外伝第7話 「 邂逅……。 」
それから半日程歩き、 小さい山を二つ程越えた先に、 巨大な壁に囲まれた、 竜族の国、ドラゴニック ・ ヴァンディミオンが見えた。
国の門にて、 門兵に神魔がお忍びで来たと、バハムート王に進言しろと神魔自身が言い、
最初に応対に出た若い門兵がハァッ? と言う顔をし、 見下し、 寝言は寝てから言った方が良いと、 暴言を吐いた。
これには、 神魔はじめルシフェルやローズレッドも顔を顰めた。
が、 詰め所から神魔達一行を見た中年の門兵が走って神魔達の下にやって来て、 若い門兵の頭を、拳骨で殴った。
「若い兵士が、失礼をして申し訳有りません。神魔様のお顔は、何度か拝見しています。至急、バハムート王に連絡致しますので、しばし詰め所にてお待ち頂けないでしょうか? 」
中年の兵士が、 頭を下げ謝罪をしながら、 詰め所の方へと神魔達を促した。
頭を抱えながら、 蹲る若い兵士を無視して、 神魔達は、 中年の兵士の案内で、 詰め所へと向かった。
詰め所の中に入ると、 神魔達は椅子に座り、 中年の兵士は頭を摩りながら戻って来た兵士に、
至急王に連絡をする様に命令し、 すぐに神魔達の下に戻って来た。
「 先程は、 誠に申し訳有りませんでした。 5分程で何らかの指示が有ると……。 早いな……。 」
そう言って、 中年の兵士はすぐにやって来た若い兵士から一言二言耳打ちされ、 そして神魔達を見た。
「 バハムート王からです。 『 連れて来た人間の子と共に、 我が城へ来られたし。 』 との事です。 」
「 解りました。 では、参りましょう、 神魔様。 」
了解し、 神魔を促すローズレッド。
「 うむ。 おい、 そこの若いの。 」
「 は、 はははい!! 」
「 ……昔の我なら、 その場で八つ裂きにしていたぞ? 自分の行動に注意しろ。 今回は不問にしておいて
やる。 いいな? 」
「 は、 はい。 申し訳有りませんでした!! 」
若い兵士は、 神魔の怒気に恐怖に震えながらも、 何とか頭を下げた。
それを見た神魔は、 黙ったまま詰め所を出た。
中年の兵士を共に詰め所を出た神魔達。
若い兵士は一人、 ヘタリ込み、 軽はずみな行動は二度とするまいと、 心に誓うのだった。
中年の兵士の案内で、 街中を城へ向かって10分程歩き、 王城 ウインドブレスに到着した。
街中を歩いてる間、 神魔達一行、 特に人間の祐一が目立ったのは、 言うまでもなかった。
正門の所で、 中年の兵士から城に勤める兵士に案内が代わり、 城へと神魔達は入った。
5分程歩いた所で、 謁見の間に着き、 城の兵士の手で扉が開けられ、 神魔達は中へと入った。
「 久しいな、 神魔。 ここ50年、 ずっと人間界にいたのか? 」
王座には、 祐一から見て20代半ば位に見える、 筋骨隆々で、 強面の男が、 王座に座っていた。
「 うむ、 人間界にいた。 バハムート王は、 相変わらず退屈していそうじゃの? 」
「 確かにな、 先程までは退屈だった。 だが、 今は違う。 そなたが楽しみを運んでくれたぞ。 」
「 …… 祐一の事か? 言っておくが、 手は出させんぞ? 」
「 フフフ、 解っている。 正確には、 祐一と言うその人間の子に対する、 お主の態度が面白いのでのう。 」
「 …… まったく、 いい年してイタズラ好きで困る。 」
それを貴女が言いますか?
と、 心の内で思った、 神魔以外の4人。
「 長い年月を生きているとな、 楽しみが一つ、 また一つとつまらなくなっていくのだよ。 偶然、 魔界に
迷い込み、 死にかけた人間を助けた事は何度か有ったが、 そなたの様な立場の者が、 傍にずっと置き、
尚魔界の我が国にまで同行させる人の子。 これ程興味を引く楽しみは有るまい。 」
そう言って万竜の王 バハムートは立ち上がり、 段を降りて、 神魔達の傍まで歩み寄った。
そして、 祐一の前に立ち、 祐一を見下ろす形で、 祐一を見つめる。
祐一も、 只真っ直ぐに、 万竜の王 バハムートの目を見る。
「 ……。 」
「 ……。 」
どれ程時間が経ったのだろうか、 辺りから音は聞こえず、 それぞれの呼吸音のみが、 その場にいる皆の
耳に入るだけ。
静寂に我慢出来ず、 最初に動いたのは……、 アユだった。
「 …… うぐぅ。 」
と呟く。
と、 緊張が解けたのか、 バハムートは、 祐一の頭に手を乗せ、 クシャクシャと少し乱暴に撫でた。
「 ……幼いが、 肝が座っておるな。 大抵の者は、 目を逸らすのだが……。 」
「 祐一はな、 悪意や殺意を持たぬ者には、 畏怖せんのだ。 我と初めて話した時からそうじゃった。 」
そう言って、 神魔は祐一をバハムートから取り返した。
「 …… バハムート王、 三日程でいい。 祐一の滞在許可を頂きたい。 」
「 …… それは、 サタンの娘、 王女 神魔としての願いか? それとも、 大天使 ルエルの娘としての
願いか? 」
再び、 ルシフェルやローズレッドさえも押し黙ってしまう程の緊張が、 辺りを支配する。
少しの間、 睨み合う二人。
先に睨みを解いたのは、 神魔だった。
「 サタンの娘 神魔でもなく、 ルエルの娘 神魔でもない。 一人の女として、 只一人 祐一を心から
愛する、 一個人 神魔としての願いじゃ。 」
神魔の言葉に、 何となく気恥ずかしさを感じる祐一。
バハムートも、 神魔のその言葉を聞いて、 目を見開いて祐一を見た。
「 ……。 」
そして神魔を見るバハムート。
「 …… フッ …… フハハハハハ! これは面白い。 この4000年、 数多のプロポーズ、 数多の
縁談にも見向きもせず、 孤高を貫いていた神魔の心を、 この少年が射止めたとは! 」
余程ツボに入ったのだろう、 バハムートは大笑いに笑った。
「 そうじゃ。 我の心は、 祐一に射止められた。 それは真実じゃ。 笑いたければ笑え。 」
真っ直ぐに、 バハムートを見据える神魔。
その視線に気付いてか、 バハムートも笑うのをやめ、 再び厳しい目で神魔を見る。
「 …… 解った。 この子の滞在許可を与える。 だが、 一つ聞きたい。 」
「 何じゃ? 」
「 …… 本当に、 本気か? 」
「 …… 祐一が、 我に王女の立場を捨てて、 共に人間界に逃げようと言ったなら、 我は即座に
身分の捨て、 共に行く。 」
「 そこまで本気か。 解った。 」
「 聞きたいのはそれだけか? 」
「 ん? ああ、 それだけだ。 ルエルに頼まれていたのでな。 もしお前に愛する存在が出来た時は、
色々とサポートして欲しい……とな。 」
「 そうか……。 母上……。 」
「 神魔、 その想い、 大切にな。 お前の目は確かだ。 」
「 …… ありがとう。 」
そう言って、 神魔とバハムートは、 やっと和やかな雰囲気となった。
「 滞在中は、 我が城の部屋を使うと良い。 」
「 感謝する。 」
その日、 神魔達はバハムートの城で、一夜を過ごした。