Avec Abandon・SP04

深夜

「ぬぬぬ・・・・又失敗したのか・・・・」
「諦めたらどうです?」
「かんたんに諦めるならこんな事はせんわっ!!」

都市国家雪夢の一角にある屋敷では初老の男が唸っていた。
側には冷静にすましている男よりはちょっと若い男が居た。

「水晶はどうするんです?あんなに入手してどうするんですか?」
「加工して雪華の水瀬殿に贈っておけ・・・・」
「はぁ・・・」

・・・・・・・・

「うがぁっ〜〜!!」

ついには周囲の物に当たり散らしていた。

「さて・・・・今夜の修理代は・・・・」

執事らしき男は冷静に壊れたものの修理代などを計算しはじめた・・・

そしてその部屋の近くには・・・・

「和樹、どうする?」

和樹と呼ばれた青年が振り返って聞いた横ポニーテールの女性に答えた。

「悪党にしては可愛いな、始末するのが惜しいくらいに。」
「こういうのって、能力とかを見せつければ心酔してしまうんじゃない?」

反対側にいた白いカチューシャの女性が意見する。

「そうだな・・・・祐一も出来ればって言っていたから、依頼された連中をからかうか。」
「さんせ〜」
「じゃ、宿に戻るとしますか・・・・」

潜入していた三人の男女は誰にも見付からない様に屋敷を脱出した。

「早かったですね。」

屋敷の外で待機していた髪を肩の所で切りそろえている女性が三人に合流して声をかけた。

「まぁ思った以上に小悪党だったんでな。」
「まぁ・・・」

待機していた女性、刈穂は口元に手を当ててクスクス笑った。

「それより大志は何処へ行った?」
「大志さんならギルドの方へ・・・」
「そうか・・・・なら大丈夫だな・・・」

その大志という人物によほど苦労しているのか、横ポニーテールの女性、瑞希がはぁと溜息を吐いた。

「ギルドも大変ねぇ・・・・」
「そのうちに戻ってくるさ、とりあえず宿に戻るよ、僕のブーフーウー。」
「そう言うのやめてって言ってるでしょっ、殴るわよ?」
「姉さん、もう殴っているわよ・・・」

いつもの事で慣れているのだろう、カチューシャの女性、瑞穂が肩をすくめていた。
そうして四人は闇夜に消えて行った。











佐祐理達一行は最後の宿場から数軒の茶屋を経て無事に神殿まで到着する。

行程での襲撃も散発的なものとなり、いかにも初心者な暗殺者に一弥と香里の良い訓練になり、香里の技量も祐一と出会った当初より格段に進歩していたのだった。
大地母神の神殿に限らず、スノーフォレスト地方の6大神殿には門前町が存在し、参拝者目当ての宿と商店が並んでいた。
佐祐理達の目指すのはその中でも王侯貴族向けの宿で宮殿みたいな作りとなっていて丸ごと借り受ける形になっている。
常駐の管理人とメイド数人だけが存在し、あとは自給自足なのが慣わしであった。
まぁ、どの宿でも厨房を借りて自分たちの料理は自分達で作っていた佐祐理達にはあまり関係無いのだが・・・
その地区の名物も食べたかったなぁ・・・と祐一は密かに漏らしていたらしい・・・
神殿の門前町の宿舎に入った佐祐理一行と離れ、祐一と香里は街道を歩いている。

「佐祐理達も同行しますから、数日ここで待って頂けませんか?」

佐祐理を始め、女性ほぼ全員の涙目上目遣いの抗議を受けたものの、最初からの予定だと言うことと、
香里の告白により緊急性を理解し笑顔で送り出してくれていた。
まぁ香里に懐いた狐が一匹くっついて来たのだが・・・・
そして街道を南方の十数年前より突如永久凍土氷結地帯となった地域に向けて歩いていた。

「南に向かっているのに寒くなってくるなんてね・・・」

季節はもう冬ではあるが、スノーフォレスト地方では南端にある比較的暖かい地方だったはずなのである、目的地は・・・・

「ねぇ、祐一。そろそろこの地方の事教えてくれてもいいんじゃない?」
「ん〜〜この辺の事か・・・」

香里が祐一と出会ってから数ヶ月・・・
同い年にしては旅の知識、剣技の熟練ぶりなど、知れば知るほど祐一は香里にとって未知の存在のままだった。
いつも師匠の地獄の特訓で誤魔化されてしまうのだが、
縁を結び、何度も重ね合わせてきた香里はもっと祐一を知りたいと思っているのだ。
どうにか寝物語で香里が得てきた情報は膨大であったが、それでもほとんどが祐一個人の事では無かった。
ザックは必要最低限の道具で、マントの裏に色々な武器が仕込んであり、重量がかなり重いだとか程度・・・

すでに街道の地面は凍土となっていて、香里は祐一から渡されたブーツに装着するタイプのスパイクを付けていた。
香里の服装は出会った時とほとんど変わらず、厚手の生地で作られた丈夫なズボンと上着、なめし革のブーツ、
ズボンの上に膝丈の革の巻きスカートを付けている。
左腕には家族から旅に出る前にプレゼントされた革の手甲、
これは祐一と会った時に破損していたが、祐一によって魔術的にも強化されていて、肉弾戦用に収納自在の爪が隠されている。
金属のブレストアーマーが皮のものに変わっている、これは刀という武器を有効に使う為の重量軽減である。
このアーマーは佐祐理から譲られたもので、描かれた紋様は倉田家の縁者としての意味があり、雪夢に来た際身分保障の証にもあると言う事だった。
マントはボロボロだったのでこれは祐一に貰った、材質不明の革らしきもののマント、五大元素系の攻撃魔法を緩和する優れものだ。
腰には刀、ブーツの外側には各短刀を装着していた、換えの服(下着)などは腰の後ろに装着している大きめのウェストバックに入っている、
後ろに転んだ時にクッションにもなるので使い勝手が良いとは香里の談。
祐一のスタイルも似た感じであるが、ブレストアーマーは着用せず、香里に譲ったマントと同じ材質のマントとベストを着ている。
マントは武器庫と言えるほど武器が仕込んであるらしいが、香里が見せて貰ったのは古代のアーティファクト、拳銃だった。

祐一は歩きながらぽつりぽつりと地域の話をしていた。
それによると、この空域は10数年ほど前に発見された魔法装置があり、
それを解析しきらないうちに稼働させた魔術師によって装置は暴走、都市国家を巻き込んで全てが凍り付いてしまったらしいと言う事。
結果的に魔法装置も凍り付いたおかげで凍結地域の増殖がかろうじて抑えられているという事だった。
途中で街道として整備されていた道は途切れ、氷で出来た森の中の細道をふたりは進んでいた。

「香里、マッピングは出来るな?」

唐突に祐一が言い出した。

「出来るわよ、学園で組んで実習していたメンバーは猪突猛進が多かったのよ、おかげでマッピングの重要さは嫌と言うほど思い知ったわ・・・・」

学園では地味とも言える堅実な探索技術よりも戦闘技能重視が多い、香里みたいな知識方面での優秀者が実習グループにいるとすぐに頼る。
毎回、指示無視で罠に引っかかるのが100%、食料収集での失敗で死にかける率100%、ダンジョンで迷う率100%などなど・・・
猪突猛進に戦闘を求め追うそんな親友や同級生に苦労させられていたのだ・・・・
まぁ・・・苦労自体は祐一と一緒の方が厳しいかもしれないのだが、解除方法、対処を祐一はちゃんと香里に伝えてもいた。

「香里、知覚したか?」
「はい?」

祐一と進みながらマッピングもしていた香里に祐一は聞いてきた。

「もう同じ所を4回歩いているぞ〜」
「えっ?そんな・・・・」

いそいで香里はメモしたマップを確認する・・・・

「そんな・・・・」
「実はな、ここは迷路なんだ。」

にかっと笑う祐一。

「いぢわるね、祐一・・・・」
「駄目だぞ〜指摘される前に自身で気付かないと。」
「そ、それはそうなんだけど・・・」

祐一は地面を蹴って抉る。
地面を抉られた事によって魔法陣が浮かび上がり霧散した。

「これは・・・・」
「今の香里ならこういった隠された紋章を感じる事が出来ると思ったんだけどなぁ・・・」
「う゛ぅ・・・」

数m進んで祐一は地面に魔法陣を描いた、どうやら描かれていたのと同じものの様だ。

「どうして?」
「ん、元々俺が張ったものだし。」
「ちょっとっ、どういう事?」

さすがにこめかみをひくひくさせる香里に祐一も腰が引けた。

「まぁ・・・理由はあるが、まずは・・・」
「まずは何?」
「マッピングと言った時点でマッピングの事しか考えて無かったろ?」
「う゛・・・」
「周囲の魔力探知とかが疎かになって無ければ感じる事が出来たはずだぞ。」
「そ、そうね・・・その通りだわ、それについては反省するけど・・・」

それはそれ、これはこれと香里が祐一に向き直ると、祐一は少し悲しい顔をしていた。

「どうしたの?」
「この先にはな、悲劇が眠ってる。」
「だから封じたの?」
「まぁ、そういう事だ、一応ある条件に適合した人物は通れる様にしてあるけどね。」

そういって祐一は歩き出した。

「もうすぐ開けた所に出る、そこからあと一日で到着する。」

歩き出した祐一を香里は慌てて追いかけて行った。











「開けてると言うよりも、切り開いたって感じの所ね・・・」
「まぁな、ここは元々茶屋を建設する予定だった所で、事件の頃に切り開いて作った。」

自然に出来たものでは無いのは見事に整地された状態なのだから解ると言うもの。

「ここにテントを張るの?野宿には寒いし、野獣とかに囲まれないかしら・・・」
「それは問題ないぞ、師匠の奥さんがちょいと細工してくれていてな・・・・」

祐一は目印らしき岩、元は茶屋の基礎として用意したものだろう・・・
に向かって魔力を込めた。
そうするとむくむくと地中よりコテージがせり上がってきた。

「凄い・・・」
「何でも形状を記憶させた魔石を埋めておいてあるとかで、魔力をスイッチに凍土を材料に復元してくれる。」
「こんな事が出来る人なんて・・・一体何者なのその人。」
「う〜〜ん何でも昔は魔術師ギルドの暴れ馬とも呼ばれた破天荒が売りで、今は何て呼ばれていたかなぁ・・・・・・・」
「ひょっとしてユウナ導師?冒険者ギルドでも所在情報だけでもかなりの高額を貰える・・・」
「へ〜〜そうなんだ・・・・」
「そうなんだって・・・・魔術師養成専科では憧れの目標とされてる人よ?」
「魔術師として凄いのは解ってるけど、人となりを知ってるから世間の評価は気にしてなかったぞ。」
「そんなものなのかしら・・・」

香里は祐一に促されてコテージに入った。

「ベットや暖炉・・・それは良いとしてもこの大きな桶は何?」
「お風呂だが?」
「凍土が材料って言わなかった?」
「言ったぞ、何故溶けないのかとか、俺でも謎が多いから余り聞かないで欲しい・・・」
「祐一でも解らないんだ・・・・」
「そうなんだな〜たとえばこのベット、マットの部分がウォータベットみたいになってる。」
「どれ?・・・・ホントだ・・・・」
「暖炉、木材とかを使わないで炎の精霊が蹲ってるから経済的。」

祐一が魔力を送ると炎が現れて冷えた空気を暖かくし始めた。

「お風呂のお湯もこの精霊が暖めてくれる。」

そう言って蛇口をひねるとそこからは水では無くお湯が出てきていた。

「魔法装置の暴走でも水は氷っただけだったんでな、水だけは問題無い。」
「確か植物も溶けない氷になったのよね・・・」

室内の空気が暖かくなってきた所で二人はマントを外して、身軽になっていった。

「それと、地面が含有する水分で凍土になった。まぁ解除しないとここらでの耕作すら出来ない状態だけどね。」

結界に自信があるのか祐一は二尺九寸はある刀も外して立てかける、二尺はある長脇差しはそのまま腰にある。
ちなみに香里のは二尺三寸で祐一のより反りがある、一弥の二振りは二尺一寸、懐刀は共通で一尺、
美汐の薙刀は巴型と呼ばれる型で刃渡り一尺五寸、真琴の鑓は袋鑓と呼ばれる型であるが片鎌鑓に変更出来る様予備に持っている。

「学園ではここの事を教えてはくれなかったわ・・・」
「早期に封印結界を張ってるからな、それと入ってしまうと凍ってしまうと嘘の情報を師匠が流しておいた。」

「なるほどね・・・上手く隠したのと発掘の利権争いって所かしら?」
「ま、そんな所だろう・・・学園の真意はわからんが・・・香里、ここに冷凍保存した食料があるから食べよう。」

中央にも炎を移した祐一と香里は凍っている肉などを用いて鍋にした。
ちゃんと調理には専用の短刀を用意している祐一だった、軽々と凍った肉を切り分けてゆく、一体何本所持しているのだろう・・・
戦闘用の刀で腰に三種三本、他両手首にある手裏剣、ブーツ脇の短刀二本、香里が知るだけで身体にはそれだけ装備しているのだ。

その夜は、「寒さで身体が芯まで冷えたよな〜」と祐一に押し切られて、人肌に温もる香里だった。










翌朝、暖かい空気の中ぼ〜〜と香里が目を開けると、目の前にすでに完全装備の祐一が香里の寝顔を見ていた。

「・・・・なによ・・・」

寝顔を見られていた事の照れ隠しで香里は祐一を軽く睨んだ。
祐一は香里に軽くキスをすると立ち上がった。

「いや・・・つい見取れててしまったのだが・・・」

そこで祐一の表情が変わった。

「急いで用意してくれ、誰かが街道の結界を破ったみたいだ・・・」

その一言でキスされた余韻も吹き飛んだ香里が立ち上がる。
それなら早く起こしてよっ、と香里が祐一に言おうとすると、祐一はサムズアップしていた。

「へ?」

香里は夕べのまま何も身に付けて居なかったのだった。
とっさに投げた枕がばふっと祐一の顔に命中し、祐一はオーバーによろけて見せた。

「痛いぞ、香里。」
「ちっとも痛くなさそうに言わないでよ・・・」



完全装備を調えた香里は祐一の作ったサンドウィッチを銜えながら外を伺う。
段々と外からわいわいと声が聞こえて来る。

「うっきぃ〜〜〜何よ何よ何よっあの結界は何よっ!!」
「いいじゃないか、長門のおかげで通過出来たんだから・・・いつまで騒いで居るんだ?」
「そうですよ、あんな結界があるという事はそれなりに秘密がこの先に有ると言う事かもしれません。」
「解除するのにどれだけ苦労したと思ってるのよっ!」
「オマエは何もしていないじゃないか、ループに気付いたのも結界を解除したのも長門だ。」

やってくるのは若い女性3人と男性2人の5人のグループだった。
祐一はコテージを出てグループの前に立ちはだかり、香里も後に続いた。

「キョン君、キョン君、人が居ますよ?」
「アンタ達ね〜〜あんな結界張ったのはっ!」
「そうだと言ったら?」

リーダーらしきリボンの女性は激情しやすい性格の様で、冷静に淡々と答える祐一に、見事煽られていた。
そのまま飛びかかって来そうになった女性を、押さえ役らしき男が羽交い締めにして止めていた。

「こらっ、ハルヒ、無鉄砲に飛びかかるのはやめろといつも言っているだろうが・・・」
「離しなさいっ!」
「駄目。」

もう一人の男が祐一に話しかけて来た。

「我々は冒険者です、アナタは番人か何かなのですか?」
「まぁそんな所だな。」
「そうよっ、天下無敵無双の冒険者、SOS団とは私達の事よっ!!離しなさいよっ、キョン!!」

まだ押さえられているハルヒと呼ばれた女性がじたばたしながらも叫ぶ。
あたしよりも年下みたいね・・・といつでも戦える準備をしながら香里はハルヒを見ていた。

「知らないな・・・そんな新人グループは・・・」

多分祐一は名前は知っていたのだろうが、わざと新人と付けるあたり楽しむつもりなのかもしれない。

「・・・排除する?」

一番小柄な女性がキョンと呼ばれた男にぼそっと聞いていた。

「待て、交渉出来るのなら交渉で済ませたい・・・が・・・」
「この先にどうして行きたい?」
「決まってるでしょっ!そこに冒険があるのよっ」
「なるほど、その心意気は共感出来るが・・・ここから先に行かせる事は出来ない。」
「なんでよっ!」
「それでは、パターンですがアナタを倒してって事ですか?」
「そう思ってくれて良い。」
「解りました・・・・どうします?涼宮さん?」
「勝負ね?まぁいいわ、やりましょう。暗い闇を照らして正義の光をもたらすのがSOS団よっ!」
「そのセリフは状況に合わないぞ、ハルヒ・・・」

さて困った、ハルヒはいつも通りの突撃戦法でどうにかなると思っているが、
この男の気迫はベテランだ、おそらく長門でもかなうまい。
命がけでの魔獣との戦いも、苦しめられた罠も、謎を解いて宝を入手したとかそんな経験がちっぽけに感じるほど相手は強大だ。
朝比奈さんはマスコット的存在で回復魔法がほとんどで攻撃魔法はほとんど使えないし、古泉の魔法剣も状況で失敗する。
状況は思いっきり不利、結局ハルヒの剣技と長門の魔法の連携さえ上手く行けばどうにか・・・か?
いや駄目だ駄目だ、インチキを使っても通用するかどうか解らない相手だ、
後ろの綺麗な娘だったら解らないがって、俺はどうする?自慢じゃ無いがギルドランクDだ、
剣が魔法の剣だって事ぐらいしか有利な点が無い、健闘出来るか?相手の武器はおそらく刀だぞ?
こっそりと長門に情報連結結界を先に張らせておくか?
それで有利になるかもしれないのは長門だけだ、俺達に恩柄は余り無い。これもボツだ、
長期戦に持って行って全員でって言ってもどうせハルヒが痺れを切らせて突貫して終わりだ、
四人が牽制してみくるビーム・・・駄目だ、撃つまでのタイムラグが有りすぎる・・・
朝比奈さんのメイド服、長門の魔女っ子スタイルで注意を奪う・・・・
嫌、俺なら確実に引っかかる、朝比奈さんが胸元を広げたりなんかしたらもう確実にって、
俺が引っかかっても意味が無い、ハルヒのバニー・・・あれはこの前ギルドで一悶着あったから封印させたんだった・・・・
駄目だ・・・ハルヒの閉鎖空間結界で大技って、意識的に作れないものには頼れんし、そんな大技も無い。
やはり相手の情報が無いのもあるが、俺達に勝てるポイントが見付からない。
やはりハルヒの運まかせにしかならないのか・・・・
古泉に先陣させて魔法剣が成功しても失敗しても牽制になるだろう、そこを俺とハルヒで攻撃して長門の援護・・・・
これくらいしか纏まらない・・・
むぅ・・・・

と、キョンと呼ばれた男はハルヒを羽交い締めにしたまま考えていた。

「いいかげん離しなさいっ!」
「おっと・・・・」

キョンはようやくハルヒを離した。
押さえつけられてるのは嫌だがキョンとくっついているのは良かったのか複雑な表情だった。
香里はいつでも抜刀出来る状態のまま祐一に聞いた

「どうするの?ホントにやるの?」
「香里は見ているだけでいいぞ、ついでに技を盗んでくれると嬉しい。」
「了解、」

そう言って鞘にかかっていた左手を外して後ろに下がった。

「そっちは全員でいいぞ、相手は俺だけだ。」
「ホントにいいの?後悔しても知らないわよ?」

SOS団が全員獲物を構えた。
ハルヒはショートソード、キョンと古泉はロングソード、長門とみくるは何か呪文を唱え始めた。

「覚悟しろよ?特別に大技を見せてやる。」

そう言って祐一は抜刀の姿勢で中腰に構えた。

「神魔天福・・・・」

香里は祐一が技の名を呟いて精神集中をするのを一緒に過ごしたこの数ヶ月で初めて見た。
魔法では確かに一回あった・・・・でも・・・・

「なにか危ない気がする・・・絶対に危ないと思う・・・・」

ハルヒたちは何故か祐一が刀を上段に構えるまで仕掛ける事が出来なかった。
祐一から発する気に、香里も思わず中腰となり安定を取る体勢になってゆく。

「天地創造一割」

端から見たら単に上段からの素振りに見えたかもしれないほど祐一はあっさりと刀を振った。





突如、ハルヒ達の中央が爆発した





香里はどうにか祐一から放たれた気の固まりを見る事が出来た、
いや、見る事が出来るほど集約されていたと言った方が良いだろう。

「一割?」

そう香里は思わず漏らした。

「うきゃっ!」
「きゃんっ!
「・・・・・・」
「うわっ!」
「ぐぅっ!」

爆発によって吹き飛んだ五人は見事その衝撃波で動けなくなっていた。

「一割っていったわね・・・・」

爆発の中心点は直径10mほどのクレーターとなり、深さも凍土の部分を抉り通常の大地の部分が見えていた。

「近寄るなよ、香里。」
「へ?」

空中に巻き上がった土塊が爆撃の様に墜ちてきてクレーターを埋めた。

「・・・・結構後の事も考えた技なのね・・・・」
「まぁ一割だからな・・・・」
「普通は相手の身体に叩き込むわけね?」
「まぁね、でもって爆散した自身の一部が残った自身を襲う・・・・と。」
「何でそんな事が出来るの?」
「まぁ、さすがに一回では解らないか・・・・」
「あたりまえでしょ?・・・」

祐一が香里に説明している間にハルヒたちが復活してきていた。

「あ〜〜ん・・・ぼろぼろですぅ〜・・・」
「ま・・・まだよ・・・・」
「・・・いや、完膚無きまでに完敗だろ・・・・ハルヒ・・・」
「・・・・現段階で敵対は不可能・・・・」
「いやぁ・・・・見事にやられてしまいましたねぇ・・・」

そんなハルヒ達にさっきとは表情を変えて言った。

「さて・・・・俺の勝ちだな?」
「く、くやしぃ〜〜〜」
「で、俺達をどうするんだ?アンタの言ってる事が本当にそうなら俺達はどうあがいても勝てない訳だが・・・」

祐一はハルヒ、みくる、有希の順に見て、

「な、なによ・・・」
「ひゃんっ・・・」
「・・・・」

威嚇するハルヒに震えるみくる、じっと祐一を見る有希。

「オマエの?」

と小指を立てた。

「バっ、馬鹿言うなっ」
「キョン〜〜あたしの唇奪っておきながらそう言うの?」
「わ、私は・・・キョン君とは・・・・その・・・」
「・・・私はそれでいい・・・・」

祐一はその慌てる反応を見てニヤリと笑った。

「どうするの?祐一。」

おそらく祐一の意地悪な目つきに何をしたいのか気付いた香里も又、意地悪な目つきで祐一に聞いた。

「俺達が戻るまであのコテージの中に入っていて貰おうか・・・」
「それは私も一緒ですか?」

古泉が祐一に尋ねてきた。

「一緒がいいのか?」
「出来れば遠慮したい所です。」
「わかった、もう一個のコテージを出してやる。」

祐一はハルヒ、キョン、みくる、有希をコテージに押し込めて出られない様に封印した。

「出せ〜〜!!アンタねぇこんな事して覚えておきなさいよ〜〜!!むっきぃ〜〜っ!!」
「ひゃぁぁ〜〜ん、どうしたらいいんですかぁ〜〜〜」
「・・・・そう・・・期待している・・・」
「静かにしろハルヒ、朝比奈さん落ち着いて、長門は落ち着きすぎだっ!」
「食料も十分にある、風呂もベッドも完備だ、たっぷりしっぽり頑張ってくれたまえ。」
「では、私はこちらでのんびりさせて貰います・・・・」

騒ぐSOS団をほっぽって、祐一と香里は先を急いだ。
朝の柔らかな日差しの中、僅か一時間にも満たない出来事だった。





香里はのちに語る、
これが冒険者として旅するあたしにくどいくらいに関わる事になるSOS団との出会いだった・・・・と

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