Avec Abandon・SP13

数日前

「ふぅ・・・・」

ことりは早朝に祐一に連れられて食堂に来ていた。
睡眠時間僅か1時間・・・・
訓練での悪ノリのおしおきでさっきまでシていたのだ・・・

「眠いっす・・・」

待ってろと言う祐一の言葉に祐一が入れてくれた珈琲を飲みことりはぼ〜〜っとしていた。

「こ、ことりさんっ!!」
「ふぇ?・・・・」

佐祐理の口癖が写っていることりだった・・・

「ことりさんっ、ことりさんっ、ことりさんっ、ことりさんっ、ことりさんっ、ことりさんっ、ことりさんっ、ことりさんっ、やっと、やっと、やっと、事象の地平線を何回も往復するほど長く感じる時間探していたんですよ、ことりさんっ、ことりさんっ、ことりさんっ、ここで会えるなんてなんて私は運が良いのでしょうか、始めは苺の運搬なんて嫌だったんですけど、いえ、音姫さんを置いて義之君と二人っきりだったのは良かったのですけど気の乗らない仕事だったのですが神様はちゃんとこんなご褒美を用意してくれたんですね、ことりさんっ、ことりさんっ、ことりさんっ、これでやっと暦さんに会った時に折檻されないで済みます、とってもとってもこんなに嬉しい事は無いんです、義之君と一緒以上に嬉しいんです、わかりますか?この私の思いを、そうでしょうそうでしょう、ことりさんは好きな相手と一緒に旅している訳ですからね、私なんて音姫さんとどっちが本妻か弐號かを日々争う楽しくも裏で殺伐とした旅だったんですよ、それがこんな所で珈琲なんか飲んでって、ことりさん珈琲好きでしたっけ?あぁ・・・隔たれた時間は残酷な物なんですね、記憶にあることりさんの姿が霞んでしまいます、あ、昔から美少女だったことは変わらないですけどね、・・・・・」
「な、ななかちゃん?」

ことりは胸に飛び込んできて押し付けた頭をぐりぐりし、マシンガンの様に喋る少女に引きつりながら名を呼んだ・・・

「キャラが違うっ!!」

すぱ〜んと、見事に良い響でななかの頭に義之のハリセンが決まった。

「いったぁ〜〜い・・・・」
「まったく・・・・どうも、義之です、始めましてことりさん?」
「・・・・・・疑問系?」
「義之君、痛いじゃないの、それに私がことりさんの髪を、その顔を、天使の歌声と呼ばれる声を間違える訳無いじゃないっ!!」
「いや・・・・ななかそんなの確認しないで飛び込んだし・・・」
「・・・・そうだっけ?」
「そう・・・・」
「あの〜・・・・」

ことりは二人のやりとりに困った顔をしていた。

「あはは・・・流石純一君の仲間っす・・・」
「はぅ・・・ごめんなさいことりさん、つい嬉しくって暴走しちゃいました・・・」
「でも丁度良かったかな?」
「良かった・・・ですか?」
「うん、明後日から私達実習でこの雪華を離れるっす、戦力のほとんどなんですよ〜」

にこっ

義之はことりの言いたい事が解った、解りすぎるほどわかった・・・
あ〜ぁ、雪舞で待ってる音姉、拗ねるなぁ・・・と考えていた。

「解りましたっ、ことりさんが居ない間の戦力は任せて下さいっ!」
「そうなると思ったよ・・・」

冒険者ななかと義之、冒険者ギルドでは白のななか、白の義之と呼ばれる純一達と同じ「白」を冠した若手冒険者である。
都市国家初音出身でななかの本名は白河ななか、ことりと同じく白河一族の一人である。
白河は初音では魔術の芳乃、朝倉、科学の天枷、医療の水越、施政の鷺澤と並んで名家であり、何かしら一芸に秀でているのが特徴である。
ことりの姉は古代科学技術に精通しており天枷と交流して研究に勤しんでいる。
ななかはことりの能力とほぼ同一の特性を秘めていた事で、魂の姉妹と慕っている。
そして成人と認められる年齢に達するとすぐにことりを追って冒険者の道へと進んだのだった。
芳乃一族の義之、朝倉一族の音姫はその最の巻き込まれとも言える・・・
まぁ、結局朝倉宗家の純一が面倒を見るはめになり、かったるい依頼に三人を送り出していたりする。
ギルドで白の文字を冠されたのは純一達と同じく白い耐魔術、耐刃の外套を着用しているからである。

「聞いて無かったのか?」

祐一が食堂に現れた。

「どういう事です?祐一さん。」
「二人はその予定で指名したんだけど?」

義之は失念していた、
運送の護衛では無く、運送そのものを指名されこの雪華に来たと言う事を・・・
いつもならば食材を届けてくれるのは留学生の笑顔を見たいと優しい眼差しをした老夫婦の農民である、
そしてせめてと、家庭料理を作り留学生達に囲まれて談を取り、翌朝に帰って行く。
そんな留学生達のおじいちゃんおばあちゃんが来るはずである、
その道中に護衛の冒険者が一緒はあるものの、運送そのものを代理するということは、
その老夫婦を巻き込むかも知れない災厄が予想される事以外無い。

つまり義之とななかが来たのは増援の先発的扱いだったのだ。

「まぁ、ことりとななかが会えばこうなる事は予想済みだからわざわざばらす必要も無いんだがな。」
「・・・・ゆういちさん・・・・」

にかっと笑う祐一に、さきほど戻って良いみたいに言っていた事の裏にあった意図に気付き肩を落とした。

「戻れるならって事ですか・・・はぁ・・・」
「おいおい、何疲れてるんだ?二人しか相手にしていないくせに。」
「なっ!!」
「いいか?純一を見ろ、音夢を始め何人相手にしていると思っているんだ?」
「そ、それは祐一くんも同じでは・・・」

横でことりが何か言ってる・・・・

「稟だってそうだ、しかもあいつはバーベナ出身だから一夫多妻制が成立するんだぞ。」
「いや・・・ですから・・・」
「ゆ・う・い・ち・く・ん?」

スルーされてしまったことりがちょっと拗ねた表情で居る。

「きゃっ・・・」

そんなことりを祐一は抱きかかえ、

「俺も当然ことりも佐祐理さんも香里も、美汐も茜も琴音も同じ様に愛してる、夕べだってそれはもう・・・」

ゆうべを思い出してことりは真っ赤になっていた。

「故に二人程度で疲れてる余裕は無いぞっ!義之っ!!」
「あはは〜っ、話が斜め上にずれてますよ〜〜っ。」
「お、佐祐理さん。」
「朝はおはようございますですよ〜っ、」
「おっと、おはよう佐祐理さん。」

にこっ

「あ、あの〜祐一さん。」
「ん?」
「おねだりしていいですか?」

・・・・・

「・・・朝からディープだね・・・・義之君・・・」
「あぁ・・・・うぁ・・・ことりさんとも・・・・」

目の前で興っているらぶらぶな空間に引く義之とななかだった・・・・








「・・・ほう・・・学園の連中は今日実習で不在か・・・」
「はい、ベルゼルク様。」
「なら命令にあった王女が駆けつけるまでかなり時間があるな・・・」
「どうします?」

雪華からちょっと離れた森の中、移動してきた妖魔の集団があった。
その数10万・・・

「構う物か。殺すなっていうのも臨機応変だ。」
「へへへ・・・ですな、命令を受けてからすぐに招集したんだ、居ないのは上のミスですな・・・」

妖魔の軍団が雪華を目指して移動を始めたのだった。

「陛下っ、妖魔の集団がこの都市に向かって進軍中です。」
「・・・そうですか・・・都市警護団が不在の時に・・・」
「兵を展開させてよろしいですか?」
「そうですね、実習に行っていない学園の生徒にも非常待機命令を。」
「妖魔の軍団は翌朝には城門に到達するもようです。」
「解りました、それでは城外に兵を展開し、ギルドに増援を、学園生徒は市民誘導とし、急いで実習の生徒を帰還させましょう。」
「御意。」

頭を下げると宰相は玉座の間から出た。

「むむむ・・・・このタイミングで仕掛けて来るとは・・・ベルゼルクの無能め・・・」

そうつぶやきながら騎士団へ出撃命令を伝えに行った。

都市国家群でも最大規模を誇る雪華だが兵力として見るとそれをカバー出来る数が無い。
それを補うのが都市警護団という民間組織と学園の生徒だったのだが、
戦乱も久しく、貴族のステータス主義の浸透が全体のレベルをかなり落としている。
現在雪華に存在する兵力は五万、だが実戦に対応出来る部隊は二万ほどなのだ、
後の兵は後方の事務主体の兵と貴族とその腰巾着・・・使い物になるハズがない・・・

「体面を重んじる貴族連中には北に集まってもらうか・・・、断崖絶壁側だ、敵も少ないと言えば簡単に動くだろう・・・
まったく・・・意思を残しておかなければよかった・・・」






「さぁ、今日もみな・・・」
「待って・・・」
「はぇ?」
「佐祐理・・・嫌な予感がする・・・今日は分散しない方がいい・・・」

祐一達を見送った佐祐理はいつもの様に動く予定でみんなを集めた所、舞がいきなり言い出した。

「舞?」
「それは賛成かな?俺とななかがここに残った理由もそれだから。」

純一達と同じく初音を出身地とする義之とななかは表向きフリーで活動する冒険者である。
祐一と純一に巻き込まれて以来、純一のグループに参入する形で付かず離れずな関係である。

「そうですか・・・」
「買い出しが必要なら俺とななかで馬車で廻るよ。」
「え〜〜私もなの?」
「まぁまぁ・・・って?」

都市中央にある城から鐘の音が響き渡った。

「な、何?」
「はぇ〜初めて聞く鐘ですねぇ・・・」

祐唯の使い魔、白い狼王ロボもやぴろも周囲を感じて唸り始めた。
二匹とも、情報集めの手助けにと佐祐理の側にいる。

「・・・ぴろちゃん、解錠しましょうね〜っ。」
「にゃっ!」

佐祐理はぴろに掛けられている術を解いた。
むくむくとぴろは体積を増やし、一匹の大きな黒彪の姿に固定する。

「ロボちゃんとぴろちゃん、見てきて貰えますか〜っ、?」

二匹は頷くと城壁に向かって駆けていった。

「あれが祐一さんの使い魔、ろでむ・・・」
「話には聞いていましたけど・・・・」

ぴろとは祐一が真琴に預けた時に付けた名前であり、
真の姿である黒彪、本来の名前が「ろでむ」
祐一が幼い頃見た文献にあった三匹の使い魔を操る少年の使い魔の名前から取ったらしい・・・






「大介さんっ!」

鐘の音にバイトの少女が焦った風に叫んだ。

「あぁ・・・緊急避難警鐘だな・・・」
「あらあらまあまあ・・・・どうしましょう・・・・」

おっとりしたウェイトレスがそんな風に見えないが困っている。

「すずっ、全員で雪夢寮に避難するぞ。」
「お城じゃないの?お兄ちゃん。」
「この前の知ってるだろ?アテになるものか、」
「大介っ、早くしないとっ!!」

チーフの女性が奥から飛び出してきた。

「さやかちゃんは?」
「火を落として生ものをキャリアに載せてる。」
「OK、みんなでさやかちゃんを手伝って出発するぞっ!!」






「妖魔の団体さんですか・・・」
「そうだ姉君、主達が戻るのを待つには最低今日は持ちこたえないとなるまい・・・」

佐祐理は偵察に出たロボとろでむの報告を聞いている。
ロボは元々人語を使いこなす魔獣なのだ、
今日は祐唯によって佐祐理護衛の任務を与えられている。

「わかりました、中庭と寮の食堂を避難して来る人々に開放いたしましょう。
ロボちゃんには人々に紛れて潜入する敵を警戒して下さい。」
「承知した・・・・」

佐祐理は集まっている職員達に受け入れ準備をする指示を出した。
そこに茜が書状を持ってきた。

「佐祐理さん、今城から届いたのですが、学園の生徒は学園に集合ののち市民誘導、
各駐在武官は参加セヨとの事です。」
「そうですか・・・・」
「騎士団は4つに別れて城門に配置らしいですが・・・主力とされている部隊は城に近い北門にしか配置されていません。
西門には冒険者ギルドから増援の依頼があり、各国駐在には南と東の増援を指示されています。」
「佐祐理・・・いつでもいい・・・」

戦装束を纏った舞、冥、薙刀メイド隊、茜、琴音、亜沙、カレハ、桜、アイ、刹那、ミレットらが揃っていた。







西門

「やっちゃえ、チロっ!」
「しゃ〜〜」

冒険者の一人が使い魔を使って二足歩行型の馬の妖魔を倒す。

「亮っ!!」
「あいよっ!」

剣士が妖魔の攻撃をかわしてカウンターで両断する。
見事なカウンターでの一撃だ。
妖魔相手にはカウンターは難しいとされているのだがその剣士は相手の行動が解るのか、
まだかすり傷一つ負ってはいなかった。

「せいっ!!」

女性の振るった大鎌が数匹の妖魔を両断した。

「新開バスターっ!」

体格の良い男が妖魔を担ぎ上げて地面に叩き付ける。

「オラオラオラっ!!」
「炎よっ!!」

細身の男が牽制をかけて、その背後に居る少女が炎を投げる。

「でやっ!」

長身の女性がパンチを当てるとその瞬間に炎だったり雷撃だったりの爆発が起こる。

西門の外側ではすでに兵士の姿は無く、駆けつけた冒険者達の奮戦で保っている状態だった。



俺達SOS団はこの前知り合った祐一という冒険者からの手紙を受けてこの雪華に逗留していた。
わざわざ呼ぶのだがら絶対確実にトラブルが予想され、反対意見を出したのだが毎度のごとく俺の意見は無視されてしまった。
途中に必要の無いトラブルを起こしながら夕べにようやくこの町にたどり着いたというのに、呼んだ本人は不在、
三人のお相手をさせられ疲れている所でこれだ・・・・
しかし・・・・しかし何だってこんなに妖魔が多いんだ?
夕べにギルドにも顔を出しておいたおかげで防衛の依頼で眠って僅か30分で起こされた・・・・
うわ・・・セリフがちょっと支離滅裂になりかけている・・・
くっそう・・・ハルヒめ・・・なんであんなに元気なんだか・・・

「キョン君、モノローグは後にして手伝ってくださいよぅ〜・・・」

巻き込む味方が少ないおかげで朝比奈さんのみくるビームも効果的

「ひ〜〜ん、みくるって呼んで下さいよぉ〜」

ちょっと待て、なんでモノローグにツッコミが入るんだ?

「さっきから口に出してる・・・」

解説ありがとう長門。

「・・・駄目、有希って呼んで・・・・」

うわ、突っ込まれた、かなり貴重かも・・・

「って逃避して場合じゃ無いっ!!落ちろカトンボっ!!」

キョンはジャンプして低空を突撃してきた鳥型の妖魔を叩き切った。

「キョンっ!!何やってんのよっ!!SOS団を宣伝するチャンスなのよっ!!」

地面に降りたキョンはハルヒの背に付いた。

「呼ばれた理由ってこれか?」
「おそらくそうね・・・」
「やれやれ・・・」

周囲を妖魔に囲まれキョンとハルヒは背中をお互い預け、古泉と鶴屋さんは魔術を使う有希とみくるをガードしている。

「・・・・・・・・」

呪文を唱えながら人差し指と中指で作った手刀を切ると、
朝倉涼子の周囲には魔法陣が広がり、
両手を広げると周囲にいくつもの光の珠が浮かぶ。

「死んでねっ(はぁと)」

そう言うと両手を前に振り、
光球は光の鑓となって妖魔を串刺しにした。

「有希っ!みくるっ!俺達で牽制するからでかいの頼む。」
「は、はいっ!!」
「問題無い。」

在る意味数が多いのは楽と言えば楽だ、
もう振れば妖魔に当たると言えるくらいに・・・って多すぎだぞこれは・・・・

「み、み、み、み、みくるびぃ〜〜〜〜むっ!!」
「・・・情報連結無差別解除・・・・開始・・・」

みくるの左目、右目、両目から発する光線が空中の妖魔を葬り、
有希から放たれる魔力の塊は妖魔に触れるとその妖魔を文字通り粉砕してゆく。
さすがに広範囲の攻撃だとかなりの数を減らしたハズなのだが・・・
どうやら敵はこちら方面を排除しないとならない事に気づいたようだ、
どんどんこっちに集まってきやがる・・・こなくそっ!

「無傷は俺達とあちらさんか・・・・」

偶然か?何故か現在この雪華に滞在している冒険者の数が多い、
実力があるのはあのナイト(夜)というグループで視界に入ってくるだけでもばったばったと倒してる、
それと・・・
理解したくないのだが存在してるのでしょうがない・・・
・・・・一体何何だあのぬいぐるみ集団は・・・・
まったくもって理解しがたい・・・・

「ふもっふっ!」

ズバッ!

「ふもっふっ!」

ずさぁっ!

しかも強いんだなこれが、
外見は確かに可愛らしいぬいぐるみなのだが大剣を振り回して妖魔を一刀に切り倒している。

「ふも?」
「もっふ♪」

見事な連携でオークの集団を葬りやがった・・・

「ふもっ!」
「ふもっふ。」

何言ってるのかわからん・・・・

「もふっもっ!!」

・・・古泉・・・真似するな・・・








「申し上げますっ!」

城の執務室には次々と戦況報告が入ってくる

当初各門50匹程度と思われた妖魔は皇族の合流でどんどん増え、
ベルゼルク麾下の魔術を使う妖魔は送転移魔術で前線にどんどん送り込んでもいたのだ。
守っているのは城門を突破しない限り城下に侵入しないと言う事、

「かまわず言いなさい。」
「はっ!」

伝令は振り向いた秋子と宰相らの視線に怯えるが、秋子は表情を変えて優しく言った。

「西門はギルドからの増援によって戦線は膠着中、
東門は各国の駐在の増援で戦闘中であり、
南門は雪夢が参加して学生勇姿と交戦中であります・・・」
「北はどうなっておる?」
「は、北は・・・我が主戦力が集中しているのですが・・・
突破されるのは時間の問題だった所、おそらく転移魔術で実習に行っていた学生、
それもAランクなどの精鋭?が現れて参戦した模様です。」
「転移ですか・・・学生にそんな魔術を使えるのが居るとは・・・・」
「人員から考えて北が不安ですね・・・・」

(むむむ・・・学生でAクラスとなれば貴族の役立たずどもではないか・・・・
いや・・・在る意味好都合か・・・誰が送りつけたのか調べる必要があるが・・・)

「秋子様、アレを起動させましょう・・・」
「アレですか・・・・」
「おそらく騎士団は壊滅するでしょう・・・少し足りませんが贄も揃っています。」
「あぁ・・・では・・・」
「はい、拠点としてはさすがに目立ってしまいました・・・」

秋子が籠絡され甘さのみが全面にでてしまった事が根本原因にある。
学園の規律は貴族によって蹂躙され、流通は名雪によって混乱させられた・・・
加速しすぎる腐敗が各国の懸念に繋がっていたのだ。
スケープゴートにした雪舞の争乱も結果は疑念を深めたにすぎない・・・
止めがベルゼルクの暴走だった。



「あははははは〜っ!!妖魔さん覚悟して下さいね〜〜っ!」

南門に佐祐理達が到着した頃には、他と同じく雪華の兵士は全滅寸前で、
妖魔に紛れて奮戦している者が居たおかげで佐祐理や冥の広域戦略級魔術が使える状態では無かった。

「菖蒲さんたちは負傷者を回収して陣の中に運んで下さい。
カレハさんは治癒担当をお願いします、
刹那さんは残存する兵士の援護に向かって下さい。
佐祐理も前線に出ますので、祐一さんが戻って来るまでに殲滅しちゃいましょう。」

佐祐理はここで初めて祐一から受け取った星降の武具を出した。
柄が魔力で伸縮して長さ調整が出来るハルバードである、
優秀な護衛と舞、一弥の存在が佐祐理の魔術師としての存在がピックアップされるが、
嗜みの一環で佐祐理は薙刀術も収めている、
祐一達前衛の主戦力を欠いた今、のちの記録上初とされる佐祐理が前線に立ったのだった。
そこからはもう舞と佐祐理の殲滅戦の始まりである。
半円陣で広がった佐祐理達は各々進行方向の敵を葬って行く、

「義之君!!」

義之は両手の小太刀に帯電させると妖魔の群れに突入する。

「ななかっ!後ろは任せたぞっ!!」

義之は通常魔術師として行動しているが、
魔法剣も使う、帯電させた剣を使い切り裂き、剣の電だけを飛ばすのだ。

「消えて下さい・・・」

茜の蛇剣が妖魔に絡みつき、バラバラにする。

「甘いですよ・・・」

妖魔の骸を掻き分けて茜に突進してきた妖魔を琴音が空に浮かして圧縮する、
茜はその蛇剣を鞭の様に振るい、自在に妖魔を屠る。
その背後では琴音が魔術で茜をカバーしていた。

「まい〜〜っ、」

一瞬の間を取って佐祐理がハルバードを振り回した。
佐祐理を囲む妖魔数体が二つに分割して倒れた。

「わかってる・・・」

タイミングを見て舞がジャンプする、
流れる動きで妖魔を葬る佐祐理の背後を突こうとする妖魔を舞の剣が切り裂き、打ち漏らした妖魔には冥の灼熱の炎が飛ぶ。
舞の剣圧で空いた空間に佐祐理が飛び込んで薙ぎ払う。
佐祐理、舞のコンビに冥の援護は常勝無敗。
その阿吽の呼吸は天下無双。

「ツボミっ、いっきまぁ〜〜〜すっ!!」

ツボミが魔力によるフィールドを張り、得意のダッシュで駆けめぐり、妖魔を吹き飛ばす。
その後ろを亜紗が追い、フィールドに触れダメージを負った妖魔を討ち取ってゆく。

桜の周囲に小さな魔法陣がいくつも浮かび、そこからぬいぐるみが現れた。

「やっちゃえ〜っ!!」

高千穂の「さすらい人形遣い・旅情編」国崎往人と双璧と呼ばれるパペットマスター桜。
ぬいぐるみの姿をするパペットもあってファンも多い。

「じゃぁ、付加したげるね・・・・」

アイの付与魔術でぬいぐるみ各個にありとあらゆる属性が付加される。
魔族でも屈指の魔力蓄積量と威力を持つアイが援護し、
ぬいぐるみは炎や風、雷を纏い妖魔を倒してゆく、五行の反属性を纏ったぬいぐるみに飛びかかられては
妖魔も燃え、凍り付き、倒れていった。


「行きますっ!」

見た目はカレハが魔力の塊を怪我人に止めと言わんばかりに叩き付ける、

「うぎゃぁっ!!・・・・・・・・・・・・・ふっかつぅぅぅぅぅぅっ!!」

大系や名称を付けたがる学者などにはリザレクションと呼ばれる治癒魔術を
カレハは笑顔で怪我人に叩き付ける。
欠損していない限り、負傷者は全快しカレハに感謝して前線に飛び出して行く。
カレハマジックと言うか・・・全快した兵士は何故かノリが良い・・・・
大抵「ふっかつぅっ!」と叫んでいたりする・・・
それでも運ばれた時点で事切れていた兵士も少なくない・・・
欠損部分の復元や完全死状態を回復する術をカレハは持っていないのだった・・・

「みなさん頑張ってくださいね〜」




雪夢寮の食堂、中庭、地下訓練場は避難してきた市民に溢れ、
寮の職員は大わらわで対応していた、

大使館のある建物でも市民を安全な場所へ転移させるべく転送魔法陣を準備していた。

「なっ?」

突如その魔法陣が光るとそこには稟達バーベナ出身メンバーが現れた。

「ふぅ・・・・」

祐一は稟、紅薔薇撫子と協議し一般生徒は都市護衛団と共に馬車で戻し、
貴族関係、稟達、祐一達が転送で戻る事を決めたのだ。

祐一、美汐、ことり、斉藤、シア、キキョウ、ネリネ、プリムラによる結界で
文句を言う貴族とその関係する者を強制的に北門へ飛ばし

(麻弓や香里が調べた脅迫、その他で嫌々従う者は除外)

祐一、美汐、ことり、によって
稟達「蒼」のメンバーを送ったのだ。

一般生徒らを送った後に残るは紅の外套を着た石橋教諭と
祐一ら黒の外套を纏う者、
石橋は元々自由騎士団ヴァルハラ「紅」に属していた人物で、
その立場を隠して学園で教諭をしていたのだ。

「稟様・・・」
「ブラウンさん、状況をお願いします。」

倉田家の執事、ブラウンが稟達に状況説明をする

「妖魔は何故か門のある所だけに集中しており、城に近い北門に騎士団、西がギルドの傭兵、東と南は各国の駐在が増援として派遣されております。」
「一般兵力は?」
「残念ながら壊滅に近いみたいです、お嬢様は最低の護衛を残して南へと向かいました。」
「亜紗さん達も居ない所を見ると佐祐理さんと一緒だな・・・・となると東が危険か・・・」

南に佐祐理が向かったなら大丈夫だろう・・・
稟はそう判断するやネリネ達に東門へ向かう事を告げた。

「紅女史はここに残って下さい、最悪の事態で避難民を守る事と情報の統括を、麻弓も頼むぞ。」
「アイアイサーなのですよ。」





雪華にとって南の城門は都市国家雪舞と繋がる大きな街道の終着駅であり、
ここが崩壊すると雪華は孤立する重要な場所であるはずであった・・・・
だが・・・

「・・・驕る代表格、貴族共が守る北門はまもなく瓦解しますね・・・」

秋子を連れて宰相は城の地下へと進む。
操られている事すら解らぬ秋子は黙って宰相に従っている。

「城はどうなるのでしょうか・・・」
「主立った者はこの地下へ移動しています、建物は壊れても再建すれば良いのです。」
「そうですね・・・」

城の地下には広大な空間が用意されていた・・・

数日前には怪魔がうじゃうじゃ養畜されていたのだが今はその姿は皆無だった・・・・
替わりに中央に巨大なゴーレムが鎮座している。
ここにいた怪魔全てを贄としてその強大な魔力で構成したしたのだ・・・・

「コアとなるものもすでに埋め込んであるのですぐに起動出来ます。」
「わかりました・・・・」





南門

戦闘はすでに終息する所であった・・・

「どうやらもう終わりですね〜っ、」
「あそこでツボミが倒したので終わり・・・」

舞の視線を佐祐理が追うと、ツボミのフィールドに触れた妖魔が吹き飛ぶ所だった。

「びくとりーっ、です。」

ツボミが佐祐理の方を見て笑顔でガッツポーズをしていた。
佐祐理達が参戦してからの死者は皆無、
たった数人で数万もの妖魔を屠ったのだ、
恐るべき戦闘力である・・・・

「っ!まだいるっ!」

茜の警告で皆に緊張が走った。

「いやいやぁ・・・・凄いな・・・・」

地面が盛り上がりその中からベルゼルクが現れた。

「北以外の妖魔が全滅しちまったじゃないか・・・」
「・・・貴方は・・・」

ハルバードを構えて佐祐理が問うた。

「俺はベルゼルク、闇族の一人と覚えておいてくれ。」

肩をごきごき鳴らしながら近づいてくる。
威圧感はそこらの妖魔とは全然違う・・・
だが佐祐理は・・・

「亜紗さん達『蒼』は東に向かって下さい、ここは佐祐理達『黒』で引き受けます。」
「ちょ、どおしてぇ〜〜」

亜紗が言うのももっともだ。

「大丈夫です、ここにいる『黒』のメンバーと義之さんとななかさんが居るのですから余裕です。」
「ほう・・・言うじゃねーか、いいだろう・・・さっさと行け。」

ベルゼルクもニヤリと笑って振り回していた鉄球を置いた。

「佐祐理さん、負けたら承知しないからねっ!」

亜紗は残心しつつも門の中に入っていった。
桜、アイ、ツボミ、カレハも後に続く。

「佐祐理達はとっても強いんですからね〜〜」
「なら示してみなっ、」





たったったったった・・・・

亜紗達は城壁に沿って駆けてゆく。

「ツボミちゃんっ!先行してっ、さすがにキツイ・・・」
「はいっ!」





「これだけで俺様に勝てるとはな・・・来いっ!」
「あははは〜っ、」

佐祐理の前には舞が、他のメンバーがベルゼルクの周囲を囲んだ。

「♪〜〜〜」
「何?」

ななかが歌い始める。

「バトルソングか・・・・その程度ではな・・・」

ぶんぶんと鉄球を振り回し始めるベルゼルク、
巨大な鉄球に皆もうかつに近寄る事ができなかった。

「では佐祐理が行きますよ〜〜っ!」

佐祐理が手刀を切ると、
一瞬で佐祐理の足下に大きな魔法陣が浮かび上がり無数の小さな魔法陣が佐祐理の周囲に浮かんだ。

佐祐理がハルバードをベルゼルクに向ける。

「ふんっ!」

そのタイミングで無数の鑓がベルゼルクに放たれるが、回転させた鉄球の鎖で粉砕してゆく。
隙を見て義之や冥も魔術を放つが、耐魔術処理されている鎖によって阻まれてしまう。
自在に動く鉄球によって茜、舞は近づく事が出来なかった。
さらに上手く回転を使った攻撃が襲ってくるのだ、
魔力による障壁で怪我は無いものの、琴音などは弾き飛ばされてしまっている。

「ではそのにっ、です。」

佐祐理が手を動かすと周囲に浮遊する魔法陣が自在に動き回ってベルゼルクを取り囲み・・・

「これはっ!!」

全方位から灼熱の光線をベルゼルクに浴びせた。

「くぅうぅっ!この魔術は・・・」

一本しかない鉄球で全方位からの光線を防ぐ事が出来ず、
その隙間を縫った光線が確実にベルゼルクを抉ってゆく。

「えいっ!」
「ぐはぁっ!!!」

佐祐理の軽い一言で魔法陣から鑓が放たれ、
土煙が止んだそこには無数の鑓に貫かれたベルゼルクの骸が佇んでいた。

「ちょっとのんびりしてしまいました・・・祐一さんにごほ〜び貰えないかも・・・です・・・」

いや・・・十分だろう・・・と
息の残る妖魔に止めを刺していた兵士達は遠巻きにその姿を見て思った。





亜紗達が合流した頃、東の戦闘も終息していた・・・

「稟ちゃ〜〜ん、せっかく来たのにご馳走残って無いの?」

東も南や西と同じく雪華の兵士は壊滅に近かったものの、
各国の駐在の頑張りと稟達の参入で転機が訪れていたのだ。
遠慮の無いネリネ、キキョウ、プリムラの攻撃が圧倒的だった事がある。

「亜紗さん・・・それだと俺は祐一と24時間訓練になるんですが・・・」

24時間訓練・・・
祐一の作り出す異次元空間による不眠不休の特訓であり
現実時間は僅か1分という特訓に持ってこいなのだが・・・

「ボクは関係無いも〜〜ん。」
「亜紗さぁ〜ん・・・」

門前に作られた救護テントからシアと楓がやってきた。

「稟君、稟君、怪我人の処置はあらかた終わったよ。」
「そうか・・・なら北門に向かおう、」
「了解ッス」
「え〜〜今度は北まで走るのぉ〜〜」





北門の城壁の上に男女の影があった・・・・

「このまま突破してきた妖魔だけを討ち取っていて良いのですか?騎士団も学園生徒も壊滅寸前ですが・・・・」

少女の手から攻撃魔術が放たれて門に取り付いた妖魔を葬っている。

「驕った言い方だけど、この雪華を浄化するには驕る貴族の存在は不要だ。」
「祐一さんがそう言うのなら・・・」
「悪いな美汐、付き合わせて・・・」

祐一が判断して・・・・というのも危険ではあるのだが、
美汐も納得した学園生で志ある貴族の子弟は転送前に昏倒させるなどで一般学生と共に馬車で移動させてある。
今城門で戦うのは驕れる貴族そのものな実力の伴わないランクを持つ者ばかりだった。

「実はな、ギルド総本部から依頼されてもいたんだな、これが。」
「雪華におけるランク乱発が問題になってきた所ですからね・・・」
「ギルドだけじゃなく、初音などの学園ランクも信用されない様な事態になると困るのはそれに頼って来る力無き人々だ。」
「確かに・・・・でもランクを持たない祐一さんが言う事では無いのでは?」
「痛いなぁ・・・美汐は・・・」




「カイザー、ベルゼルクが倒されました。」
「ほう・・・」
「我らの野望の障壁となる者がどうやら雪夢と行動を共にしていると思われます。」
「思ったよりも早かったと言う事はかなり潜入されているのだろう・・・」
「どうされます?」
「維持だな、雪華より妖魔を引き上げさせろ、まだ出撃していない者は待機だ。」
「了解いたしました。」

去ろうとした側近にカイザーが声を掛けた。

「水瀬秋子の紋章抽出は成功したのか?」

側近は歩みを止めて振り返る。

「いえ、水瀬に伝わる紋章は排卵と同時に出現するものなので・・・今だ卵子に紋章は発現しておりません・・・」
「娘の方はどうだ?」
「娘の場合、過去の記憶に残る男を元に模した人形を用意しているのですが・・・・今の所・・・」
「一子相伝で魔術的な転移で繋ぐ紋章だからな・・・・」
「ひょっとしたら継承されていない可能性もあります・・・」
「姉の方は早々に駆け落ちして行方不明だったな?」
「は、我らの網にかからない所、すでに亡くなってる可能性もあります。」
「解った、引き続き・・・」
「了解です。」





雪華城地下

背後に怪しげな祭壇がある大広間、
そこには秋子と宰相のふたりだけがいた。

「秋子様、妖魔のボスが倒され、妖魔共が撤退してゆきました。」
「そうですか・・・これを起動しないで済んだと言う訳ですね?」
「はい、」

宰相はその懐に秋子を抱え、支配の魔術を稼働した。

「秋子・・・」
「・・・はい・・・」

宰相の手は秋子の豊な胸を服の上からまさぐる。

「あ・・・・」
「カイザーは維持との命だ、生き残りの兵に恩賞を与え・・・・」
「・・・各国の駐在には謝礼の文を贈れば良いのですね・・・」
「そうだ・・・」
「あぁ・・・・あなた・・・・今夜も・・・」
「あぁ・・・」

宰相は秋子を抱え、地下祭壇の中に入っていった。





「祐一さん、下級の妖魔以外は撤退をはじめました。」
「ならこの争乱も終わりだな・・・・残る兵力でもあの程度の数の下級妖魔は大丈夫だろう・・・」
「では寮に戻りますか?」
「そうだな・・・最後の転移でみんなの魔力を搾り取ってしまったから、そろそろ目覚めるかもしれん。」
「みんなに文句言われそうですね・・・」
「だな・・・でも俺はみんなに了承して貰ったからなぁ・・・」
「祐一さん、意地悪です・・・」

転移の魔術は、送るのと自らも転移するのでは魔力の消費が段違いに違う。
莫大であるが底無しでない祐一の魔力である為、何度もの転移に自らの転移は負担だったのだ、
そこで祐一はみんなから転移の魔力を吸収させて貰ったわけなのだが、
とっさに祐一にしがみついて吸収を免れた美汐だけが転移後も元気だったりする。
故に今美汐は一緒に行動しているのだが・・・・




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