Avec Abandon・SP02

茶屋と違い宿場は商人が立ち寄った際に市が立ち上がり、
それを目指してその時期には近隣の村々から人が集まる。
市の立っていない今日現在でも小さな商店街みたいなストリートが存在しているので
普段の宿場は小さな村と言った感じである。

「と、いう訳であたし達はこの宿場で一番大きな宿にいます。」
「・・・香里?」

いきなり言い出した香里に怪訝な顔を向ける祐一。

「パターン破りは必要でしょ?」

祐一に対して香里はにぱっと祐一に笑った。

「ま、まぁな・・・」

祐一との出会いは何か吹っ切れた香里だった。
悔しさを隠せない祐一。

「・・・庶民には一生夢な豪華な所ね・・・」
「王族、貴族、大商人御用達用だからな、実は回転率悪いんだぜ〜。」
「・・・わかる気がするわ・・・」

入り口を入ると、金箔に覆われた・・・などと言う事は無いが見事な石細工が置かれ、
装飾も煌びやかな内装に香里は驚いた。
まぁ、そう毎日王族貴族が宿泊する訳でなく、商人も同じ、こういった大きい宿は冒険者ギルドの運営でまかなえるハズもなく、
たとえばここの王侯貴族対応宿「陣」は都市国家雪舞の倉田家がスポンサーでどうにか運営しているのだった。

「ちょっと待ってろよ。」

そう言って祐一がフロントに話しかけると、二人は大広間の方へ案内された。
香里は周囲に気位だけの騎士が多いのが気になったが、祐一が気にしないで進むので慌てて後を追うのだった。
大広間に入った二人は並んで上座に向かって膝を着いて頭を垂れた。
刀は右側で刃を自分側にして置いてある。

「姫のお成りです。」

香里は左右に控える騎士の紋章を確認する事を忘れて、姫と言う言葉に縮こまってしまっていた。
上座の椅子に一人、その左右に三人現れたのが香里にも解った。

「面を上げて下さい。」

そう言われて香里は恐る恐る顔をあげた、そこには

「(くっ、くっ、くくくくく倉田先輩??!!!)」
「雪夢の太守ご息女、倉田佐祐理様、冒険者ギルドより護衛の依頼を受け参上仕りました。」

ドレスを着て椅子に座るは、雪華学園での先輩倉田佐祐理、右には後輩倉田一弥、左には先輩川澄舞、冥の姉妹・・・・
驚いて口をパクパクさせている香里を祐一は横目で見ながら可愛いと思いながら楽しんでいた。

「私は祐一、姓はありません、パートナーは美坂香里、ギルドランクEです。」
「祐一殿もランクEなのですか?」
「いいえ、私はランク取得を致しておりません。」
「まぁ、それは何故に?」
「意味が無いからですね、おまけにランクでしか人を判断出来ない愚か者が増えるばかりですから・・・」

佐祐理は口元に手を当ててころころと笑った。

「それではすいませんけれども、兵達を納得させる意味でも一試合お願い出来ますか?」
「了解した。」

佐祐理に右に立っていた一弥がすでに用意していた木刀を祐一に手渡した。

「(あれ?)」

香里には、何かが頭の隅に引っかかった。
何だろう、違和感に思えば違和感が頭をぐるぐるする・・・・
考えているうちに促されて、壁際へ下がった。

「「おねがいします!」」

一弥が正眼に構え、祐一は正眼からやや下がりでやや右の姿勢だった。
じりじりと緊迫感の中、すり足で移動の音だけが伝わって来る。

「ヤェッーーーー!!」

若さと経験不足からだろう、一弥が耐えきれなくなって先に仕掛けてきたのだが、
祐一は軽く一閃。

「そちらの方、次来ますか?」

佐祐理の横に立つ舞にまで挑発してきた。

「・・・大丈夫、一弥はまだ負けてない・・・」

一弥が一端ひざをついた事は祐一には分かり切っている。
解っていての言葉だった。

「ま・・・・だです・・・・」

どうにか立ち上がった一弥だが、頑張りはそこまでで崩れ落ちた。
慌てて香里が一弥を支える。

「一撃で?・・・」

いくら祐一でも一撃で倒せるほど一弥は弱く無いと香里は思っていたのだが・・・
そこで又香里には違和感だった。

「・・・・」

佐祐理が椅子から立ち上がって祐一に近づいた。

「・・・・」

多少は自衛の剣を習っている佐祐理にとっても祐一にとっても間合いの距離まで近づいた。
機先を制したのは佐祐理だった。
手加減はするだろうも一撃で墜ちる佐祐理を想像してしまう香里・・・・しかし

「ゆういちさぁぁんっ!!」

佐祐理は祐一に抱きついたのだった。
ぽかんと目を丸くする香里。

「祐一さんっ、祐一さんっ、祐一さんっ、佐祐理、逢いたかったですよ〜っ、」
「あはは、お久しぶり・・・かな?」

打ち身で済んだ一弥がどうにか香里に手伝って貰い立ち上がった。

「まったく・・・二年も何処に行っていたんですか?あにうえ。」
「あ、あにうえ〜〜っ?」

祐一に抱きしめられて幸せそうな佐祐理にも驚きつつ、一弥の言葉にさらに驚いている香里だったが。

「お兄様?レクリエーションは終わりました?」
「・・・まだ」
「わくわく・・・再会の熱いベーゼが残ってるんだよ〜・・・・」

祐一に似た少女が奥から現れて、驚くのを諦めた。

「ねぇ祐一・・・あたし騙されてる?絶対騙されてると思うんだけど・・・」
「今ここに居るのは、一衣帯水、これからはアナタも一緒だよっ、」

まぁまぁと香里をなだめる一弥、舞、冥で見えなかったが、
祐一と佐祐理がキスしていてそれを少女がサムズアップしながら写真を撮っていた。

「さて・・・・」
「さてじゃないわよ、祐一」
「香里の知らないのは?」
「もうっ、・・・その彼女かな?」

香里は一弥の横にぴったりくっついている少女を指した。

「あっ、私ですね?」
「僕が紹介しますよ、妻の祐唯です。」
「へ?」

まだ驚くのか・・・・一体何回脅かそうというのだろうこの男は・・・
と香里はいたずらな目で笑う祐一を後で殴ろうと心に決めた。

「香里〜、王侯貴族連中の婚姻は生まれて即っていうのもあるんだぞ〜」
「まぁ・・・そうなんだけど、さすがに倉田君がそうとは思わなかったから・・・」
「学園では黙っていましたから。」

祐唯を見て微笑む一弥。
一弥と祐唯が目線で会話を成立させてるのを、何か羨ましい香里だった。

「何時からなの?」
「う゛〜〜ん?」
「あ〜〜ひどい、一年と三ヶ月ですっ、お兄様に扱いて貰いますわよ?」
「ちょっ、それは勘弁・・・」

仲の良い二人に祐一はこれ以上無いほどの優しく微笑んでいた。

「でもって祐唯は俺の妹だ。」
「はい?」
「私はお兄様の妹なので。」
「僕の義兄上って事です。」
「そ、そうなのね・・・・あはは・・・」

さすがに香里も情報過多かもしれないと思った祐一は本題に入った。

「それで佐祐理さん、仕事の・・・」
「あはは〜っ、祐一さん、お昼ご一緒しながらでどうですか?」
「「・・・お腹減った・・・」」
「そうだな。」
「今日は祐一さんが来るって言うので祐唯さん張り切っちゃたんですよ〜っ、」

この時の佐祐理の目を見た香里は、有る意味祐一と同類?と考えていたが、
のちにその同類に自分も含まれる事を指摘される事を知らない。
祐唯の手作りの料理は王家御用達の料亭顔負けのおいしさだった。

「うむ、美味いぞ祐唯、もっと頑張って一弥をめろめろにするのぢゃ〜」
「はいっ、もっとめろめろにして必ずや子宝をっ、」
「・・・・なに盛り上がっているのよ・・・でもけっこう美味しいわね・・・」

こそこそっと佐祐理は一弥にささやいた。

「解ってると思いますけど〜、佐祐理は叔母さんより先にお母さんになりたいんですからね〜っ、」
「駄目です義姉さまっ、私は子の産めない役立たずと呼ばれたく無いですよぅ〜・・・」

目敏く気付いた祐唯が佐祐理に反論する。

「祐唯さん?それは佐祐理は祐一さんにいつまでも貰って貰えないって事ですかぁ〜っ、」
「ね、姉さん、今年懐妊しないと祐唯の風当たりが強くなるのですよ、そういう意味ではないですって。」
「お義姉さま、お兄様がその時期を上手く避けてるのと同じで一弥さんも避けるのですぅ・・・」
「・・・祐唯さん、次の時期は?」
「姉さん?なにを?」
「来週でしょうか?・・・」
「・・・同じ日に生まれる従兄弟・・・祐唯さん。」
「いいですね・・・・お義姉さま。」
「今夜から二人の料理は・・・・」
「いえっさ〜です、お義姉さま。」
「あぁ・・・・二人が黒く見えるよ・・・・あにうえ・・・」

舞と冥は周囲を気にしないで食べるのに夢中だった。

「・・・みまみま・・・祐唯、最近佐祐理に匹敵してる・・・」
「あ〜そのお肉は冥のだからっ、舞取らないでぇ〜〜っ」
「・・・早い者勝ち・・・」

祐唯の子宝発言に赤くなっていた一弥だが、

(どうしろって言うのさ・・・義兄上、姉上・・・)

「そろそろいいかな?」
「ふぇ?」
「護衛の話。」
「あははは〜っ、忘れてました〜」

祐一が来てくらた事の嬉しさでその事をすっかり忘れていた佐祐理だった。

「あにうえが来てくれると思って居なかったので内容を限定していたのですけど、
今回姉さんが父の名代として大地母神の神殿へ赴く途中なのです。
「それでですね〜っ、神殿までの護衛をお願いしたくギルドに依頼したのですよ〜」
「・・・・佐祐理・・・」
「・・・佐祐理さん、正直に言って下さい。」

舞と祐一の言葉に、佐祐理と一弥は表情を暗くした。

「お兄様・・・」
「祐唯、俺はこれでも兄貴だぞ?不安を隠しているくらい見抜けないでどうする?」

ぽふぽふと祐唯の頭を撫でながら、佐祐理達にとって安心をもたらす笑みを皆に向けた。

「おそらく今回は佐祐理さんの叔父、雪夢の右大臣楢柾のごり押しで決まったのでは無いかな?」
「・・・当たりですあにうえ。」
「近衛の数が少ないのが一つ、」

祐一は次に一弥の頭を一撫で。

「左大臣縁の従者と本家の従者しか居ないのも一つ、」

そして佐祐理の頭を撫でた。

「護衛追加しなければならない事が一つ。」

今度は舞。

「途中で一回は襲われたな?隠していた様だが近衛の半分は怪我していただろ。」

最後に冥を撫でてから香里の隣に座った。

「確か神殿への参拝者は参拝の前一定期間は戦闘などの闘争本能を刺激する行為は禁止だったな・・・」
「ねぇ祐一・・・・結構危険?」
「かもしれないって言ったら?」
「あたしはやるわよ、栞の事も大事だけど、倉田先輩や倉田君の危機を知ってしまってそのままも出来ないわよ。」
「佐祐理さんが戦えたら護衛は一弥、舞、冥で十分だもんな、・・・一弥、おまえの姉弟子は頼もしいぞ。」

香里に微笑む祐一を見て、佐祐理はちょっと拗ねた顔をしていた。

「佐祐理・・・祐一なら依頼を出して居なくても駆けつけてくれる。」
「そうですね〜、舞、佐祐理の祐一さんへの想いはまだ未熟かもしれません。」
「出発は明日でいいのかな?」
「あっ、はい、今日護衛の方と合流予定でしたので〜。」
「こっちに部屋を用意して貰っていいかな?」

祐一が佐祐理の瞳をじっとのぞき込む、佐祐理は段々と魅入られたかの様にぽ〜〜っとなって行った。

「・・・佐祐理?」

冥が横から佐祐理の目の前で手を振った。

「は・・・あ、あはは〜っ、すぐに用意しますね〜。」
「香里、こういった高級宿に泊まれるのは滅多に無いからな?明日から大変だから、十分に休息しておけよ?」
「わかったわ、祐一は?」
「俺はこのあと近衛達と打ち合わせしておく。舞、冥、一弥。」
「はい。」
「・・・わかった・・・」
「・・・いいよ〜」
「な、何?どうして両腕を抱えられてるの?ちょっと?え?あれ?」
「・・・乱戦の稽古・・・」
「川澄先輩?」
「姉弟子・・・なんかわくわくしてきますね・・・」
「倉田君?」
「私は魔法のお相手♪〜」
「冥さん?え?え?え?え?ゆういちぃ〜・・・」
「今日の分の鍛錬はその三人が教えてくれるから、頑張ってね〜〜」

香里は舞と冥に抱えられて部屋を出ていった。

「さて、佐祐理さん・・・」
「祐一さん・・・・」
「寂しかった?」
「あたりまえですよ〜、佐祐理をほっといた分、簡単に許してあげませんからね〜。」
「解った解った、お詫びの手付けで・・・・」

がばっと祐一は佐祐理を抱きしめた。

「あ〜〜このぽわぽわ感、佐祐理さんの抱き心地がやみつきになりそうなんだよなぁ〜。」
「あ、あはは〜っ、佐祐理も祐一さんの抱き心地や臭いが隙なんですよ〜っ、」
「佐祐理さん・・・」
「それに祐一さんは、佐祐理の危機に駆けつけてくれました・・・」

二人の顔が近づき、佐祐理が目を閉じた。

「・・・・あの〜〜お兄様・・・・私、まだ居るのですけど・・・・」
「「あ、あはははは〜っ、」」





「あれ?香里さん、その刀は星降?」
「そうよ、祐一に貰ったのよ。」

香里は刀を抜いて一弥に対峙した。

「なら僕も。」

一弥も腰からすらりと刀を貫放った。

「これも星降です、僕のスタイルは二刀流。」

香里がよく見ると、香里の刀よりも短い、香里の刃紋と同じ刃紋の二本だった。

「星降の家族だそうですけど、あにうえは入手先を教えてくれないんですよ・・・」
「あたしのは祐一のと夫婦刀と言っていたけどそれは兄弟刀ってところかしら?」
「そうです、それでは始めましょうか、舞さんも途中参加してきますからね。」
「え〜〜〜っ、」

打ち合い初めて数刻、その隙を縫って舞の剣が香里を襲う。

「ほらほら、乱戦ではいつも前から来るとはかぎらないですよ、香里姉さん。・・・ほいっ!」
「ちょ、ちょっとなんであたしが姉さんなのよっ、!!・・・えいっ!!」

一弥の刀の片方を上手く舞に流しながら、香里が叫ぶ。

「姉弟子って事ですから、それとあにうえと縁を結んだんでしょ?・・・よっ!」
「なっ、せやっ!」
「香里姉さんからあにうえの気の残留を感じるよ・・・・っと。」

舞の一撃は重い、が刀の特性を祐一に叩き込まれた香里にはその力を上手く逃す。
その剣が一弥を襲う。

「なら倉田君、今日から一弥君と呼ぶわっ!!・・・はぁっ!」
「・・・香里、開き直った。・・・・んっ!」

端から見ているとかなりの高速の剣戟、良く喋っていられるなぁ・・・と冥は関心していた。

「私も入っていい?」
「「「駄目」」」
「・・・ぐしゅぐしゅ・・・・」

参加したくてうずうずしてきた冥が聞くと、声を合わせて拒否されてしまうのだった。

さらに数刻

「はぁはぁはぁはぁ・・・・二人ともタフすぎよ・・・・」

床に転がって荒い息を吐く香里

「か、香里さん・・・学園ではEクラスだったと思ったけど・・・・はぁはぁはぁはぁ・・・・」
「・・・・香里・・・・Cくらい・・・」

一弥と舞も疲れ切って同じく床に転がっていた。
ちなみに学園ではF(フェイク)とよばれる初心者ランクのままだった一弥
舞はDランクだった。
実際は二人ともCランクに認定できる腕前だった。

「か、一弥君も・・・・」
「僕はあにうえに経験が足りないからランク上げる意味無しって言われましたからね・・・」
「・・・祐一はランク尊重忠義が嫌い・・・・」

実際に一弥も舞も、学園やギルドでのランクに過信し増長している者のあっけない実戦での死を見てきていた。

「・・・かおりんは学園出身の冒険者の生存率知ってる?」

にこやかにしていた冥が急にまじめな表情で香里に聞いた。

「え?う〜〜ん・・・・五割?」
「都市の自警団に入った人を別として、冒険者として旅に出た人は一割生きていればいい方なんだよ?」
「その点、あにうえと出会った香里姉さんは運がいいよね、その一割に入ったのだから。」
「・・・祐一と一緒に居れば生き残れる・・・たぶん」
「た、多分って何?」

悲しそうな顔をして一弥が言った。

「あにうえが星降の薙刀を渡した人のパートナーだった娘が、過信して・・・・」
「死んだの?・・・・」
「・・・魔術でもすぐに直らない大怪我。」
「そう・・・・」

息が整った香里が立ち上がった。

「あ、そう言えば舞さんの剣は星降では無いのですね。」
「・・・私の剣の使い方は東洋刀には合わない。」
「舞の剣は細身だけど、祐一がオリハルコンだって言っていたのよ〜」
「オリハルコン?!」
「・・・祐一が遺跡で見つけたって言ってた。」

祐一の謎が増える香里だった。

「さて今度は冥と魔術だよ〜」
「香里姉さんの魔術は紋章魔導?」
「そうよ、」
「それだと冥さんでは無理だね。」
「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「だって、冥さんは高速言語の古代魔術じゃないですか・・・」
「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「私は魔術が一切出来ないから先上がる。」

冥、一弥、香里が問答してる間にさっさと舞は退出していった。

「・・・おなかすいた・・・牛丼・・・・」

食堂に行くらしい・・・

「さて、香里姉さんはこの動きが出来る?」
「・・・姉さんはやめてほしいのだけど・・・・」

一弥は某パン職人の漫画にあった様な女神の(削除)の様に指をうねうね動かした。

「無理っ!出来ないっ!出来るわけ無いわよ〜〜っ!!」
「ほらほら〜こうやって腕も動かしながらすれば、同時に沢山の魔法陣を作れるのですよ〜っ、」
「いやぁっ!!どう見ても怪しい踊りにしか見えないぃ〜〜〜っ!!!!」







夜、眠る佐祐理を確認すると祐一はチュニックに刀を差しただけの格好で宿の外に出た。
夕食のまむしやすっぽん料理に暴走した祐一によって寝ていると言うよりも失神かもしれないが・・・

「お〜お〜・・・よくもまぁ、集まってからに・・・」

そこにはいかにも暗殺者でございな格好と雰囲気を持つ男達が十数人居た。

「女性の寝込みは襲うものでは無いぞ?」

男達は答えない。
祐一の放つ気に押さえられてうかつに動けない様だ。

「祐一っ!」

そこに装備を着込んだ香里が走って来た。

「何なの?」
「他のみんなは?」
「佐祐理さんの所よ」
「OK、じゃぁ香里、俺の動きを良く見ていろよ?」

すっ、と、祐一は腰の刀を抜いた。
男達の方には緊張が走る。

「どうした?眠ってる女子供しか手を出せないほど弱いのか?こちらから行くぞ。」

それは香里にとって一瞬に近い素早さだった。
男の前に現れては一閃、また一閃。
香里が我に返った時には、手足の筋を切り裂かれ倒れる男達と涼しげに立っている祐一の姿だった。

「・・・どうやって見ろって言うのよ・・・まったく・・・・」
「香里・・・筋を断ち切って無力化するのが流派の峰打ちだ。」
「・・・・」
「今後の為に香里の覚悟を示して欲しいけど・・・出来るかい?」
「どういうの?」
「人を殺す。と言う事さ・・・」

その時、一人の男が立ち上がった。
どうやら一人だけ当て身で気絶させただけだった様だ。

「今後冒険者となれば必ずそうしなければならなくなる。ならなくても家族に危害を与える存在に出会った時にも・・・・だ。」
「つまりその男はあたしの相手に残したって事?」

香里は腰の刀を抜いた。

「あたしは栞を救うためにこの道を選んだのよ、この先、祐一と居る事を選んだ場合必要って事ね・・・」

そう言って香里は男に斬りかかって行った。





祐一は宿場の自警団に暗殺者グループを引き渡した。
再起不能の負傷者15名、死者1名、香里は開き直って攻撃する男に苦戦するも勝利したのだ。
その間祐一は倒れてる男達から何か聞き出していた。

「香里?」

祐一が戻って来ると、香里は現場にじっとしていた。
初めて奪った他人の命、その衝撃に己の手を見つめて震えていたのであった。
ここ数ヶ月の祐一との旅では、祐一が上手く回避していたので戦いと言える戦いは皆無だった。
命と命のやりとり、確かに香里も祐一と出会う前に魔獣などとの戦闘は経験しているし、その命も奪ってきた。
対人となると学園のぬるま湯の様な競技しか経験無かったのである。
街でも絡んできた相手は気絶させれば足りていたし、命を奪うという事を重く考えた事は無かったのである。
祐一の言葉の裏に、栞を助けるまでに今後このような殺し合う状況が回避出来ない時もあると言うのだ。
覚悟が足りなかった、そして奪う怖さも意識が足りなかったのである。
最後の一撃の感触が香里の手から離れない。
刀が手から離れない・・・

「あまり深く考えすぎるな。」

祐一はまだ抜き身の刀を香里の手から剥がす様に取り、血をぬぐって鞘に収めた。

「とりあえず風呂だな、せっかく綺麗な顔も返り血で汚れたままじゃないか。」

香里が落ち着いた時、祐一と一緒にお風呂に入り、さらに身体を洗われてしまっていた。

「ちょ、ちょっとっ!何してるのよっ!!」
「何って、洗ってるんだけど?」
「誰がそんな事頼んだのよっっっ!!」
「香里。聞いたらうんって言ったぞ。」
「もういいからっ!あとは自分で洗うから出て行ってっ!」

結局は祐一に押し切られ、そして香里は朝までの短い時間、祐一の腕に抱きついて眠るのだった。







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