Avec Abandon・SP07





ギャインッ!!

刃がぶつかる音がする。

佐祐理一行の前に現れたのは、この世界ではほとんど生息が確認されていない、
ゴブリン、コボルド、オーガなどと言った魔界と呼ばれる異世界に存在する者達だった。
魔界と言っても魔族だけの世界ではない、創造主の作った魔族は歴とした人種の一つである、
実際は闇に属する生物が神族、魔族、人族によって隔離された魔界と呼ばれる多重次元の一つなのだが、
闇のおかげで魔界と総称されている。

創造主達の思惑を離れて神族、魔族は人族との共存を選んだ、たとえ土地を巡る勢力争いで戦う事となっても一人種として生きる道を選んだのだ。
その時点で魔界と呼ばれる多重次元はこの世界で不要と見る混沌の生物を隔離する場所に選ばれた。
魔界を好み残った一族も居る事は居るのだが・・・魔王そのものがこの世界に移住した事もあって、隠れ村的に次元の一つで平穏に暮らしている。
殺戮を好むオーガ、コボルド、ゴブリンなどは隔離された代表格である、それぞれの種族はそれぞれのみの世界で生息しているはずだった。

何故ここにそれら種族が現れたのか・・・・



刃を通さないオーガの筋肉に遮られ、一人、又一人と近衛の騎士が倒れ、
美汐、真琴、舞、冥は劣勢に立たされていた。

すでに佐祐理も、参拝を終えた事もあって牛車から降りて魔術で応戦している、
数の多いゴブリンはロボと狐達が妖狐の本性に戻る事によって均衡し、
コボルドは一弥、佐祐理、祐唯と4人の侍従と女性の傭兵で応対し、
美汐達と残る三人の近衛騎士と一人の傭兵でオーガと対峙する形にまでは持ち込んでいた。

「くっ!!硬すぎるっ!!」

斬りつけた舞が刃が入らない事を悟った瞬間に跳躍で離れ、
舞の居た場所をオーガの巨大な拳が抉った。
武器を持たないオーガは肉弾戦がメインである、
鎧で動きが鈍い騎士が犠牲になった。
見た感じは軽く殴られたにしか見えないが、金属の鎧は拳の形で歪み、
胸部の骨を砕かれた騎士はそのまま心臓も潰されて即死していた。

「戒音!!」
「おのれぇ〜〜」

その騎士と親友だった騎士がオーガに飛びかかるが、
剣を掴まれ砕かれて、頭部を殴打され首を失って倒れた。

「砂牙までもっ!」
「刹那さん!単独で行くなっ!!」

傭兵に止められて最後の騎士は悔しそうに顔をゆがめた。

「はっ!!!」

風を纏って美汐が遠心力も利用してオーガに斬りつける、
片腕を奪う事が出来ても胴体まで切る事が出来なかった。

「せっ!!」

真琴も炎を鑓に纏わせて突くが、その傷は恐るべき回復力で達所に治ってしまう。

「美汐・・・私が攪乱するから・・・」
「解りました。」

流石に切れた腕を復元出来る回復は出来ないらしく切った断面が塞がるだけだったのだ、
舞は美汐と連携してこれに当たる事にした、
すでに有効手段が少ない真琴と冥は攪乱、援護に絞っている。

「真琴っ!」
「何?」
「真琴の鑓にエンチャントします、刃がオーガに喰らいこんだ瞬間に鑓の先からアナタの炎をっ!!」
「OK」

冥の案に真琴が乗る、

「せやっ!!」

魔術で守られた鑓を渾身の一撃でオーガに突き刺し、
その瞬間に真琴はオーガの体内に炎をぶち込んだ。

「ぐはぁっ!!」

耐魔術の紋様が描かれ、外部からの魔術を無向化してるオーガも内部の魔術には勝てず、
逆に紋様が邪魔してオーガの再生力を上回る速度で体内を焼き尽くしてゆく。
口から炎を吐いてオーガの一体が倒れた。

「やった?」
「やったねっ!」

ハイタッチを交わす真琴と冥、だがまだ一体しか倒れていないのだ。

「ヴェンディダートっ!俺に力をっ!!」

傭兵は大きくジャンプするとオーガの背後から斬りかかった。

「アトルシャン殿!!」

騎士は傭兵アトルシャンに呼応して正面で攪乱する。
アトルシャンは騎士に気を取られたオーガの頭部に剣を当て、起用に身体を捻ると剣に乗り一気に蹴り降りた。

「よっしゃっ〜〜」

見事アトルシャンはオーガの胴体を真っ二つに斬り殺した。

「残り4匹っ!!」
「いえ、3匹です。」

真琴と冥の戦法を見た美汐もオーガの胴体に刃を喰らい込ませ、魔術を放っていた。
ピシピシと内部から氷ったオーガは舞の剣が与えた衝撃で粉々に崩れ落ちた。




風を纏って切り裂き、噛み砕いてゆくロボと、炎を纏って噛み砕いてゆく妖狐は優勢にゴブリンを葬っている、
こちらは順調に無傷で数を減らしている。
ゴブリン全滅も時間の問題だった。



「キャアッ!!」
「女郎花っ!!」

侍従の一人が斬りつけられ倒れた、
腕を軽く切られただけなのに様子がおかしい・・・

「姫様っ!コボルドの剣に毒がっ!!」
「お義姉様っ!!」

祐唯の声に佐祐理が下がって解毒の呪文を女郎花にかける。
菖蒲が側で警戒する。
コボルドの剣にどうやら即効性の毒が塗ってあることから一弥もうかつに接近戦に持ち込めなくなってしまい、
ここは膠着状態になってしまった、唯一が祐唯の弓であるがすでに矢は失われ、
祐唯も二本の小刀を持って応戦していた。

「撫子と茉莉花はお義姉様の側にっ!」

現在佐祐理を中心に侍従、一弥、祐唯、傭兵の女で三方を睨んでいた。

「女郎花さんっ!薙刀を私にっ!!」

毒の影響で戦線離脱した女郎花の薙刀を受け取って祐唯は薙刀による中距離に方法を変えた。

「一弥さんっ!!かまい太刀、行けますよね?」
「当然っ、祐唯。」

一弥は一刀を腰に納めて一刀を両手で握った。

「いくよっ!」
「はいっ!」

ふたりは大きく振りかぶって、

「「かまい太刀っ!!」」

祐一直伝、・・・なれどまだかけ声を上げないと真空を発生出来ないのだが・・・かまい太刀を放って二人の前方のコボルドを裂いた。

「レイヴァースっ!!」
「タムリン?!」

傭兵の女、タムリンが両掌を正面に出し、魔術の名を唱えると掌からレーザーとも言うべき白い光が放たれ、
広がる両腕に合わせて光も移動してゆく。
光が消えたあと、タムリンの正面に居たコボルドは一掃されていた。

「凄い・・・」
「祐唯さんっ!!」

タムリンの魔術に一瞬気を取られた祐唯にコボルドが迫る、佐祐理の声に気付くが一瞬の出遅れに動きが固まってしまった、

ザシュッ!!

思わず目を閉じて薙刀を掲げた祐唯だが、衝撃は来なかった。

「危機一髪っす。」

目を開けた祐唯の前に見えたのは綺麗なストレートの赤い髪と白い帽子だった。

「・・・いったい・・・何処から・・・」
「ん〜〜っとっ、上ですね。」

ちょいちょいとことりは空を指した。

「はい?」
「正確には祐一君にぶん投げられた・・・でしょうか?」
「あにうえのお知り合いですか?」

コボルドに気を抜かず一弥も聞いて来る。

「はいな♪では・・・」

ことりはレイピアを構えて残るコボルドの群れに向かっていった。

「あっ!気を付けてっ!コボルドの剣に毒がっ!」
「大丈夫っすっ!!」

レイピアという斬り合いには向かない武器なのにことりは舞う様にコボルドを切ってゆく、

「祐唯さんはダンナと向こうの残りをっ!」
「は、はいっ!!」

ことりの参上に気が抜けていた祐唯だが、気を取り直して一弥の元に行く。

「一弥さんっ!」
「あの人の事は後だ、あにうえの仲間なら味方っ!」
「はいっ!」

ふたりは今度は刃を横に構えた。

「「かまい太刀っ!!」」

祐唯が足下の高さに、一弥が胸の高さで、二重の真空の刃がコボルドを切り裂いてゆく。

「一弥さん、祐唯さんっ!!」

タムリンの声が二人にかけられる。
さっと二人は左右に散った。

「レイヴァースっ!!」

一弥、祐唯側に居たコボルドが一掃された。

「はいっ!」

軽やかに舞いながらことりは自身が引き受けた側のコボルドを一掃していた。

「任務完了っす。」




そして遙か上空から男女の雄叫びが佐祐理一行に聞こえた。




「この声は・・・」

美汐が上空の声に気を取られる。



ごごごごごごごごごごごごごごごご





どぐわぁ〜〜〜ん!!!



一匹の羽が生えた魔界に隔離された一族の一つ、デーモンに蹴り入れてそのまま地上まで落下した祐一と香里だった。
二人の足には稲妻を纏ったのか放電現象がぱりぱり言っていた。

当然蹴られたデーモンは地面の穴の下で絶命していた。

「祐一さん?」
「行くぞ、香里っ!」
「えぇ、いいわっ」

美汐の声に返事せず、
祐一の放った風を使い二人は再び空に上がった。

空中で二人は剣を抜いて上段に構える、
剣には二人の気が集まって発光し始めた。

どんっ!!!

落下の速度に風も乗せて落ちてくる二人は一匹のオーガを三枚に切り捨てた。

「名付けて双龍斬・・・かしら?」
「普通こんなアクロバットはしませんよ・・・」

残るは2匹、アトルシャンと騎士刹那、真琴と舞&冥で相手をしていた。
美汐は疲労で一端下がっていて、アトルシャン達への助力に動こうとしていた所だったのだ、。

「香里、美汐で真琴達の方へ、俺はもう一方にっ!」
「わかりました。」
「わかったわ。」

祐一は刀を構えてオーガにダッシュした。

「刹那っ!アトルシャンっ!!」
「祐一殿っ!」
「祐一っ!遅いぞっ!」

オーガの正面に回った二人が上手く祐一の姿を隠して、
タイミングを合わせて左右に分かれた。

オーガの横をすり抜ける様に移動する祐一、

チンっ

血を紙で拭い、鞘に収めるとオーガの上半身がスライドして落ちた。

「やっ、!」

アトルシャンが止めの一撃をオーガの心臓に突き刺した。

残る一匹も冥と舞で攪乱し、美汐が片足を薙いで切り落とし、香里が首を切り落とし、真琴が心臓に突き入れて炎をぶち込んだ。

「・・・終わりか?」

ゴブリンの方も、コボルドの方ももう一匹も気配が無い。

「だな。」

近寄ってくる祐一にアトルシャンが笑って答えた。

「良く居てくれた、アトルシャン、感謝する。」
「アトルシャンにだけ?」
「いや、タムリンもだ、二人が居なかったら間に合ったかどうか・・・」

二人と握手しながら祐一は感謝を伝える。

「はぇ?お二人は旅の傭兵さんでは無いんですか?」

そこに佐祐理やロボ達も合流してきた。
一弥、祐唯は刹那と侍従達とで3人の騎士の亡骸を集めていた。
最初にはじき飛ばされた近衛はかろうじて息があったので癒しの魔術で処置を受けている、
近衛と言っても紅一点の女性で、オーガの攻撃を武器で受け止め、鎧を着ないで居た事が逆に幸いだった様だ、
と言っても武器はへし折られ、軽々はじき飛ばされ木にぶつかった拍子で背中を強打、気を失っていた・・・と、言う事だが・・・


「佐祐理さん、話は後で、今は彼らを・・・」
「そうですね・・・」

遺族に持ち帰る為、鎧を脱がし、剣を回収する、
代表して佐祐理が祈りを上げて遺体を火葬し灰を大地に蒔いた。

「戒音、砂牙、雷砂・・・勇敢な騎士に・・・」

刀剣を持つ者は正面に構え、その他の者は黙祷した。

「ミレットの容態は?」
「背骨を折られていましたがすでに魔術で治療を終えています。
それでも復帰は一週間以上先ですね。」
「ん、美汐ありがとう。」

魔術で怪我などを治療してもそれは無理矢理に本人の治癒能力を使わせる事になる、
医者の外科手術との違いは傷を残さないですむ事などだが、内出血した血などはそのまま残ってしまう、
結果的に外科手術が必要になってしまうのだ。
美汐は針術を知っていたおかげで局所、局所で上手く血を放出させることが出来たが失った血は戻らない。
ミレットは悪性の貧血状態と同じと言う訳だ・・・

うしやうまの確認をしてきた侍従の合図で一行は宿場へと移動を開始した。

3騎士を失った分、祐一らが周囲に分散し警護しているので、牛車の佐祐理も流石に聞きたい事が多いが宿場までは我慢せざる終えなかった。
ギルドの依頼書を見て声をかけてきたというアトルシャンとタムリンの二人、祐一の関係者だった様である、
今日合流したことりという女性、見覚えがなんとなくあるが、祐一の恋人の一人なのだろう・・・ことりの歌らしき声が表から安らかに聞こえて来る。
不満が無いと言ったら嘘になる、一夫多妻が認められている世の中であるので、佐祐理は自分を愛して貰える時間が減るだろう事に拗ねているのだ。

佐祐理の横では疲れたのであろう、一弥と祐唯が抱きしめ合って眠っていた。
羨ましいと思っても仕方無いだろう・・・・

「おん?」

ふたりに寄り添うロボが佐祐理の視線に気付いて反応する、
人前で犬として過ごしているうちに犬に成りきってきているのか、最近あまり喋らない。

「あはは〜っ、大丈夫ですよ〜、」

そうロボに返すと佐祐理も目をつぶって仮眠する事にした。
宿場に着いたら祐一にたっぶりと愛して貰う為にも休息しておくのだ・・・・




「刹那は鎧を考えた方がいいな・・・」
「そうですね、今回鎧で動きがかなり制限されました。」

先頭を近衛騎士刹那と並んで歩く祐一、
配置としては佐祐理の牛車を舞、冥、美汐、真琴で囲み、侍従とミレットの乗る牛車の左右に香里とことりが居る
アトルシャンとタムリンは最後尾だ。
後ろからことりの歌が聞こえる、牛車の屋根の上で眠る狐達や皆に癒しの呪歌を歌っているのだ、
歌が聞こえてる間、ミレットは安らかな顔で眠っていたらしい。


「空中に居たデーモンがリーダーだった様だが、魔界の連中が現れるなんて不穏な臭いがする。」
「我ら近衛騎士の鎧はどちらかと言うと対人を想定していたものですから・・・」
「それでだ、板金の鎧でなく、扶桑の鎧に近いものにした方がいいだろう、倉田の近衛だけでも変更させよう。」
「あの武者鎧ってやつですね?」
「そうだ、ミレットは元々長巻などを使うだろ?」
「はい、」
「刹那も剣を刀に換えよう。」
「そうは言われましても・・・」
「俺が特訓する。」
「んげっ。」
「不満か?」
「今使ってる剣術は二年前に祐一殿に仕込まれた物じゃないですか・・・」
「解ってる、だが状況に合わせないとな。」
「はぁ・・・・あの地獄の特訓を又なのか・・・」
「何か言ったか?」
「いえっ、何もっ!!」
「まぁ・・・双方を知ると戦技も幅が出るぞ?」
「まぁ・・・そうですけど・・・」


哀れ近衛騎士刹那、雪夢に到着するまでの地獄の特訓が確定してしまったのだった・・・・



「アトルシャン?」
「あ?あぁ・・・」

歩きながらアトルシャンは何か考えていた。

「どうしたの?」
「あぁ・・・ジョーイさんの言っていた事が本当に起こってきてるな・・・・って。」
「そうね・・・あ〜ぁ、この大陸ではのんびり龍の遺跡探索出来ると思ったのになぁ・・・」
「ま、しょうが無いさ、この大陸の八色の龍王の助けになるなら・・・」
「そうだね、頑張って、ドラゴン族の勇者さんっ!」

空気を振り払う様にタムリンがおどけた

「あ〜〜タムリン、人ごとみたいに〜」
「あはははっ、」

アトルシャンも笑ってそれに答えていた。











「えっと・・・ことりです、二年前に佐祐理さんや祐唯さんとは会っているんですよ。」
「あっ、もしかして・・・」
「一弥、覚えてるの?」

どうやら一弥は推測出来た様で、思い出せない佐祐理が聞いた。

「ほら、姉上、聖歌隊、煌産業大臣の・・・・あれ?」
「あ〜〜〜〜っ、わかりました〜っ、・・・あれ?」
「なるほど・・・お兄様が連れ出したのですね?あのあとどんなに大騒ぎになったと御思いで?」

立ち上がり、頬を膨らませて祐一を睨む祐唯、
一応怒っているのだが全然迫力が無く、可愛らしいとしか言えない。
いくら15歳と言えどもすでに妻の身分を持っているんだから・・・・もうすぐ16歳だろうに・・・
と、祐一は第三視点から見てしまっていた。

この地方では14歳から元服などの成人の儀を行える、
20歳で儀を行っていなくとも成人とされるが、
身分など若い段階から成人として扱わないとならない人物が成人の儀を行うのだ、
それは婚姻にしてもそうである、男女共に成人と認められていない者は婚姻出来ない。
一弥は立場から14歳になって早々に、祐唯は育ての親でもあるユウナ達の方針で早々に儀を行っていた。
つまり一応大人の一員と認められた存在なのであるのだが・・・

兄とのやりとりは子供のままだった。

婚姻の特例的に、産まれた時からの許嫁で、相手の家で一緒に育つなどもある。

「まぁまぁ・・・祐唯、」
「かずやさぁ〜ん・・・」

一弥が祐唯の頭を撫でると、顔は多少拗ねた状態だが大人しくなった。

「では、改めて、アトルシャンだ、ジルバーンという大陸から渡ってきて遺跡探求の旅を妻のタムリンとしている。
旅の途中でそこの祐一やその師匠ジョーイさんと出会ってこの大陸の事を色々学んだ。
いつかバレるだろうから先に言うと、俺は龍族だ、秘術によって人の姿をしている。」
「りゅ、龍族なんですかっ!!」

おどろいた佐祐理が身を乗り出す。
佐祐理だけでなく、一弥や香里も驚いていた、当然侍従や近衛も・・・

「あぁ、ジルバーンは呪いで龍族が龍として生きて行けない大地だったんだ、それで人の姿を借りている。」
「でも、ルーンディアではその呪いは・・・」
「あぁ、呪いは無い、でも龍の姿だと目立つだろ?」
「あ〜〜そうですね〜っ、」
「アトルシャンはタムリンと一緒に居る為もあるんだよな〜」

祐一がからかう様な口調で口を挟んだ。

「祐一・・・ま、その通りだがな。」

祐一のサムズアップに軽く睨むアトルシャンだが、秘術の内容に及ばない様の配慮と気付いて照れ笑いで納めた。

「私も改めまして、タムリンです、アトルシャンの幼なじみで龍族に育てられました。
私の魔術の大半は血族に遺伝で伝わるものなので、皆さんのの知識には無いものと思います。」
「それは私達で使えるものでしょうか?」

興味から美汐が聞いてきた。

「多分無理だと思います。」
「そうですか・・・」
「遺伝情報などに刻印してあると思えばいいぞ、美汐、しかも太古の失われた魔術だ、タムリンほどの潜在魔力があって初めて使えるレベルのものだ。

上手く説明出来ないタムリンに変わって祐一が補正した。
継承の魔術で相沢家の知る全ての魔術とその関連情報を7歳の時点でいたからこその知識だった。
祐一から有る程度の事を聞いていた美汐はそれで一応納得した、
残念そうなのは佐祐理や冥など魔術師である、彼女らは日々詠唱魔術を勉強しているのだ。
祐一の助けに、佐祐理達を守る為にと出来るなら教わって使える様になりたいと思っていたのである。

「自己紹介はそろそろいいかな?他は解るだろ?」

祐一は三人に聞いた。

「あ〜・・・そのウェービーな彼女の事を聞きたいな。」
「あ、あたしっ?」
「そっか、香里だけだな、簡単に頼む。」

しょうがないか・・・と香里も自己紹介をアトルシャンとタムリンにする。
祐一の恋人の一人、とわざわざ入れてきたあたり佐祐理、美汐、ことりの反応を楽しむものだったらしいが・・・











「では、挟み撃ちされる所だったのですかっ?」

宿、食堂の円卓を囲んで話をしていると唐突に美汐が声を上げた。
高級宿のおかげで室内は佐祐理一行だけだったのがまだ良かった。
一般の注目を集める事も無い。
円卓は侍従を除いて刹那やミレットも座っていた。
まぁ、美汐達が驚くのも無理はない。
祐一が予定通りこの宿場での合流であったならば一行は全滅していた可能性だってあったのだ。

「美汐、らしくないぞ、まだ食事中だ。」

ぺろっと鳥一羽まるまる平らげた祐一が苦笑する。
強行軍な上、まともな食事もしていなかったのだ、
よくもまぁあれだけの戦闘力を・・・と思っても、祐一には問題無いのだが・・・
まともな食事に舌鼓を打つのは主に香里とことりだった。
舞、冥、真琴はそういう会議的な事が苦手なので食事に集中している。
祐一が居るのだ、指示に従えばよいと思うほど、祐一は信頼されている。
アトルシャンとタムリンは聞きながら食事を続けている。
侍従達も背後で話を聞いていた。
ミレットは大量のレバニラを無理矢理食べさせられていたが・・・

「あ・・・失礼致しました・・・」

すごすごと座り直す美汐、真琴が横で笑っていて美汐に小突かれていた。

「まぁ、主戦力は前方からの魔物だろうが、後方から亜人の集団が襲ったらさすがにな・・・」
「前方に変な集団が居たのよ、ま、案の定だったわけね。」

すでに食べ終えた香里が続ける。

「おそらく裏ギルドでは無いと思うのですけど・・・」
「その根拠は?」

ことりの言葉に一弥が聞いた。

「祐一君がすでに手を回していますから。」
「なるほどです。」
「闇族・・・知ってるか?」

祐一が皆を見回して言った。

「歴史書などで見た事がありますね〜っ、」
「あたしも見た覚えがあるわ・・・」
「俺はその闇族が絡んでる可能性を考えてる。」
「空に居たデーモン、下級だったけどそんなの呼び出せるのは闇族と考えるべきね・・・」
「はぇ〜〜・・・悲しいですね・・・」

叔父が差し向けているのはすでに承知の佐祐理だが、
魔物まで使った時点で人の道ならず、もはや人ではない・・・

「もしかしたらお父様にまでっ!」
「そうであったとしても大丈夫だ。」
「祐一さんは何故そう言えるのですかっ?」

急いで戻りたい、立ち上がりその意志の見える佐祐理だが、祐一は簡単に言う。

「あぁ・・・そういえばジョーイ様とユウナ様が雪夢に滞在していらしたのでしたね・・・」

落ち着きを取り戻した美汐がお茶を飲みながら言う。

「それに和樹達もだ、戦力としては十二分、むしろありすぎ。」

出てくる名前が知らない名前ばかりなので佐祐理の周囲には?マークがいくつも浮いていた。

「俺の師匠夫婦と冒険者仲間だ、師匠夫婦が居れば俺の10人分は確実。」
「私とお兄様との親代わりだった方です。」

祐一の戦闘力は見ている、すべてでは無いもののであるが、
それでも祐一にして10人分、恐ろしいと香里は素直に思った。

「はぇ?」
「ですが、その方達は僕と祐唯の結婚式には・・・」

会った覚えの無い一弥と佐祐理は必死に思い出そうとしている。

「ちゃんと居たぞ、大聖堂での式を見てすぐに旅立って行ったけど。」
「あら、お兄様は会っていなかったのですか?」
「なにっ!祐唯の所には顔出して行ったのか?」
「はい、シェアラさんもご一緒に・・・」
「あんのくされ親父はぁ・・・・」

拳を握る祐一だが、香里と美汐の冷たい視線に我に戻った。

「と、すまん・・・」
「ま、いいけどね・・・」
「それでこの後はどうします?」
「そうだな・・・」

祐一は食後の珈琲を飲み干してテーブルに置く。

「そうだな・・・特に策は無い、このままでも24日には雪舞に到着、29日には雪夢に到着するはずだからな。」
「いいの?祐一君。」
「俺が居る。」

祐一が一緒に居る、それ以上安心な策は無い、佐祐理達は安堵の笑みを浮かべていた。





祐一が居たおかげか、以後魔物の襲撃は無く、無事に雪舞に一行は到着する。
復興途中で贅沢など出来無いだろうなのに再会した久瀬はパーティーを開いて歓迎した。
そして雪夢に到着した祐一は倉田一家と香里達と共に新年を迎えるのだった。






KAIEIのボヤキ

出来うるのなら感想お願いします。

本編が長くなっているので雪舞や雪夢到着は外伝という形で投稿のみとする予定です。

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