Avec Abandon・SP03

街道の途中にある茶屋で二人の少女がお茶と肉まんを取りながら人待ちにぼ〜〜〜としていた。

「ねぇ・・・祐一はまだ来ないの?」
「今夜にはここに着くと手紙にあったではないですか。」
「あぅ〜〜・・・・退屈・・・」
「・・・・仕方ありませんね・・・にくまん代を貰ってあったのですが、待てないのなら迎えにいきましょうか?」
「えっ、もっとにくまん食べていいの?・・・あぅ〜・・・我慢するっ、早く逢いたい。」
「わかりました、お勘定を済ませてきますので、準備しておいて下さい。」
「あぅっ、わかった・・・・お〜〜いみんな〜〜出発するよ〜〜・・・・」







佐祐理の一行は牛車4台、各従者一名、護衛2名、前後に軽装の近衛が2名づつの行列である。
先頭の牛車には侍従が乗り、佐祐理、祐唯、冥が二台目、奉納品、物資と続く、
近衛を下がらせて一弥、香里と先頭に立つ祐一は、二人に魔法を見せながら歩いていたのだが、
その姿は新しい遊びやおもちゃを見せびらかして居る様でもあったらしい。

「レイビームっていう魔術があるだろ?」
「そうね、学園でもポピュラーだったわ。」

祐一は横の茂みに指を向けて

「レイビーム」

指先から魔法のビームを撃った。

「ヒネリが無いよな。」
「どうしたいんです?あにうえ。」

牛車なので速度は徒歩に近い、一行が通り過ぎた後、祐一がレイビームを撃った茂みから一人の男が這い出て息絶えていた。
祐一が撃った魔法は、潜んでいた暗殺者、盗賊をしっかりと倒していた。
巡礼に奉納品は当然であり、それ目当ての盗賊も少なく無いのだ、さらに大地母神への巡礼は女性が多く、
盗賊にとって団体の巡礼情報は喉から手が出るほどのものであり、
今回、佐祐理の叔父が情報を流していた為に平均の3倍以上の盗賊が集まっていたのだった。

「レイビー・・・・・V(ファイブ)♪」

今度は祐一の指それぞれから5本のビームが放たれた。

「是なら避けられないだろ、一本と思っていたヤツだと。」
「そうですね、でも5本一気に撃てる学園生も居ないでしょうけど・・・」
「まぁ香里が言っていたみたいにわざわざ術や技の名を叫んでる時点で使えない。」
「そうよねぇ・・・叫ぶのも体力使うのよね・・・良く考えてみれば・・・」

使いたい魔法を意識して指先に集中してサークルを描く、紋章魔導の簡単さはここから来ている。
昨日一弥が香里に見せた方法を使って祐一はファイヤーボール相当の魔法を・・・・
雨霰のごとく放った。
ファイヤーボールのシャワーである、そこに一弥も参加して放ったものだから目標になった所はマグマのごとく融解していた。
もちろんそこに潜んでいた暗殺者は蒸発している事だろう・・・

「あ・・・ちょっとごめん・・・」

チン・・・

祐一が刀を納めた音がした。

「な、何をしたの?祐一」
「あ〜〜、アレ。」

祐一の指さした先には、山賊らしき20人くらいの集団が二分割されて転がっていた。

「呪文で潜んでいたみたいだな、気付くのがちょっと遅れた・・・」
「ど、どうやったの?」
「かまい太刀にしては木などが切れていないですね・・・・」

香里は驚き、そのおかげで一弥は状況を冷静に分析していた。

「かまい太刀は刀に気を集めて空気を切る、これは教えたな?」
「そうね。」
「はい、」
「簡単に言えばその気をそのまま飛ばすだけだ。」
「・・・ホント簡単に言うわね・・・」
「あにうえにすれば初歩の方なのでしょうね〜」

二人の反応に、肩をすくめて祐一は答えた。

「師匠にすれば出来て当然だそうだ、かまい太刀は力技でも出来ない事は無いけどね。」

そう言って香里を見た。

「悪かったわね、ど〜せあたしは力技で再現してたわよ・・・」

わざと拗ねた表情をして祐一を睨もうとした瞬間。

「「「!!」」」

三人の表情が変わった。
腰の刀を抜いて祐一に背を向ける二人。
祐一は笛で合図して一行を止める。

「あにうえ・・・」
「今度は魔法陣かよ・・・何を召還してくるんだ?」
「なんか・・・・どんどん魔力が膨れあがってる気がするんだけど?
「10個だな・・・・地雷みたいに埋め込んでいたんだな・・・」
「一体何で発動したのでしょう?」
「おそらく牛車か奉納品に仕込んであるんだろう・・・奉納品には魔法の工芸品もあったからな・・・」

一台目に乗っていた侍従の女性達が薙刀をかまえて二台目の佐祐理を舞と冥とで囲む、
その外側を近衛が囲んでいた。
佐祐理の牛車の天井に祐唯が弓を構えて立ち上がった。

「南無八幡大菩薩!!」

祐唯が姿を実体化し始めた魔獣に矢を放った。

「破邪!!」

命中した矢が祐唯の言葉で炸裂、魔獣を粉砕した。
それを合図に戦闘が始まった。

「魔狼ねっ、次から次へと・・・・」

実体化した魔狼を切り捨てて、次を切る香里。

「香里!戦法が稚拙だっ、反対側から何か来るかもしれないっ」
「了解!」

祐一は魔力で作った針を飛ばして魔狼を倒しながら指示を出す。

「冥!祐唯!魔法陣を特定して破壊しろっ」
「はいっお兄様!!」
「わかったわっ」

冥が魔力を放射して魔法陣を浮かび上がらせて、祐唯が矢を放って破砕していっても、
すでに現れた魔狼の数は多く、

「キャアッ!!」
「菖蒲!!」

侍従の女性が一人、又一人と負傷してゆく。

「お兄様!!」
「解ってる!!くそう・・・」

ぼうっと、道の反対側から大きな魔法陣が浮かび上がった。

「祐一!!」
「一弥っ!」
「解りましたっ!」

香里に続いて一弥もその魔法陣に向かう、小さい魔法陣で祐唯と冥は手一杯だ。
負傷した侍従の分も舞が魔狼と対峙しているので動けない。
佐祐理は参拝の儀もあり戦闘に参加できず牛車の中に居るしか出来ない。

「祐一さん、祐一さん・・・・」

祐一から貰った星降の懐刀を握りしめていた。

「しろい・・・魔狼・・・」

魔法陣から出てきて実体化したのは、数ヶ月前、祐一が白き疾風と呼んだ森の守護者の魔狼だった・・・

「なんで?・・・」
「グルルルルル・・・・」
「香里さん、正気を失っています、よほど強力な魔術で操られているみたいですね・・・」
「行くしか無いわっ、祐一がこちらに来るまではっ!」
「そうですね、行きますっ!」

近衛と言っても、随伴する近衛は簡易な鎧しか身につけていない。
その近衛もすでに満身創痍だった。

「祐一〜〜っ、手間取ってるみたいね?」

どこからか祐一達に声が聞こえてきた。

「何?」
「香里さんっ、危ないっ!!」
「キャッ・・・」

一瞬隙を作った香里だが、一弥のフォローで何とか事なきを得た。

「ありがと・・・」

祐一は空に向かって声を上げた。

「真琴か?さっさと手伝えっ!」
「りょ〜かいっ」

返事がするや周囲のあちらこちらの空中に魔法陣が浮かび上がった。

「なっ!」

多い魔法陣に祐唯が言葉を失う。

だがそこから現れたのは魔狼では無く、黄金色の毛並みを持つ狐達だった。

「きつねさん?」

狐達は数匹で一つとなり、残る魔狼に向かって行く。
増援、このことは佐祐理の周囲で奮戦する祐唯、舞、侍従の女達に希望を与えた。

「祐唯っ!魔法陣最後そこっ!!」
「はいっ!!」

冥が示した最後の魔法陣を祐唯は砕いて、香里の方へ向きを変えた。
飛びかかる白い疾風を傷をおいながらも避け、返す刀で香里と一弥は確実に傷を負わせてゆく。
香里は刀に炎を纏らせて切り込む。
白い疾風が避けた横路を一弥の二刀が襲う。

「冥さんっ!」
「祐唯の魔封砕の矢では駄目っ、」

祐一から渡されていた矢の能力では白い疾風を呼んだ魔法陣は崩せない。
そう読んだ冥が祐唯を留める。
佐祐理の牛車周囲の魔狼のほとんどが狐と入り乱れて混戦している。
弓だけを持つ祐唯にはもう出来ることが無かった.

「お兄様・・・」

一方祐一の前には転移の魔法陣を使って二人の少女が姿を現した。
二人とも巫女服を身に纏い、一人は薙刀、一人は鑓を持っていた。

「ゆういち〜っ、待ち合わせで待ってるのに飽きたから迎えにきたわよ〜」
「祐一さん、もっと早い段階で招集して下されば良いものを・・・・」
「話は後だ、魔狼の残りの掃討を手伝ってくれ。」
「御意。」
「りょうかいっ!」

薙刀の少女美汐が薙刀を構え。

「操られた事の不運、その身で味わい嘆いて下さい。」
「真琴に勝てると思わないでよねっ!」

真琴は鑓を構えて。
ふたりの少女は魔狼の群れに飛び込んで行った。

「見通しが立ったな、あとはあいつか・・・」

操られてしまった哀れな魔狼を悲しい目で見る祐一だった。

「おかしいわっ!」
「何がです?」
「彼特有の素早さと魔法を使って来ないっ!」

それでも十二分に香里と一弥は翻弄されている。
爪で切られたり、体当たりではじき飛ばされているのにもかかわらず、
二人に致命傷は無かった。

「ひょっとして抵抗してるのかもしれませんね。」

一弥が斬りかかるが、又掠るだけで有効打にはならない。

「誇りある守護者ですもんねっ」

振り回した尻尾から逃れる香里。

「行けそうか?」

そんな二人に祐一が声をかけた。

「祐一!」
「あにうえ!」

祐一は静かに白い疾風へ向かって歩いていた。
すでに抜いている3尺はある刀は気を纏い淡く輝いていた。

「祐一・・・・出来れば助けてあげたい・・・」

構える香里は視線をそらさずに祐一に懇願する。

「そうだな、コイツはイイヤツなんだぜ?」

祐一の放つ剣気に白い疾風は動けなくなっていた。

「グルルルル・・・・」

じりじりと下がる白い疾風。
祐一は刀を動かして印を描いた。

「添わぬ制約に縛られし者よ、その呪縛より解き放たん・・・」

詠唱をほぼ行わない祐一が詠唱を始めた。
香里と一弥、遅れてやってきた美汐、真琴、舞、冥がいざという時の対処に陣形を取る。

「・・・・故に我が友としてここに制約せりっ!!」

祐一の魔法が発動した。
祐一から放たれた七色の光が白い疾風を包み込み、
濁っていたルビーの瞳が綺麗に輝く色と変わって、崩れ落ちた。

「ふぅ・・・この魔法陣だな・・・・」

一息入れた祐一に美汐が聞いた。

「返してしまいましょう。」
「そうだな・・・出来るな?」
「勿論です。」

美汐は薙刀を振り回しながら何か呪文を唱えると、一気に魔法陣を薙刀で突き刺した。
一間置いて後方遙か彼方から盛大な爆発音が聞こえて来た。

「ねぇ・・・祐一・・・・あれは?」

解ってはいるのだけれども、香里は尋ねざる終えなかった。
祐一が使った魔法も、美汐の使った魔法も、存在するだろうとは思っていたが初めて見るものだったのだ。

「術者があそこに居たって事ですね・・・」
「そうなんでしょうね・・・」
「ところであにうえ、こちらの二人はどなたで?」

そう一弥が言って、きょとんとみんなの視線が美汐と狐と戯れる真琴に集まった。

「あ、あぅ〜?」
「ゆ、祐一さん・・・」

こう視線の集まる事に慣れていない風の二人は縮こまってしまっていた。

「あ〜〜〜みっし〜にまこぴ〜♪」

救いの手は二人に抱きついた祐唯だった。
背後から抱きしめられてびっくりする二人だったが、祐唯を確認すると一転笑みに変わった。

「みっし〜と呼ばないでといつも言っているではないですか、祐唯さん。」
「ん〜〜祐唯だからまこぴ〜でもいいや♪」

照れながらも文句を言う美汐に、逆にすりすりと甘える真琴だった。
狐達も祐唯に懐いている。

「と、とりあえずみんなの怪我を治して茶屋に向かわないか?詳しい話もそこで・・・」
「そうですね〜っ、・・・」
「さ、佐祐理さん?いつのまに・・・」

祐一の側に、佐祐理が牛車から降りて来ていた。
そのまま祐一の腕にしがみつく。

「そうね、じ〜〜っくり聞かせて貰うわ。」
「香里まで・・・何?この黒い霊波動は・・・・」

反対の腕を香里が取る。
簡単に言えば嫉妬である。

「とりあえず不便なので名前だけ自己紹介しておきますね。美汐と申します。」
「あう〜、真琴。友達の狐達。」

そこに魔狼、白い疾風が起きあがった所で祐一を除く皆に緊張が走った。

「・・・申し訳ない・・・・操られてしまったとはいえ、情けない・・・」
「まぁ、済んだ事だ、それよりおまえ、これからどうする?」

さらっと水に流す祐一、背後に居る佐祐理も祐一の言葉に同意の表情なので配下の者も、不満はあるだろうけど、受け入れるしかなかった。

「すでに我の守る物は失われ、一族も我のみとなった、祐一殿に委ねようと思う。」
「失った?あの量の結晶全てか?」

香里との出会いとなった水晶、その含有量は絶大であり、一般冒険者程度では運び出せる代物では無いのだ。

「我らを襲った一団は数多かった。」
「ふむ・・・あれの加工品は高額の美術品にもなるからな・・・」
「ねぇ、祐一・・・あたしと同じ目的って事は無い?」

香里は恐れた、残る材料もその一団によって根刮ぎ奪われた場合目的を果たせなくなるのだ。

「それは大丈夫だな、アレの材料の事は香里が見つけた事自体奇跡と言えるほど失われている。」
「珍しい鉱石の独占という欲に絡んでの事でしょうね。私が祐一さんと合流してから伝えようとしていた情報の一つがその事ですから。」

祐一の言葉を美汐が少し補填した。

「白い疾風、使い魔にならないか?」
「我をか?・・・ふむ・・・・祐一殿であれば。」
「残念だが俺では無い、祐唯の側に居てくれないか?」

祐一は祐唯を呼んで白い疾風の前に立たせた。

「お兄様・・・」
「大丈夫だって、黙っていれば大きな犬と変わらない。」
「祐一殿・・・犬扱いはちょっと傷付くぞ・・・」
「まぁ、言葉のあやと思ってくれ。」
「ふむ・・・側に居られない祐一殿の変わりと言う訳だな?」
「そう言うことだ、どうだ?」

白い疾風は祐唯の周囲をくるくる回って品定め?をしている。

「わ、わわ・・・」

困惑する祐唯を祐一は優しく微笑んだ。

「承知した。我の全てを持って妹殿を守る事を誓おう。」
「決まりだな、祐唯。」
「はい、お兄様。」
「名前を与えてやってくれ。」

祐一は祐唯の手を取って、白い疾風の額に祐唯の手を乗せた。

「・・・わかりました・・・白き狼王・・・安易ですけど、物語から取ってロボはどうでしょうか?」
「祐唯、額に・・・」
「はい。」

祐唯の手を通して印を与えた祐一は、祐唯が白い湿布の額にキスをしたことで儀式の終了を告げた。

「ロボ、おまえは今日からロボだ、魔力供給は祐唯を通して俺から流れる、これから頼むぞ。」
「承知した。」






一行は茶屋の周囲にキャンプを張った。
茶屋の宿は小規模故に、全員泊まることが出来ないのだ、
献上品の護衛などを除いて、主要メンバーは茶屋の食堂に集まっていた。

「それでは申し遅れましたけれど、美汐と申します、祐一さんと祐唯さんとは昔に一緒に旅をしていました。」
「真琴は真琴、頭の上にいる猫がぴろ、この狐の長がミコトってゆ〜のよっ」
「佐祐理は倉田佐祐理と言います、祐一さんのお嫁さん候補ですよ〜っ、」

その一言を聞いた一弥は、「あ〜あ、釘指してるよ、姉上」と呟いていた。

「あたしは美坂香里、祐一の・・・・愛人?」
「何故疑問系でこっちにふるんだ?香里・・・」

大汗を頭に張り付けて祐一は渋い表情をしていた。

「それでは私も付け加えないといけませんね、祐一さんの愛妾?」
「だからこっちに振るなよ・・・・」

だんだんと声が小さくなる祐一だった・・・・

「お兄様、この国では一夫一妻制度では無いのですからいいではありませんか、まぁ、一弥さんには私だけにして頂きますけど・・・」
「・・・大丈夫、祐唯。一弥はそういう事出来ない。」
「ぐはぁ・・・・」

舞にすっぱり切られて崩れ落ちる一弥。
祐一を手本としていながらも、一弥は女性に対してのみかなりの奥手だったのだ。
祐一に祐唯を紹介された時に一目惚れ、祐唯も一目惚れという王道から
祐一、佐祐理コンビに散々からかわれ、後押しされて結ばれたのだ、
一弥が女方面も祐一のコピーだったら祐一も祐唯を預けなかっただろうほど、
一弥は女性に対して真面目だった。

「あはは〜っ、そうですね〜祐一さんは素敵な人ですから。」
「そうね、あたしもそれでいいわ。」
「まぁ、それも男の甲斐性でしょうか?」

祐唯のフォロー?で一応は安堵する祐一だった、すぐでは無いものの今後の旅の同行者が決まった様なものだったが、
何か思う所があったのか、祐一の目の奥に辛そうなものが見えた。
その理由はまだ時間を置かないとならない。

「自己紹介も終わった所で、美汐と真琴を呼んだ理由なんだが・・・」

いつのまにか自己紹介は終わっていた。
決して行稼ぎも兼ねて名乗りを書く事が面倒だった訳では無い・・・・はず。
お約束の「おれはゆうい「知ってる。」うぐぅ・・・」っていうのがやりたくなかったのでは無い・・・と思って欲しい・・・・

「神殿まで行ったあと、俺と香里は目的があって別行動だ。」
「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「真琴煩い。」

怒っておきながらも祐一は真琴の頭を撫でた。

「あぅ〜・・・」
「祐一さんが居ない間の護衛と言う事ですね?」

美汐が持ち歩いてるまい湯飲みでお茶を飲みながら祐一に確認した。
撫でられる真琴をちょっと羨ましそうに見ながら・・・

「そうだ、こちらの用事が終わり次第合流して雪華までは同行する。」
「仕方ないですね〜っ、香里さんの用事の途中だったのですから。」
「うっ、・・・・」

側に居る間は・・・と夜に期待した瞳を祐一に向ける佐祐理。
祐唯とリストアップした精の付く料理、何を作ろうかと企んでいた。

「ねぇ、佐祐理さん、あたしもお手伝いしていいかしら?」

栞の事もあって、薬草関連の知識はちょっと自信のある香里、祐一の料理に精の付くクスリの混入を企んでいた。

「うぐぅ、一弥っ、美汐っ、食事まで裏の広場で稽古するぞっ!」

二人の黒い霊気を感じた祐一は一弥らに声をかけてその場を逃げた。

「あっ、祐一っ!あたしも行くわよっ!!」

香里はそんあ事もあろうかと用意していたメモを佐祐理に渡して祐一を追った。
置いていったメモを見た佐祐理は

「あはは〜っ、了解しましたよ〜香里さん、この薬草も混ぜておきますからね〜」

そういって祐唯と、すでに宿の主人に了解を取っておいた厨房へ入っていった。






祐一の稽古は真剣を使った実戦さながらのもので、たった数刻でも一弥、香里、美汐はくたくたになっていた。
乱戦の稽古の事もあって、舞や真琴もどんどん乱入してくるのだ。
祐一の選んだ武器だけあって、何度も刃を合わせても刃こぼれは一切無い。
実戦と違うのは斬りかかる前に一応かけ声をさせている事だった。
祐一は各自の手足に重りを付けて扱いていった。

「実戦では無言でもいいし、かけ声を使って気合いを増強するのもいい、
だけどかけ声を使う場合は相手にその対処をさせないだけの素早さが必要だ。」

キャィン、キャイン

祐一が受けてたたき落とす、何合も打ち合う事はまず無かった。
刀の峰で一弥の腕を叩く。

「一弥は通常でも二刀流だが、いくら刀が軽くても片腕での制御には限界がある、腕力だけでなくもっと全身のバネを上手く使え。」
「はいっ、」
「腕だけで振るなっ一弥っ!!」

どちらかと言えば一弥は痩せている方だ、豪腕な使い方は出来ない。
二刀流を選んだのは一弥自身なのでそれを自己消化していかないとならない。

「二刀の重さも利用して舞えっ、」
「はいぃっ!!」

指導している祐一はあまり動いていない、攻撃のほとんどを紙一重で避けているのだ。
そろそろ一弥の体力が限界になり足がふらついて来てる。
交代を感じた香里が待機した。

「香里は瞬発力を上手く使うと良い、相手の胸を薙ぐんだ。」
「解ったわ。」
「この模擬刀を使え、初太刀の一撃で相手の剣諸共胸を薙ぐっ、その動作だけ1000回素振りっ!」

香里は祐一に渡された両手剣の倍は重さがある模擬刀で居合いから一閃、胸を薙ぐ練習を開始した。

「香里は立ち回っても一撃が軽い、一太刀、一太刀を決めて行くんだ。」
「そうねっ、」

細身とはいえ両刃の剣でかまい太刀が出来るだけの力技を持っていた香里だ、
そこをさらに伸ばす方向で行けば一撃必殺も可能となってくる。
それに慣れてくれば次のターゲットに向けての連撃へと続ける。

「次、美汐っ、」
「はいっ、!」

祐一も薙刀に持ち変える。

「持ち方次第での間合いの変化をもっと利用しろ、囲まれた時などに遠心力を使って振り回すのもアリだ。」
「はいっ、」

祐一は刀身部分だけでなく棒術も複合させた技で美汐を打ちのめす。

「武器の特性をもっと掴め、さらに攻撃方法が刃だけと思うなっ、」

美汐の周囲に土人形を作り、それを薙いで次につなげさせてゆく、

「真琴っ、肩の力を抜いて連撃、隙を見つけての一撃からだな。」
「いくわよ〜〜っ、」

実戦経験のある美汐と真琴には土人形を使っての応用へのつなぎを重点的にしていった。
舞は一撃が重い、それ故に避けられた時に隙が出来るので、祐一は遠慮無くそこを攻めてそれを修正してゆく。
舞にも土人形相手の修練に切り替えた後、祐一は香里につきっきりとなっていた。

「一撃の直後の隙を無くすんだ、」

流されてシてしまったとはいえ、それだけの美貌が香里にはある。
香里の性格から下心のある連中を下して逆恨みされる事もあるかもしれない、
低レベルな相手だったとしても集団で来られたら今の香里では対処出来ない、
祐一は一撃必殺技だけでなく、小技の連撃も教えていった。
祐一が見本で見せたのは軸足を上手く使った剣舞の様な技だった。

「あたしに出来るかしら?」
「出来る。俺が保証してやるよ。」
「うん・・・」

その後、祐唯が呼びに来るまで特訓は続いていった。

「お兄様、用意がまもなく調いますので表のテントまでお願い致します。」
「お〜〜出来たか。」

見ると香里達は疲れ切って膝を突いていた。

「では今日の仕上げで、100mダッシュでこの土人形を切って終わりにしよう。」
「・・・ハァハァハァ・・・・わ、解ったわ・・・」
「・・・りょうかい・・・」
「・・・わ、わかりました・・・」
「・・・あ、あぅ・・・・」
「は、はい、あにうえ・・・」

祐一は丁度100m先に魔法で土人形を作った。

「逝きますっ!!はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

まぁ・・・祐一が作った人形だけあってしっかり反撃してきて、一弥、香里、真琴はしっかり泥だらけになった事を追記しておく。

「・・・やられたわ・・・・」




その夜、疲れ果てて眠ってしまった一弥の事で祐一は祐唯に責められた事も記す。


深夜、祐一が一人外に居て周囲を伺っていた。

「祐一さん?」

同じく見回っていた美汐が側にやって来た。

「美汐か・・・」
「ユウナ様より伝言を受けております。」
「ん・・・」
「雪夢で待ってるからね〜〜ユウナお姉ちゃんよりっ、だそうです。」

指定されていたのであろう、美汐はポーズも付けて伝言を祐一に伝えた。
手を胸の前で合わせ、上目遣いで覗き込む・・・

「美汐・・・可愛いぞ。」
「あぅっ、こ、これはユウナ様がこうして伝えろと・・・」
「練習させられたんだろ。」

優しくもいたずらな目で祐一は美汐の目を覗き込んだ。

「2時間も、です。恥ずかしいのですからね?」

ポーズはそのままで美汐は段々涙目になっていった。
可愛さ倍増である。

「解った、解った、ご褒美を上げよう。」

そういって美汐の頬に手を当てると

「ん、ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜・・・・」

それは祐一が満足するまで続き、やっと離れた時には美汐は上気し祐一にしがみついてしまっていた。

「うぅ・・・・」
「だいじょうぶかぁ〜〜美汐。」
「な、何がだいじょうぶかですかっ、」
「嫌だったか?」
「そんな事は絶対にありえませんっ、!!」

そんな美汐に祐一は優しく笑っていた。

「もう・・・責任取って下さい。」
「は?」
「今回は戦闘が多そうなので我慢するつもりでしたがスイッチ入ってしまいました。」

美汐は祐一の腕を取って、自分にあてがわれた部屋へと祐一を引きずっていった。

「真琴はテントで狐達と眠っていますので部屋は私一人です、安心して下さい。」
「こういう状況で逆らえないのは宿命なのだろうか・・・・」

夜明けまでの時間、祐一は美汐と過ごしたのであった・・・・

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