Avec Abandon・SP11


学園のクラス編成は4年からは選択科目別ではなく、混合のクラスとなる。
それは実習でのパーティー編成において生徒自身で仲間を選ぶ事が目的である。
クラスメイトなら声もかけやすいだろうという一応の配慮である、
毎年組めない生徒も居るので教師の指定で組むのもいる。

「で、今日はパーティー同士での模擬戦って事か・・・」

実習前の講座も終盤になり、祐一達は五人のパーティーと対峙していた。
五人なのは人数的に貧乏くじを引いたチームであり、
嫌々ながら今週未だにまともな時間に来る事が出来ない遅刻する人物のせいである。
公務などで不在ならまだしも理由は寝坊である・・

「どうするの?彼女たち、学年でも最弱の方よ?」
「実戦ではそんな言い訳聞かないわよ。」
「まぁそうなんだけどね・・・」

ありすぎる戦力差・・・

「そうだな、俺は見てるだけにしよう。」

祐一がすっと最後尾に下がった。

「前衛北川、留美、後衛龍興、ことり、指揮は香里が執るんだ。」
「え?あたし?!」
「OK」
「いいですよ。」
「了解。」
「まかせとけ。」
「反対は無いな?行けっ!」
「えっ?えっ?えっ?えっ?」

教師が合図を魔術で行った。
模擬戦では闘技場目一杯を使う、待機してる生徒は全員客席の方で見ている。

「うりゃりゃりゃりゃりゃっ!!」

大剣を振りかざして北川が突進し、その影に留美が刀を構えて追従する、
中距離を取った香里が先制で魔術を発動させて、
ことりは魔術で強風を起こす、
斉藤は詠唱を始めた。

「おい・・・どうするよ・・・」
「TOPクラスのメンバーだぞ?」
「折原君が下がって座るわ・・・」
「くそう・・・甘く見ているな?」
「ぐだぐだ言っていても仕方がない、みんな逝くぞっ!!」
「字が違うよ〜〜〜」

走り込んで来る北川にちょっと大柄な生徒が対峙する、使用武器は鑓だ、

「はやっ、なんちゃってげいぼるくっ!!」

渾身の一撃をカウンタを狙って放った。

「北川示現流旋風!!」

と、でっち上げた技名を叫ぶ二人だが、単に渾身の突きと力任せに振り下ろしただけである。

がりがりがりがり

二人の武器が滑り、お互いの身体を避けた、
体勢が崩れた所を留美が北川の影から飛び出して胴を一閃。
北川は剣が流れるに任せてもう一人の前衛に向かう。
気を失って倒れる生徒。

「舐めないで、あたし七瀬なのよ!」

言いたかったらしいが状況を間違えている、裏拳付きでツッコミたい祐一だった・・・

「ほいっ、ほいっ、ほいっ、ほいっ、ほいっ、・・・」

香里は自分に向かって来る生徒の前で作った火の玉でお手玉をして威嚇していた・・・

「・・・熱くないの?」
「そうね・・・熱いからあげるわ?」

回転する火の玉を香里は連続してその生徒に投げつけた、もちろんお手玉しながらだ。

「うわっ、うわっ、うわっ、うわっ、うわっ、うわっ、うわっ、・・・・あちちちちちちっ!!」

いくつか避けたものの、当たった火の玉の熱さに注意をそらせてしまった。

「おやすみ。」
「へ?」

がすっ

「あ〜〜あれはキツイなぁ・・・最悪今日御飯食べられないぞこりゃ・・・」

見事に香里のボディブローが決まり、生徒は崩れた。

回復担当であろう少女と支援魔術担当の少女はことりが作った風に囲まれて身動きが取れない、
突破しようとした所、空気の塊が弾くのだ。

「ちょっとぉ〜どうなってるのよぉ〜」
「見えないし、詠唱しようとするとぶつかってくる風なんてアリ?」

斉藤は詠唱を完成させ、相手チ−ムのまだ詠唱中の魔術師をターゲットにした。

「こうだったな・・・魔導キャノンっ!!」

(注、北川などの悪い影響でノリで言ってるだけです。)

すっと左手を斉藤が出し、そこから幾筋もの雷光が放たれて生徒を襲った。

「うわっ!」

生徒は衝撃で詠唱を中断、途切れる事無く雷光は放たれ、避ける事も叶わず痺れて倒れた。

残る一人は北川に軽く小突かれてギブアップした。



二組目

相手は6人だが、祐一達は斉藤が下がって祐一達五人が横一列に並んだ。
その状態に体育会系筋肉馬鹿っぽい六人は全員で剣を振り上げて向かってきた。

「迎撃・・」

祐一の一言で五人は上段に構えた。

「風圧・・・」
「かまい・・・」
「太刀っ!!」

五人が剣を振り落とした。
その剣から発した風圧が六人を襲い、弾き飛ばした。

「いやぁ・・・こういうのは気分がスッキリするなぁ・・・」

ご機嫌な北川だった。

三組目

今度は北川が後ろに下がる、かなり悔しそうな顔をしていた・・・・
今度の相手も男だけの集団である。

「さて、今度も楽しむかな?」
「あのねぇ・・・」

そう言いつつも表情が笑ってる香里だった。
祐一の影響は大きいのかもしれない・・・

「こうも楽しく魔術が出来るとは知らなかった・・・」

斉藤も楽しそうにしている。

「で、祐一君、どんな魔術っすか?」
「ん、8で行こう。
「了解っす。」

開始の合図、相手の生徒はかなり警戒しシールドの魔術などを展開している。

祐一達は右手を握って腰に当てる。
そうして左手の掌を前に突き出した。
大きく左手で円を描いて・・・・
左手が一番左側に伸びた瞬間手を入れ替える、入れ替えた左手は左の腰に。

「スカイっ!!」

この名称も祐一達がとりあえず名付けた名称である、
学園の様に無理矢理大系付けた魔術と違い自由度の高い祐一の魔術に決まった名は無いのだ。
学園では詠唱と魔術の名を言う事で発動すると教えているので、適当に名付けて祐一は魔術を放っていた。
五人が声を出しながら両手を前に出す。

生徒にとって驚異の短縮呪文、さらに放射される光は・・・

「そういえばこのポーズって意味あるの?」

ノってやっておきながら香里が聞いた。

「んにゃ、無い。」
「・・・キッパリ言うわね・・・」
「まぁ・・・魔術発動で必要だと偽装ってのが目的だ。」
「あたしは楽しかったからいいかな?前もって詠唱しておかないとならないのが不便だけど・・・」

笑顔で留美も後ろからついてくる。
留美と斉藤は詠唱魔術なので詠唱を必要としない祐一、ことり、香里に合わせるには前もっての詠唱が必要なのだ。
ちなみに8とは前もって決めていたポーズの八番目の事である。

ステージを降りる祐一達、視界の隅にはぴくぴくと倒れている生徒が写った。




観客席

「遅刻だぉ〜・・・」

汗ひとつもかいていないのだが、いかにも走ってきましたという髪をぼさぼさにした女生徒が観客席に現れた。

「あれ?香里・・・戻って来ていたんだ・・・しかも北川君と組んで・・・・
わたしだけ仲間はずれ・・・そうなんだ・・・・へぇ・・・」

今学期で初めて生徒の前に姿を現した少女、
教室に入ったが当然誰も居ない、
捕まえた用務員に聞いてこの場に現れたのだった。
少女は当然北川などのいつもの顔ぶれが自分の居場所を用意してると思った、
だが・・・笑顔の香里や北川のグループには自分の居場所が用意されていない・・・

教師によって無理矢理パーティーに入れられた生徒が声をかけようとしたが
どす黒いオーラに阻まれて見るだけだった。

「二人ほど知らない顔があるね・・・誰?・・・」
「編入の折原君と白河さんよ、」

少女の後ろに立った教師が名を教える。

「今日も遅刻ね・・・アナタには彼女達と組んで貰います。」

そう言って躊躇していた生徒達を紹介した。

「こんな落ち零れと組ませるなんて横暴だお〜」

落ち零れ呼ばわりされて生徒の目に殺意が走った。

「黙りなさい、他の教員はどうか知りませんが私は出向ですのであなたの身分は一切関係ありません。」

その言葉から雪華出身の教諭があからさまなひいきしてるのがよくわかる、

ぐいっと少女の耳を掴むとその教諭はそのまま引きずっていった。

「良い機会です、遅刻の分たっぷりと話し合いましょう。」
「そ、そんな・・・だおっ・・・・・」

教師が着任した際、渡されたおれんぢのキャンディー、
それを口に放り込まれて少女は悶絶した。

「へぇ・・・おしおき用のぢゃむキャンディー、初めて使いましたが結構効く様ですね・・・紅薔薇教諭には感謝です・・・」

少女はせっかく皆の居る時間に登校出来たのに、指導室でのお説教が終わった頃に生徒は誰も居なかった。
他国からの出向の教諭故、いくら少女が言ったところでその教諭を解雇することは叶わなかった。



「なんか・・・名雪の声が聞こえた気がするわね・・・」
「美坂も聞こえたか・・・俺もだ・・・」
「出来ればその話題は控えて欲しいな、消滅しに行きたくなる。」

選手交代、
連戦連勝な「美坂チーム」・・・どうやらチームという言葉を含めたのが正式名称らしい・・・は、
もう十分と判断されたのか、交代となり祐一達は観客席で待機していた。
周囲には色々聞きたい生徒が集まっている。

「北川ぁ〜」
「ん?」
「近距離で意味のない技名言うの禁止な。」
「なっ、おまえは俺の魂の叫びをするなと言うのか?!」
「そう。それに叫ぶ事によって呼吸が乱れて技の威力も低下する。」
「ぐはぁ・・・・」

北川が崩れた・・・

その北川を踏み越えて生徒の一人が祐一に声をかけた。

「うぎゃっ・・・」

文字通り踏み越えたらしい・・・


「折原君、君の技を教えたまえ。」
「誰だ?コイツ」

祐一が嫌悪を示す、いかにも貴族だから偉いんだという意識がミエミエの生徒だった。

「なっ、生徒会長を知らないのか?」

とりまきらしい生徒が祐一の態度に噛みついてきた。
祐一に詰め寄ろうとした所その生徒が止める。

「まぁ、編入したばかりなのだ、知らなくても仕方が無い、それでどうなんだ?」
「断る。」
「な・・・生徒会長は代々この國で宰相を輩出してきた家系なんだぞっ!!教えさせて貰う事を光栄に思えっ!!」

とりまきが吠えた。
このとりまきも腰巾着な貴族の子弟なのだろう・・・

「知らんなそんな屑は・・・」
「そうね久瀬君に人望も能力も何一つ叶わなくて三倍の差で敗北したのよね。」
「なるほど・・・その久瀬が国に戻ったのでお情けと金で後釜になったのか・・・」

そこまで言われて生徒会長は激昂した。

「な、な・・・ななななななななな・・・・キサマっ!!」

びしっ

「ウザイ・・・」
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

祐一は生徒会長にでこぴん一発、あはれ生徒会長は派手に回転しながら闘技場の外まで転がっていった。

「か、かいちょぉっ!!!」

とりまき達が後を追う、
いい気味だと周囲の生徒も目でそう言ってそbの光景を見ていた。




「あの・・・折原先輩、質問していいですか?」
「ん?何だ?」

髪をツーテールにした下級生の女の子、
保護欲を沸き立たせるような少女だった。

「私、魔術を専攻しているのですけど・・・」
「そうなのか、」
「はいっ、私、始めは美坂先輩を目指していたのですが・・・」

元気に香里を賛美して答えるのだが・・・

「どうしたの?」

言葉尻が小さくなり、
状況を察したことりと留美は周囲の他の生徒に話しかけ、祐一の周囲から離す。
そして祐一がこっちに意識が向かない穏行の結界を張った。

「いいぞ?」

少女はおずおずと右腕の袖をまくった。

「・・・酷い・・・」
「魔術だな・・・」

少女の右腕はズタズタにされたと思う傷跡があった。

「この傷のせいで剣を持てなくなりました・・・」
「それで魔術師一本にしたのか・・・」
「はい・・・」
「香里、授業ではここまでやるのか?」
「やらないわよ。普通ならそこまでの威力がある魔術は使わないもの・・・」

祐一の疑問に香里が答える、だが

「思い当たるのか?」
「えぇ、あたしの休学中ならね・・・」
「だとすれば龍興に聞いた方が早いか、龍興、知ってるか?」

他の生徒、いや、注目に値しない生徒に興味無いのか目をつぶって精神集中していた斉藤に祐一が声をかけた。

「あぁ・・・水瀬だ。」
「やはりね・・・」
「下手したら即死に繋がる魔術を笑いながら連発してたからな・・・確かその時二人死んだ。」

少女はうっすらと涙を浮かべている。
少女はかろうじて避けたのだが、その時に右腕をズタズタにされたのだ。
学園による稚拙な回復魔術で通常生活がどうにかまでは回復したものの、もう剣を握る力は戻らなかったのだ。

「死んだのは友達だったのか・・・」

こくり

少女が頷いた。

「倒せるだけの力が欲しいので教えて下さい・・・か?」
「・・・はい・・・」
「祐一・・・」

祐一は軽く目をつぶって・・・・

「名前は?」
「あ、凌霄花 薊です。」
「ノウゼンカヅラ アザミか・・・・」
「あはは、変な名前ですよね。」
「今日から学園の帰りに雪夢寮に寄って修練に参加する・・・出来るか?」
「へ?・・・あ・・・はいっ!」

少女が仲間に呼ばれてその場を去って、

「どうしたの?祐一。」
「あのな、お願いの表情しておいてそう言うか?」
「あはは・・・でも本当に引き受けると思わなかったから・・」
「まぁな、今までも教える時は俺から声をかけているし、」
「じゃ、あの娘は・・・」
「あぁ、俺にとってその価値があるって事だ。それに・・・」
「それに?」
「最終的に彼女の意思だが、一弥の侍従隊にふさわしい名前じゃないか?」
「なるほどね・・・・」

現在佐祐理と一弥付きの護衛兼侍従隊、通称薙刀メイド隊は全員が花の名前だったりする・・・




・・・・・・・・・・・・




「さて・・・俺達は祐一達よりも派手にしないとならないんだよなぁ・・・・」
「頑張りましょう、稟さま。」

にっこりと微笑むネリネ。

「初戦だ、ネリネ、一発でっかいの頼む。」
「解りました。」

稟達は五人VS一人の構図で進めた。

「では、行きます。」

ごごごごごごごご・・・・・・・・

ネリネの魔力が塊となって頭上に浮かんでくる。

「あ・・・おい・・・」

その大きさに対峙してる生徒が凍った・・・・

「えいっ、」

可愛い一声と共に

その巨大な魔力弾が襲う。

バーベナでは屈指の魔力の持ち主であるが故、対抗出来る魔力を持つ者は少ない。

続いてはシア、無限に投げつけるパイプイスに生徒は埋まって白旗を挙げた。

「・・・普段のイメージを破壊する破壊力だなぁ・・・」

祐一もそんな光景に苦笑していた・・・
キキョウも一人で正面に立って、無尽蔵に魔力弾を作って投げつけている。

「本気で戦う事考えたらどう?祐一。」
「どうかな?実戦経験ではこっちが上だが・・・」
「・・・」

実習前の魔術訓練、さっきネリネが放った魔力弾よりも大きい魔力の塊すら退けているのだ、
底も天も見えないのが祐一という存在だった。



「さて・・・もうすぐ僕達の出番だけど・・・」

一弥は仲間を見回した。

「一弥さんにお任せ致します、祐一さんにも言われていますので。」
「そうねっ、一弥次第よ〜」
「一弥、負けたら祐一お兄ちゃんがシゴキって言っていたよ〜」
「私はとりあえず従うのみです。」
「(にこにこ・・・)」
「うぅ・・・・(あにうえぇ・・・)」

順番で言うと、美汐、真琴、プリムラ、仁(雪夢留学生)、祐唯である、

「え〜い、仁と僕と美汐さんの三人でツートップの前衛、
陣営としては逆双三角陣(リ・ダブルトライアングル)最後尾にプリムラ。」
「敵が前だけですから妥当でしょう。」
「先制にプリムラ、威力は好きにしていいからとにかく派手なの頼む、
真琴さんが遠隔攻撃、祐唯が支援魔術、僕と仁が突撃するから美汐さんが臨機応変でサポートして下さい。」


一弥達は整列し相手が並ぶのを待つ。

「倉田か・・・」
「あんな可愛い娘が妻だとよ・・・」
「仲間も可愛いのばかりじゃん、気に入らないな・・・」
「あら、アタシは可愛くないの?」
「オメエはリーダーの女だろうが。」
「今は授業だ、実習の本番で楽しませて貰えばいいさ・・・準備いいか?」

教諭による開始の合図早々、




プリムラの巨大火炎が飛んで生徒の中心で爆発した。

「なにいぃっ!!」
「甘いですよ。」

一弥の小太刀は首と胴に入ってその生徒は気を失った。

「くっ、」
「何故この程度でそこまで自信に溢れて一弥様を侮辱していたのか・・・」
「何だとっ!」
「アナタ達の声は聞こえているんですよ。」

仁の剣による三連突きで額、喉、腹部を突き抜かれ倒れた。

「・・・」

美汐は無言で足を刈り、転んだ所でこめかみに一撃、沈黙させ、
薙刀の柄で股間を殴打した。

「みんなっ!!いっけぇ〜〜」

真琴は火炎弾を形成しそれを放つ。

炎は狐の姿を形作って縦横無尽に飛び回る、本当に意思を持っているがごとく。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」

まるで喰らい付かれる様に襲われた女生徒叫び声を上げて倒れた。

「何処を見てるのですか?」
「なっ・・・」

仁が二人目を倒す

「く〜ら〜たぁ〜・・・・」

残ったリーダーが一弥に剣を振り下ろした。

「遅いですよ・・・居眠り出来るくらいにね・・・」

一弥は剣を余裕でかわすと、舞う様に両肩、両肘、両手首、両膝、両足と剣撃を当て、
止めに腹部を両側から叩き付け、一弥の膝が股間にヒットした。

男として身の毛のよだつ潰れた音がする・・・・



「おいおい・・・一弥、今のマジに入れたぞ・・・」

祐一を含む男子全員は背筋に震えが走る音だった。
土煙が舞っているので一弥が膝を入れたのを見えたのは少ないが・・・


「相談を受けたのですよ・・・アナタ達に暴行された娘達にね・・・」
「ですから因果応報自業自得と思って下さい。」
「一弥、そういう事ならやっちゃっていい?」
「あはは・・・・あまり気分の良い音しないんだけどね。」
「ですが一弥様、こういうのは負けた腹いせに・・・」
「解ってる・・・」

最初のプリムラの火炎弾による土煙が収まりきっていないうちに、
真琴が喜々として残る3人に火炎を放った。


土煙が晴れたステージには、倒れてる生徒に回復魔術を使う祐唯、美汐、プリムラの姿があった。

五人が骨折、内臓損傷、強制去勢、一人が火傷。

「とりあえず死なない程度にしておきますね。」
「そうですね美汐さん。」
「冒険者専科授業中の怪我です、罪にはなりません。」

哀れな6人のうち女生徒を除く5人は精神的ダメージも多く普通科へ編入ののち退学していったらしい。
男達から解放される事となった少女は改心し、真面目になって、女性向け護身魔術グッズなどの開発してゆく事となる。





「何というか・・・香里に聞いていた通りだな・・・」

放課後、香里に珈琲の美味い店に案内されて祐一達はここ喫茶キュリオに来ていた。

「仕方ないさ、俺達は何度も死線をくぐり抜けたんだぜ?温室のお坊ちゃん達じゃぁな・・・」

稟もここのブレンドは気に入ったみたいだ。
シアやネリネも紅茶の味に満足している。

只メイド喫茶だったが為に暴走しそうな北川をそのたびに撃沈する香里や留美が苦労していたが・・・

「香里、どうやら視線がケーキに向いてるみたいだな?」
「なっ、どどどどどど・・・・・しししししして。」

ちらちらと視線がショーケースに向いていた事がばればれだった様で・・・
旅の影響で、香里は金銭的に裕福では無かったのだ。

「今日は俺が皆に奢るぞ〜、香里、全ケーキをワンホール分頼んでくれ。」
「いいの?」
「あぁ、皆が好きな物を食べればいい。」
「やた〜っ、わたしチーズケーキぃ〜〜」

祐一の言葉にいち早く反応したのはプリムラだった、
稟達の大蔵省楓とシアはかなり倹約家でもあり、
既成の嗜好品には財布の口が堅かった。

「ありがと、祐一。」
「食べたいんだろ?」

にやにやと香里を見る祐一。

「・・・う〜〜〜」


「あ〜〜それわたしのチーズケーキぃ〜」
「真琴が先に取ったから真琴のよっ!」
「真琴、食べてから次を取りなさい。」
「あう〜美汐も抹茶ケーキ独占してるのにぃ〜」
「こ、これは祐唯さんがペース早いので・・・」
「はむはむ・・・・薊さんも食べて下さいね。」
「はい、頂いています、祐唯さん。でも・・・凄いペースですね・・・」
「あはは、祐唯はケーキに目がないからな・・・」
「じ〜〜〜・・・・」
「な、何?」
「それでこのプロポーションですか・・・はぁ・・・」
「もう少しそのままスケールアップすればいいんだけどね。」
「お兄様、それは私が小さい子供とおっしゃるので?」
「一弥が最近どんどん身長伸びてるからなぁ・・・もう少し身長が欲しいぞ。」
「うぐっ・・・」

祐唯の身長は140代に足りていない・・・

「ちょっと甘みが足りませんねぇ・・・でも祐一さんは気に入るかも・・・ですわ。」
「稟さま・・・あ〜〜〜ん・・・」
「稟君稟君、はい、あ〜〜ん。」

やいのやいのとみんなでケーキを楽しんでいる時に無粋な侵入者が現れた。

その団体はキュリオの入り口からずかずかと祐一達・・・香里の前に来た。

「美坂香里だな、城へ出頭だ。」

城に詰める近衛兵だった。
言った兵も囲む兵も無理にでも連れて行く気が周囲に広がる

その雰囲気に皆が臨戦態勢に気が変換される。

だがそれを祐一が制した。

「召還状はあるのか?」
「なんだと?」

香里が黙って従うと考えていた兵は
祐一に聞かれてすぐに答えられなかった。

「召還状はあるのかと聞いた。」
「そんなものは関係無いっ!」
「ほぅ・・・・」

周囲の気温が下がって来た。

「今の香里の立場を知ってるのか?」
「なに?」

兵にしても只連れてこいと言われ、いつもの威圧的に接すればいいだろう程度に思っていたのだが、
どうも違う・・・

「今の香里は雪夢の倉田一弥警護として雪夢に籍を置く。
呼び出したければ正式に召喚状を発行し大使を通して行うのだな、帰れ。」
「き、きさま・・・・」
「ほぉ・・・貴様程度で外交問題を起こすのか・・・いい身分だ・・・」

状況から誰の差し金か、北川らは理解した。

理解した一弥が立ち上がる。

「雪夢の時期太守、倉田一弥として命ずる、貴官らは越権行為である、立ち去るが良い。」
「ぐ・・・・」
「そうですか・・・」

一弥は祐一を見た。

「・・・・悪夢は楽しいぞ?」

祐一がそう言ったとたん、兵は全員が催眠にかかった風で店の外に出た。。

「稟、樹、龍興手伝ってくれ。」
「俺は?」
「北川は今この雪華に籍がある、我慢してくれ。」
「そういう事か・・・了解。」

人気のない裏道。

「さて・・・ここらでいいか・・・」

諭一が指を鳴らすと、兵達の意識が戻った。

「なっここは・・・」
「貴様っ!我々をどうした。」
「どうもこうもこれからさ・・・」
「忘れられない悪夢を見せてやればいいのかな?」
「いずれ皆に害を及ぼすだろうからな・・・・」
「今なら外交問題な事を忘れてやるよ・・・」

祐一ら三人がジリジリと詰め寄る。

「うっ、こちらが人数が多いんだ、思い知らせてやれっ!!」
「そうこなくっちゃ。」

時間にして一分以内・・・

「よ、弱い・・・」
「この程度で威張っていたのか?」
「虎の威を借る狐ってヤツだな・・・」

祐一達の周囲にはぴくぴくと倒れてる兵士達があった・・・

「どうする?」
「こうする・・・」

祐一達は兵を路地に運び出して簀巻きにして転がした。

「どうするんだ?」
「ま、このままでもいいだろ。」
「逆恨みで店に危害を加えないとも限らないぜ?」
「これだ・・・」

祐一はおれんぢのキャンディーを取り出した。

「それは・・・・」
「ふふふふふふふふふふふふふ・・・・・」

祐一はそれを兵の口に含ませて猿ぐつわをかました。



「店長さん、お騒がせしてしまいました。」
「いや・・・アイツラの横暴には皆困っていたからな・・・」
「お詫びにもならないかも知れませんが、このアンティーク喫茶キュリオに雪夢・倉田家御用達の称号を贈らせて下さい。」

そこに祐一達が戻ってきた。

「それはいいな。いっそ本店から雪夢に移転とか。」
「あはは、さすがに戦乱でも無いとそれは無理ですよ。」
「どうでしょうか?」
「う゛〜〜〜ん・・・」

奥から様子を見にウェイトレス達が出てきた。

「あらあらまあまあ・・・よろしいんじゃないですか?」
「そうね、そんな称号を貰ったとなれば大介もオーナーに大きい顔出来るわよん。」
「さすがです大介さん。」
「お兄ちゃんに従うよ。」
「私は坊ちゃんが好きな様にすれば良いと思います。」
「メ、メイドさんが一杯・・・・」
「北川君は黙って・・・」
「うがぶぎょ・・・」




「解りました、アンティーク喫茶キュリオ店長結城大介、倉田一弥様の好意に甘えます。」
「こちらこそ今後もよろしく。」



祐一達が席に戻り、店内は何事も無かったかの様に稼働し始めた。
店長が側で接客している以外は・・・
ことりがさっきから思っていた疑問を投げた。

「ねぇ店長さん?」
「はい、何でしょうか。」
「このショートケーキ、とっても美味しいのですけど・・・」
「良くある苺では無いと言う事ですね?」
「はい。」
「ことりさんも良い所を気が付きましたわ。」

カレハも便乗してきた。

「まぁ・・・簡単な事ですが我々庶民に苺が手に入らないからですよ。」
「はい?」

祐一を始め思い当たった人物の動きが止まった。

「城門をくぐる時の検査で全て買い上げるか、没収ですからね、今現在この都市内に苺は無いんです。」
「全部城か・・・・」
「はぁ・・・・自分の嗜好の為なら他人の事など構わない・・・変わらないな・・・」
「苺のケーキ、食べたいですね・・・」
「あにうえ、何とかならないでしょうか?」
「まぁ、あるにはあるが局地限定だな・・・・」
「それでも・・・全て奪われたままなのは・・・」
「解った。まずは寮に戻ろう。」




「さて・・・夜稽古の前に・・・」
「どうするの?」

食堂を出て祐一は香里に、

「香里、薊にタンクトップみたいな腕の出る服を着せて俺の部屋に連れて来てくれないか?」
「あたしのを貸せばいいの?」
「あぁ・・・」

察しの良い香りは祐一がしようとしている事が解り、

「わかったわ、」

そう言って薊に声をかけて自分の部屋に向かった。

「佐祐理さんと美汐、一緒に来てくれるかい?」
「わかりました。」
「あはは〜祐一さんの頼みなら。」

この後、祐一は佐祐理、美汐にサポートして貰って薊の腕を治癒した。



翌早朝

一台の馬車が雪華へ向かっていた。

がたがたがたがたがたがたがた

「はぁ・・・・なんで俺がこんな事を・・・」
「あはは・・・私は二人っきりで嬉しいかな?」

多くの荷物を積んだ馬車、
その御者台に農民の若夫婦を装ってるふたりが座る・・・

「ななか・・・」
「義之君・・・あっ、城門が見えて来たよ」

赤い髪の少女が照れ隠し半分で前方を指す。

「止まれ〜〜〜」

城門の兵が二人を止めた。

荷馬車か・・・許可証はあるのか?

「あ、はい、是です。」
「ふむふむ・・・雪夢から雪夢寮への故郷の味配達か・・・ご苦労だな・・・」
「いえ、わたしたちの生活の為に留学してくれてる学生さんに故郷の味を届けるのですから〜」

兵の一人が荷台に廻った。

「悪いけど規則だから荷物改めするよ。」
「あ、はい。これがリストです。」
「あぁ、ありがとう。どれどれ・・・」

雪華の兵にしてはかなり善良な人で、気さくで義之もななかも好感が持てた。
義之が御者台から降りてカバーを外す。

「こ・・・これは・・・・」
「は?苺ですよ。我が雪夢独自の品種なんです。」
「そ、そうか・・・」
「おい・・・どうする?」
「でも・・・雪夢のだぞ・・・」
「どうしました?」
「・・・実は・・・命令で雪華に入る苺を全て買い取れと指示が城からあるのです・・・」

悲痛な顔をする兵士。

「実はここだけの話、私の娘が苺ミルクが大好きで、そのおかげで娘に食べさせる事が出来ないのですよ・・・」
「私の妹も・・・」

ぼそっと兵士は義之に話した。

「オイっどうした?」

上司らしい兵が詰め所から出てきた。

「ナ・・これは苺。陛下の命令で全て買い付けるっ!」
「ちょ、ちょっと待って下さい。その命令には従えません。」
「なんだと?雪華の女王陛下の命令に背くのか?」

気さくだった兵らはそんな上司に動けないで見守っている・・・

「この許可証でもですか?」
「む、これは雪夢の・・・」

義之に見せられた許可証で一瞬躊躇するも・・・

「め、命令に従わない者は強制徴収しても良いと受けている。」
「ほう・・・強制ですか・・・」

御者台の上でななかが納得した。

「なるほどね・・・だから私達なんだ・・・意味を理解してないお馬鹿さん対策で・・・」

挑発的な言い方に上司の顔が赤くなってきた。

「あなたはどうします?」

義之は側で黙っていた兵に聞いた。

「私は・・・」
「じゃ、眠っていて下さい、それでアナタに責任は少なくなりますから・・・」

そういって義之が額に指を当てるとその兵は地面に倒れて眠ってしまった。

「さて?」
「外交で取り決めた留学生への届け物を強奪・・・・戦争起こすんだ・・・雪華は・・・」
「ぐぐぐ・・・・」

義之はさっと眠った兵に手紙を書いてポケットに入れた。
「娘さんと雪夢寮に遊びに来てくださいね」と
そして荷物にカバーをかけた。

「強制徴収すると言うのならこちらは強奪犯を撃退しなければなりませんねぇ・・・」
「お・・・おのれ・・・」

流石にその上司は自分が発端で戦争を起こすほどの勇気は無い様だ・・・

「じゃ、通っていいのかな?」
「ま、待てっ!」
「・・・仕方ないか・・・黙って通らせたらあなた達が処罰されるかもしれないですからね。」
「何を言って・・・」

上司が言葉を終える前に義之から雷撃が放たれた。

「義之君やりすぎ・・・今の1000万Gボルトでしょ・・・」
「・・・生きてるかなぁ・・・・」
「仕方ないなぁ・・・」

ななかは癒しの魔術を唱え、その上司をどうにか生きてる程度に回復した。

「あはは・・・」
「そこの兵士さん?」
「は、はいっ!!」

詰め所で成り行きをみていた兵にななかが声をかけた。

「許可証に不備は無いよな?」
「あ、ありませんっ!!」

恫喝を含めた義之の言葉にそう答える兵士。

「なら通るよ。」
「はい〜〜」
「いいか?コイツは検査中に謝って感電した。そしてこの人も余波で感電して眠った。いいな?」
「武器などは入っていないから。」

コクコクコク

ぶんぶんと兵士は顔を縦に振った。


「はぁ・・・噂通りって事か・・・」
「猫と苺が姿を消したってヤツね・・・」

義之は馬車に乗ると城門を通りすぎて行った。




「お〜来た来た。」

雪夢寮正門を馬車がくぐる。
祐一が朝稽古を終えて迎え出る。

「祐一さん、お待たせしました。」
「いや、昨日連絡して今日来るとは思わなかったぞ。」
「あはは・・・・」
「倉田様が速攻で用意してくれたんですよ〜」
「いやいや、義之にななか、ご苦労様。」
「はい、任務完了です。」
「じゃ、食料貯蔵庫の持って行ってくれ、前で担当者が待ってるから。」
「了解。」

義之が馬車を動かして、ななかは馬車を降りた。

「純一達はどうしてる?」
「元気に音夢さんと喧嘩してますよ〜」
「あはは、相変わらずだなぁ・・・」
「ですよね〜」
「さて・・・義之が戻って来たらすぐに帰るか?ここにはことりも居るぞ?」

その言葉にななかは驚いた。

「えっ!ことりさんがここに?」
「あぁ・・・俺と一緒に行動してる。」

祐一の言葉にななかは拳を握りしめ、赤くなっていった。

「うぅ・・・純一さん意地悪です・・・・」
「あはは、で、会って行くんだろ?」
「はいっ」
「そう思って食堂で待たせてある。義之が戻ったら一緒に行ってこい。」
「ありがとうございますっ!!」



この翌日、キュリオに倉田家御用達の看板と共に雪華で唯一苺のメニューが復活した。
そして同日、小さな女の子を連れた父親が雪夢寮の食堂で佐祐理達に囲まれて楽しそうに苺を食べている姿が見られた。







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