外伝第8話 「 竜主の秘泉 」






 「 やっぱり……、 恥しいです、 お姉ちゃん。 」

 「 何を言うておる。 私だって、 素っ裸じゃぞ? 」

 「 ……。 」

 祐一は、 少し顔を紅くして、 そっぽを向いた。

 今、 祐一と神魔は、 二人きりで露天風呂の女湯にいた。

 最初、 祐一はルシフェルやローズレッドと一緒に、 男湯へ入ろうとしたのだが、 神魔に見つかり、

 強引に女湯へと連行された…… のだった。

 「 ん? 何を紅く……、 はっはぁん……、 さては祐一、 私のナイスバディーにやられたか? 」

 そう言って、 祐一の背中に抱きつく神魔。

 ふにょん……、 と言う擬音が、 作者には聞こえた……、 気がした。

 そう、 あくまで気がした……、 だけ?

 後ろから抱きつかれて、 祐一は益々紅くなった。

 「 うっ……、 お姉ちゃん、 そんなにボクを苛めて楽しいの? 」

 潤んだ瞳で上目遣い、 今度は逆に神魔が、萌えの衝動にかられていた。

 …… 神魔、 やっぱショタかも……。



 戯れ合いも程々に、 二人はお互いに背中を流し合い、 湯の中へと入湯した。

 「 ふ〜〜〜〜〜〜……、 暖まるのぅ……。 」

 「 うん……。 そう言えば、 お風呂に入ると-、 必ずその場の誰かが歌う歌って言うのが、

 人間には有るよ? 」

 「 歌? こう言う場でか? …… ふむ、 興味有るな。 祐一は歌えるのか? 」

 「 うん。 短いし、ホントに誰でも歌えるよ。 」

 「 じゃあ、 歌ってみてくれるか? 」

 「 うん。 」






 ♪ ババンババンバンバン ♪ ♪ ババンババンバンバン ♪

 ♪ ババンババンバンバン ♪ ♪ ババンババンバンバン ♪

 ♪ いい湯だな アハハン ♪ ♪ いい湯だな アハハン ♪

 

 

 ♪ ここは魔界の 竜の国の湯 ♪


 ( ドリフターズ 「 いい湯だな 」 抜粋 )



 「 プッ♪ 面白い歌じゃな♪ 成る程この場にはピッタリじゃ! 」

 「 お姉ちゃんも歌う? 」

 「 歌うぞ歌う♪ 祐一、 もう一度歌詞を教えて欲しい。 」

 「 うん。 」

 神魔は、 祐一に歌詞とメロディーを教えて貰い、 二人で合唱をし始めた。






 一方、 男湯。

 「 向こうは楽しそうですね〜、 ルシフェル。 」

 「 …… よもや神魔様がこれを歌うとは……。 目の前の現実なのに信じられん。 」

 いつもよりものほほんとしているローズレッドに対し、 ルシフェルは神魔の行動に、 目を白黒させていた。

 「 そう言えば、 娘のアユちゃんは如何したんですか? 」

 「 ん? アユは疲れたのか、 城の部屋で寝ているぞ。 」

 「 あらら……。 」

 「 まあ、 祐一には、 アユより神魔様に付いていて欲しい。 神魔様がどんどん良い方向に

 変わっていくのでな。 」

 「 同感ですね。 私は祐一と出会う前の神魔様より、 祐一と出会ってからの神魔様の方が好きですよ。 」

 「 …… それは右に同じだ。 今の方が断然良い。 」

 「 ですが、 そろそろ気を付けた方が良いでしょう。 パンデモニウムの者達は、 皆結束が固く、

 口が堅いから良いですが、 っこではそうもいきません。 城の重鎮達の中や、 街中の者達の中から、

 いつ祐一の情報がサタン様に伝わるか、 解りませんので。 」

 「 …… そうだな。 」

 そう言って、 ルシフェルは無詠唱で上級魔術        を、 外壁外の茂みに向かって放った。

 「 ぎゃあ!! 」

 と、 何者かの悲鳴がし、 ドサリという音がした。

 「 …… 早速手を打つとしましょう。 」

 「 よろしく頼む。 」

 ローズレッドとルシフェルは、 頷き合うと湯を出て、 それぞれのするべき事をしに、 別行動へと移った。

 だが、 ルシフェルもローズレッドも気付いてはいなかった。

 スパイが、 決して一人だけとは限らない事を。






 「 ふ〜〜〜っ……、 いい湯じゃったな? 祐一。 」

 「 うん、 楽しかった。 」

 湯から上がり、 軽装になった二人は、 城のテラスへと来ていた。

 「 フフ、 どうだったかな? 我が城の露天風呂は。 」

 そこへ、 バハムート王もやって来た。

 「 良かったぞ、 バハムート王。 」

 「 気持ち良かったです、 バハムート王様。 」

 「 そうか。 それは良かった。 」

 そう言って、 バハムート王は祐一を抱き抱え、 祐一の座っていた椅子に座ると、 自分の膝に

 祐一をチョコンと座らせた。

 「 バ ……バハムート様!? 」

 「 こりゃ!! それは我の特権じゃぞ!? 」

 「 堅い事を言うな、 神魔。 私には娘はいるが、 息子がおらんのでな、 どう言うものか、

 確かめてみたいと思ったのでな。 この場かぎり許せ。 」

 「 …… ううう、 祐一が良いと言うなら。 」

 「 ふむ……、 では良いか? 祐一。 」

 「 お姉ちゃん……。 」

 祐一の困った顔を見て、 神魔は……

 「 うっ……、 わ、 解った。 祐一のそんな困った顔は見たくない。 バハムート王、 この場限り、

 いや、 今日限りだぞ? 」

 「 ふむ、 一日まで許してくれたか。 解った。 では、 祐一にして貰いたい事が有る。 」

 「 祐一にして貰う事? 」

 「 ボクにですか? 」

 「 うむ。 神魔は知っていよう。 我等竜族の正体はドラゴン。 だが、 真の正体になり、

 真の実力を己の意思一つで使えてしまうのは、 他に圧力を与え、 余計な戦乱を招く。

 だから、 我等竜族は力を封印し、 人型となり、 元のドラゴンに戻るには、 自らが定め認めた

 主を頂き、 その契約履行によってのみ、 戻れる様にしたのだよ。 」

 「 ……。 」

 「 我等の主となる資格は、 どの種族にも有る。 同族の時もあれば、 魔族や神族、 人間にも有るのだよ。

 残念ながら、 同族と神族からしか、 主は誕生していないがな。 で、 この国に訪れた客人には、

 必ず我等竜族の主たるかを判別する、 竜主の秘泉に入って貰っている。 祐一にも試しに入って貰いたい。

 どうかな? 」

 「 ……入るだけでいいんですか? 」

 「 うむ。 」

 「 ……解りました。 習わしの様なもののようですから、 ボクもそれに習います。 」

 「 そうか。 では、 少し談笑した後、 その秘泉へと行こう。 」

 「 はい。 」

 「 神魔も良いかな? 」

 「 祐一がOKしたのじゃ。 是非もない。 それに、 知ってはいたが、 竜主の秘泉は見た事ないのでな。

 この機会に見たいしな。 」

 「 そうか。 」

 この後、 30分程たわいない雑談をし、 バハムート王はテラスを後にした。

 二人と30分後に、 謁見の間で落ち合う事を約束して……。

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