Avec Abandon・SP12


新設された雪舞の城、
久瀬は簡素を求めたのだが魔術結界の拠点などの理由で大きな城となっている。
中央の本城を正確に囲む6つの城門を兼ねる塔、
それを繋ぐ大路をきじゅんで町並みは大復興を遂げている。


「バラバラなれど、全てが動き出している・・・・」

本城の地下、魔法陣を描いた床の上、魔法陣にはルンディアの地形が重なりいくつかの光点が光る。

「そうか・・・」

背後に居るのは紅い鎧に身を包んだ長身の戦士ジョーイ
軽いトランスに入ってるユウナがジョーイを振り返った。

「・・・禍々しい光は雪華から消えない・・・むしろ強くなっている・・・」
「・・・・」

沈黙の室内、それを破るのは外部からだった。

「失礼するよ。」
「お〜お、薄暗いぞ、朝から頑張ってるのかぁ?」
「神魔そろってどうしました?」

ジョーイは歓迎の笑みを示すと室内に明かりを灯した。
魔法陣が霧散し、ユウナも普段の状態に戻る。

「ようこそ、ユーストマ様、フォーベシィ様。」
「火急の件ですか?」

地理的な事もあり、そして復興するという建設の好条件から本城には同盟本部が置かれている。
ジョーイとユウナは現在この雪舞に逗留しているのだ。
戦力の配置などをジョーイ達で行っているが、
各国などへの交渉に神王の二つ名を持つユーストマと魔王の二つ名を持つフォーベシイが率先して行っている。
最近起こっている反乱じみた事件は周辺国家で起こっているのだ。
・・・・それと苺農家への作物根刮ぎ盗難も・・・・

「あぁ、例の同盟の事でね。」
「動いたぞ。」

交渉の成果を誇りたいのか、
ユーストマがニヤリと笑った。

「高千穂の神奈備命が賛同してくれました。」
「では包囲網としてはファルシオンが動いてくれればですね。」
「あぁ、あそこからも回答が来たが・・・」
「なんと?」
「現段階での不確定要素で動く事は出来ないが、
我が国のギルド所属冒険者も行方不明が増えているので調査名目で人を送る。だそうです。」

国として大きな動きは出来ないが協力する人間を送ると言うのだ、実質賛同と見て良い。

「高千穂からは天空騎士と名高い大志柳也殿、
ファルシオンから傭兵団の岡崎朋也殿がそれぞれ配下と共にすでに行動を開始している。」
「こちらとしては残り全色この雪舞に集結しつつありますよ。」
「なかなかの戦力ですね・・・」

久瀬と共に一人の戦士が部屋にやって来た。

「アンタは?」

初めて会うその戦士にユーストマが品定めしつつ聞いた。
鎧は身につけていないものの、濃緑色の生地に金で装飾された軍服みたいなスタイルに質素な拵えの刀を装備している。

「こちらはバーベナのユーストマ様にフォーベシィ様です、相澤殿。」

久瀬がにこやかにその戦士、傭兵団アリエス団長・相澤秀平に二人を紹介した。

「アリエスの相澤秀平です、早速ですが・・・」
「時が来た。それで解るな?秀平。」

奥からユウナに持たされた飲み物を持ってジョーイが出てきた。

「ジョーイさん?では祐一も居るのですか?」
「いや、祐一は仲間と雪華に潜入している。」
「ほぅ・・では俺達は助っ人ですか?」

相澤家と相沢家は元々が一つの家だったのみならずその後も何度も血の交換を行ってきた最も近き、最も遠き血縁関係である、
さらに秀平、涼太の母は祐一、祐唯の父と姉弟の関係だったりする従兄弟の間柄なのだ。
武の相澤、魔の相沢、雪霞でも双璧の一族だった、
雪霞の事件後、しばらくは出張で助かった相澤家に祐一、祐唯が身を寄せていたのだ。
元々そんな感じだったがそれ以後特に秀平にとって二人は弟、妹と認識している。

ソファーに座って熱いお茶を取るユーストマが

「ま〜その打ち合わせってやつだ、相澤殿も座りな。」
「はぁ・・・」

ユウナがお菓子を持ってきて座る、全員座った所で話は始まった。

「まず、国家としての軍は最後にならないと動けないのでね、選抜した人員がまず潜入する事になるよ。」
「現在、祐一殿達と稟殿が潜入してる訳だが学園に潜入してる事が逆に足枷になってる部分もある。」
「それでだ、さりげなく一般の旅人として潜入する人員も考えないとね。」
「あぁ、それなら一応白に向かって貰ってる。丁度祐一から届け物の依頼があったのでな。」
「それでアリエスはどう動けば?」

打ち合わせは続いてゆく・・・





早朝、どこからかき集めたのか大型の馬車が城門の前に集まり、
学園の生徒はそれに分散して実習の地へと向かう。

「おはよ〜」

祐一達が集合場所に現れると留美達寮外の仲間が集まってきた。

「先輩っ!おはようございます。」
「おはよう、薊、どうだ?腕の調子は。」

薊は祐一によって再構成修復された腕をぶんぶん振り回し。

「前よりも調子良いって感じです。」

通常回復魔術と呼ばれる魔術は施術される本人の自然治癒能力を外部要因で加速する魔術である。
未熟な者が安易に使うと怪我などのよる歪みが修整されずにそのまま傷を塞ぐだけのものとなる。
現在、神殿などの治療専門で魔術を行う者でもこの単純に治癒する者が多い。
学園などの授業方式による密度の薄い教育が原因と一部に問題にされている。
薊の傷は魔術によるものなので細胞レベルまで細部にわたって傷ついており、
そんな状態での治癒魔術を施術されたのだから動かせる状態にまで修復していた事が奇跡と呼べるものだったのだ。
祐一が使ったのは秘匿魔術の範疇に入る魔術で組成物質を根元までに分解し、
正しく再構成するという、世界でも数人しか使えない魔術である。
それも儀式と言える大げさな準備無しで出来るのは祐一とユウナ、後は今は氷像の相沢直系くらいだろう・・・

「古い傷まで無いなんて感激ですっ。」

使用する際は権力などに固執する人物に知られてはならない、
怪我や病気だけでなく老いすら直す力があるのだ。
故に古代からの魔術を統括していた相沢家と相沢家に認められた人物だけに継承されている。
消費魔力も半端では無い、が、栞の様に瘴気が絡まないだけ楽だったと祐一は佐祐理に笑顔で言っていたのだった。
さらに皮膚のみに残っていたケロイドなどの痕は佐祐理によって全て治療されていた。
祐一も直せるのだが裸になって貰う為に佐祐理に委ねたのだ。

「それであのお話ですが・・・」

腕の治癒が終わったあと、薊は祐一から侍従にならないかと誘いを受けた、
事が事だけに祐一からじっくり考えてくれと言われて即答を求めなかったのだった。

祐一は佐祐理、一弥、祐唯の身辺を任せる人物を選抜する権限を与えられているほどに雪夢太守倉田祐也に信頼されている・・・
いや、関わらせる事で佐祐理と一弥に対しての責任・・・家族として取り込む事を考えているのだろう・・・
実際祐唯が一弥の妻となった時点で家族の一員として雪夢では認識されているのだがもっと絆・・・佐祐理との結婚を望んでいるのは明白である。

「そんなに急がないでいいのに、まだ二年は先の話だぞ。」
「いえ、私の腕を見て両親も薦めてくれました。よろしくお願いしますっ!!」
「わかった。一弥。」

自分のクラスメイトと雑談していた一弥を祐一は呼んだ。

「あにうえ、どうしました?」
「凌霄花 薊、専属侍従の一員となる。」
「なるほど、あにうえの選抜なら安心ですね、今後ともよろしく。」
「あ・・・あの・・・兄上って・・・」

薊は同学年である一弥を雪夢の時期太守であると認識してはいた。
だが噂にも上る家族構成で兄が居るという話は聞いていないのだ、
だから学園での建前での一弥警護の責任者として考えていた。
さらに祐一は「折原」祐一である。
雰囲気からも単に慕って兄と呼んでる風でも無い・・・

困惑する薊に祐唯が

「私の実のお兄様なのですよ、薊さん。」
「え?、あ、なるほどそういう事なんですか・・・てっきり・・」
「姉上の婚約者だからそういう意味でもあるよ、薊さん。」
「・・・それ正式じゃ無いぞ・・・」
「やっぱりそうなんですかっ?はわぁ〜〜・・・」

何かクるものがあるのか、妄想に浸る薊・・・
祐一の言葉はスルーされていた。

「馬車に入ろうか、禁則事項もあるからここではね。」

驚きの声を上げる薊に周囲の一般生徒の注目が集まってくる。
苦笑しながら祐一はそう提案した。
すでに稟達は乗っており、祐一達が乗るのを待っていた。

「あはは・・・ご一緒しま〜〜す。」

二十人は乗れるだろう街道専門の乗合馬車は一応存在している。
一日一本という運行故に自由度を求める冒険者で乗る者はまずいないのだ。
それは祐一達でもそうであり馬車での移動が珍しい真琴やプリムラなどは窓から景色を眺めて楽しんでいた。

「兵士運送用の馬車か・・・・」

祐一はこの大型馬車をそう判断していた・・・





出発の同時刻、城門からも一台のきらびやかで猫の装飾が施された馬車がぼろぼろになった兵士に守られて実習の地へと向かっていった。

「・・・・」
「・・・・」
「・・・今日も寝呆け魔術凄かったな・・・・」
「・・・あぁ・・・副隊長なんか火達磨になったし・・・」
「俺ら下っ端の事は考えてくれないのか?」
「かもな・・・役職付きは全員貴族しか成れないしな・・・」
「あぁ・・・冒険者か都市警護隊に入れば良かったよ・・・」

護衛の兵士の会話・・・・

「う〜〜〜じしんだぉ〜〜・・・・」

馬車の中、大騒ぎに起きる事もなくまだ眠ってる様である。
その声で周囲の兵は盛大な溜息を吐いた。

・・・どうやって馬車まで誘導したのだろう・・・

それは兵士が爆散したあと、決死隊となった侍女がベットごとそれを運び、
ベットごと馬車に格納したのだった。
故、この王女専用馬車は霊柩車の様に後ろからベットを収納出来るタイプに改造され、
さらに寝呆け魔術に対応して耐魔術処理もされている。
現在、レバー操作で馬車までベットごと射出する機構を設計中だとか・・・・

ちなみに雪夢では佐祐理達に専用馬車はなく牛車だったりする。





祐一達はくじによって3つのブロックに別れ、それぞれに地図を渡された。

「各リーダーに地図は廻ったか?
ここは古代の遺跡が多数存在する森だ、地図には地形は一切記入していないが
遺跡の位置だけ記入してあり、ランダムに赤丸が付いている。
パーティーごとに違う遺跡に向かうって事だな、
各遺跡には我々教師だけでなく都市警備隊にも協力して貰って地図で指定された場所かどうかの確認を行う、
そこで前半クリアーだ、そして後半はトラップの仕掛けられた遺跡に入って入り口で指定される物を取ってくる。
以上だが質問あるか?」
「はいっ、同じ遺跡に行くパーティーは居ますか?」
「一つの遺跡に2組向かう様にしてある、相手が解れば競争でも協力でもいいぞ。
但し、別れたBグループ、Cグループのどちらかに居るのでここに集まったAグループには居ないからな。」

代表が呼ばれている間、生徒には装備をチェックする時間に指定されている。

「・・・稟と一弥とも別れてしまったな・・・」

空間制御すら行う祐一はバックパックの中に空間を開いて必要に成りそうなものを物色している。
この空間制御は限られた人物にしか見せていないのだ。
端からみて普通に荷物を出している風に見せるのも面倒な事だった。

「そうですね・・・祐一君を睨んでいた娘もCグループですね。」

ことりは用意した小太刀の確認している。
星降のものほどの業物では無いものの、初音に居る姉に貰った大事な小太刀、
最近祐一に施術して貰ったのでいつもうっすらと霧を帯びている。

「あとあの生徒会長のパーティーはBだな、」

小物を確認していた北川も会話に参加する。

「あぁ・・・アイツもセコイな・・・」
「どうしたの?」
「感覚を研ぎ澄ませてみろ、留美は出来るだろ?」
「あらら、ではやってみましょう・・・・・・・」

ん〜〜〜っと眉間に皺を寄せて唸る。

「・・・なるほどね・・・」
「解ったか?」
「えぇ、周囲に認識制御の魔術・・・かな?気配を隠しきれていない集団が・・・」
「おそらく前もって今回の方針などを知っているんだろうな・・・」
「だからか・・・去年の実習で妨害で怪我したのが多かったのは・・・」
「潰しておくか?」

ぼそっと斉藤が言った。

「斉藤君出来るの?」
「そのぐらいなら・・・」
「いいんじゃないか?潰してしまえ。」
「了解。」

詠唱している斉藤を見ていてことりが祐一の耳元で囁いた。

「学園に在籍しているのが不思議だね・・・」
「そうだな、留学生になら隠れているのがまだいるかもしれない・・・」

Bグループ周囲でうめき声が起こり、瀕死の兵士がいきなり現れ、驚いたネリネに吹き飛ばされると言う事があった。
生徒会長は青ざめていたそうな・・・



リーダーだけの打ち合わせより香里が祐一の所に戻ってきた。

「どうだ?」
「えぇ・・・今年はこれよ。」

香里は皆に地図を見せた。

「見事に目的地だけだな・・・」
「地形を調べながら向かわないとならないのね・・・」
「えぇ、さらにBかCに競争相手が居るらしいわ。」
「つまり最短距離で行かないと先に奪われるって事か・・・・」

祐一は地図を手に取るとなにやら書き始めた。

「?何書いてるの?」
「ここの地形。」
「へっ?」
「ここに到着した時点で周囲の地形はことりとチェックしておいたからな・・・・」
「流石だぜ、折原。」
「さぁさっさと行こう。」
『了解っ!!』

すでに地形を把握していた祐一らは最短距離を最短時間で遺跡に到達。
入り口で控えていたアシュレーを呆れさせた。
途中にトラップなどもあったが学園生向けに仕掛けられたそれは祐一達にとって児戯に等しい。
開始の合図から僅か三十分、稟達もほぼ同じ頃に遺跡にたどり着いていた。

「早すぎだよ、祐一・・・」
「そうか?ゆっくり歩いて来たんだがな・・・」
「どうするんだい?別パーティが来るのに、平均だと明日になるよ?」
「キャンプしてゆっくり過ごすってのはどうだ?」

祐一達は成績の為でなく、面倒だから早くに到着しているのだ、
別パーティーが真面目な生徒だった場合、祐一達でクリアしてしまうとその生徒達の評価に繋がらない。
その生徒達が真面目だった場合、一緒に行動しても良いくらいには考えていたのだ。

「まぁ仕方ない、祐一達・・・いや雪夢メンバーに張り合って勝てるのが居るとは思えないしな・・・」

まぁ呑気にすごしたその夕方

「早いな・・・」

祐一が気配に気付いた。

「もう?」

香里達が臨戦態勢になる。

「・・・なるほどな、貴族のインチキか・・・・」
「・・・生徒会長ね・・・」
「あぁ・・・アイツラの地図には地形もルートも記入してあったんだろうな・・・」
「腐ってるわね・・・」


森の中から現れたのは、生徒会長のパーティーだった。

「折原君か・・・ククク、わざわざ待ってるなんて・・・・・・・」
「・・・息上がってるわね・・・」
「いくら反則でも、甘やかされたお坊ちゃんには歩くのも苦痛だったんだろ?」
「うぬぬぬ・・・・・」
「愚弄しおって・・・」

生徒会長とそのとりまきはもう戦う気十分だった。

「どうするの?」
「偶には召還魔術にしようかなぁ・・・」
「祐一君、召還魔術も出来るんですか?」
「出来るよ。」
「って、さらっと言いましたね・・・」

飄々としている祐一に生徒会長らは益々熱を上げた。

「誰を呼ぶかなぁ・・・・」

そう言うと魔法陣を描いてそこに手を突っ込んだ。
がさごそと音が聞こえる風に何かを探す祐一。

「・・・全然召還魔術のイメージじゃ無いわね・・・」

生徒会長らは剣を構えて詠唱を始める、
どうやら魔術発動補助を練り込んである剣らしい。

「ん〜〜〜・・・・お・・・」

祐一が何かを掴んで魔法陣より引きずり出した。

「はわわわわわわっ!!」

祐一に襟首を掴まれているのは金髪赤い目、14歳くらいの黒のゴスロリ少女。
しかもおせんべいを銜えていた。

「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」

ぱちくりと周囲を見る少女・・・

香里達も生徒会長達も唖然としていた。

「よ、アルトルージュ、君に決めたっ!!」
「い、いきなり呼び出さないでよっ!!しかも何?私がおやつを食べてる所に襟首掴んで呼び出すなんてっ!!!」

祐一は襟首を掴んだままぷら〜んと座った姿勢のままの少女に親指を立ててウィンクした。
その笑みに赤くなるものの、我を取り戻すや祐一に抗議しはじめた。
のんびりとしている所をいきなり襟を掴まれたのだ仕方ない。

「敵はアレ、殺すのは駄目だけど五体満足で再起不能までやっちゃっていいから。」
「私の話を聞きなさいっ!!」

まだぶら下げている祐一はアルトルージュを生徒会長に向けた、
アルトルージュはじたばたするが絶対的に身長が足りないので宙に浮いたままだ・・・

「今度遊んであげるから・・・」
「任せて♪」

祐一がぼそっと言うと、態度が豹変し満面の笑みで答えた。

香里達はまだ凍ってる。

「さっさと終わらせますね。」

地面に降ろしてもらったアルトルージュの表情が狩猟者に変わった・・・・

「はっ・・・」
「えい♪」

生徒会長が我に戻った時はもう手遅れ、
アルトルージュの指が頭蓋に喰らいこんだ・・・・・

「あがががががががががが・・・・」

脳を直接弄られて生徒会長はばたっと倒れ、
手を離した瞬間次の獲物に飛びかかるアルトルージュ。
とりまきも同じ様に倒された。

「・・・・祐一の敵にしては弱すぎない?」

最後の一人が倒れたあと、祐一に振り向いてアルトルージュは言った。

「まあな、アルトルージュを呼ぶほどの相手では無いのは確かだ。」
「だったら何でよ・・・」
「アルトルージュを最近召還してなかったからな。」

頭を撫でながらにこっっと微笑む祐一。
嘘だ、誰でも良かったはずだ、適当に選んでいたハズ・・・
と香里とことりは心の中で突っ込んでいた。・・・

「何よ、私に逢いたいならいつでも呼んでくれればいいのに・・・」

アルトルージュは気付かないで嬉しそうに撫でられている・・・

「そうも行かないさ・・・」
「仕方無いなぁ・・・じゃ、約束忘れないでよっ!!」

そういうと名残惜しそうにしながら、祐一の頬にキスすると自分から魔法陣に飛び込んで帰っていった。

「・・・祐一・・・今のは・・・・」
「・・・可愛らしい女の子でしたね・・・・祐一君・・・」
「あはは、まぁ説明してあげるからその拳を押さえて押さえて・・・」
「だな、美坂もとりあえずそいつら運ぼう。」
「そ、そうね・・・・」

祐一達は生徒会長達を移動し、

「何だぁ・・・この剣、粗悪だなぁ・・・」
「一応魔法剣士を気取っていたからな。」
「ほう・・・会長のだけは古代の工芸品か・・・」

祐一は会長の剣を拾って眺めた。

「・・・あれ?見覚えあるなぁ・・・」
「そうなんですか?祐一君。」
「あぁ・・・何処でだったか・・・・・」
「・・・見せて貰っていいか?」

斉藤も興味を持って覗いてきた。

「・・・これは・・・・」
「ん?」
「これは雪舞動乱で亡くなった騎士団副団長が持っていたものだ・・・何故・・・」

おそらく知己の人物だったのだろう、斉藤は驚いている。

「おそらくすり替えたのか・・・」

難しい顔でアシュレー

「殺して奪ったか・・・・だな・・・」

無表情で北川が続けた。

「あの時雪華の増援は無かったはずだな・・・」
「あぁ、ヴァルハラと雪夢の代理の祐一達とバーベナの増援だけだ・・・」


「なら反乱側に居たって事だな・・・」
「この剣は龍興が預かった方が良いな、どうだ?護身を兼ねて剣を習うか?」
「剣は預かる、あの人も喜んでくれるだろうから・・・でも剣を習う気は無いな、魔術をもっと極めたい。」
「ん。」

生徒会長らはシートの上に寝かせて、休憩を再開した。

「まず、彼女はアルトルージュ、召還の契約をしている、吸血鬼のお姫様だ。」
「きゅ、吸血鬼?」

毎度ながらも香里は驚いた。

「でも先ほどの戦いでは吸血しませんでしたね・・・」
「まぁ、彼女は吸血をしないでも平気だからな・・・その事の詳しくはまだ禁則事項だ。」

口元に指を当ててにこっと香里とことりに笑みを向けた。

「う、・・・気になるけど祐一がそう言う時は仕方ないわね・・・」
「で、ですね・・・残念ですけど・・・」

祐一の笑顔に弱い二人である。

「まぁ、色々あって慕ってくれてる。あ、関係は持って無いぞ、妹みたいな関係だ。」

祐一もことり達が考えている事を先手を打った。
外見が14歳くらいなだけの相手とはいえ、それを知らない香里らにそういう趣味もあると思わせない為でもある・・・
そのもくろみが成功したかしてないかは解らないが・・・

「そういえばあの子・・・精霊とかって感じじゃ無かったけど・・・」
「あぁ、時空連結による多次元空間の異なる時間軸に存在している。」
「・・・え〜〜と・・・・」
「あの・・・」

ことりも香里もよくわからなかったみたいだ・・・

「あ〜つまりこの世界を起点とする神界、魔界、精霊界などでは無く、違う歩みを経てきた異世界の住人・・・で解るか?」
「なんとなく・・・ですね・・・」
「そういう異世界があったなんて・・・・」
「俺も実験に失敗して飛ばされたからなぁ・・・・向こうでマナを集めて帰ってくるのに二ヶ月かかったよ、あはは・・・」
「そういえば二ヶ月ほど行方を眩ました事がありましたね・・・・」




「さて・・・そろそろ遺跡に入るか・・・」

香里、ことりだけなら良かったが、あまり聞かせたくないメンバーも居るので祐一は話を打ち切った。

「どうするの?これ。」

これとは生徒会長達の事だ

「外傷は無いはず、まぁ再起不能だろうけどな・・・・・人としても・・・」
「身分に依存しているヤツラだからなぁ・・・・」
「被害にあった娘達も喜ぶわ・・・」
「・・・・そうだな・・・・」
「確かに・・・・」
「被害?」

祐一は留美の言った被害と言う言葉に引っかかった。

「祐一は来たばかりだもんね・・・」
「貴族の連中は腐ってるからな・・・」
「そういう事か・・・・」

聞くまでもない・・・

「留美、香里、ことり・・・」
「何?」
「被害者のいきさつ、今も脅されてるのかをチェックしておいてくれないか?女同士のほうがいいだろう・・・」
「どうするの?」
「潰す。」
「了解。」

そんな祐一を北川は笑顔で

「人が良いなぁ・・・」
「知ってしまったからな・・・・。」

北川も正義感からどうにかしたいと思っていた事なのだ、
だが個人で対抗出来る力を持っていると過信してもいない。

北川が祐一と共に修行したのは単に師匠が病でジョーイに預けたからに過ぎず、
その為に完治と聞いて戻ったのだ、
その後残念ながらその師匠は病の再発で亡くなり、再びジョーイの元にと思った時にはジョーイは旅に出て行方不明だった。
その後是という師匠に出会えず、自己鍛錬、噂を聞いて学園に入学したのだった。
入学当初は教諭陣も真面目な教諭が多く、身に入ったものだったが、
貴族の資金供与などが増えて学園はおかしくなった・・・・
古参の教諭は実力もある石橋くらいで、
石橋と留学生を送る各国からの出向教諭以外の教諭は貴族の子弟へのあからさまなえこひいきも始まったのだった。
当然初期の一般平民でも実力があれば騎士として下級貴族と成れる事が
貴族の子弟に気に入られる人物に限定される様になり、
貴族の子弟へのランク大安売りは全体のレベル低下へと繋がっていった。
同じ様に雪華の冒険者ギルドでも貴族による贈賄、ランク乱発と繋がる。
香里など学年主席であっても貴族の妬みから昇格試験に合格出来ずにEランクのままだったのだ。
学園生徒は4年次でEランクから毎年昇格試験を受ける事が可能となり、
卒業検定合格で最低Dランクが与えられる、
なのに雪華貴族の子弟は5年次でBランクを持っているものも多い。
ランク至上主義による統治を根拠に貴族子弟らは学園でも横暴を重ね、
先日一弥達に潰された男達も貴族に飼われてる連中の一部である。

「アシュレー、救護班を呼んでおいてくれな。」
「了解だ、でもどう説明する?」
「精神攻撃を喰らった・・・とでもしておいてくれ・・・」
「また・・・精神に作用する魔術使えるヤツなんで学園に他居ないぞ〜・・・」
「石橋か紅女史なら解るさ。」
「まぁいいか・・・」





祐一達がこの遺跡に来たのは偶然だったらしく、
遺跡には生徒会長向けでトラップはおろか、簡単に課題アイテムが取れる状態だった。
その事はアシュレーも知らなかったらしい・・・・

「何よこれ・・・」
「甘やかしすぎっす・・・」
「アッタマ来るわね・・・」
「水瀬と一緒の時でもここまであからさまじゃなかったぞ・・・」
「腐ってるな・・・」
「まぁ・・・ここで言っても意味が無い、戻ろう。」




集合地点へと移動を開始する祐一達、だが・・・・


「あ・・・」
「・・・香里・・・」
「・・・名雪・・・」

周囲に生徒達の気配であふれていたが為、この状況になる可能性を失念していた祐一達だった・・・

「やっと逢えたね・・香里・・・楽しそうにしてるね・・・」
「・・・そう?」

仲間はずれにされた・・・その思いで溢れる名雪は香里を睨む・・・

「わたしよりその男がいいんだね?・・・・え?・・・・」

香里から視線を移して祐一を見る名雪、その目が大きく見開かれた。

「・・・ゆういち?」
「誰だ?」

無論祐一には名雪を名雪と認識している。

「わたしだよ、従姉妹の名雪、水瀬名雪・・・」
「確かに俺は祐一という名だが、貴様など知らん。」

名雪は昔と同じくいじわるを言ってからかって居るだけだと判断し

「忘れちゃったの?」
「だから貴様など知らないと言ってる。」

香里はすっと祐一に寄り添う位置に動いた。

「な、なんで香里と一緒なの?祐一はわたしのものなのに・・・・」
「人違いな上に勝手に自分のもの呼ばわりするな、不愉快な・・・」
「そうなんだ・・・香里に騙されてるんだね?いま私が正気に戻してあげるよ・・・・」
「何なんだこいつ・・・人の話が聞こえないのか?」

香里はそんな名雪を悲しそうに見て、ことりは愚かな王女に軽蔑の眼差しを向けていた。

「ウォータバレットっ!!」

名雪が得意とする、高速で水の弾丸を放つ魔術を唱えた・・・が
それは祐一に届く事無く弾かれた。

「あれ?」
「・・・・こんな幼稚な魔術しか出来ないのか?」

祐一は再び召還の魔法陣を描き、腕を突っ込んだ。
名雪は馬鹿の一つ覚えで水弾の魔術を打ち続ける。

「・・・無駄だと言うに・・・・」

そして何かを掴んで魔法陣から引きずり出した。

「うぐぅっ!!!」

祐一の手が襟からすっぽ抜けてうぐぅと泣いたそれは頭から地面に突き刺さって足をじたばたさせる・・・
その光景に名雪も、祐一すらも凍った・・・・
襟を掴んで引きずり出すのはこの召還方法の特性なのか?

「・・・楽しそうだな・・・」
「うぐぅっ!!全然楽しく無いよっ!!」

頭を引っ張り出してそれは祐一に反論する。

「あ・・・あゆちゃん?」
「そ、そんな・・・」

カチューシャ、ダッフルコート、羽付きリュック、ブーツ・・・
香里の記憶に残る10歳くらいのあゆがそこに居た。
名雪も信じられないという表情をしている。

「相変わらず笑わせてくれるな・・・うぐぅ。」
「うぐぅ、ボクはうぐぅじゃ無いよっ!!うぐぅっ!!」
「何度もうぐぅと泣いたじゃないか・・・」
「うぐぅっ、そんなこと無いもんっ!!」
「うぐぅですね・・・」
「うぐぅだわ・・・」
「うぐぅ?・・・」
「うぐぅとは妙な鳴き声だ・・・」
「うぐぅ・・・みんなでいぢめるよ・・・・」

しまいにはしゃがんで地面にのの字を書き始めた・・・

「そんなはず無いんだお、祐一を独占した泥棒猫は私が消滅したはずだお〜〜!!」
「なんですって?!」

名雪のその言葉に香里は驚いた、今まで単なる行方不明事件としか聞いて無かったのだ。

「せっかくわたしの所に遊びに来ていた祐一を私を仲間はずれにして独占して・・・
だから凍らせて残らないほどに砕いたのに・・・・なんでそこに居るんだお〜!!」
「・・・名雪・・・あんたって人は・・・」
「殺してあげるよ・・・今度は蘇らない様に・・・」

名雪は再び水弾を連射した。

「うぐっうぐっうぐっうぐっうぐっうぐっうぐっうぐっうぐっうぐっうぐっうぐっうぐっうぐっうぐっうぐっ」

全弾命中した・・・・

「・・・・・」
「・・・あれ?」
「・・・もしかして全然痛くないのか?」
「・・・・そんな事無いよっ!!とっても痛いよっ!!」

水弾が当たった所が赤くなってるものの、無傷と言って良い状態だった。

「な、何でだお〜〜これならっ!!」

「アイスニードルッ!!」

水弾を凍らせた錐があゆに降り注いだ。

「うぐぅ・・・」
「な・・・なんで平気なんだお〜人間じゃ無いお〜」
「・・・アンタがそれを言うの?」
「・・・なるほど、子供は体温が高いから氷は溶かしてしまうのか・・・」
「「そんな事あるわけないでしょっ!!」」

そう呟いた祐一に香里とことりが両側から音響攻撃をした。
名雪とパーティを組んでる連中は大分名雪に腹を立てているのか完全に傍観者。
北川や留美たちもこんなの相手に出番無しと突っ込んだり相づちを打つだけだった・・・

「無駄に無敵だな・・・うぐぅは・・・でも攻撃手段無いんだよなぁ・・・・」
「うぐぅっ!なら何故呼んだの?」
「あのな・・・おまえ、自分が何故幽体になったか覚えて無いじゃん。」
「うぐぅ・・・」
「ま、そういう訳だ、犯人も見付かったから帰っていいぞ。」
「うぐぅ・・・閻魔様に言いつけてやるぅ〜〜〜ばいばい・・・・祐一君・・・」
「あぁ・・・安らかに・・・・あゆ・・・」

そう言ってあゆは自分から魔法陣に戻っていった。

「あ、香里さん、心配してくれて、探してくれてありがとうね、転生するまで忘れないよ。」

ひょこっと顔だけ出して、香里に感謝を述べると、今度こそ帰って行った。

「さて・・・」

祐一はどこからか変な形状の剣を取り出して構えていた。

「だお・・・そんな・・・祐一がわたしに剣を向けるなんて・・・」
「・・・自分に都合の良い夢ばかり見ていた様だな・・・・」
「だお・・・だお・・・」

祐一から発する威圧に名雪は動けなくなってゆく・・・

「死ぬまで夢に溺れてしまえ・・・・」

そう言って名雪に剣を突き立てた。

「祐一?!」

名雪にささった剣はすぅっと名雪の身体に吸い込まれて消えた。

「く〜・・・」

名雪は眠った・・・・まぁ周囲の人間もいきなり寝るのは慣れているのだろう、驚く声など皆無だった。

「殺しはしないさ・・・・召還っ漠!君に決めたっ!!」

びちびち・・・・

祐一が引きずり出したのは通常知られる夢喰いのバクの姿をしていなく・・・

「金魚?」

金魚の形態をしていた・・・・
地面の上で跳ねている・・・
祐一はそれを掴んで名雪に乗せると、

「こいつの魔力を吸って悪夢だけを見せるんだ・・・・出来るな?」

びちびち

どう返事したのか不明・・・・香里達には只跳ねてるとしか見えなかったが、
その金魚もすぅっと名雪の中に消えていった。

「でもって魔力ラインを切り離してっと・・・・」
「どうなるの?」
「俺以外は剣を抜けないし、悪夢から逃れる事も出来ない。」
「・・・えげつない技だな・・・・」

お〜怖、と北川はおどけて

「でも・・・あの少女をあんな理由で殺したのなら甘い方よね・・・」

留美も否定しない・・・

「ねぇ・・・・祐一・・・」
「あゆが行方不明になった事は噂で聞いた・・・・
探したかったが・・・遠くに居たし、まだガキだったからな・・・・
この召還方法でやっと見つけたんだが・・・・
すでに黄泉の国にいやがった、そこで会えたものの、いつものドジで自分がどうして死んだか覚えて無いんだな、これが。
で、閻魔と名乗ったおっさんに頼んで一度だけ召還で現世に呼ぶ事を承諾してもらった・・・・だから・・・」
「そっか・・・」
「でもあゆらしいだろ?あんな状況でも笑わせてくれるのは。」
「そうね・・・あたしは忘れないわ・・・」
「あぁ・・・」

祐一は残った名雪のパーティーメンバーに

「すまないけどこれを遺跡までは引きずって行ってくれないかな?
眠って起きないと言えば多分大丈夫だと思う。」
「そうね・・・眠ったら起きない事は有名だから・・・」
「残った5人で、健闘を祈る。」
「あ、ありがとう、折原君。」

祐一たちは5人と別れ、集合地点へと戻った。


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