Avec Abandon・SP10

冬晴れの良い天気、祐一の朝は結構早い。

「ん・・・・・・ん?」

覚醒しつつある祐一は自分の身体が動かない事に違和感を覚えた。

「な・・・なんだ?」

腕を広げた状態で痺れて動かす事が出来ない

「・・・手は動くか・・・・」

足は何かが絡みついた感じで重い・・・

「くっ・・・・」

そして何よりからだそのものにも圧迫感があった。
鼻のあたりもこそばゆい・・・

「お、おかしいぞ?」

そこでやっと祐一の目が開いた・・・・

「すぅ・・・・」
「くぅ・・・」
「はぇ〜・・・・」

動かないのも当然である、
右側で右腕を枕に右足に絡みついて裸で眠る琴音。
左側に左腕を枕に左足に絡みついて裸で眠る美汐。
そして祐一の上にはメイド服の佐祐理が乗って眠っているのだ・・・・

「・・・・琴音と美汐は解る、夕べ一緒に寝たからな・・・・佐祐理さん・・・いつ入ってきたんだ?」
「あはは・・・」

ぎゅっ・・・・

佐祐理がぎゅっと抱きしめ、祐一の胸をすりすりしてくる・・・

「・・・佐祐理さん・・・寝てる?」
「はい、佐祐理は寝ているんですよ〜っ・・・くぅ・・・」

祐一の問いに一瞬まぶたが反応したが、眠ったまま包容をやめない・・・

「そうか・・・寝てるのか・・・・なら、何をしても大丈夫か・・・・」
「は〜い〜・・・・大丈夫ぅ〜ですよ〜っ・・・」
「・・・・」

すりするとずり上がり、祐一の頬に自分の頬を押し当てて来た。

「くぅ〜〜っ、ですよぉ〜・・・」

祐一は口元をニヤリとするとと、首を上手く動かし佐祐理の唇を奪った、そして・・・

吸って、吸って、吸って、吸って、吸って、吸って、吸って、吸って、吸って、吸って・・・・・

佐祐理に呼吸をする暇を与えず吸いまくった。

「ぷっはぁ〜〜〜祐一さんっ!酷いですっ!!」

息が出来なくなって佐祐理は狸寝入りをやめて起きあがった。

「あははは、おはよう、佐祐理さん。」
「あははじゃ無いですよ〜っ、」

涙目上目遣いで抗議する佐祐理だがその表情は笑っていた。

「ほら、二人も起きてるのは解ってるぞ?」

祐一と佐祐理のやりとりの中、さらにさらにと祐一に抱きついていたふたりも起きていたらしく、
目を開けてぺろっと舌を出した。

「祐一さん、おはようございます。」
「おはようございます、祐一さん。」
「おはよう、美汐、琴音。」

じ〜〜〜・・・・

「順番に他意はないからそんな目で見ないでくれ、琴音。」
「はい、冗談です。」

やっと腕が解放された祐一は上半身を起こしてん〜〜っと伸びをする。

「ほらほら、着替えてこないと朝抜きだぞ〜〜」

美汐、琴音もシャツだけを羽織ると着替えの為に自分の部屋に戻って行った。

「今日はいい天気ですよ〜っ」

窓のカーテンを開けて佐祐理は祐一に微笑む・・・・
が、視線は一点に止まっていた。

「ん?どうした?」
「あの・・・・」
「ん?」
「処理しますか?」

佐祐理の指差したのは祐一の朝の現象だった。

「ぐはっ、・・・・だ、大丈夫だと・・・・」
「ほんとですか?」

じ〜〜〜〜・・・・

「うっ・・・」

じ〜〜〜〜〜〜・・・・・

「うぅっ・・・・」

にこっ・・・

「お、お願いします・・・」

祐一、誘惑に敗北。



ほぼ同時刻、稟とネリネも同じ事をしていたらしい・・・・



中庭、一弥達だけでなく留学生、護衛の職員も交えて朝稽古で扱いた。

「あにうえ・・・あのスッキリした表情の時がシゴキに力入るんだよなぁ・・・」
「一弥っ!!」
「あいゃ・・・」
「一弥はミレットとやめというまで無制限」
「ぐぁ・・・」
「祐ちゃん鬼・・・」

へとへとの亜沙がその光景に呟いた。
終了した時、立てる人物は皆無だった・・・・



「いってきま〜〜す。」
「いってらっしゃ〜〜い。」

祐一達を送り出した佐祐理に舞、冥、侍従達や職員が集まって来た。

「それでは〜っ、みなさんお買い物での情報収集お願いしますね〜っ」
「はいっ!!」

祐一と一緒の学園生活が送れない事は残念だがその祐一に頼まれた任務もある、
可愛らしくがっつぽーずで奮起する佐祐理だった。



佐祐理さんに見送られて
雪夢からの留学生達と共に祐一達は寮を出る。
国費留学生だけでなく私費の留学生も寮に住むのなら二食付きで無料という太っ腹だ、
まぁ定員を超えたら無理だが・・・
そんな状態なので寮はいつも満員が続いている。

他の国家の寮も存在しているが雪夢ほどの規模は無い、
そもそも大使館の敷地に大使の執務ブロックも含めて建てられているからで、
他の国家は別の土地を購入や借り受けなので規模を維持出来ないのだ。
それと留学に対する姿勢もあるだろう・・・
雪夢の留学生では、実は冒険者専科などの上級課は少なく、商業系生徒の比率が大きいのも特徴だった。
祐一はその商業専科の生徒と話しながら歩いている。
女生徒達も祐一に憧れがあるのか遠巻きにだがちらちら見ているが
祐一が一弥の腹心と言える人材育成を兼ねているのか
寮関係では周囲に男子生徒が集まっていた。

「ほぅ、商業系は一年で終わりなのか。」
「はい、大抵一年だけですね、基本的な事を学んで実家で丁稚ですよ、大抵は。」
「でも君は三年目と言って居なかったか?」
「僕は国費なんですよ、一弥様の財務担当大臣候補なので。」
「なるほど・・・期待してる。」

祐一は前を祐唯と歩く一弥を将来を思って暖かく見た。

「祐一君、優しい顔してる。」
「そうね、」

祐一の左右に居ることりと香里がちょっと羨ましそうに呟いた。

「そう言えば祐一、聞いてる?」
「ん?何をだ?」
「来週から6人パーティを組んで実習が始まるのよ。」
「そうだったか?」
「聞いて無かったの?」
「あはは・・・祐一君ですから・・・」
「う・・・凄く納得出来る言葉ね、ことり。」
「おまえらなぁ・・・」
「そういった所も祐一様の魅力ですよ。」

学園の仕上げ期では訓練より実習が優先される、
バランスを考えた最小限が6人と学園が制定し
以降6人で編成する、これは学年さえ同じなら自由に組んでも良い、
ダンジョンなどにタクティクスバトル、そうして三月の個人競技会の成績で学園ランクの発給か卒業認定が貰えるのである

「解った?」
「一応な。」
「かおりん、そのパーティーはクラス別ですか?」
「学年を守ればどんなパーティーを組むのかも評価になるの、あたしは組んだ相手が悪かったわ・・・」

香里は朝起きない、狙った様に罠を発動させ、猫系の魔物にすら反応し暴走した友人を思い出して息を吐いた。

「なら香里とことり、一緒に組むだろ?」
「そうね、こちらこそだわ。」
「よろしくお願いするっす。」
「稟達は稟達で組むだろうから・・・あとは・・・」

まだ編入したばかりの祐一にはそう思いつくメンバーが居なかった。

「北川君も祐一が居れば本来の力を見せてくれると思うな、」
「そうっすね、昨日祐一君と剣で稽古で善戦していましたし。」
「そうだな、北川と・・・珍しいからアシュレーを誘ってみるかな?」

祐一は昨日友人となった銃剣使いのアシュレーを思い出した。

「彼は駄目かも。」
「そうか?」
「彼は都市警備団だから教師側の監視メンバーに入れられるのよ。」
「それは残念・・・」

祐一は学園で稀少な人物だったので惜しいと思った。

「ね、あたしの知ってる人さそっていいかな?」

上目使いで祐一を覗き込む香里、祐一に「オ・ネ・ガ・イ」をする手段をしっかり身につけているのだった。

「う・・・まぁ・・・声をかけるのはいいか・・・」
「祐一君とかおりんは前後のどちらでも大丈夫だから、前後一人づつがいいっすね。」
「そうだな、どうだ?」

香里は口元に指を当てて記憶との整合をしている。

「そうね、前衛で確実そうなのが居るわ。」

香里が言うに、剣士として修行していたのだが腰を痛めたが為に完治まで魔術を習い、
現在魔法剣士の卵となった生徒が居るとの事だった。

「上手く行くかな?」
「彼女は漢女(おとめ)の頂点を目指しているわ、飛びつくはず。」


「祐一」
「ん?どうした稟。」
「今話していたんだが、パーティはどう組むんだ?」
「学年ごとって話だからな、プリムラを一弥に付けてくれないか?」
「あぁ、そう思ったからもう言ってある、ほら。」

稟が指し示す様にすでに一弥を中心に祐唯、美汐、真琴、プリムラが話している。

「稟は平気だろ?稟、ネリネ、シア、キキョウ、麻弓、楓・・・樹はどうするんだ?」
「あ〜樹は早速にナンパした娘達と組むらしい・・・」
「相変わらずだな・・・」
「まぁな、それでだ・・・」
「亜沙さんとカレハさん、ツボミの事だろ?」
「そうなんだが・・・」

祐一もその辺は抜かりない、雪夢留学生で騎士団を目指している専科生徒にすでに声をかけてあった。

「今日は先に行ってしまったから後で紹介するから、誰の誘いも受けるなと伝えてくれ。」
「わかった。」





「おはよ〜〜」

稟やことり達と別れ祐一達が教室に入ると何故か全生徒の視線が祐一に集中した。

「う・・・何かしたかな?」

祐一のその一言に香里は

「あのね・・・昨日あれだけの腕を見せておきながら・・・」

と呆れていた。

「おはようっ、折原、美坂」
「おぅ、北川」
「北川クンおはよう。」

席次は自由である、
最後尾の良い位置をキープしていた北川が二人を手招きし、
祐一と香里もそれに甘えてその空間に座る。

「どうしたんだみんなは・・・」
「おまえな・・・みんなパーティーに折原を誘おうと待ちかまえているんだぞ?」
「そうなのか?でもなぁ・・・もう組んだし・・・」
「えっ?誰と?」
「香里とことり、北川も加わるだろ?それと香里が一人連れてくる。」
「俺はすでに決定かよ・・・まぁ、そのつもりだったが・・・」

そんな会話が聞こえた生徒は肩をがっくりと落としていた。

「そうなると後一人空きがあるって事だな?決めないと厄介なの押し付けられるぞ?」
「何だ?その厄介のって・・・・」

北川は出席札のある壁を示し、

「このクラスで会っていないのが一人いるだろ?」
「あぁ・・・・」

まだ裏返ってる札の名前を見て一瞬祐一が憎悪の入った目をした・・・

「俺は聞いていたからチェックしていたんだが・・・ホント云う通りだったよ・・・」

ジェスチャァまで付けて北川は呆れた事を表現した。

「祐一。」

香里が一人の少女を連れてきた。

「彼女が朝言っていた七瀬留美さん、どうかな・・・」
「よろしく、折原君、七瀬留美よ。」

気の強そうな目をした青みがかった髪をツーテールにした少女。
香里は祐一の反応を黙って見ていた。
祐一の目が留美の目を射抜く・・・

「ん?どうしたの?」

黙った祐一に留美は不安そうに聞いてきた。

「あぁ、ごめん、折原祐一だ、よろしく。」

表情を笑顔にした祐一が手を差し出してきた事でメンバー入りを承知して貰えたと嬉しげに留美は祐一の手を取った。
背後に羨ましいとか・・・悔しいとかの声が聞こえたが祐一達はスルーした。

「あと一人だな?」
「あぁ、アシュレーどうだ?」

丁度教室に入ってきたアシュレーに祐一が振った。

「えっ?えっ?えっ?何?」
「いきなりそれだけ言っても駄目でしょう・・・」

やれやれと香里が助け船を出す事にした。

「実習のパーティーなんだけど一緒にどう?って事よ。」
「あぁ・・・そうか・・・でもごめん、僕は参加出来ないから・・・」
「いいって、仕方ないさ。」
「ホントごめんね。」

謝るシュレーを祐一は笑って押さえた。

「それより、寝坊癖が無く、暴走癖が無い魔術専攻の生徒知らないか?」
「ん〜〜ん・・・その条件が誰を指してるのか解ったけど言わないでおくよ、
そうだな・・・斉藤なんてどうだい?」
「斉藤・・・どんなんだ?香里、北川。」
「斉藤君はアタシも声をかけようと思っていた一人よ。」
「いつもならそろそろ・・・おぉ来た来た、斉藤〜〜〜っ!」

祐一が来や側の視線を追うと、少々ぬぼっとした男が教室に入って来た。

「斉藤〜こっちこっち。」

北川だけでなくアシュレーや香里にも手招かれて、斉藤が近くに来た。

「折原、雪舞出身の斉藤龍興、魔術師だ。」
「よろしく・・・」

ぼそぼそと斉藤が挨拶した。

「雪舞の斉藤・・・龍幻さんの関係者か?」
「じいさんを知っているのか?」
「あぁ、あの時一緒に居た。」
「ひょっとして・・・」
「おっと、それ以上言うなよ?」

祐一は去年の雪舞騒乱に参加している、斉藤の祖父は雪舞の宮廷魔術師だった人物で
当時はすでに引退していたものの、闇族の陰謀による反乱劇に立ち上がった一人だった、
惜しくも命を失った訳だが、その側に居たのは最強と言われる傭兵団である・・・

「ん、わかった・・・で?」

呼んだ理由を話せ、そう斉藤の目は北川に言っていた。

「あぁ、今度の実習のパーティだが組まないか?」
「メンバーは?」
「ココにいるアシュレー以外、それと他のクラスに一人。」
「ふむ・・・」

斉藤は祐一、北川、香里、留美を見た

「承知した・・・いや、祐一殿、こちらからお願いする。」
「あはは、殿はやめてくれ、祐一でいい。」
「あ、あたしも祐一って呼んでいい?留美って呼んでいいから。」
「かまわないぞ、よろしくな、留美。」

あれよあれよと祐一のパーティーが決まってしまった事に、
周囲の生徒達が落胆していた、・・・

「揃っているか〜〜?」

石橋が入って来て一同着席し静かになった。

「・・・今日も遅刻が一名か・・・・全員居なくなってから登校して呼び出される身にもなってほしいぞ・・・」

どうやらその遅刻者はわざわざ帰宅した教師を呼びつけて個人授業させているらしい・・・

「しかもそれなのに眠って聞いてもいない・・・・」

石橋の愚痴が聞こえる・・・

「なぁ・・・」
「聞かないで・・・・あれは人類の驚異なのよ・・・」

迷惑しか覚えが無いのだろう・・・全員が苦笑していた。

「石橋教員、続きをお願いします。」

クラス長がおずおずと声をかける。

「おっとすまない、つい浸ってしまった・・・・来週からの実習のパーティーメンバーは今日中にリーダーがリストを提出する様に。」

他、連絡事項を伝えると石橋は教室を後にした。

「リストか・・・香里、よろしく。」
「あたし?」
「おぉ、新生美坂チームだな。」
「美坂チーム?」
「美坂が休学する前、美坂を筆頭に俺、水瀬らと組んでいた実習チームだ。」
「・・・香里が苦労したと言っていたヤツか・・・」
「えぇ・・・」
「ふむ・・・」
「北川と水瀬の暴走は有名だからね〜」

アシュレーが北川をからかう

「祐一・・・」
「そうだな、北川、今夜から寮での修練に参加しろ、」
「うわ、命令だ・・・」
「ね〜あたしも参加していい?」
「いいんじゃない?ね?祐一。」
「いいのか?」
「うわ、嫌な予感がする笑みだ・・・」

チャイムが鳴り、次の教科の教師が入ってきた。




祐一達は学食に来ていた。

「学食っていうのを経験しようと思ったが・・・」
「おかしいわね・・・」

一口して祐一と香里が変な顔をした。

「どうした?」

カツ丼(大盛り)をがつがつ食べ始めていた北川が箸を止める。

「気付かないのか?」

祐一は香里に目で合図すると香里のおかずにも手を出した。

「こっちもか・・・」
「・・・何か混入されてるのか?」
「あぁ・・・微弱だが昼だけでも6年食べ続けると操り人形だな・・・」
「そ、そんな危険なものなのか?」
「あぁ、これは蓄積され気が付いた時にはこれを混入した相手に従ってしまうという呪毒だ。」

祐一はその言葉に唖然とした留美、アシュレー、北川のも一緒に浄化魔術を食事にした。
同じ魔術の波動を広い食堂から感じる、ことりやシア、カレハあたりが使ったのだろう・・・

「これは・・・明日からは弁当だな・・・」
「そうね・・・」
「留美と北川も朝稽古に参加すれば用意しておいてもらうが?」
「お願いします。」
「アシュレーのパンからは何も感じなかったな。」
「当たり前だ、これは持ってきたものだからな。」
「なるほど、マリナの作ったパンなのね?」
「誰だ?そのマリナって言うのは。」

アシュレーにパンを一欠片貰い口に含む祐一、

「お、美味い・・・」
「マリナって言うのはアシュレーの彼女よ。パン屋さんなのよね〜」
「ほう・・・寮でも仕入れて貰う様に頼むかな?」
「あはは、そんなに大量には作れないよ、小さい店だから。」
「そうか・・・残念。だがホント美味いぞ。」
「ありがと、伝えておくよ。」



午後

「魔術実習か・・・」
「まぁ、今週は休みボケの矯正みたいなものだけどね。」
「魔術の素養が無い生徒は剣術だって言うのに・・・」
「留美も驚くわよ〜〜」
「お兄様に勝つには兄と姉がタッグ組まないと駄目なんですよ。」
「・・・兄姉ってあのジョーイ殿とユウナ殿の事か?・・・」

魔術講座も選択している
祐一、香里、留美、祐唯、美汐、真琴、ネリネ、亜沙、シア、キキョウ、プリムラ、カレハ、斉藤が集まって居る。
稟、北川らは魔術の要素が無いので第二闘技場の方だ、
楓はこの時間は救急医療講座に参加している。


担当教師が集合をかけ、
祐一は編入と言う事で早速に腕を披露させられる。

「面倒だなぁ・・・・」

祐一はすでに無詠唱でいくつかの魔術をスタンバイさせている、
だがそれに気付くのは香里やことりなど、祐一を知る者だけだった。

教師に指示され対峙した生徒が呪文を詠唱し祐一に放って来た。

「フレイムアローっ!!」

ひょい

祐一は飛んできた炎の矢を軽く掴んで捨てた。

「えっ?!」
「これで終わりかい?」

そう言われてその生徒は自分の知る最強の魔術を唱え始めた。

「お、おぃ・・・」
「あれは・・・」

周囲の生徒がざわめく。

「彼って・・・」
「あぁ、去年TOP10に入った・・・」

「サウザンスっ!!」

100ほどの炎が形成され、祐一に向かってゆく。

「・・・美坂や白河は普通だな・・・」
「ん〜〜あの程度ではね・・・」
「そうですね・・・」

「はっ!!」

周囲も震える様な祐一の一声。

「な・・・気合いで魔術を霧散させるだと?」
「じゃ、いくぞ?」

祐一は両腕を前に出して、

「う〜〜ん・・・名付けて・・・まぁいいか・・・」

その両腕の間に集まった魔力が一気に発射された。
光と化した魔力がその生徒を包む。

「はへぇ・・・・」

跡に残ったのはプスプスと煙を上げて焦げた生徒だった・・・

「安心しろ、峰打ちだ・・・」

違うだろ・・・その場に居た全員の意見は同じだった・・・

「祐一っ」

ステージを降りてきた祐一に香里達が集まる。

「おつかれ・・・でも無いか・・・」
「まぁな。」
「タムリンさんのレイヴァースみたいな感じでしたね。」
「あぁ、それと琴音が言っていた魔導砲をヒントに即興でやってみたんだが・・・あれだな、
誘導魔法陣を円筒状に展開してそこに収束して一気に放出するのは楽なんだが、
敵が単独か一直線にでも並ばないと使い道が見えない。」





「・・・今の波動は・・・・」

暗闇の中、精神体で閉じこめられた女性がピクリと反応した・・・

「祐一さん・・・来てくれたのですね・・・」

力が奪われているのだろう・・・女性の意識は闇に包まれていった。






授業は何時しか対祐一で魔力弾の投げ合いに発展していた・・・

「いくわよ〜〜それそれ〜」
「かおりんもやりますね。では私も・・・えいっ」
「お兄様ごめんなさいっ!えいっ!!」
「祐一お兄ちゃん、覚悟してね〜」
「・・・なら俺も・・・」
「いいのですか?」

ネリネは躊躇している。

「大丈夫よ、祐一だから。」

香里があっさりと言う

「偶に目一杯やらないと上限は上がりませんよ。」

ことりの言葉に納得したのか、周囲の生徒もネリネも魔力弾を作って放ち始めた。
治癒魔術メインのシアとカレハ、使う気が無いが制御の知識を得る為に参加していた亜沙は見ている。
亜沙は言葉で煽って楽しんでいたが・・・
集中される祐一は対処可能でもたまったものでは無い。

「何故こうなるんだっ?」

四方から来る魔力弾、祐一の半径1mにより入り込むのは皆無であるものの、ひっきりなしな事に呆れていた。
いや、自分が鍛えた香里やことり、ネリネの魔力弾にはヒヤヒヤしたが・・・
キキョウなどはニヤリと笑いながら躊躇する女生徒に

「祐一に当てる事が出来たらデート+個人レッスンしてくれるかもしれないわよ?」

と言われて気合い入る。
さらに
教師は欲求から祐一と試合ってすでに保健室送りにされていたのだ・・・・
もう無法地帯同然の午後だった・・・

「・・・しょうがない・・・誰がいいかな?・・・・」

祐一は考え、魔術を発動する、

「へ?」

魔術が使えない為、第二闘技場で剣技を訓練していた北川が祐一と入れ替わる様にその場に現れた。
当然祐一に向かって飛んで来ていた魔力弾は・・・・

4年から6年までの講座参加生徒ほぼ全員の魔力弾、祐一だからこそ消滅させれていたのだ。

校舎など、学園の敷地すべてが震えるほどの豪快な爆発が起こった。

「え?」
「祐一君?」

本当に当たるとは微塵にも思って居なかった香里とことりが慌てる。
その二人の後ろから祐一がぽんっと肩を叩いた。

「・・・二人とも今夜な・・・」

ぞくぅ・・・・

二人の背筋に震えが走った、
それほど祐一の声が冷たく聞こえたのだ・・・

「・・・お〜い、生きてるか?」

爆心地に向かって祐一が声をかけた。

「生きてるわいっ!!!」

集まってきた生徒の見てる中、ぼろぼろになりながらも元気よく北川が立ち上がった。

「おぉ〜〜〜・・・」

ダメージをまったく受けていないかの北川に生徒から感心の声を上げた。

「いきなり何だって言うんだか・・・」

一応服もぼろぼろ、顔は真っ黒、髪がアフロ・・・でもアンテナは見事に無傷で立っていた・・・
な状態で普通に歩いて祐一の側に来た。

「さすが北川だ。」
「嬉しく無いぞ・・・」
「・・・何で?あれだけの魔力弾よ?」





帰り際・・・

「なんか凄かったな祐一、第二闘技場にまで爆発音が響いてきていたぞ?」
「これが原因だ・・・」
「うにゃ?」

祐一はキキョウの襟を掴んでぶら下げている。

「にゃっう〜〜ん」
「メシ抜きで特訓だが、いいな?稟。」
「・・・任せる・・」
「よぉ〜し、稟の許可も出た事だし、逝くぞ〜」
「ちょっ、ちょっと字が違うぅっ!り〜ん〜たぁすぅけぇてぇ〜〜〜・・・・」

早足で去ってゆく祐一にキキョウの声がドップラーで追いかけていった。

「折原・・・楽しそうだな・・・なぁ美坂・・・」
「そうね・・・・」
「祐一君の特訓はぢごくっす・・・」
「とりあえず・・・だ、シア、あとでキキョウの治療は頼む・・・」
「了解ッス」



オニー、アクマーと中庭の結界の中からキキョウの声と爆発音がしている宵闇、
祐一はのんびり佐祐理の作った夕食を食べていた。

「どうですか?」
「うん、相変わらず美味しいよ。」
「あはは〜っ、良かったです〜。」

祐一の正面、祐一と一緒に食事を取りながら、祐一の反応に佐祐理はにこにこしていた。

「味付けがちょっと変わりましたけど、お兄様解ります?」」

祐一の隣の祐唯も食べながら言う、
学園に通わせて貰っているので厨房を余り手伝えないのが気になっては居るみたいだ。

「あぁ、この雪華だと同じ香辛料でも味が違うのかな?微妙に合わせも変えているのかな?」
「そんな微妙な所まで解ります?」
「あぁ、佐祐理さんの料理だし。」
「お義姉さま、愛されていますね。」

周囲に居る香里やことりなどは今度厨房を借りて自分が祐一に料理を作ろうと心に決めていた。

結界のキキョウの声が途絶えた・・・・

「もう限界かな?仕方ない、結界を解いてあげるか・・・・」
「・・・どんなシゴキをしていたの?」

おずおずと香里が怖い物見たさに聞いて来た。

「知りたい?」
「やめとく。」
「早っ、」

祐一の表情に真っ黒いものを感じた香里は速攻でキャンセルした、
その早さにことりも驚いて一言漏らす。

「稟〜後よろしく〜」
「わかった・・・」
「ここに音夢がいれば更なるオシオキになったんだけどなぁ・・・」
「無茶言わない・・・」

















闇の地下城・カイザーの寝室、

凌辱された少女がカイザーの上で最後の悲鳴を上げて静かになった・・・・

「ふ・・・最後まで心は拒絶するとはな・・・」

泣きながら気を失った少女をベットに残してカイザーはシャワーを浴びる。

「カイザー様、いかがでしたでしょうか?」

シャワーを終えたカイザーを腹心であるゴルバンが待っていた。

「ゴルバンか、なかなか強い心を持っている娘だ、奥に部屋を用意してやれ。」
「承知致しました・・・」

ゴルバンは怪魔養育の折に捕らえた女性で生娘だったものをカイザーの伽に差し出している。
カイザーが気に入れば奥と呼ばれる出城に部屋を用意され性奴として命だけは助かる、
駄目ならばそのまま怪魔の母体にされるのだ。
仲間の命を引き合いに出され不承不承従う少女達。
今夜も一人の少女が凌辱されたのだった。

闇族の侍女達によって運ばれてゆく少女。

「あ、名前を聞いていなかったな・・・まぁいいか・・・」
「あの娘も仲間がすでにこの世に居ないとは思わないでしょうな・・・」
「ここに来た時点で会うことは出来ないのだ、気にする事でも無い。」
「そうですな。それと・・・奥の52号室ですが・・・」

ゴルバンは言いにくそうに言った

「52号室・・・志鶴か先月に四人目の子を産んだはずだな、どうかしたのか?」
「は、精神の衰弱で・・・」
「そうか・・・なら餌か母体に回せ。」
「は。」

奥と呼ばれる出城には中央の大浴場を囲む形で4層99部屋が存在している。
カイザーが愛妾とした女性達は全て順番にその部屋に入れられる。
四畳程度の部屋だが綺麗なベッドもあり空調も完備されている、
伽と湯浴み以外は部屋から出して貰えないが贅沢な衣服と食事を与えられ、
カイザーに従順であれば魔術、剣術を習う事も出来る、
魔術、剣術などが一定のレベル以上であり、カイザーに絶対服従を誓い儀式を受ければ部屋の鍵を解放して貰える、
忠誠度によっては1Fの大きな部屋に移る事も可能なのだ。
だが圧倒的に凌辱され子を産む道具にしかされない事による精神衰弱で処分される方が多い・・・

「ゴルバン、ジークとヴィンスフェルトを呼べ。」

カイザーが配下の闇族を呼ぶ様に言うが、

「ここに控えております。」

扉の向こうから返事が返った。

「そこに居たのか、入って来い。」
「は」

青い全身鎧に身を包んだ騎士が入ってきた。
名をジークフリード、
カイザー配下の4軍団の一つである騎士団、
その筆頭4人「ナイトクォーターズ」の一人である。
もう一人、
ナイスミドルなり損ねな風貌をした男
テロルなどの破壊活動を主に行う軍団「ODESSA」を率いている。

「ジーク、ベルセルクに妖魔を引き連れてこの雪華を襲う様に伝えろ。」
「よろしいので?」
「あぁ、馬鹿娘が出陣してきたら妖魔をわざと殺させるんだ。」
「なるほど・・・偽装工作ですか・・・」
「あと、妖魔による殺害も禁ずる。」
「生かして良いのですか?」
「うむ、死者無しで撃退成功の方が宣伝になる、そうだな?ゴルバン。」
「その通りで。」

カイザーの場合、自身の立案で動くし配下のプランも積極的に取り入れるタイプだった。
ゴルバンに聞いたのは追加プランが無いかどうかの確認だけである。

「ここの貴族共のおかげで学園のレベルが低い、妖魔の大軍を退けるほどと評判になれば人が集まる。」
「確かに評判が落ちてきていますね。」

貴族による子弟へのランク乱発、才能有る者への妨害ランク未発行など、
学園の外部機関からの評価は下がる一方なのだ。

「うむ、故に適度に宣伝せねばな。」

怪魔の餌としては肉がメインであり、今まで村を襲ったりしていたり、
成長のサイクルが早い妖魔を使って餌を増産していたりもする。
妖魔は成体になるまで一ヶ月という急成長するのも居るのだ。
最近は冒険者を使う、弱い個体は殺され強い個体が冒険者を喰らって成長する。

「それでは妖魔を揃えて参りましょう。」
「あぁ、それとヴィンスフェルトは飛空戦艦バルキサスの準備を進めてくれ。」

ジークフリードが下がり、カイザーはヴィンスフェルトに声をかけた。

「使用する状況なのですか?」
「未確認だが古代の飛空戦艦が見付かったとギルドの噂にある、」
「ヴァルハラの連中ですか?」
「わからん・・・が対策は用意するものだ。」

バルキサス、
古代の遺跡から闇族が発掘した飛空戦艦である、
18mクラスのゴーレムを搭載している強襲揚陸艦的な電撃作戦が可能で、
五行元素魔力弾を放つ砲や
雷系魔術でも比類無き大型荷電粒子砲を装備している。
だがまだ完全稼働した事が無く、闇族の手で稼働すべく努力中で、最近飛空実験に成功したばかりである。

「ヴァルハラが動くなら動くで面白い・・・」

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