4月。
春と言っても、まだ寒さが厳しい。
桜はまだ咲かないし、雪もたまに降る。
まったく、なんて所に来ちまったんだろうな、俺は…。
でも、嫌なことばかりでもない。
それは…
「祐一〜。帰ろうよ〜」
ま、そう言うことだ…。
「ある春の日の出来事」
「どうしたの、さっきから? 私の顔になんかついてる? 」
「いや、良く食べるなと思ってな。太るぞ…」
俺達は、学校帰りに、百花屋によっていた。
名雪はいつもの通りイチゴサンデー。
俺はコーヒー。
いつのまにか俺の奢りになってしまって、今、名雪は三杯目に挑戦中だ。
くそっ、人の金だと思いやがって…。
「運動してるから、大丈夫だよ〜」
「いや、運動の分は、普通の食事でチャラだ。だから、もろに出るぞ…」
「く〜」
「寝て誤魔化すな! 」
「だって〜」
スプーンを口にくわえながら、上目遣いで俺のことをみる。
かっ、かわいい………。
「まあ、どうでも良いや。とっとと、食って帰ろうぜ」
「そうだね」
商店街を出て、俺達はくだらないことを話ながら、帰路についた。
その途中、ねこがいやがった…。
「ねこさんだ〜」
「よせっ、近寄るな! 」
俺は必死で名雪を押さえる。
しかし、名雪の暴走は止まらない。
「ね〜こ、ね〜こ」
「くっ、お前本当に女か? 」
あろうことか、俺が本気で止めているにもかかわらず、名雪は俺を引きずりながら、ねこに近寄る。
「ね〜こ、ね〜こ」
その様子に気がついたのか、ねこは走って逃げてしまう。
ふぅ…。
「ねこさ〜ん、待って〜! 」
「こら! 追いかけるな! 」
気を緩めた隙に名雪は俺の拘束から逃れ、走って追いかけて行ってしまう。
仕方が無く、追いかける俺。
「ね〜こ、ね〜こ」
「名雪まて! 」
『ニャ〜』
名雪を捕まえた頃には、すでに真っ暗になっていた。
「おい、今何時だ? 」
腕時計を持たない主義の俺は、名雪に聞いた。
「う〜んと、あっ、もう9時だよ〜」
くはっ…。
一体何時間走り回ってたんだ?
俺足が痛いぞ…。
「で、ここは何処だ? 」
そう言って俺はあたりを見渡す。
全然分らん。
「え〜と、多分隣町だよ〜」
「隣町………」
「う〜ん、バスはもう出てないし、どうしようか? 」
ここのバスは8時には終電になってしまう。
最悪だ…。
「とりあえず、秋子さんに電話しよう」
「そうだね」
そう言って、俺は近くにあった公衆電話で、家に電話をかけた。
プルルル、プルルル、プル ガチャ
「もしもし、水瀬です」
「もしもし、秋子さん? 」
「あら、祐一さん。どうしたの、こんなに遅くになるなんて? 」
俺はかいつまんで事情を説明した。
「と言うことです」
「了承」
ガチャ プー、プー、プー、プー
了承って…(汗)
「お母さんなんだって? 」
「了承だってよ…」
名雪の顔に「?」が浮ぶ。
「どう言うこと? 」
「どっかに泊れってことだろ、多分…」
泊る…。
なんて甘美な響きだ…(核爆)
「泊るって、何処に? 」
「知り合いの家とか近くに無いのか? 」
「ないよ 」
即答する、名雪。
万策尽きたか…。
「仕方が無い。どっかホテルでも探そう」
「ホテル〜! 」
「仕方が無いだろうが! 」
「私、あまりお金持ってないよ〜」
そう言われて、財布の中身を確認する俺。
中には、五千円札一枚と、北川がよこしたコ○ドーム一つ。
とうとう、これの出番か?
前の時は使わなかったからな…。
あの時は本当に怖かった………(滝汗)
「俺は五千円しかないぞ。お前は? 」
「三千円だよ」
合わせて八千円か…。
ここはラブ○テルのご宿泊しかないな…。
「よし、行くぞ! 」
「どっ、どこへ行くんだよ? 」
「とりあえず、駅前だ」
駅前に行きさえすれば、ラブホ○ルの一件や二件あるだろう。
「あった…」
まるでお城のような佇まいのホテル。
看板には、ご休憩三千円、ご宿泊七千円の文字。
よし、明日のバス代もある。
「入るぞ、名雪」
「うん」
こいつ、躊躇なく答えやがった…。
無知って怖いな…。
「いらっしゃいませ。ご休憩ですか? ご宿泊ですか? 」
「宿泊で」
「七千円頂きます。明日七時にチェックアウトしてくださいね」
辛気臭いば○あが、そう言った。
俺は、七千円渡し、鍵を受け取って、部屋に入った。
なんで慣れてるんだ俺?
「うわ〜、綺麗〜」
部屋の中は、大きな丸いベットに、20インチぐらいのテレビ、透きガラスで仕切られたシャワールーム。
なぜか、カラオケにプレステもある。
「わ〜、凄〜い♪」
無邪気に喜んでやがる。
本当に無知って怖い…。
「私汗かいたから、シャワー浴びるね」
「ああ」
いかん、いかん。
ここに入ってから、極端に無口になってしまっている(汗)
シュッ、ストッ、パサッ… ガラガラ ジャァ〜
くっ、衣擦れの音と、シャワーの音が…。
透きガラスの向こうで、名雪がシャワーを浴びている。
見ちゃ駄目だ、見ちゃ駄目だ、見ちゃ駄目だっ!
祐一君、なにを迷っているんだい?
見ちゃいけないんだよ、渚君
何故だい?
だって、見ちゃったら僕の理性が持たないよ
それでも良いじゃないか
なんで?
本当は名雪君も、君のことを待ってるかも知れないじゃないか
そんなこと…
考えてみて、高校生になってまで、ラ○ホテルを知らないなんて、ありえなく無いかい?
確かにそうかもしれないけど…
名雪君は君のことを待ってるんだよ
本当?
ああ、名雪君は君のことを待ってるんだ!
そうだ、名雪は僕のことを待ってるんだ!
おめでとう
おめでとう
おめでとさん
おめでとう
僕は見ても良いんだね!
ようやく気が付いたのね、馬鹿祐一!
逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ…
俺は透きガラスの方を見る。
「どうしたの、祐一? 」
ぐはぁ、出てやがる…(核爆)
「祐一は入らないの? 」
「いや、もう疲れた、寝る」
身体より、精神的に疲れていた。
俺はそう言って、ワイシャツと、ズボンを脱ぎ、ティーシャツとパンツになり、ベットに入った。
「ベット広いから、二人でも寝れるね♪ 」
この女、本気で知らないみたいだ…。
名雪は俺の隣にもぐりこんできた。
「おやすみなさい 」
「おやすって、おい! 」
「く〜」
一瞬の内に寝やがった…。
「す〜」
寝顔可愛いな………。
「祐一〜」
ビクッ
焦った、寝言か…。
それにしても、本当に危機感の無いやつだな…。
襲うぞ、こら。
まあ、良いや。
俺も寝よう。
寝れない!
あ〜、クソッ!
こんな状況で寝れるか!
次の日、目を赤くはらした祐一は、怪奇! 疾走する女と言う、怪談話を聞いた。
一番新しい目撃証言は、昨日だった…。
Fin