Avec Abandon・SP09
「ふわぁ・・・・・」

学生しか味わえない正月休暇も終了し新たな期間が始まる、
学園は前期、後期、仕上げ期と別れ、今日からは各年度の仕上げ期が始まる。
さらに顔見せ程度ではなく早速に本格授業も始まるのだ。
そこが一般生徒と違う所である。

窓際に座る少年も、休み呆けと呼ばれる倦怠感を戦っていた。
少年は同じく呆けている後ろの金髪(アンテナ付き)に話しかけた。

「北川ぁ・・・美坂は今どうしてるかねぇ・・・」
「さぁなぁ・・・」
「さぁなぁ・・・って、おまえ・・・」
「な、なんだよ・・・」

むくりと北川は起きあがって少年を見上げた。

「おまえが美坂が好きだって皆が知ってる事だぞ?」
「ぐはぁ・・・・そうだったのか・・・だから皆実習で・・・・」
「ま、休学の理由も教えて貰えないんじゃ見込み無しだな。」
「うぐぐぐ・・・・貴様・・・」
「おっと、石橋来たぞ。」
「おのれ・・・」

教室にどすどすと音を立てて体術を教える巨漢の教師、石橋が入ってきた。
騒がしかった教室が一気に静かになる。

「おはようっ、!まずはみんなに連絡だ休学していた美坂が今日から復学する。」

教室の外で祐一は生徒の反応を聞いていた。
美人だし人気もあるのだろう、教室の男共が歓声を上げる。

「香里、人気あるんだな。」
「そうでも無いわ、単に便利な辞書が増えるからでしょ。」

石橋がさらに続ける

「それと編入者がある、雪夢の倉田家推薦だからな、期待出来る男だぞ。」

意味ありげな石橋の表情に、正しく理解した女生徒が歓声を上げた。

「なんか・・・すごいな・・・」
「あははは・・・・」

教室の外で中の声を聴いていた祐一は苦笑する香里に感想を言っていた。
冒険者専科といっても内容は普通に学生である、
いや、冒険者になるという事が解っていない、教えられない

「よ〜〜し二人とも入って来い。」

扉を開けて香里、祐一の順で教室に入る。

「今日から復帰です、またよろしくね。」
「おかえり〜〜〜」

生徒全員が香里の復帰を歓迎していた。

「折原祐一です、中途編入ですがよろしく。」

にこっ・・・・

「・・・・・」

祐一が挨拶すると、一瞬の間をおいて女生徒が絶叫して歓迎した。
香里も一目で墜ちた笑顔である、一般人に耐える術など有りはしない。
当然男子生徒の視線が祐一に突き刺さった。

「とりあえず空いてる所に座ってくれ。」

石橋の言葉に祐一は香里と共に座った。
途中僻みから通路に足が出ていたのだが祐一は容赦なく踏みつぶしていた。

「折原だったな、オレは北川潤、よろしく」
「・・・・」

にこやか(なつもり)で横の席に座った祐一に声をかける北川だが・・・・
振り向きざまに祐一は北川の顔を掴んだ。

「あのな・・・・一年に満たない期間とはいえ一緒に修行した仲間にしらじらしいぞ・・・」

ぎりぎりぎりぎりぎりぎり・・・・・・

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い割れる割れる割れる割れる割れる割れるぅ〜〜・・・」

祐一のアイアンクローに轟沈する北川だった・・・

「ったく・・・次はその触覚抜くぞ?・・・」
「あなた達知り合いだったの?」
「まぁな、詳しくは帰ってからでいいだろ?」
「そうね。」

前に座っていた少年も後ろを振り返った。

「へぇ〜折原君は北川や美坂さんと知り合いだったのか。」
「まぁね、え〜と・・・・」
「あ、僕の名前はアシュレー、アシュレー・ウィンチェスター、よろしく。」
「折原祐一だ、よろしく。」

差し出された右手を握り返して祐一も答えた。

「あはは、名前はさっき聞いたよ。」
「いや、一応名乗られたら名乗り返すのが礼儀だからな。」
「楽しい人だね。」
「そうか?」
「さて、遅刻はほっといて始めるぞ〜」

石橋が座学の講義を始めたので周囲の質問したがった生徒も仕方なく治まり。
昼休みには殺到するだろうなぁ・・・と周囲を見ながら香里は思っていた。





そのころの別教室では・・・

「倉田祐唯です、こういった大きな学園で学ぶのは初めてなのでよろしくお願い致します。」
「天野美汐と申します、同輩として至らぬ所があればご指示願います。」
「プリムラ・・・・よろしく・・・」

稟達の前だと素の表情を出すプリムラだが、人見知りな部分が出ている、
素の状態を知ってる二人にはその落差に苦笑した。

「しつも〜んっ!!」

男子の一人が手を挙げた。

「・・・・し、質問は・・・あとに・・・」

その男子は気弱そうな教師を無視して続けた。

「倉田一弥と関係ありますか?」
「えと・・・」

男子は今日から登校してきている一弥を指差している。
祐唯は一弥の姿を見つけると、祐一譲りの極上の微笑みで・・・

「妻です。」

にこっ、

「は?」

キッパリ言った祐唯の言葉に教室が、教師も含めて凍った。

「い・・・今なんと?」

どうにか解凍した生徒が聞き直した。

「ですから・・・・妻です。」

にこにこっ

「くっ倉田っ!!どういう事だっ!!説明しろっ!!」
「そんなぁっ!!私の倉田君がっ!!!」
「誰がアナタの倉田君なのよっ!!」
「どうやってっ!何時っ!」
「あの〜〜ですから・・・みなさんしずかに・・・」
「・・・一弥、人気者だね、祐唯。」

その後驚愕し再起不能の男子生徒(一弥除く)はその日は授業にならなかった。
それほど美少女と言える容姿の祐唯に対する期待が大きかったのだろう・・・
一弥も昼休みには女生徒による詰問でクタクタになっていたのだが・・・・
自分が注目されず内心安堵する美汐だった。


ことりも、稟とその仲間もそれぞれ編入していた。

「喜べ男子っ!!極上だぞっ!!」
「オオオオオオオオオオオオオヲ!!!」
「白河ことりです、よろしくお願いします・」

にこやかに挨拶することりだが、器用に見えない角度で大汗をかいていた。
横に居る茜も・・・
おなじみな質問が男子の一人から出た。

「彼氏居ますか?」
「はい、らぶらぶな彼氏が居ますよ。」

予想済みだった質問にことりはさらっと答えた。
が〜〜〜んと文字になった岩石が男子生徒の頭の上に落ちるお約束を見て教師と女生徒達は大笑いしていた。

「楽しめそうな所ですね。」

稟達の教室でも・・・

「あ〜〜今日から編入の仲間が入る、騒いだら全身鎧でバーベル付き兎跳びさせるぞ。」
「オッス!!」

元気の良い返事が男女共に返ってきた。

「では入ってこい。」

ぞろぞろと稟達が入って来た。

「では手前から名前。」
「土見 稟、よろしく。」
「俺様は緑葉 樹、」

ネリネ、シア、楓、麻弓が土見姓を名乗った所で学園史上に残る大騒動が起こっていた・・・
別教室から聞こえてきた騒音に祐一と香里らは苦笑していた。





「退屈だな・・・」
「そうね・・・」

講義を聴いていて祐一は呟いた、
さすがに眠るなどの教師に対しての礼儀を欠くことはしないが・・・
祐一にしてみれば実際の冒険では全く必要が無く、さらに見当違いな事ばかりだった。

「まぁ、祐一みたく小さい頃から千尋の谷に落とされた様なヤツにゃ必要無いな・・・」

北川も一切メモなどを取らずにヒマな顔をしている。

きぃ〜んこぉ〜〜んだぉ〜

チャイムの音と共に教師が教室を出て行った。

「・・・妙なチャイムだな・・・」
「ま〜慣れるさ。」
「次は何だ?」
「戦技よ。」
「仕上げ期だからな、実戦形式になる。」
「僕は銃剣だから場所が違うんだ、先に行くね。

アシュレーはそう言って先に教室を出て行った。

「アイツは都市警備団で特務部隊に所属してるんだぜ。」
「ほぅ、それがなんでこんな所に?」
「何でも単純に資格らしい、学園卒っていう。」
「貴族の権威主義の影響って所ね。」

北川に促されて祐一も香里と教室を出た。

「このままの服装でいいのか?」
「あぁ、練習着は前期だけで後期は鎧などの重装備、仕上げ期は各自のスタイルで良い事になってる。」

まず祐一は二人に案内されて武器庫と呼ばれる部屋に来た。

「武器庫と言ってもここにあるのは模擬刀や木刀しか無いけどね。」
「あ、木刀も重量が違うからな〜」
「あいよ。」

北川は両手剣のサイズの木刀を取り、祐一と香里は普通の木刀を取った。
そうして外への扉を開けた。

「でかいな・・・」
「一応全学年合同なのよ。」
「なるほど・・・」

温室栽培の剣士達が各々ウォーミングアップをしていた。
そしてことりや祐唯など男子に囲まれている、
違う意味で一弥も囲まれているが・・・

「祐一く〜〜んっ」

剣技を選んでいたことりが囲んでいた男子らをすり抜けて祐一に駆け寄る。

「あ、お兄様っ!」

木製の薙刀を担いだ祐唯も祐一に気付いて駆け寄って来る、
続いて一弥なども。
戦技でも剣を使う面々がこの空間に揃っていた。

「は、ろ〜、祐ちゃんも一緒だね〜。」
「剣がメインなのは亜沙さんだけでしたね。」
「そうなのよ〜稟ちゃんは格闘武術で登録していたのよね〜」
「気が乱れています、おそらく格闘の稟さんの方や魔術のネリネさんの方も大騒ぎみたいですね・・・」
「みたいだな・・・茜の方はどうだった?」
「私は祐以外に興味ありませんから・・・」
「・・・おまえら、このプレッシャーでよく普通だな・・・」
「ん?」

ふと祐一が周囲を見ると、新参者への興味か視線が祐一達へ向いていた。
まぁ、指折りの美少女がほぼ祐一を中心に集まっているのだから仕方ないのかもしれない・・・
復帰したクールビューティー香里(一刀流)
清楚な雰囲気を持つ神秘のことり(小太刀)
新妻と、萌えの具現化祐唯(薙刀術)、
奥ゆかしさと控えめの美汐(薙刀術)、
健康なお色気亜沙(一刀流)、
寡黙さがミステリアス茜(一刀流)

と男子注目株の他、
ツバメにしたいNo.1一弥(小太刀二刀流)、
意外と気配り北川(大剣)、
一撃必殺な笑顔を持つ謎の編入生祐一(一刀流)、
と女子注目株も揃っているのだ。
持っている武器も興味の対象である。

「・・・おい、あの娘が倉田の妻ってホントか?」
「あぁ・・・本人もそう言っていたそうだぞ。」
「あんな可愛い娘が倉田の・・・ぐはぁっ!」
「お、おいっ、想像で死ぬなっ!」
「あの不沈戦艦美坂があの男にべったりだぞ、どうなってる?」
「白河が言っていた彼氏ってアイツか?」

祐一の周囲は極上が揃っているのだ、妬み、やっかみ、羨望の視線が集中するのも道理である。

「あ〜・・・なんか嫌な予感。」
「予感では無いと思うぞ、祐一、おそらく今日はオマエの見極めも兼ねた内容になるだろうな・・・」
「そうですね、今回はどんな形式になるのか解りませんが、あにうえなら問題無いですよね?」
「紅薔薇教諭が来たわ、集合しましょう。」

香里の声に祐一達は集合場所に向かった。

「あ〜〜本日は何故か編入生のラッシュなので・・・男女に分かれて・・・」

結果祐一達に希望者が挑戦する形になった、
やっぱりというか、お約束で祐一への対戦希望が殺到する。

「凄いわね・・・」
「そうだな・・・香里達の方は?」
「あたし達はそんなでも無いわ、祐唯さんも亜沙さんもすぐに仲良くなっているから・・・」
「ん?何かあるのか?」
「二人は特定の相手がいる事を公言したらしいからね・・・あたしとことりは・・・」
「祐一君、早々で人気急上昇っす・・・」

確かに休み時間に祐一を見に来る女生徒が多かったのは事実。
廊下できゃーきゃー騒いでいるのを笑顔でさらに煩くして楽しんでいたのだ。

「なるほど・・・」
「なるほど・・・じゃ無いわよ・・・」

はぁ・・・と溜息をする香里の頭を撫でていると紅薔薇と同じく剣技教官の一人が来た。

「折原、希望が殺到しているがどうする?出来れば時間以内で済ませたい。」
「そうですね、希望者で成績優秀な順っていうのはどうですか?」

祐一らは倉田関係者とのふれこみが浸透しているらしく、権威に弱そうな教官が伺いを立ててきたのだ。

「それで時間いっぱいまででいいか?」
「いいですよ。」
「ちゃんと休憩を入れるから頑張ってくれ。」
「了解。」

決定を打ち合わせする為にその教官は他の教官の所へ走っていった。

「ん〜〜〜っ、よしっ、」

ヒートアップさせていた一弥と北川が気合いを入れていた。

「希望者以外はリーグ戦をするそうですから、北川さん、行きませんか?」
「いいぞ、結果は解ってるから見ないでいいだろ?祐一。」
「あぁ、一弥は今夜から修練を開始するからな。」
「あぅ・・・了解です、あにうえ・・・」

教官に呼ばれて祐一はいくつかあるステージの一つへ向かった。

「時間無制限と行きたい所だが最大で10分としたいがいいか?」
「解りました。」
「はい、教官。」

祐一に対峙するのは希望者の中でトップの実力らしい、
あくまで学園の中では・・・だが。
相手の力量を有る程度見極められる存在、極僅かだが・・・
そういう生徒はギャラリーに徹していた。

「それでははじめっ!」

両刃の直剣の形状の木刀を持つ生徒が剣を構えた。


が・・・・


祐一が無言で一降りし、その剣圧から産まれた風圧で簡単にはじき飛ばされた・・・・

「・・・しょ、勝者折原。」

秒殺である、相手も油断しては居なかっただろうが・・・

その光景に全ての生徒、教官が停止した・・・・

二人目、接近した祐一のでこぴんではじき飛ばされ気絶
三人目、気合い一吠えで失神・・・・
四人目以降は辞退という、10分以内の出来事だった・・・・・

「まぁ・・・そんな所よね・・・」

生徒の実力と祐一を知る香里は驚きもせずに流した。
今香里は対峙する亜沙攻略で忙しい・・・

「かおりん頑張れ〜〜」
「かおりんってゆ〜なっ!!」

この一言の隙で香里は亜沙に敗北したと追記しておこう・・・・

そしてこの結果が昼休みに祐一に人が・・・
それもほぼ全女生徒が押しかける原因にもなった・・・





数日前、

温泉街での邂逅は雪舞とバーベナの極秘非公式会談となっていた。

「初心冒険者の失踪か・・・」
「あぁ、先日はバーベナ出身のグループが雪華を最後に消息を絶った。」
「雪夢出身のも雪華から消息が知れないのだ。」

資料をジョーイと祐一に渡してフォーベシィが続ける。

「彼らは我らの騎士団の新人修行の一環として一年の冒険に出たばかりなのだよ。」

それにユーストマが続ける。

「成果が無くとも毎月連絡をよこすハズなんだが、パッタリ無くなっちまった。」
「それで俺に何を?」

ばしっ

祐一の肩が勢い良く叩かれた。

「おぅ、稟殿達と一緒に雪華に潜入して貰いてぇ。」
「・・・・雪華か・・・」

ユーストマが叩いた手で祐一の肩を掴んでガクガク揺すった

「頼む、祐一殿、稟殿とも戦友であるアンタに頼みたい。」
「確かに正規兵を送り込むほどに大げさでは無いな・・・」

資料に目を通しながらジョーイも追従する。

「目撃情報ではギルドを通さずに依頼をする怪しい男が居るらしいのだが、尻尾を掴ませないのだ。」
「私の配下が追跡したのだが見事に逃げられたらしい、」
「フォーベシィさんの配下がですか・・・それは・・・」
「住む所は心配しないでくれたまえ、雪華には雪夢の寮がある。」
「あはは〜佐祐理が寮母さんとして祐一さんをお世話する予定なんですよ〜っ」
「って、すでに決定事項?」

やっと自分が口を挟めると見るや佐祐理が会話に参加してきた。

「稟ちゃん達も雪夢からとして行く予定だよ。」
「そういえばバーベナとは正式に交流していませんでしたね、雪華は・・・」
「寮を倉田殿の好意に乗るとしてだ、さすがに世話までさせる訳にゃぁいけねえ。」
「バーベナからのバックアップ要員としてセージにも向かわせようと思っているのだよ。」

フォーベシィは横に座るメイド、いや、フォーベシィの妻なのだが何故かメイド服、
どうしてメイドなのかは祐一は知らないのだが・・・
そのセージを見た。

「はい、稟さんが居ればネリネちゃんも安心でしょうけど・・・」
「そんな・・・セージさんにまで・・・佐祐理が頑張りますですよ〜っ」
「セージも家事だけでなく料理も超一級な腕だからね、佐祐理ちゃん一人にさせる訳にもいかないよ。」
「確かにセージさんの腕なら歓迎ですが、いいのですか?」
「何をだい?」
「セージさんが居なくなれば、フォーベシィさん、ユーストマさん、サイネリアさんの暴走を誰が止めるんです?」

その一言に対象の三人が脱力した。

「いてぇ所を突くな、祐一殿。」
「あははは・・祐ちゃんも言うわねぇ〜そういう所ってとってもラヴよ〜それと私はリアって呼んでって言ってるでしょぉ〜」
「今はシアちゃんとキキョウちゃんがいるからね、そういえば祐ちゃんは皆が居る時にしか私達と会った事が無かったんだったね。」
「祐一さん、パパもユーストマ様も普段はもう少しまともなんですよ。」
「アタシが暴走する所は否定してくれないのね、セージちゃん・・・」

おおげさによよよと泣き真似をするサイネリア

「まぁ・・・解りました・・・・そうだな・・・・水瀬に気付かれたく無いので・・・ふむ・・・折原、折原祐一と言う名で行きましょう。」

リアをさらっと流して祐一がそう言うと祐弥と佐祐理が声を上げた。

「え〜〜〜〜倉田を名乗ってはくれんのかい?」
「佐祐理も倉田を名乗って欲しいです。」
「いえ、何か起こった時に倉田の血縁としてではまずいんです。」

二人の勢いに押されつつも祐一は答えた。

「そうね・・・・雪霞・・・原因は水瀬秋子のダンナが起こした事だもんね・・・」

ユウナがポツリと言った。
生存者、それも現場に居たのが祐一達だけであり、火事場泥棒などの防止も兼ねて速攻封印したのだ、
その事を知る人物は少ない。
バーベナ評議会の特に指導的立場の三人はバーベナが成立した頃からジョーイの後援をしており、
その事実を知る少ない人物だったのである。

(国家バーベナは神族、魔族、人族、人狼族、人虎族などの小国家が合併した国家であり、特定の王を担ぎ上げる事はしていない、
各小国家の王だったメンバーが現評議会メンバーとなっている、特徴は一夫多妻制w。
種族を越えた合併であるので反発もあったのだが共存共栄を目指すユーストマらが当時フリーの傭兵団を結成していたジョーイを雇い、
鉄壁の戦力でもって無血合併を成し遂げたのである。
以後公平な施政に反発分子も矛を収め、かなり安定している国家となっている。
最近は神族、魔族、人族それぞれを妻にする予定の稟を王として立てようという考えがあるらしい・・・)

「それだと折原って名もまずいんじゃねぇのか?」
「出方を見ます、相沢と知られたら必要以上に干渉して勝手な思いこみを押し付けてくるでしょうから、あの親子は。」
「・・・祐ちゃん、何か嫌な思い出あるのかい?」
「たっぷりと・・・」
「そういえばお兄様はたくあんと紅ショウガは拒絶しますね・・・」
「言うな祐唯、そういうのをサイネリアさんの居る所で言うんじゃない・・・」
「そうですね・・・」

きゅぴーんとサイネリアの目が光った。

「あっら〜ん、そういう事言っちゃう訳?おぼえてろ〜!」
「リア・・・」
「は〜い・・・ちっ、今日は見逃すか・・・」
「では稟君のグループは全員でいいのかい?一応学園に送る名簿を作らないとならないのでね。」

祐弥がいつのまにか控えている稟に言った。
体中キスマークだらけなのは先ほど聞こえてきた騒動から見間違いでは無いだろう・・・

(ネリネ、、亜沙、シア、楓、キキョウ、カレハ、ツボミ、プリムラ、麻弓、桜、アイ・・・11人一遍にか・・・稟も大変だなぁ・・・)

自分も全員集合すればそれ以上の人数な事を忘れて祐一は稟とその後ろに座る女性達を見ながら息を吐いた。

「はい、祐弥さん、すぐにメンバー表を作ります。」
「稟ちゃん、それなら用意しておいてあるよ。」
「あ、すいませんおじさん。」
「稟ちゃん、そろそろお父さんとかパパと呼んでくれないかな?マイサンっ!」

げしっ

とりあえずフォーベシィはセージのサンダーキックで沈黙した。
便乗しそうになったユーストマは言う前に察したシアとキキョウのパイプ椅子に沈んでいた。
稟は受け取ったリストに目を通すと・・・

「・・・とりあえずアイさんには寮に居て貰った方がいいですね・・・」
「え〜〜〜私も稟くんと通いたいなぁ・・・・」
「無茶言わないで下さい・・・」

稟はリストにちょこちょこ書き加えて祐弥に渡した。

「どれどれ?ふむ・・・妥当かな?学園には雪夢から出向してる教師に紅薔薇君がいたな・・・彼女に頼もう。」
「確か彼女もラヴァーズだったね、稟ちゃん。」
「あははは・・・・」

(・・・年上、年下満遍なくか・・・・稟、大物だ・・・)

ファーベシィの一言は祐一に今夜の稟にお悔やみ申し上げますな気持ちにさせていた。

「あと、アリエスに依頼を出した。」
「そうなんですか?」
「あぁ、表向きは久瀬の所の治安維持の助っ人だがな。」
「何か大きな動きがある可能性があるんですか?」
「わからねぇ・・・わからねぇが

とりあえず話が決まると祐一達一行は雪夢に戻る事にした。
バーベナ評議会一行は親善訪問として同行し翌朝。

「おはよ〜祐一。」

宿の前には完全旅装束の香里が待ちかまえていた。

「決めたのか?」
「えぇ、祐一、アナタについて行くわ。」

一昨日、祐一に何を言われたのか、香里の目には決意が現れていた。

「ん、解った、でも次の行き先は雪華の学園だぞ?」
「え?」
「とりあえず香里は復学だな。」
「そうなの?」

これからの旅に対する決意の一部が崩れるのだった。
もう戻る事は無いと思っていた学園に戻る事になったのだから当然なのだろう・・・

「とりあえず雪夢に向けて出発だ、今回の仲間を紹介するよ。」
「えぇ・・・って又女の子ばかりね・・・」

稟を囲むメンバーを見て香里は一息吐いた。

側にいたネリネが香里に声をかけた。

「香里さまですね?ネリネと申します、ご安心下さい、私達は稟さまを愛する集団ですので。」
「そ・・・それはそれですごいわね・・・ひぃふぅみぃ・・・・・」
「きゃきゃきゃぁっ、香里さんは祐一おに〜さんの・・・・きゃきゃきゃぁっ!」
「ま・ま・まぁ・・・そうなんですの?ま・ま・まぁ・・・」

同じく側に居たカレハとツボミが暴走しはじめた・・・・

「祐一・・・」
「言うな・・・・」

個性豊かな面々にひきつるのを隠せない香里だった・・・





夕刻
雪華、雪夢寮
倉田家による留学生用の寮である。
雪夢の大使館の敷地に建設されているので一応治外法権とされている場所である、


「ただいま〜」

祐一や稟達が疲れた顔で寮に戻って来る。
一応香里と祐一は一弥護衛兼任という形で雪夢籍となり雪夢の寮に入った。

「おかえりなさ〜い」

ぱたぱたとえぷろん姿の佐祐理が祐一達を出迎え、祐一に抱きついた。
同じ様に飛び出してきたアイに稟が抱きつかれている。

「祐一さん、どうでした?」

佐祐理は一応学園を卒業した形なので寮の責任者として、
アイもセージと共に寮の従業員として雪華に来ているのだった。

「まぁ・・・稟達が居たおかげでおそらく苦労はかなり少なかったハズなんだけどね・・・・あはは・・・」

見ると稟と一弥も疲労困憊な状態だった。

「あはは〜っ、お話は後でって事ですね〜、」
「そうして貰えると助かる。」
「それでは祐一さん、お食事にしますか?それともお風呂?それとも・・・・佐祐理ですか?・・・そんな・・・いやん・・
そうですか・・・それではこの佐祐理の胸にとびこんでかも〜〜んっ!!」」
「・・・佐祐理さん・・・」

新妻気分の佐祐理だった・・・

「あららん、祐ちゃん駄目でしょ〜〜漢なら飛び込んでこそがラヴよん♪」
「・・・・」

サイネリアの登場に一同さらに疲れた顔になった・・・

「お母さん・・・」

シアとキキョウは黙ってサイネリアの両脇を押さえた。

「ちょっ、ちょっと、何処へ連れて行くのかなぁ〜?」
「お母さんは黙って。」
「キリキリ歩く。」
「あ〜〜れ〜〜〜って言うのがお約束なのよねん・・・・・これも娘のラヴね・・・」

リアがいなくなり・・・

「なぁ稟・・・」
「なんだ?祐一・・・」
「リアさんは来ないハズだよな・・・・」
「一応・・・」

溜息を吐く二人。

「それでどうします?祐一さん。」
「そうだな・・・疲れたから風呂にするか・・・稟もどうだ?」
「そうだな・・・」

一弥と樹も祐一に対してOKのサインを出していた。

寮は一応全個室でシャワー、トイレ、簡易調理場も付属している豪勢な作りであるが、
別に大食堂、大浴場も完備されている。
さらに今は突貫工事で祐一専用別館と稟専用別館が存在していた・・・
と言っても倉田家用別館とバーベナ五公家用の別館を増改築&リフォームしたものだが。
今回追加で各館温泉大露天風呂が設置されていた。
そこに祐一組と稟組に別れて生活する。

「あはは〜用意しますね〜」

ぱたぱたと佐祐理は奥に走っていった。

「香里、ことり、美汐、祐唯、亜沙さん、カレハさん、楓、厨房で佐祐理さんを手伝ってくれないか?」
「おっけ〜」
「はい、ですわ」

サイネリアを連れて行ったのでシアはここにいないが合流してくれるだろう・・・
そう思って祐一達は各自部屋に戻った。

「ふぅ・・・良いお湯だ・・・」

広い露天風呂、祐一は思いっきりリラックスしていた。

「怪我の療養・・・魔力充填・・・ご都合主義な成分だなぁ・・・ん?」

ガヤガヤと脱衣場が騒がしくなった。

「稟と樹もこっちに来たのかな?・・・・それにしては・・・」

気配は三人どころでなく多い
しかも微かに聞こえる声質は高かった

「まさか・・・・」
「あははは〜来ちゃいましたぁ〜〜」

タオルで最低限を隠した
佐祐理、香里、ことり、美汐、琴音、茜が入ってきたのだ、
一緒に舞、冥、真琴も・・・
当然、不意打ちに祐一は慌てる?

「いつかするとは思っていたけどね・・・って、琴音?」
「はい。先ほど到着しました。」
「そうか、色々手伝ってもらうぞ?」
「はい、そのつもりです。」

言葉だけ聞いていると普通だが、
祐一は琴音を招き膝の中に抱えた、祐一に呼ばれて琴音は恥ずかしげながらも笑顔だった。
ちょっと不満げな佐祐理達だが琴音が久々なので譲る事にしているみたいだ。

「浩之の方はどうだい?」
「はい、古代遺跡での飛空魔導戦艦起動に目一杯です。」
「そうか・・・しかし凄いの見つけたよなぁ・・・」
「記録ではメテオに氷塊が含まれていて、その中にあった古代の艦を魔術で動く様改造していたらしいです。」
「伝説の第一文明か第二文明のものか・・・・」
「みたいですね、第二文明の古代語で書かれた記録が残っていまして・・・」
「それは凄い。」
「宇宙戦艦ヤマトというのが本当の名前らしいです、詳しくはまだ解析中ですが、中央から爆発したみたいで、
遺跡に居た魔術師達が前後をつなぎ合わせる際に再現不能だった機関部は撤去して魔力で動く機関を搭載したらしいです。」
「じゃぁ報告にあった魔導砲って・・・」
「機関部撤去で使用出来なくなったみたいですが、記録に残っていた原理で新規に作ったそうです。」
「報告通りなら、完全に決戦兵器だな、・・・」
「使わないで済むと良いですね・・・」

琴音は祐一の膝から名残惜しそうに離れると佐祐理達と円陣を組む様に祐一を囲んだ。

「さて・・・この面子が揃っている所で詳しく行くか。」
「そうね。」

まだ照れがある香里は祐一が琴音と離してる間にさっさと身体を洗い、
湯船に入っていた。
ちょっと身体をずらして・・・

「目立った事は稟の方で受け持ってくれる・・・はず。」
「祐一さんのお部屋に密偵の報告書を用意しておきましたよ〜っ」

佐祐理の浮いているものを羨ましげに美汐と琴音は見ていた。

「あぁ、ありがと、佐祐理さん、琴音も合流した所でもう一度いいか?」

各自が頷くのを見て祐一が続けた。

「まず最近の新人冒険者失踪の原因を調べるのだが、敵も尻尾を出さない。
解っているのが未熟過ぎる故に仕事にあぶれた学園卒業生の冒険者にこっそり仕事を持ちかけているのが居るって事だ。」
「今日でしっかり解ったわ、どれだけ未熟、というか甘いかが・・・」
「まぁな、俺にとっての初歩であれだもんなぁ・・・」

解っていない佐祐理に茜とことりが補完していた。

「稟のグループが揃うと目立つなって言うのが無理よね。」

自分達を棚に置いて香里が言う。

「そうですね、樹さんは早速ナンパしていましたから・・・」
「引っかかったのはミーハーな娘だけです・・・」

その光景を見たのだろう、美汐と茜が苦笑していた。

「・・・だからまだ帰って来ていないのか・・・・」
「それで私は何をしたら良いのですか?」

今日到着したばかりの琴音は状況が把握しきれていない。

「まずは学園に溶け込んでくれ。」
「難しいですね・・・」
「美汐と祐唯の側に居れば、祐唯がフォローしてくれるさ、」
「祐一さん、私は?」

解ってはいるものの、聞き返してしまう美汐だった。

「会話は祐唯が得意だからな、聞き出した情報を分析する方が良いだろう?祐唯が聞き出した噂話を分析していればいい。」
「そうなんですけど・・・」
「あ、期待する言葉が欲しかったか・・・」
「知りませんっ!」

図星だった様でぶくぶくと美汐は顔をお湯に埋めていった。
琴音と一緒だが今夜の約束を後でもらって美汐は機嫌をなおした。

「偶然だが旧友が学園に居たので引っ張り込む。」
「それって北川君?」
「そうだ、すでに話は通した。アイツはボゥル屋に下宿してるって話だから思わぬ所からの情報が来るかもしれない。」
「ボゥル屋ってなんですか〜っ?」
「最近改装して始めたらしいが丼もののお店らしい。」

丼と聞いて一人反応した。

「祐一、牛丼・・・・ある?」
「メインメニューらしいぞ、舞、半盛り、並、大盛り、特盛り、さらに超大盛りもあるって話だ。」
「じゅる・・・超大盛りって大盛りのどのくらい?」
「最低二倍らしい、その日の売り上げとかでもっと増えると言っていた。」
「・・・行きたい・・・」
「あはは〜っ、それじゃあ明日のお昼にでも行きますか〜っ」
「・・・ごくり・・・・楽しみ・・・」

舞、冥は佐祐理付きの護衛であるので祐一達が学園に行ってる間は自由な時間が多いのだ。

「行方不明の冒険者が出発する前に誰かには行き先を言ってる可能性がある、それを探るんだ。」
「祐、そういうのは和樹さん達が適任では・・・」
「和樹は雪夢の反乱分子摘発で動いているからな、まぁ、そろそろ終わるだろうが・・・」
「祐一さん・・・・」


















「ち〜〜〜〜〜こ〜〜〜〜〜〜く〜〜〜〜〜〜だ〜〜〜〜〜〜〜ぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。」

寝坊介が学園に来たのはすでに生徒は帰宅し、教員すら帰った誰も居ない時間だった・・・・

「だぉ・・・・」

夜間部を作って貰おうと、何百回目の決意を固めたらしい・・・・

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