Avec Abandon・SP05






冒険者グループ「SOS団」との邂逅はあっけなく終わり、
閉じこめたコテージには催淫香を仕掛けるという悪戯もかました祐一達は残り一日の行程を歩く





「祐一が凄すぎるのか、妙にあっけなく思えたわ・・・」
「そうか?俺が知ってる冒険者グループが強かったからなぁ・・・・まぁ、アイツらも若いけどそれなりだと思うぞ。」

居心地が良いのか頭の上に子狐が居座る重さを感じながら香里は思い返す、
祐一に鍛えられたおかげか相手の力量を有る程度推測する能力も上がっているのだ。
SOS団という冒険者グループは、凄腕と言えないものの、運とそれなりな実力を備えた冒険者だ、
今後はその名を聞く事も多くなるだろうと・・・

「何を持って凄腕と評価するのかはそれぞれの価値観もあるけど、
冒険者としてなら本来は遺跡を探検したり、事件の謎に挑戦したり・・・そして無事に生還する事だな。
戦闘能力や知識だけではどうにもならない事もある。
「・・・祐一と居ると学園に通っていたのが無駄に思えるわね・・・」
「そうでも無いさ、多分。」
「多分?」
「学園に通って居なかったら俺に会う事も無かったと思うぞ。」
「そうね・・・ギルドに依頼を出して・・・待つだけだったかも・・・」
「冒険者だけど傭兵団を名乗ってるアリエスってグループを知ってるか?」
「えぇ、学園でもテストに出たわね・・・・実際にギルドでも噂は聞いたわ。」
「・・・テストって・・・何やってんだか、学園ってのは・・・」
「それでそのアリエスがどうしたの?常勝無敗でアリエスが助力した国は勝利間違い無いとまで言われているけど。」
「実際に戦闘力だけならな、遺跡の探検の護衛とかでは何度も失敗している。」
「そうなんだ・・・」
「冒険者が魔獣の駆除や戦争の傭兵だけでは無いって事、知恵と勇気と運がないとね。」
「祐一と出会えた私は運が良かったって事かしら?」

など祐一と香里は単調な行程を話しながら進んでゆく、時折祐一の悪戯半分で注意散漫になった所をからかわれ、
からかわれてはどつき漫才まで発展していた。

「結局学園では魔法全盛文明の時代までしか教えていないのだな・・・」
「あたしにしたらそれ以前にも文明の時代があった事が信じられないけど・・・」
「まぁ、国家機密にしてその技術の独占をしている所が多いからな・・・国家やギルドが立ち入り禁止にしてる遺跡も多いだろ?」
「それって危険だからじゃ無いの?」
「それもある、けど大半が独占したい技術が発見されたと見るのが正しいぞ。」
「いつか・・・そういう遺跡にあたしも連れて行ってくれる?」
「そうだな・・・でも自分で探すのも楽しいぞ、それが冒険者ってものだ。」











「・・・・妙な遺跡だな・・・」
「そうですね・・・さっきまでは普通に洞窟だったのが、今はいかにも人工の通路になってきてますね・・・」

とある地方、冒険者の一団がまだ未掘の遺跡を発見して探索していた。

「・・・タカ坊・・・なにか、魔力を吸収するものがあるみたい・・・魔術を使ったあとみたいな倦怠感が強くなってくるわ・・・」
「浩之さん・・・どうします?」

先頭を歩く二人に二番手にいる魔法剣士らしき出で立ちの女性が声をかけた。

「つってももう行き止まりだな・・・規模から言うとその先に何かありそうなんだが・・・貴明はどう見る?」
「そろそろガーディアンと戦っていたみんなも合流するはずだから、全員で行ってみましょう。」
「それでいいか?」
「・・・・」
「ん?浩之さんにまかせます?いいのか?」

コクリ

魔法剣士のさらに後ろにいた魔術師のローブを着た女性がうなずく。

「さすがね・・・その距離でも芹香さんの言葉が聞こえるなんて・・・」
「側にいるタマ姉には聞こえなかったの?」
「わたしにはぼそぼそとしか・・・」

浩之が立ち止まった。

「この結界はどう見る?」
「ん?・・・これは・・・珊瑚ちゃんかな?」
「ん〜〜ウチ?」

最後尾の方にいた少女が呼ばれて貴明達の所にとてとてと近寄って来て、扉周囲を調べた。

「これやったら簡単やぁ〜」
「出来るか?」
「これナ、古の装置やねん、魔法じゃ駄目なんよ〜」

少女はスイッチらしきものの下にある蓋を外して中を覗いていた。

「たかあき〜」
「ん?」
「この赤い線と青い線持っといてな、絶対離さんといて。」
「よくわからないけど、OK。」
「琴音〜」

少女が見守る仲間の一人を呼んだ

「何をしたらいいの?」

魔術師の格好だが芹香と呼ばれた女性と違いワンドなどの魔術発動の補助となる道具を持っていない少女が珊瑚の側に来た。

「たかあきにライトニングボルト目一杯喰らわしてぇな。」
「な、なにぃ〜〜〜っ!!」
「離したらあかんよっ」

慌てる貴明を無視して琴音はタイムラグ無しで魔法を放った。

「あががががががががががががががががががががががががががががががががが・・・・」

ピポ

シューーーーー

痺れる貴明を通して電力が装置に流れ、扉が開いた。

「・・・・・死ぬかと思った・・・・」
「普通死ぬぞ・・・・」
「・・・・・・・・」
「なになに?貴明さんも浩之さんと一緒ですから。って俺もいつか同じ目に遭うのか・・・・」

痺れて動けない貴明を浩之が抱えて、一行は扉の中に入った。
貴明が痺れてる時に後続も合流していたが、貴明の悲惨さに皆黙っていた。

「どうやらさっき壊した黒水晶の板は動力源みたいね・・・文献に似たのがありましたね・・・そういえば・・・」

どちらかといえば学者肌な感じのするきょちちな魔術師の女性、さらさが扉のスイッチを見ながら呟いていた。
そこから又通路が続く、辿り着いた先には水晶で飾られた机と椅子が並ぶ部屋だった。

「タカくん、この水晶綺麗だね〜」
「ば・・・・」

仲間うちでも小柄で元気が有り余ってる風の少女は戦闘の疲れも無いのか、
ちょっと小広い室内をちょろちょろ動く。
痺れる貴明が止める間も無く、このみは中央にあった大きな水晶に触れてしまった・・・・

ピ・・・

「な、何だ?」

ピピピピピピピピピピピピピピピ

天井、壁など周囲に光が溢れていく。
仲間達は魔術師を囲んで戦闘を取れる体勢に素早くなる。

「・・・・クルーの方でしょうか?」

どこからか声が聞こえてきた。

「だ、誰だっ。」
「必要値魔力承認、クルーと認めます。」

声は浩之の言葉を無視して勝手に言葉を続ける。

ガシュ・・・・

いくつかあった室内の扉の一つが冷気を伴い開いた。

「オペレータドールを起動します・・・HMX−17a魔力注入完了・・・・システムオールグリーン」

扉の中には一人?のメイド服を着た女性がいて、珊瑚の双子の拳士、瑠璃がおそるおそる近づくと目を開いた。

「・・・・あなた方がマスターですね?」
「しゃ、しゃべった?」
「オペレータドールHMX−17aイルファと申します、なんなりとご命令を・・・・・」

どうにか痺れから立ち直った貴明がイルファの前に立ち。

「何でもいいのか?」
「はい、なんなりと・・・・はっ、ちゅ〜とかそれ以上をお望みですか?いぇ・・・私も一応その機能が付属してはいますけれでも・・・・」

貴明だけでなく一同は、頬を染めてくねくねするイルファに固まった・・・・

「たかあき・・・ウチらだけではあかんの?」
「ちっが〜〜〜うっ!!」

涙目で覗き込む珊瑚や、怒った顔をする瑠璃、拗ねた顔をするさらさとこのみ、環は黒い波動を出していた。

「貴明・・・みんなに手を出していたのか・・・・」
「それは浩之も同じでしょうが・・・」

芹香に良く似た戦士の綾香が呆れた顔で浩之に突っ込んでいた。

「落ち着けっての・・・聞きたいのは、ここは何かって事だ、」
「・・・・残念・・・・ここは竣工したばかりの魔導飛空戦艦です。」
「魔導飛空戦艦?」
「知ってるか?さらさ。」

浩之が一行の中でも文献などに詳しいさらさに聞いた。
芹香は魔術の事のみの知識では一行で一番だが、過去の文献研究ではさらさが上なのだ。

「見た覚えはありますね、失われた科学文明では宇宙という世界へも行ける船を持っていたとかで、
魔法文明の時代に建造途中の造船所を発見して魔術で動く船を試作していた・・・とかですけど・・・
文献でも一回しか見た事が無かったです。」
「実は完成していたって事か・・・」
「何故眠っていたの?」

環がイルファに聞いた。

「えぇと・・・まざ〜に聞いてみますね。」

そう言って、先ほど好みが触れた水晶に手を触れた。
おそらく意識を封じたとかで意志を持つ統括した存在がマザーなのだろう・・・

「・・・・解りました。魔力の世界規模での暴走にここに居た人達は消滅してしまったとの事です。」
「あっさりとしてるな・・・・」
「その後、何故か入り口が崩壊して閉ざされたらしいです。」
「・・・・曖昧だな・・・・」
「すいません・・・」

汐らしく落ち込んだ風を見せるイルファ。

「どうします?浩之さん。」
「動くなら動かしてみるって言うのはどうだ?」
「みんなは・・・・って、何でそんな面白そうな目をしているんですか・・・」
「だって面白そうじゃない・・・タカ坊はそう思わない?」

面白そうな事に貴明を除く全員の目が爛々と輝いていた。

「思いますけど・・・・こう規模が大きそうだと、団長や祐一さんに聞いてみた方が・・・」
「そんなん事後承諾でいいじゃん。」
「い、いいじゃんって・・・」

浩之の言葉に環が追従する

「はい、総意でけって〜」
「タマ姉ぇ〜〜〜」

一人反対する貴明を胸に押し込んで黙らせてから一同はイルファを見た。

「稼働させるのですね?他のサポートドール起動の為の魔力を頂けますか?
・・・・あら・・・もっと姉妹がいたのですけど、現存するのはあと4体なのでその分の魔力注入をお願いしたいのですが・・・」
「了解だ。」

諦めた貴明、古の機械復活を目指す楽しげな珊瑚、率先する浩之、
潜在魔力が高い三人と、芹香、綾香の二人で残り4人のサポートドールを起動させた。



「空飛ぶ船って憧れていたんだよな〜〜」
「浩之さぁ〜〜ん・・・」




数時間後

「魔導エンジン?良く解らないけどすげぇ・・・・」
「魔導砲?純粋な魔力を打ち出して全属性の防御も関係無く目的を破壊・・・・って何ですかっ!この破壊力はっ!!」
「ねぇねぇたかあきぃ〜大砲もいっぱいあるよ〜」
「何々・・・魔力の固まりを打ち出して破壊する魔導砲の超小型版・・・・」
「飛行型魔物を迎撃する為のもんやて・・・」
「稼働に必要な魔力が蓄積されるまであと一ヶ月は必要ですね。」
「稟達も呼ぼうか?稟の仲間も相当な魔力保持者いるし・・・」
「彼だったら動かす前に破壊しますよ・・・」
「だな・・・」
「浩之さ〜〜ん・・・・・はわっ!」
「隊長〜〜このみは暇でありますっ!」
「・・・・タマ姉を手伝って・・・」


なんだかんだでにぎやかな一行だった・・・・・

「・・・・祐一さんは確実に怒るだろうなぁ・・・・」

貴明はうなだれた・・・・

「祐一さんなら・・・・一緒になって楽しむと思いますよ?いつでも破壊出来る様にしながら。」

マイナス思考に寄りかかっている貴明には琴音の言葉は届かなかった。

「祐一さん・・・・今どこを旅しているのでしょうか・・・・」










出発して半日、行程は緩い曲がり道となってきている、右手には天高くそびえた氷の壁が氷の木の向こう側にある。
周囲の樹木などが芸術品と言っても良いくらいに氷での造形が素晴らしい、
香里は祐一の言う、氷に覆われた地域と言うよりも氷で作られた世界と認識してしまうぐらいだった。
ただ壁だけが凍土を材料に作られたのか、向こう側を透き通さない
生物の生存を許さない地域故に、香里にも気配を感じない、寒い空間だった。
祐一が立ち止まったのは街道に沿って並んでいた氷の木が途切れた空間だった。

「なんか・・・この先に街道が続いてる感じ?・・・」

街道は分岐してる感じで片方の道は氷の壁で塞がれているのが木が途切れた部分だった。
そんな香里のつぶやきは祐一に聞こえなかったのか、
祐一はいくつもの魔法陣を壁に描いていた。

「ちょっと待っててくれな、ちょっと厳重にしてるから。」

香里は半分無意識にその魔法陣の属性を探知してみていたが、
数が増えるに従いすでに香里の未知な属性となっていった。
前に祐一に聞いた時は、
「謎のある漢っていいだろ?伏線てんこ盛りで」
と言われて、とりあえず一発殴っておいた香里だった。
祐一は描いた魔法陣にさらに魔力を送っている。
邪魔になると思った香里は、黙ってそれを見ている。

「ん・・・・そうだな・・・それがいいか・・・」

祐一は何かを考えたのか、自己完結に独り言を言っていた。

「?」
「香里・・・」

祐一が香里を手招きしててを掴んだかと思ったら、いきなり香里を後ろから抱える感じで抱きすくめた。

「な、なによっ、こんな所で。」
「意識を合わせて、この魔法陣に魔力を送り込む感じで・・・」

祐一は香里の腕を取って、手を魔法陣に向けさせる。

「香里の持つ魔力の波動を覚えさせるから・・・・」
「わ、解ったわ・・・でも、先に言って欲しいわね・・・」
「まぁ・・・今思ったし・・・」

後で一発殴るか、お預けにすることを香里は決めていた・・・・

20ほどの魔法陣それぞれが同じくらいの光量を持つまでに魔力が込められると・・・


がこっ

と、音がする、地上から1mくらいの高さの所から引き出しみたいにブロックがせり出して来ていた。
そこでやっと香里は解放される。
さすがに香里は少し疲れていたが祐一は平然としている。
そんな祐一の姿に手抜きの為に手伝わせたとの考えも捨てられない香里だった。



「誰かと思ったら・・・来てるなら来てると教えろよな・・・かったるい・・・」

ふいに後ろから声をかけられて、とっさに香里は振り返り刀を抜こうとした。
気配は無かった、SOS団の事もあって香里は一応気を張っていたのにもかかわらず、だ。
誰なのか、

「くっ、・・・」

刀が抜けない、まぁそれもそのハズ、
刀の柄は祐一の鞘で押さえられていたのだ。

「知ってるの?」
「まぁな、・・・気配を消して声かけるなんて悪趣味だぞ?」
「気付いていて良く言うよ・・・、まったく・・・かったるい事するんじゃなかった・・・」

そこに立っているのは純白のマントに身を包む一人の青年だった。
他に、香里の同級生の男よりも立派なアンテナ・・・触覚・・・・とりあえず跳ね返りの髪を持つ女性、
袴姿に祐唯と同じ和弓を背負う女性、
魔術師特有のローブに着られている金髪ツーテールの幼女だった。

「む?・・・なんか馬鹿にされた気がする・・・」

なかなかに鋭い幼女だった。

「よぅ、久しぶりだな、純一。」
「思い出した様に爽やかに言わないでいいよ、祐一。」

確かに香里から見ても、髪をかき上げ爽やかな笑顔と片手を上げての挨拶は実にわざとらしかった。
だが髪をかき上げて素顔を見せる祐一を香里はレアだとも思った。
中性的で綺麗な顔立ちをしている祐一に香里は一目惚れしたわけだが・・・
面倒な事があった・・・祐一は香里にそう言って前髪などでいつも顔立ちを紛らしているので、
外でその素顔を見れる事はほとんど無いのだ・・・

「それはそうと・・・今日はこの面子か?音夢、環、さくらも久しぶりだな。」

祐一は純一の背後に居る女性達を見てそう言った。
女性達も祐一とは知り合いらしく、微笑みながらぺこりと頭を下げたり、ピースで返したりしていた。

「彼女は美坂香里、一応依頼者だ。音夢、各自で自己紹介しておいて貰えるか?」
「わかりました、祐一さん。」

香里を女同士にまかせて祐一は純一と情報交換などをしていたが、こんな言葉が香里の耳に届いた。

「かったるいから今日は二手に分かれたからな、心配しなくてももうすぐ逢えるさ。」

ニヤリと笑う純一に祐一は無表情で返す。
香里はあぁ、祐一と縁を結んだ娘がいるんだな・・・と理解した。

「・・・祐一って、あちらこちらに居るのね・・・」

香里の一言に大汗をかきながら、いずれ香里も出会うであろう人数を考えていた・・・・

「純一君、おまたせ〜、異常は無かったっす・・・・・#$&%*¥?!」

微妙すぎて学園の同級生で察知出来るのは居ないだろうと香里は思いつつ、接近する5人の気配を察知できていた。
先頭を歩いていた紅い髪の女性が純一に声をかけるも、祐一を視界に入れてから理解不能の言語を発していた。
この人なんだ・・・・そう思った香里は女性を観察してしまう。

どちらかと言えば華奢、艶やかに綺麗で癖の無い長いストレートの髪、濁りの無い透き通る様な瞳、
マントで隠れているがスタイルは良いと思わせる。
自分とも佐祐理とも美汐とも違う雰囲気の女性だった。

「ゆ、ゆゆゆゆゆ祐一君っ!ど、どうしてここにっ?」
「落ち着いて、はい、息を吸って。」
「す〜〜〜」
「息を吸って。」
「す〜〜〜・・・」
「息を吸って。」
「す〜〜〜〜〜〜〜」
「いいかげんにしなさいっ!」

すぱ〜んと香里の掌が祐一の後頭部をはたいた。

「ナイスです、思った通りでした。」
「うん、良い音もさせてくれたしな、流石かおりん。」
「えぅ・・・」

二人が香里にサムズアップを突きつけ、香里は思わず妹の口癖を使ってしまった・・・
いきなりの息のあった所を垣間見せられて少々落ち込んだのもあるが・・・

「かおりんさんですね?私はことりです、末永くよろしくっす♪」
「美坂香里よ、香里って呼んでね。」
「かおりんでは無いんですか?」
「・・・香里です・・・」
「え〜〜可愛いと思うのになぁ・・・」
「・・・お願い、香里って呼んで下さい・・・」

ことりの末永くの言葉を香里はその後のやりとりで失念してしまっていた。
佐祐理や美汐と同じく祐一に愛されるのが複数居るという事を容認している事を・・・

「それで・・・祐一君、何故ここに居るんです?」
「あぁ、羽を取りに来た。」
「そうっすか・・・私に逢いに来てくれたかと思っちゃいました♪」

一瞬だけ悲しげな顔をしたことりだが、すぐに祐一に甘える様な表情になった。
優しく微笑み返す祐一に、香里は祐一の足を踏んで腋をつねろうとするも、
逆に踵が痛くなるだけだし、余計な脂肪の無い筋肉質な腋を掴む事すら出来なかった。

「えぅ・・・」

その後、情報収集や盗賊的技能がメインと紹介されたコードネーム杉並と名乗る男、
若侍に男装する剣士叶、純一とさくらの弟子的関係の見習い魔術師アイシア、わんことあだ名される剣士美春を紹介された。
そこで香里は祐一が仲間と紹介するメンバー、美汐も真琴も、名字を持たない、又は捨てたと言っている事に気付いた。

(家を捨てる必要があるのかしら・・・・でも祐唯に対する祐一の態度はそうでもないし・・・」

「そうですね・・・一つは何かあった時に家族へ被害が及ばない為にファミリーネームを捨てていると言うのもありますよ。」

香里の側に居たことりが、香里の疑問に答えの一つを答えた。

「あれ?どうしてあたしの考えている事が解るの?」
「どうしてって・・・口に出していましたよ?」
「えぅ・・・・」

確かに学園に居た時、図書館で勉強している時にぶつぶつ独り言を言う癖があるとは指摘されていた香里だが、
まさかここで、しかも隣に居る人物に聞き取れる大きさでの独り言を言っていた事実に香里は落ち込んだ。

そんな香里の頭にぽんと祐一の手が乗った。

「何だ?気付いて居なかったのか?」

祐一いわしゃわしゃと撫でられる事は嬉しいし恥ずかしいものの、
祐一が伝えた言葉は香里の頭上に「が〜〜ん」という言葉の岩が降り注いだ様なものだった。

「そろそろ行くぞ、純一も来るか?」
「あぁ、」

周囲のメンバーもうなずいていた。

「OK、」

祐一は壁から飛び出したブロックに手を当てて聞き取れない大きさでぶつぶつ何かを言っていた。
おそらく呪文なのだろう。


壁の一部、扉くらいのサイズの部分がうっすらと消えてゆく、
100mくらいだろうか、その中は通路になっていた。
祐一が通路に入り、香里、ことりと続く、純一は最後尾に入っていった。
綺麗にくりぬいた感じの通路は周囲の凍土も手伝ってかひんやりと涼しい。
ふと香里が後ろを振り向くと入ってきた入り口は塞がれていた。




トンネルを抜けるとそこは氷で作られたオブジェで彩られた別世界だった。
町並みも、生活している人も猫や犬などの小動物も、全てが氷で作られた、そんな街だった・・・

{蝋人形などで江戸の暮らしを再現している博物館や、縄文、弥生時代の生活を再現している展示を見た事がありますでしょうか?
そういった建物、人、道具などのすべてが氷で作られている、そんな情景を思い浮かべて頂きたい}


目を細めて周囲を眺める祐一の隣に香里は立ち、風景に心奪われる。

「ここが祐一君の故郷なんですね・・・・」

香里の反対側に立つことりがつぶやいた。

あぁ・・・そうなんだ・・・・祐一が話してくれた魔法装置の暴走で滅んだ都市、
それが祐一の故郷で悲しい思い出の集う所なんだ・・・・

その悲しみは香里の想像の範疇を超えている、
栞を救う為とはいえ、材料の一つが存在している事を知る祐一がここに来ることは苦悩だった事だろう・・・
それに祐一は栞を香里の言葉でしか知らないのだ・・・
自分が身を捧げた事も理由とは香里は考えたく無かった。

実際材料探索の旅でここを最後に持ってきたきた事も、祐一の隠された苦悩を表しているのだろう・・・




祐一は大路を左に曲がって、唯一残された緑のあった場所に移動した。


残念な事に半分が氷った樹木は残った部分が壊死してしまい、氷った半分のみが姿を残していた。
それでも地面は生き残っており、雑草であるものの植物が残っていた。

「純一、ここで野営の準備をしておいてくれ。」
「はぁ・・・かった・・・解った、やっておく。」

口癖ともなっている「かったるい」だが、純一が言いかけた時、
祐一の後ろで音夢が創作魔術で作り出した岩塊を純一に投げつける構えをしていた。

創作魔術で簡単な物なら無から作り出す事が出来る音夢、
投擲を戦闘の技法とする音夢は創造した岩や分厚い書物を投げつけるのだ、
その体格からそれを想像する人物は皆無。
あまりの違和感に相手は魔術での防御を忘れて敗北するのだ。
そこを美春の剣と純一とさくらの魔術が襲う。
他に環の魔術矢を使用した弓、ことりの呪歌など
ギルドでは無名ながら戦闘にも長けた冒険者達だった。

「祐一さんはどうするんです?」
「あぁ、もう日が暮れるが、その前に行っておきたいんでな。」
「解りました、食事を用意して待ってますね。」
「い・・・いや・・・・音夢は作らないでいいぞ・・・・美春、環っ!頼んだぞっ!!」
「ちょ、!!祐一さんっ!それはどういう事ですかっ!!ちょっとっ!まちなさ〜〜いっ!!」

祐一は香里の手を取るとそこから逃げ出した。

「ちょっ、祐一どうしたの?」

路地を曲がって、音夢の叫ぶ声が聞こえなくなったくらいの場所で祐一は走るのをやめ、
息を整えた香里が祐一に聞いた。

「あぁ・・・・実は音夢は料理の腕が最悪、壊滅的な腕なんだ・・・」
「はぁ・・・・本人も自覚してるけど指摘されると必要以上に反応するって所かしら?」
「そうなんですよ〜困ったものです。しかも本人は作りたがりますし。」
「・・・って、ことりが何故ここに居る?」

二人で走って来たはずだったのだが、祐一を挟んで反対側にことりがちゃっかり居た。

「最初っから一緒に走ってきましたよ〜、祐一君冷たい・・・」
「そうは言ってもなぁ・・・今は依頼での行動だぞ?」
「まぁ、いいじゃない祐一、ことりも一緒に行きましょ、久しぶりなんでしょ?」
「はいっ、ありがとさんですかおりん♪」
「だから・・・かおりんはやめて・・・お願いだから・・・」

両腕を二人に抱きかかえられた祐一は、道すがら周囲の説明をさせられる。
突っ込まれてついつい小さい頃の悪戯などを暴露させられる祐一だった。


わざと明るく会話し、祐一の腕に胸を押し付けたりと、実は祐一をかなり気遣う二人だった。


太陽が山脈にかかり、周囲が夕暮れに染まり始めた頃、
3人は大きな屋敷の正門らしき前に来ていた。

「ここは?」
「俺の家。」
「ここが・・・」

祐一は腕から二人を剥がす。
不満げな二人だが祐一が腰に手を回して引き寄せたので申し合わせた様に祐一に2人はしがみついた。

「よっ!」
「ひゃっ!」
「きゃっ!」

祐一はふたりを抱えて跳躍。
門をジャンプで乗り越えた。
びっくりした二人はさらに祐一に抱きつく。
さらに香里にしがみついてる子狐が可愛かった.
二人はは着地しても夢見心地な顔でしがみついていた。

「歩けないから離して欲しいんだけど・・・・」

そう言われて渋々二人は離れる、
離れて早々に屋内の風景を珍しげにきょろきょろするが片手は祐一の袖を掴んでいた。

祐一に連れ立って屋敷の庭を歩く、
氷っていなければ綺麗な庭園であった事だろう。
生花であった事が信じられないほどに氷の世界だったのだ。

「・・・屋敷の中央にも庭園があってな、屋敷は上から見ればロの字みたいに四角く、
内側の面に合わせて四季の植物が植えてあった・・・」
「それは綺麗なんでしょうね。」

今祐一が歩いているのは来客に見せる為の意図もある薔薇の庭園だった所である。
すでに予備知識を得ているのかことりは氷の薔薇などを眺めている。

「ここだ・・・」

祐一が立ち止まった
水は普通に氷っただけだった事も関係あるのか、池の水中植物も、小型の観賞魚すら生息していた。
子狐が池の観賞魚目当てで水と戯れ初めていた。

「不思議か?」
「そうね・・・」

都市が氷った際、水は氷っただけである事を発見した祐一らは大規模な魔法で水のみは元に戻す事が出来た。
おまけで氷に閉じこめられていた魚などは氷像に変化する事もなく、仮死状態から復活する生命力に溢れたものもいたのだ。
池で飼われていた鯉などの大型の魚は餌関係もあり祐一と祐唯は中央公園にある大きな池に放ったが、
藻などを食料にする小型の観賞魚などは残した。
その頃のとは魚も代替わりしているだろうが魚たちは生きていた。
先ほどの半分氷った木と同じく、当時、水に漬かって仕事をしていた人もいた・・・・
上半身だけ氷像となり、下半身だけが普通に氷っていたのだ。
その不運な数人の人は祐一達が墓地の凍土を掘り起こして埋葬している。
いつか・・・・いつか街が復活して氷像となった人々が元に戻っても、
半分氷像となった人の即死は免れないからだ・・・・


「それでどうするの?」
「この池の下に、埋まっている。」

最後のアイテム「始祖鳥の羽」先祖返りした一族なのか、魔術師の実験なのか、
始祖鳥と呼ばれる、鳥とは虫類のあいのこな身体をしている鳥が南の地方の密林の奥に生息しているらしい。
だがそれは伝承と文献の幻獣一覧でしか知る事はないのだ。
学者連中にしたら無視されているに近い存在である。
散策の旅を始めた頃の香里も、それが本当に実在してるのかは不明だったのだ、祐一に出会うまでは・・・

祐一が手を翳すと池の中から密封された箱が浮かび上がって来た。

「香里・・・・」

祐一はその箱を香里に手渡した。
香里がその箱を開けるとすでに10年は経過している羽なのに、ついさきほど採取したみたいに光沢を持つ羽が現れた。

「これが・・・・これで栞が助かるのね・・・・」
「あぁ・・・・」

羽を抱きしめて涙する香里を祐一は優しく抱きしめた。
羨ましそうに、なれど優しい瞳でことりもそれを見つめていた。
もう何年も会っていない姉を思い出しているのかも知れなかった。

「さて・・・・戻るか。」
「そ、そうね・・・まだこれを栞の所に持って行かないとならないしね。」

涙を拭いて香里が微笑む。


こうして屋敷を後にして祐一は純一達の所へ戻って行った。





深夜、皆が寝静まった頃に祐一は中央公園の広場に居た。

「浩平・・・瑞佳・・・詩子・・・みさお・・・・」

祐一はそこで氷像になっている子供達を一人一人呼びかけている。

「秀平と涼太は今では傭兵団を率いて元気にしているぞ、それとな、秀平のヤツ結婚しやがったんだぜ、
ななみって言う可愛い女の子も居るんだぜ、あと五年もしたら浩平達を追い越してしまうな・・・
涼太は二人の女の子に挟まれて苦労してるぞ、元々秀平ピッタリのヤツだったから決断力に欠けるんだよなぁ。
祐唯も今では若奥さまだ、俺が良い男を見つけてな、
逢わせたらお互い一目惚れだってよ・・・俺がわざわざ演出したのが馬鹿みたいだったよ・・・
茜も偶然街から離れていたから無事だったんだぜ、今はユウナ・・・・俺の姉さんみたいな人の所で修行してる。
俺か?俺は・・・・」

明るく氷像に話しかけていた祐一だったが、いつしか涙を流していた。

「祐一君・・・・」

広場の入り口、野営地を抜け出した祐一に気付いたことりがこっそりと後を追っていたのだ。

「・・・・ことりか・・・」
「ごめんなさい・・・」
「いや・・・・ことりで良かったよ・・・純一や杉並だったら何を言われる事か・・・」
「そうっすね・・・」

氷像の側のベンチに座る祐一の横に、ことりも腰掛けた。

「祐一君のお友達なんだ・・・・」
「あぁ、男女の垣根を越えた親友達だ。」

いつもことりや香里に向ける祐一の優しい表情だが、
ここで見る祐一の表情はいままでのが普通の表情に見えるほどの優しい表情だった。

「今度は祐唯も連れてこないとな・・・」
「祐一君が溺愛してる妹だもんね、早く逢ってみたいなぁ〜」
「逢って無かったか?」
「結婚式で見かけただけだよぅ〜」
「そっか、ことりと知り合う直前の出来事だったからな・・・」
「その時の事件で祐一君と出会ったから今の私が居るんだよ〜」
「うぁ、なんかことりを冒険者の道に引きずり込んだ元凶みたいだ。」
「間違って無いよね?」
「うぐぅ・・・」

ことりと出会って二年近く、一緒に旅をしてから半年以上は経過している。
純一に請われてことりは祐一と別行動となったのだった、
祐一がことりと別れて一人旅になって早々に香里と出会ったわけだが・・・・

「・・・ことり・・・」
「はい?」
「歌ってくれないかな・・・俺の親友達へ。」
「了解っす。」

ことりは立ち上がり、氷像となった子供達に向いて両手を胸元で合わせた。

祐一は姿勢を正して目をつぶる。
まぶたに浮かぶのは楽しかった少年時代・・・




氷に閉ざされた失われた都市の夜に、綺麗な歌声が響いていった。

[PR]動画