んでいたみたいだがな。 」

 そう言って、 後ろにいるルシフェルとローズレッドを見る神魔と祐一。

 「 ハハハ、 これは参りましたな。 」

 「 姫様も、 人が悪いですね。 」

 とても魔族の中でも魔王・大魔王と呼ばれている者達とは思えない程、 5人の雰囲気はとても暖かく、

 和やかなものだった。

 「 それで、 神魔様の御生まれになった館はもうすぐですが、 今回はそこだけですか? 」

 今回の予定を尋ねるローズレッド。

 「 いや、 館で一泊した後、 竜族の国 ドラゴニック ・ ヴァンディミオンに行き、

 そこの湯に入ろうと思う。 」

 神魔の言葉に、 ローズレッドとルシフェルが、 目を見開く。

 「 殿 ……殿下!? それは流石に無謀ですぞ!? 」

 神魔の前に出て、 歩みを止めたルシフェル。

 「 万竜の王 バハムートが、 人間の入国を認めるとは思えません。 」

 「 ……。 」

 祐一は、 黙って神魔の顔を見つめた。

 「 確かにな、 父上とバハムート王は、 仲が悪い。 普通に考えたら、 人間である祐一の入国も、

 認めてくれぬであろうな。 」

 一度区切って、 神魔は自分を見つめている祐一の顔を見上げた。

 「 だがの、 我が近場で生まれたからか、 母上 大天使 ルエルとバハムート王が親交が有ったお蔭か、

 我は小さい頃、 良くバハムート王に可愛がられてな、 我の頼みなら、 祐一の許可も下りると思ってな。 」

 「 殿下とバハムート王に、 そんな接点が有ったとは……。 」

 「 初耳ですね。 」

 だが、 二人もそれで神魔の立てた予定に、 納得がいった。

 そう、 ドラゴニック ・ ヴァンディミオンには、 魔界で一番有名な温泉が存在しているから。

 神魔の目的は、 祐一と一緒に、 その温泉に入る事だと。






 それから20分程歩き、 小さな湖の畔にポツンと建つ、 3階建ての館へと到着した。

 「 ここが、 お姉ちゃんの生まれたお家? 」

 「 そうじゃ。 これでも4000年、 ここにずっと存在している。 父上が、 一年に何度か

 侍従を派遣して、 手入れをさせているみたいでな。 未だに朽ちる事なく、 建っておる。 」

 祐一と神魔は、 二人揃って、 館を見つめていた。

 木造で、 蔓がビッシリと側面を覆っていて、 長い年月、 年季を感じさせていた。

 タップリ5分程見つめた後、 神魔達は館の中へと入った。






 「 ここが我の部屋。 」

 用意して来た食材で料理を作り、 皆で食事を終えてしばらくした後、 神魔は祐一に館の案内を

 していた。

 そして、 今は神魔自身の部屋に到っていた。

 2階の端の部屋の扉を開けて、 神魔は祐一に自分の部屋を見せた。

 「 この部屋に、 我は100才までいた。 」

 そう言って、懐かしむ様な、 寂しそうな表情を浮かべる神魔。

 「 お姉ちゃん……。 」

 「 …… 何じゃ? 」

 そのままの表情のまま、 祐一の方を向く神魔。

 「 ……お母さんといた100年、 ボクといた一年と同じ様に、 短かったの? それとも、

 長かったの? 」

 神魔は、 フムッと少し物思いに耽った後、 ニッコリと微笑を浮かべ、 祐一を抱き締め、 耳元で囁いた。

 「 そうじゃな。 祐一と過ごして来た一年と同じ様に、 早かったな。 今にして思い返してみれば……。 」

 神魔は、 そのまま祐一の米神辺りに、 そっとkissをした。

 最近、 つとにkissをする事が多くなった神魔。 祐一も、 最初はかなり戸惑っていたが、 最近では慣れと、

 お姉ちゃんなりの親愛表現の仕方なんだと思い、 されるがまま受け止めていた。






 だが、 今日は違った。

 そっと顎に手を添えられ、 上を向かされる祐一。

 目の前には、 熱の篭った、 潤んだ瞳で自分をみつめる神魔の顔……。












 祐一の目が、 驚きに見開かれた。












 祐一の目の前に、 頬をほんのり紅く染め、 目を閉じた神魔の美しい顔が有った……。












 唇から、 神魔の柔らかくて暖かい体温と、 唇の感触が伝わってくる。












 祐一は、 神魔に倣う様に、 ゆっくりと目を瞑った。











 痕餓鬼



 ども、 阿修蛇櫨斗です。

 いや、 神魔はショタとか思わないで下さいね?

 ただ、 初めて知った気持ちに、 戸惑ってるだけなんで。

 神魔自身も、 8歳の男の子にとは、 思ってますんで。






 設定

 ●竜族の国   ドラゴニック ・ ヴァンディミオン



 サタン等には、 認められてないが、 万竜の王 バハムートの下、

 竜族
 竜神族
 竜人族
 魔竜族
 神竜族

 等が集まり、 建国された国。

 普段は人の姿をし、 竜としての力を封印して日々の生活を営んでいる。

 温泉が自然に沸き出しており、 効能としては、 魔力の速効回復、軽い怪我や火傷の即時回復等。

 他にも効能は有るらしいが、 それは一部の選ばれし者にしか現れない為、 あまり知られていない。

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