孤立無援

阿修蛇櫨斗



 「 貴方達は、 馬鹿ですか? 」

通信システムの向こう側で、 呆れかえった様子で、 怒りをも含んだ表情で副指令の扇を睨むジェレミア ・ ゴッドバルト が、 宣った。

 「 なっ、 馬鹿とは・・・。 」
 「 馬鹿でなければ、 屑、 もしくは愚か者とでもいいましょうか? 」

 馬鹿と言われ反論しようとする扇の言葉を遮り、 ジェレミアは更に扇を罵倒した。

 「 おい、 何だそれは! 」

南が珍しく目くじらを立てて、怒りを露わにする。
 
「 俺達はな、 ゼロにずっと騙されていたんだ! アイツは・・・。 」
「 だから愚か者と言うんだ!!! 」

南や杉山の言葉さえも、 ジェレミアは己の騎士団ンバーへの怒りの叫びで、
打ち消してしまった。

 「 先程から聞いていれば、 小出しに与えられた情報のみを鵜呑みにし、それが全ての真実と思い込み、 
あげく自分達のリーダーをまったく信じずに、いとも簡単に裏切って・・・。 
それで今まで良くブリタニアを敵に回し、 戦えていたもですね? ・・・いや、 殿下の力がそれだけのものだったと言う事でしょうが。 」
 「 殿下? ジェレミア、アンタは騎士団側に着いた時から、 ゼロの正体を? 」
 「 勿論、 知っていた。 ギアスの事も、 妹殿下の事も、 ロロの事も。 」

 ジェレミアは話ながらも、 その瞳は騎士団のメンバーの中でただ一人、 カレンを見ていた。

 「 紅月 カレン ・・・ だったかな? 」
 
急に自分の名を呼ばれ、 カレンは驚いて画面へと顔を向ける。

 「 えっ? わ ・・・ わたし ・・・ ですか? 」
 「 この名前は君しかいないだろう? 」
 「 は はい ・・・ 何か? 」
 「 君は、 後悔しているのではないか? 一度裏切った君だ、 もう一度殿下を助けた時、 そう心に誓ったのではないのかね? 」
 「 ・・・ 知って ・・・ いるんですか? 一年前の事 ・・・。 」
 
カレンの言葉に、 ジェレミアは黙って頷いた。
 
 「 そうですね、 私は、 ずっと後悔してた ・・・。 どうして、 あの時逃げ出してしまったんだろう? 
どうして、 目の前の真実を受け止められなかったんだろうって。 」
 「 待ってくれ! 」

扇が、 カレンの独白にストップをかける。
 
「 二人は何の話をしているんだ? 話が見えない。 頼む、 俺達にも解る様に話して貰えないだろうか? 」

扇の言葉に、 カレンがジェレミアを見た。
ジェレミアがカレンに対して頷き、 主立ったメンバーも聞くべきだと言い、 扇が
主要メンバーに集合をかけた。






 今、 このメインルームには、 扇をはじめ、 藤堂、 千葉、 ディートハルト、
杉山、 南、 ラクシャータ、 カレン、 玉城、 記憶を失ったC・Cも連れて来られていた。
C・Cは椅子の陰に隠れている。
ヴィレッタは、 今はまた軟禁状態のままだった。



 「 では、 話してくれたまえ、 紅月 カレン。 」

ジェレミアの言葉に、 カレンは頷いた。

 「 一年前の、 ブラックリベリオンの時、 ゼロが戦場を離れた事が有ったでしょう? 
扇さんは、 ゼロのやる事には必ず意味が有る、 そう言って、 私に白兜の後を追う様に指示を出した。 
だから、 私は後を追った。 向かった先は、 神根島。
私が着いた時には、 もう枢木 スザク とゼロ ・・・ルルーシュは対峙していたわ。
そして、 そこで私も始めてゼロの正体が、 自分のクラスメイトのルルーシュだって知ったの。 
私は ・・・、 その時瞬間的に騙されたって思って・・・。 彼を見捨てて逃げ出した。 」
 「 ・・・ それは当然の反応だ、 カレン。 」
 
扇が、 少し安心した様に呟いた。
だが、 カレンは頭を横に振り、 涙をポロポロと零しながら、 再び話し始めた。

 「 違う・・・、 違うの・・・、 私は、 私だけじゃない、 ここにいる全員が、 何も知らな過ぎたのよ・・・。 」
 
カレンの言葉に、 画面の向こうでジェレミアも頷く。

 「 ・・・どう言う事かな? カレン。 」

藤堂が話を促す。

「 みんなを助けるまでの一年間、 私は多くの時間を、 記憶を失う前のC・Cと一緒に過ごしていた。 
その一年間で、 私はC・Cにゼロの・・・、 ううん違う、ルルーシュの事をたくさん聞いたわ。 ルルーシュはね、 本当は誰よりも優しい人なのよ・・・。 」
 「 ・・・・・・。 」
 「 ルルーシュはもうみんなも知ってる通り、 私と同い年。 だけど、 それまでの人生は、 私達とは比べ物にならない位、 地獄・・・、 
ううん、 地獄と言う言葉すら生温いものかも知れない程、 残酷で酷いものだった。 」

 まず、 ブリタニア本国内で母親が殺された事が話され、 父親には見捨てられ、 
政治の道具として日本に送られた事、 その日本にいる事を知りながら、 戦争を仕掛けた父親、 
後ろ盾だったアッシュフォードに戦後は匿われ、 17になるまで妹である今は亡きナナリー皇女殿下とヒッソリと暮らしてた事、 
C・Cと出会い、 彼女からギアスの力を与えられた事、 
それが切っ掛けで、 ブリタニアを倒す為に組織を作る事を決意し、 黒の騎士団を立ち上げた事、 
自分の正体がブリタニア人でしかも皇族で有る事が知れれば組織が簡単に瓦解することは容易に想像出来る事から、正体を明かす事が出来なかった事、 
ユーフェミアに関しても、最初は特区日本に参加する事を決めていた事、それがギアスの暴走により、ユーフェミアが虐殺へと走り、最早殺して解放するしか方法がなかった事、 
朝比奈からの情報に関しては、ジェレミアが補足し、
その今みんなが問題視しているギアスの能力を持つ女子供を産みだし続けるギアス饗団を壊滅させる為に、あえて心を鬼にして行った事、 
その作戦に自分も参加していた事をジェレミアは付け加えた。

「 ルルーシュは、 戦いを続ける間に、 大切な物を一つ、 また一つ失っていった。
親友との絆、 大好きだった義妹や義兄、 そして親友や自分を愛してくれた女の子。
記憶、 最愛の妹、 そして最後の砦だった黒の騎士団、 もうルルーシュには、何一つ残っていない。 」

 藤堂は、 恐らくこの中でもっとも早く、 事態のまずさに気付いたのであろう。

 「 私が最初に馬鹿と言ったのは、 この後誰が斑鳩に搭乗する黒の騎士団を、指揮すると言うのかね? 殿下以上に優れた采配を揮える者が、 この中にいると? 」
 
カレンも言われてその事に気付いた様で、 扇や藤堂を見る。

 「 第二皇子 シュナイゼル殿下に、良いように攪乱させられた様子。生憎だが私には君達にかける情けはない。
私はルルーシュ殿下の騎士、急いで殿下を探し、馳せ参じなければならないのでね。 」

そういって、 ジェレミアは通信を切ろうとした。

 「 待って、 ジェレミアさん! 」
 「 ・・・ 何かね? 紅月 カレン。 」
 「 私は、 私はまだ ・・・、 ゼロの親衛隊長です。 私はもう、 ルルーシュを孤独にしたくない!! 今解った・・・。 私、 ルルーシュを愛してる・・・。 」
 「 ・・・ わ 私もです。 」
 
椅子の陰に隠れていたC・Cが、 恐る恐るカレンの傍に膝をついた。

 「 C・C・・・。 」
 「 ご主人様は、 優しい方です。 記憶と言うものを無くした私を、 奴隷扱いせずに普通の女の子として扱ってくれますし、 
あの、 誰かの為に誰かに頭を下げて謝っていたりもしてました。 きっと、 亡くなられた妹さんの為だったんだと思います。 」

C・Cは、 ニッコリと微笑んだ。

  「 以前の私がどんな性格だったのかは、 今の私には解りません。 
でも、 以前を覚えてない事が不思議と恐くなかったのは、ご主人様が本当に優しく暖かく接してくれたからだと思います。 
だから、私も出来るだけご主人様のお役に立ちたい、一緒にいたい、そう思う様になりました。きっと、こんな当たり前の想いが、愛なんだと思います。 」
 
C・Cのセリフに、 カレンとジェレミアが暖かくも優しい表情を浮かべた。

 「 うん ・・・、 うん、C・Cの言う通りだわ。ジェレミアさん、私、覚悟を決めました! 」
 「 わ ・・・ 私もです! 」

若い女性陣二人が、 画面向こうのジェレミアに対して、 覚悟を決めた。

 「 ならば、 殿下の下へ行かれるが良い。 それでも着いて来る者を、 殿下は拒みはしないだろう。 
後ろの扇や藤堂に遠慮する事はない。 個人の道は、 個々それぞれが選するべきだ。 そこに他者の思惑が入ってはいけない。 」

カレンを止めようと、 カレンに話しかけようとしていた扇に対して、 ジェレミアは牽制をかけた。
藤堂は、 ジェレミアの言ってる事が正しいと思っている為、 動かない。

 「 それと、 扇さん。 紅蓮は私がゼロから与えられた、 私の剣。 一緒に持って行きますから。 」

カレンは、扇を睨み付けながら宣誓した。

 「 行くわよ、 C・C。 」
 「 は ・・・ はい。 」

カレンは、 C・Cの手を掴み、 メインルームから出て行った。

 「 ・・・ さて、 では私も失礼する。 後先の事も考えず、 軽はずみな行動を起こした報いを受けるがいい。 斑鳩だけで、 何処まであの第二皇子相手に善戦出来るかな? 」

そう死の宣告を告げ、 ジェレミアは通信を切った。
と、 ほぼ同時に、 紅蓮と小型艇が一機、 斑鳩から発信した。
恐らくラクシャータ達技術陣だろうと、 藤堂は検討をつけた。

その場には、 青ざめた顔の扇や杉山、 南や通信3人娘、 千葉が残された。
 

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