Avec Abandon・SP08






雪夢に到着して早々、祐一がどこから見ても美人のユウナに抱きつかれ一悶着あったものの、
新年を雪夢の倉田邸で迎えた一行は、佐祐理などが挨拶の応対に忙しくしてる間にと出発した。





「やっと・・・戻って来たわ・・・・栞・・・」

小高い丘、眼下には湯煙が立ち並ぶ雪静の街が見えていた。
雪静は倉田家が職人の福利厚生などを目的に建設された街であるが、
各所から病気療養などで人が集まる街となっている。

「凄い湯煙だな・・・しかし・・・」

足下を滑らしたことりをさりげなく支え、

「わざわざここに昇る意味あんの?ユウナ姉。」
「いやぁ・・・こうやって見下ろして街が見えた方がらしいじゃない・・・・」
「すごい遠回りなんですけど・・・・しかもまともな道無いし・・・」

ここまでの間、香里もことりも何回も転びそうになっていた。
その度に祐一が支えているので、二人としては嬉しかったみたいだ・・・

「それと・・・」

祐一は後ろを向いた。

「何でみんな付いて来てるんだ?」
「あ、あははは〜〜〜っ、」

雪夢を出発した時は祐一、香里、ジョーイ、ユウナ、ことりの5人だったハズが、

「雪静は雪夢の管理する街です、時期太守として視察は当然なのです。」
「妻として夫の側に居るのは当たり前です。」
「まだ未熟な一弥には姉の補助が必要なのですよ〜〜っ」

「佐祐理さん・・・一弥・・・祐唯・・・新年の行事はどうした?」

「近くに温泉がある・・・入りに行かないのは人として不出来です。」
「あぅ?美汐がにくまん買ってくれるって言うから・・・」

「真琴・・・不憫だ・・・美汐はおばさんくささ炸裂だぞ・・・」

「・・・私は佐祐理を守るものだから・・・」
「舞に同じくだよ〜」
「一弥様、佐祐理様有る所、我ら専属侍従の影有りっ、です。」
「近衛としては当然なまでです。」

「まぁ・・・三人が居た所で想像出来るが・・・」

「いやぁ・・・霧と沙綾が温泉に行きたいと甘えるもので・・・」
「ここの温泉は肌が綺麗になるって言うじゃない。」
「そうですわね。」
「私は・・・霧さんと違ってお肌ピチピチだけど、お兄ちゃんの行く所だから。」
「あははは、祐いっちゃんの負けだね」

佐祐理、一弥、祐唯、美汐、真琴、舞、冥、侍従4人に新顔入れた近衛4人、
さらに雪夢に来ていた浩樹、霧、沙綾、悠、浩樹の従姉妹で絵の弟子であるエリスまでもが後ろにいた。

「まぁ・・・・出発の時の顔を見ていたら想像できたわよ・・・」

やれやれとしたポーズを付きながら、仲良くなったみんなが居ることが嬉しくもある香里。

「ま、邪魔しなければいいだろう、行くぞ。」

さっさと歩き出すジョーイを追って、祐一も歩き始めた。

ちなみにアトルシャン達は和樹と合流して佐祐理の叔父に接触した闇族の排除をしている。
とりあえず闇族が雪夢で行っている陰謀を掴むまでは泳がせるつもりらしい・・・


ようこそ温泉の街雪静へ

そう文字が書かれた大きなアーケードに向こうには宿場みたいに温泉宿が並んでいた。
一際大きな温泉旅館の入り口には
歓迎!倉田様ご一行
とか、
歓迎!バーベナ評議会ご一行様
などと書かれていた。

「それでは・・・佐祐理達はこちらの宿を借りたので・・・」
「あぁ、終わったら合流するよ。」
「約束ですよ?」

祐一が佐祐理を始め、特定人物のみが行うと敗北必須の上目遣い・・・

「俺が佐祐理さんとの約束を破った事、ある?」
「え〜〜と・・・・・ずっと側に居てくれるとか・・・旅に連れて行ってくれるとか・・・」
「ぐはぁ・・・・」

反撃も、見事なカウンターに祐一は崩れ落ちた。

「あはは〜っ、冗談ですよ〜っ、まだその刻では無いのですよね?祐一さん♪」
「ごめんな・・・」
「いいんですよ〜っ、では、お待ちしておりますね。」




そうして5人は佐祐理達と一端別れ。

「あたしのウチで借りてる家はこっちよ。」

香里は街の住宅地っぽい区域へ向かった。

「なんか・・・普通に住宅街って感じだな・・・」
「そうですね・・・」
「ここらの区域は隠居や長期療養の人達が家族で住んでいる区域なのよ。」

確かにこの区域は宿のある区域と違って生活する雰囲気があった。

「各家に地下パイプで温泉を引いてあるのよ、引き込み料が結構するんだけどね。」

確かに各家庭から、温泉の湯煙が昇ってる。

「ね〜ジョーイ、いつか私達も・・・」
「いいかもな・・・温泉に浸かって余生を・・・・」
「・・・親父、まだ早すぎるだろうに・・・・」

ジョーイは黙って祐一を小突いた。

「うぐぅっ、」
「親父と呼ぶな、師匠、兄貴、希望ではお兄様と呼べ。」
「やっぱり・・・祐唯が俺をお兄様と呼ぶのはアンタのせいかっ、」
「ちっちっち、それはア・タ・シ、むしろジョーイは兄クンと呼ばせようとしていたんだから・・・」
「兄クン・・・」←祐一
「兄クン・・・」←香里
「兄クン・・・」←ことり
「兄クン♪」
「え〜〜いっ、忘れろっ、!」

祐一の師匠と言う事で香里はかなり構えていたのだが、
祐一が絡むと永遠の20代、万年新婚夫婦が浮き彫りになっていてもはや威厳もなにも無かった。
実際口数が多く無い、多くないものの・・・である。

そして香里は一件の家の前で立ち止まった。

「・・・ここよ・・・」

そういって香里は一呼吸すると玄関を開いた。

「ただいま・・・」
「香里?!」
「香里ちゃんなの?!」
「お姉ちゃん!!」

すぐそばに居間があるのだろう、香里の両親と妹の栞が飛び出して来た。

「おねえちゃん!!!」

栞は香里と確認するや飛び込んで抱きついてくる・・・
香里も栞をぎゅっと抱きしめた。

「栞・・・」
「香里ちゃん・・・よく無事で・・・」
「香里・・・後ろの方達は?」

再会に祐一達は黙って微笑んでいた、祐一の目は少し悲しそうで、羨ましそうな色もあったが・・・

「あ・・・・紹介するわ・・・まず旅の仲間でことり、」

ぺこりと頭を下げて微笑むことり。

「魔術師のユウナさんとそのダンナさんのジョーイさん」
「ども〜〜っ、」
「そいつの師匠みたいなものだ・・・」


「そして・・・あたしを助け、勇気付けてくれて支えてくれた、祐一よ。」
「まぁ・・・偶然対処法を知っていて、その材料のある場所を知っていただけですよ。」

何かを感じた香里の父は、祐一の手を取って頭を下げた・・・

「祐ちゃん・・・」
「すいません、おじさん、早速に行いたいのですが・・・」

香里は祐一と出会った当初に手紙を送っておいたので、物わかりの早い父親だった。

「あ、あぁ・・・・解った・・・私達は何をしたら良いかな?」
「そうですね・・・・」

祐一は香里と栞を見た、顔色から栞ははしゃげるほど元気では無い様に見える。
それでも香里に笑いかけてる・・・・

「では・・・何か美味しいものを作ってあげて下さい。あ、乳製品は一切駄目です。」
「どうしてですか?」
「まだ確定では無いのですが、聞いた病状では乳製品は媒体になります。」
「えぅ〜・・・・」

話を聞いていた栞が唸った・・・

「ん?どうしたのかな?香里の妹。」
「何かその呼ばれ方嫌ですぅ〜」
「祐一、栞ってバニラアイスジャンキーなのよ・・・それこそ今みたいな冬で雪が積もった外で食べるくらいに・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・・ユウナ姉・・・」
「承知・・・」
「えぅ〜〜何ですかっ、その反応はっ!」

ユウナは栞を香里から剥がし、香里の案内で二階の「しおりんのおへや」と書かれた部屋に入った。
そのままことりも一緒に入る。

「あの・・・」

美坂父が祐一におそるおそる聞いた。

「はい。」
「一体何を・・・」

まぁ、祐一も詳しく教えていなかったので香里も詳細を伝えられるはずもなかった。

「あぁ・・・」

二階からはことりの呪歌が聞こえて来る。

「あの歌は香里の妹を完全に眠らせる為のものだから気にしないでいいですよ。」
「はぁ・・・」
「それで・・・・」




しおりんのへや

「んふふふ〜眠ったわね?」
「はい、目覚まし100個でも起きないはずですよ〜」
「ちょ、ちょっと大丈夫なの?」

眠り姫とあだ名される、一応学園の親友でも60個の目覚ましを使う、
100個という形容に香里はちょっと焦った。

「大丈夫ですよ〜〜・・・・・多分。」
「ね、今多分って言わなかった?」
「・・・気のせいですよぅ〜」
「えぅ・・・・」
「冗談はそのくらいにしておいて・・・香里ちゃん?」
「はい、」
「この娘剥いて。」
「はい?」

さらっと言うユウナに香里はびっくりした。

「なんか身体の魔力の流れがめちゃくちゃなのよね〜、服の上からだと探れないから・・・」
「手伝いますよ。」

何故かことりは手をわきわきさせていた。

「あたしがするから・・・・」
「え〜〜・・・」
「・・・いいから・・・」
「残念です。」

残念と言いつつもことりは笑っていた。

栞が室内着だったこともあり、香里はちゃっちゃと剥いた。

「う〜〜ん・・・」
「な、何か・・・?」

難しい顔をするユウナに心配げな表情になる香里。

「見事に貧ね・・・」
「・・・貧ですね・・・」
「何処見て言っているのよっ、・・・・でもそうね・・・」

香里の脳裏には「えぅ〜そんな事言う人機雷ですぅ〜」と栞の声が聞こえた気がした・・・

「えぅっ、」
「どうしました?かおりん。」
「いぇ・・・頭の中に機雷を投げつけられた気が・・・」
「馬鹿な事言っていないで始めるわよ。」
「いえっさ〜」

ユウナが両手を栞に向けて魔力を込める。

「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」

集中した時間が流れる。

「ふぅ・・・」
「解りましたか?」
「えぇ・・・どうにかね・・・」
「それで・・・」


その頃の一階

「あはははは、そうなんですかぁ〜子供子供と思っていましたが、香里がねぇ〜〜」
「そうなんですよ〜っ、」
「うぅっ、・・・香里ちゃんもこんないい人に巡り会えていたなんて・・・・」
「水が良い地域だからか・・・紅茶が美味いな・・・」

何故か紅茶を飲んでいるだけなのに酒が入ったみたいに話が弾んでいた。



「それでね・・・予想通り・・・・」
「(ごく・・・・)」
「魔力傷害、類別エリア51第4考の亜種、通称BEEよ。」
「・・・どういうのですか?」

普通、というかまず知られていない、妙な症状の病気なのだ。
ことりが知るはずもない。

「簡単に言うと・・・」
「言うと?」
「子牛に乳をあげようとして泉に落ちて死んだ牛の呪い?」
「そんなどこかの水をかぶると変身してしまう泉のある秘境みたいな事言わないで下さい!!」
「あ、かおりんがキレた・・・」
「あはは、冗談よ。かおりん」
「ユ・ウ・ナさん〜〜〜っ、」

黒い魔力を放出してゆらりと香里が立ち上がった・・・

「とりあえずかおりんは服着せて。ことりちゃんは祐一呼んで来てね。」
「了解っす。」

そう言ってユウナは床に魔法陣を用意し始めた。

ばさっと布を広げると、そこには二重のサークルだけが書かれれていて、
ユウナはその間にどんどんルーンや古代文字を書いている。

「えっと・・・ここを書き換えて・・・このあたりもかな?」

一端書いたものを何ヶ所か書き換えてゆくユウナ。

「えぅ・・・」

結局自分がからかわれただけと気付いた香里は少々落ち込んで栞に服を着せていた。

「そうそう下着に金属・・・は・・・このサイズでワイヤー入りは存在しないか・・・」
「自己完結されてしまうと反応に困るんですけど・・・」
「まぁまぁ・・・っと、出来たっと。」
「それで・・・」
「あぁ・・・そうね、食べ物にはどうしても自然の瘴気が残るのよ、
特に乳製品なんて汚染されやすいものの一つなの、元々瘴気に弱い部分があったのでしょうけど、
蓄積された瘴気の影響を受けていたって事、通常なら問題ないレベルだし、自然の瘴気は探知しにくいのよね。
私か祐ちゃんクラスでないと微調整が必要だからまず直せないし、祐ちゃんだったからこそこの症状に予想出来たと言えるわね。」

そこに祐一がやって来た。

「入って大丈夫かな?」
「えぇ、いいわよ。」

入って来た祐一はきょろきょろと部屋を見渡した。

「何よ、」
「いや・・・見かけ通りにぬいぐるみ満載を想像していたもので・・・」
「見かけって・・・栞は美汐と同い年よ?」
「そうなのかっ、てっきり・・・」
「はい、はい、後後〜」

ユウナの声でするべき事を思い出して祐一は魔法陣に等間隔的に材料を置いた。

「よっと・・・以外と重いわね・・・」

ユウナは手を栞にかざし、魔力だけで身体を移動し魔法陣の中央に置いた。

「祐ちゃん、いいわよ。」
「香里、ことり・・」

魔法陣の前に胡座をかいて座る祐一が二人を呼んだ。

「はい?」
「なんでしょう?」
「座って・・・」

祐一は二人の腰を抱き寄せると膝の上に二人を座らせた。

「ちょっ、な、なに?」
「えへへ・・・」

とまどう香里にノって祐一に抱きつくことり。

「香里、説明は後でするから今はことりと同じく俺に抱きついてくれ。」
「・・・解ったわ、ちゃんと説明してよ?」

ぎゅっと祐一に抱きつく、至福の笑みを浮かべていたことは言うまでも無く・・・

「では・・・」

祐一は二人を抱きしめたまま掌を栞に向け、呪文を唱え始めた。

「(古代詠唱魔術?違うわね・・・なんだろう・・・この言語は・・・・)」

祐一が紡ぐ呪文の言語は香里の知らないものだった。
祐一の魔力で魔法陣が発光し、集めた材料は細かな光と化して栞を包み込む。
光は小さな天使の姿になって踊ってる風に栞の身体を廻っていた。
踊るたびに滴となった光が栞に降り注ぐ。

「・・・これが天使の滴・・・・綺麗・・・」
「綺麗ですね・・・」

祐一の呪文を唱える声が力強くなってきた。

「な、なに?」
「あ、熱い・・・」

詠唱が進むと、香里とことりの下腹部が熱く、熱を帯びてきていた。
丁度二人の子宮があるあたりが・・・

「(力が・・・・)」
「(祐一君へ流れて・・・)」

祐一に同調し、感覚が研ぎ澄まされてきた二人はもう一つの魔力の流れを感じた。
薄目を開けてみるとユウナが祐一の背中に手を当てて魔力を送り込んでいた。

何かの印を祐一の手が描き出している。

「破っ!!」

栞にまとわりつく光が栞に吸収されたと思うと、すぐに周囲に散っていった。

「ふぅ・・・成功かな?」

祐一が力を抜いた。

「ぐっじょぶ祐ちゃん。上手く変更点も換えられたわね。」

香里とことりは魔力を祐一に吸収されてしまった事もあって、ぐったりして祐一に寄りかかっていた。
動けてもくっついていただろうけど・・・

「まぁ・・魔法陣に記入してあったじゃ無いですか。」
「あはは・・・その手の知識では祐ちゃんには負けるからね・・・」

ユウナが手をかざすと、魔法陣の文字だけがすべて消えた。

「香里ちゃん、祐ちゃんと出会えたのはアナタがたぐり寄せた運命よ、奇跡なんて言葉にしちゃ駄目だからね〜」

魔法陣の布を片づけるとユウナは一階に下りていった。

「・・・ねぇ・・・栞はもう大丈夫なの?」
「あぁ・・・原因の因子をすべて置き換えた。
でも、霊体や魔力は改造出来ないから、今後も乳製品は控えないといけないけどね。」
「・・・かわいそうに・・・」
「・・・バニラアイスジャンキーでしたっけ?」
「それも本当の乳製品のよ・・・」

その事でしつこく文句を言われるだろう事を思い、3人は笑った。




ベッドでは夢も見ないほどぐっすりと栞は眠っていた。

「で、栞は何時目覚めるの?」
「明日の朝にはバッチリですよ。」
「ま、一日20時間寝る様では無いだろ?」
「そんな事出来るのは一人だけよ・・・」
「そんな人外な人居るんですか?」
「・・・居るな・・・」
「えぇ・・・居るのよ・・・」
「びっくりです。」

どうにか力が回復してきた事を感じた香里はさっきの疑問を祐一にぶつけた。

「まぁ・・・最終理由は実感したからわかるけど・・・」
「簡単に言えば、香里やことりの魔力を紋章を媒体に俺が吸収したんだな・・・これが。」

紋章を刻んだ時、祐一は香里に全部説明してあったハズなのだが、

「そんな紋章あったっけ?全部教えてくれていたハズよね・・・?」

にぎにぎと拳を動かす香里。

「あのとき刻んだものは全部説明してあるぞ。」
「じゃぁ何なの?」

ぽりぽりと祐一は頬を掻いた。

「シないと刻めない・・・ですか?」

ことりがポツリと言った。

「あはは・・・それだけじゃないぞ、同調が必要なんだな、これが」
「つまり・・・」
「俺は縁と呼んでいる、特定相手から魔力を移したりする魔導だ。」
「移すって、ユウナさんは掌を当てていたじゃない。」
「あれは魔力を俺のタイプに変換するから効率が悪いんだよ、
ユウナ姉みたいな膨大な魔力保持者でないと贈るなんて出来ない
その点、縁だと変換しないで出来るし、集めた魔力は俺の性質と香里の性質、ことりの性質の複合的なものに出来る。」
「そうなんだぁ〜」
「で、何時刻んだの?」

ここが本題と香里は祐一に詰め寄った。

「え・・・と・・・」
「決まってるじゃないですか〜」

何処が熱くなったのか、ことりの回答は一つだった。

「ことりは解るの?」
「かおりんももう解ってると思うけどな、」
「まぁ・・・ここが熱くなったから・・・」

そういって香里は下腹部を押さえた。

「多分想像してるのとちょっと違うぞ。」
「どういう事?」
「何と言うか・・・魔術的説明だ、長くなるぞ?」
「そ、じゃあ今回は誤魔化されておくわ。」

そう言って軽く祐一にキスをした。

「あ、ちょっと話があるんでことり、下に先行ってくれないか?」
「いいですけど・・・お礼Hっすか?」
「しないわよっ!」

むきになって否定した香里を笑ってことりは降りていった。

「それでだな・・・」
「ちょっといいかな?」

部屋に医師らしき男女が訪れた。

「え〜と?」
「あ、祐一、この先生は栞を見て下さった先生なの。」
「あ、なるほど、確認ですね?」
「ごめんなさい・・・」
「何香里が謝る・」
「でも・・・」
「いや、香里の妹が起きたら検診に行って確認して貰うつもりだったから、話は早い。」

そう言って祐一は香里を撫でた。

「いきなりで悪かったね、そう言ってくれるとありがたいよ、私は霧島拓也、一応この街で魔術医をしている。」
「私は霧島聖、一応魔術外科医だ。」

優しげな顔をしている男性の医師とキレのある目つきと通天閣と書かれたシャツを白衣の下に着ているのが印象の女医が名乗った。」

「芹、支度を。」
「は〜い。」

芹と呼ばれた看護師がてきぱきと機材を栞の周囲に用意してゆく。

「あ、場所を変えましょう、隣があたしの部屋だから・・・」
「あぁ、いいぞ。」

ほとんど過ごして居なかったのだろう、かおりと書かれたプレート・・・
どうやらかおりんと文字が付いていた様だが「ん」の文字は派がされている
・・・の扉を入った祐一の感想は生活臭の感じない部屋だった・・・

「学園の寮に入っていたから、賞味一週間くらいしか過ごしていないのだけれどね・・・」
「そうか・・・そんな感じだな・・・」

母や栞が還りを待って掃除していたのであろう・・・
室内に埃などの痕跡は無かったが、使われた形跡の無い家具などが佇んでいる。

「霧島先生って遠い親戚同士なんですって、芹さんは拓也先生の奥さんなんだけど、公認で愛人が居るって話よ。」
「それも凄いな・・・」
「この街に来てからずっと栞を見てくれているのよ。」
「魔術医・・・そっか・・・・だから香里は天使の滴にたどり着けたのか・・・」
「それで・・・話って?」

祐一に机の椅子を勧めると、香里はベッドに座った。

「あぁ・・・これで香里との契約は終わりだ。」
「そうね・・・そうなのよね・・・・」

この半年以上の祐一との旅は、もう香里にとっての日常に近くすらなっていたのだ。
栞の治癒は望んだものであるが、寂しさを香里は隠せなかった。

「一応な・・・・これは依頼という契約に基づくものだから・・・・」
「・・・解っているわ・・・・」





30分もした頃だろうか・・・祐一が応接室兼居間である部屋に降りて来た。






霧島医師らの質問を煩わしいと思う祐一は、結果の出る前に早々に美坂家を辞して宿に向かった・・・・・




そこでは・・・・




丁度食事で大広間二間に居ると聞いて祐一が手前の襖を開くと
国家バーベナ評議会メンバーと雪夢太守一家との大宴会になっていた・・・・
真琴や従卒の姿が見えないので仕切られた隣室の方にいるのだろう。

「ななななななな・・・・」

祐一が声を出せずに居ると、

「よぉ〜祐一殿!待ってたぜぇ〜〜」
「祐ちゃん、先に始めさせて貰ってるよ。」
「ユーストマさんにフォーベシィさん・・・・」
「おぉ〜〜祐一殿〜〜」
「祐弥さん・・・何時来たんです?・・・」

荒れた惨状に祐一は呆れた・・・

「佐祐理さんも一弥も・・・・」

かなり飲まされたのか佐祐理も一弥も祐唯も美汐も轟沈して転がっていた、
生き残ってるのはバーベナ組ばかり・・・・

「よろしく・・・・」

そう言うと祐一はジョーイとユウナを生け贄に隣室に下がった。
二人に捕まったジョーイの叫びが聞こえたが祐一は無視した。

だが・・・

「・・・結構悲惨ッスね・・・」
「・・・・何やってるんだ?稟・・・・」
「助けて欲しいのだが・・・・」

そこには酔っぱらい、稟の争奪戦をしている少女達の戦場だった・・・・
中央では稟が拘束されており、窓側の廊下には同じく縛られた樹が転がっていた・・・・

「ぐぉぉぉぉ・・・・癖になる・・・・」

祐一は黙って障子を閉めた。

「哀れだな・・・・」

護衛や侍従の皆は魔術も使ったのか沈められて転がっていて、ピクリとも動かない・・・

「・・・・」

祐一は稟を解放しようとしたが・・・

「あっれぇ〜〜祐ちゃんじゃない〜」
「亜沙さん?!」
「きゃははははははは〜」
「プリムラ?性格違うぞ?」

生き残ってる酔っぱらいに捕まってしまった・・・・

「ちょっ、プリムラっ!足にしがみつくなっ」
「祐一〜お兄ちゃん冷たいぃ〜・・・・きゃははは」
「祐一くん・・・」
「ん?なんだこと・・・・むぐっ!?」
「えいっ、」

振り向いた祐一は速攻でカレハに飲まされたことりが赤い顔で祐一に一升瓶を向けている所が映るのだった。

一気に一升飲まされた祐一。

朝気が付いたら、祐一にはことりがしがみついており、稟達は裸で絡み合って眠っていた。

「これは・・・ことりには刺激が強いか・・・・」

祐一はことりを背負い、樹を引きずって部屋を離れた。
当然その後みんなが目覚めた頃に悲鳴?があがったのを祐一は隣室で佐祐理に御飯をよそって貰いながら聞いた。

「あはは〜っ、リンさん達も頑張っているみたいですので・・・・佐祐理も今夜は・・・・」

祐一は祐一で膝に美汐、右に佐祐理、左にことりにあ〜ん攻撃されていた。





ルンディアの南方
とある小国では後継者争いから隣国が介入、
王になったのは隣国から側室で入った姫の王子であり、強引に合併される事になった。
それに怒った貴族の一部が暗殺された皇太子の幼い王子を掲げて抵抗運動を始めた。
その抵抗運動に居合わせた橙の外套で統一されたヴァルキリーズと呼ばれる女ばかりの冒険者集団、
そのリーダーみちるは助力を決めた。
元々正当派な抵抗集団は志願の民兵もかなり集まり有利に戦況を進めていった。

「みちるさんっ!敵は正面に展開していますっ」
「予想通りだな、孝之達に予定通りと。」
「了解〜」

伝令を勤める美琴が走る

「来たな・・・あれを突破すれば攻城戦だ、ヴァルキリーズの突撃前衛の力を見せるぞっ!!」

集団の先頭に立つ橙の外套の騎士、そのうちの一人が大きな声を上げる
それに答えて集まった兵達も声を上げた。

「突撃!!」





「本隊が動いたぞ、こちらも動く」

林に隠れていたヴァルキリーズ率いる別働隊、その指揮を執っていた美冴が側に控えている祷子に告げた。

「美冴さん、敵の別働隊が右翼に・・・」
「まずいな・・・まりもさんの予測が外れたぞ、祷子、こちらに注意を引きつけるんだ。」
「わかったわ、茜、晴子、千鶴、壬姫!」

祷子が仲間を呼んだ。

「はい。」
「それぞれ小隊を率いて攪乱して。」
「了解!!」

それぞれうまに乗ると散っていった。





「あらら・・・・」
「にいさま、どうやら別働隊はこちらに来てしまった様です、」
「仕方ない、そあら、冥夜、悠陽、純夏・・・」

武は召還の魔法陣を手刀で描き始めた。

「承知っ!」
「あい解りました。」
「お任せを。」
「タケルちゃんの為にっ!」

純夏の言葉に他の二人が反応した。

「私もタケルの為ぞっ!」
「それはわたくしもです」
「・・・それは後でして下さいっ!」

そあらの言葉でクスっと笑うとお互い配置に付いた。
武に従う四人は武が召還を行う間の無防備状態に四方を護衛するのが役目
武の妹そあらと武争奪戦参戦組の三人だ。

「召還!武御雷!不知火!吹雪!!」

武は一気に三体の精霊を召還した、敵兵は驚いている、武御雷、それも紫の武御雷は伝説級の召還精霊だったりするのだ。

「行くぞっ!」

武は自身も剣を抜いて戦力比10対1という人数に突入していった。。





「武御雷ね・・・武君も気合い入ってるわね〜」
「まりもさん、抜け道から潜入した正樹君達から連絡は?」

魔術通信装置前に居るまりもに弥生が声をかけた。
こういう乱戦の状態だとみちるも前線に出ざる得ない、
その時は後方で魔術通信で各自との連絡を受け持つまりもが指揮を執っていたりする。

「あせらないの、あきらちゃんとまりかちゃんも一緒なんだから・・・」

その天幕に霞と遙が駆け込んで来た。

「武さんが危険です。」





孝之達は見事本隊をほぼ壊滅させて突破、城門に迫った。
その時に潜入していた正樹らが門を開いて孝之らを導く。





「冥夜さんっ!」
「そあらっ、すまない、タケルを見失った。」

乱戦の渦中、わずか五人のメンバーはいつしかはぐれてしまっていた、
冥夜とそあらが合流出来た方が運が良い、
同様に純夏と悠陽も合流出来ていて武一人取り残される形であった。
武御雷らは武が自由に戦わせているので側に武が居ると四人も確信出来なかった。

「ちっ・・・はぐれたか・・・・」

武はもう一本の剣を抜いた。

「オレを殺せるものなら殺してみろっ!!」

そう叫んで敵兵に向かっていった。

「・・・・汝か・・・・」

フイに武の周囲が真っ暗になり声が聞こえてくる・・・・

「・・・龍王か?」
「ウム・・・・」
「オレが選ばれたのか?」

声・・・橙の龍王が答える

「・・・そうだ・・・我が力、下賜する・・・・」
「ありがとよ・・・」





「な・・・」
「すごい・・・・」

冥夜とそあらは信じられない状態を見ていた、
武が橙の龍のオーラを纏い周囲の兵を蹴散らしていたのだ、
武の進む方向にどんどん敵軍団の空白が産まれる、

「武が認められたのか・・・・」

救援で来ていたみちるがその状況にそう呟いた・・・・
自由騎士団ヴァルハラ、橙の部隊。通称ヴァルキリーズ・・・
橙の龍王に試されている最中でもあったのだ、そして今、武が代理として選ばれた。

「あと一人で黒が解放される・・・・」


武によって別働隊が壊滅させられ、本隊もほぼ壊滅。
城内に入り込まれあちらこちらで刃の交じる音が響き、そのうち勝利の凱歌が上がった。

「増援が向かってる、ヴァルキリーズ集合っ!!迎撃に向かうっ!!!」

各自が持つ通信用の宝玉からまりもの声が響いた。

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