今、一つの時代が始まろうとしていた。
新たな時代を創る猛者たちが、ある場所に集まっていた。
そこは寒い街にある、一軒の家。
その家で、今まさに、狂乱の宴が始まろうとしていた。
そんな事は知らず、無常にも時間(とき)は刻み続けている。
『10! 9! 8! 7! 6! 5! 4! 3! 2! 1! 』
………
『0〜!!! 』
『明けましておめでとうございま〜す』
猛者たちの夢の痕
「明けましておめでとう祐一」
なぜか、徳利を持ちながら名雪がそう言った。
「おめでとう、名雪。今年…いや今世紀もよろしくな」
祐一はお猪口を名雪に差し出した。
差し出されたお猪口に名雪は徳利からお酒を入れながら、
「こちらこそ、よろしくね」
と言い、極上の笑みを浮かべる。
「おっとっと」
そう言いながら、注がれたお酒を一気に飲み干す祐一。
「くはぁ〜、美味い! やっぱ、寒い日は熱燗に限るなぁ」
「祐一…、おっさんくさい…」
長い黒髪の少女が祐一にそう言った。
「くぅ…。おっさんとはなんだ舞! 俺は悲しいぞ! 」
泣きまねをしながら祐一はその少女、舞を非難する。
「祐一…。泣いてるの? ごめんね… 」
舞は悲しそうに言うと、祐一のとなりに座り、小刻みに揺れている肩に手を乗せる。
「祐一、嘘泣きは駄目だよ」
「ううぅ、名雪慰めてくれ〜! 」
「嫌だよ」
キッパリと断られる。
「祐一…。嘘泣きだったの? 」
「えっ、あっ、いや…」
「嘘泣きだったの? 」
舞は表情の無い顔でもう一度問い掛けた。
「はい…」
ほとんど聞き取れない声で祐一はそう呟いた。
にもかかわらず、舞には聞こえていた。
「祐一…」
「はいぃ〜〜」
何処からか取り出した剣を祐一に向ける。
「はあっ! 」
「うわぁ! 」
舞の渾身の一撃を間一髪でよける。
祐一が一瞬前までいた場所は、床が裂け、跡形も無くなっていた。
良く見ると舞が今までいたところには、無数の徳利が転がっている。
「舞、もしかして酔ってるのか? 」
「次はひっく、外さない…」
剣を構え直し、舞はねらいを定める。
「うきゃ〜〜! たっ、助けて〜」
「………」
「あははは、鬼ごっこですか? 楽しそうですねぇ〜」
走って逃げている祐一に追走しながら、佐祐理さんが声をかけた。
「さっ、佐祐理さん、危ないから離れて! 」
「ほえ? 」
頭の上にクエスチョンマークをつけながら首をかしげる。
「もしかして、心配してくれてるんですかぁ? でも大丈夫ですよ。佐祐理、鬼ごっこ得意ですか! 」
グサッ!
「さっ、佐祐理さん!!! 」
「佐祐理? 」
舞は血のついた剣を片手にぼーぜんと立ち尽くす。
「佐祐理、なんで…? 」
「佐祐理さん、大丈夫だ! 傷は浅いぞ! 」
祐一は止血をしながら、叫ぶ。
「うっ、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
舞は叫びながら、次々と窓ガラスやテーブルなどを壊している。
『がしゃん、ばりーん』
と、そこへ…。
「あらあら、物は大事にしないといけませんよ」
そう言って、女性が舞の口の中にオレンジ色の物体を入れた。
「落ち付くでしょ? 」
「うぐっ…」
ごっくん…。
「ぶはっ! 」
「舞! 血を吐くな〜! 」
口から血を吐いた舞に駆けより、介抱する祐一。
「あらあら、どうしたんでしょうか? 」
頬に手を当て、さして困ってもいなさそうに、女性は言う。
「秋子さん、何を口に入れたんですか…? 」
「じゃむですよ。 甘いものは落ち付くのに最適ですから」
「なんで、こんなとこまでじゃむを持ってきてるんですか…? 」
「お酒のおつまみに良いと思ったのよ」
ふと辺りを見渡すと真琴とあゆがコタツでぐったりとしている。
「秋子さん、もしかして真琴とあゆにじゃむを食べさせましたか? 」
「ええ。でもすぐに酔っ払って倒れちゃったのよ」
「(それって、酔ったんですか…?) そうですか…」
「祐一さんも食べてくれないかしら? 」
「えっ!? あっ、あの、俺、舞と佐祐理さんを介抱しないといけないから…てっ、いない!? 」
「さっき、名雪が救急車に乗せてたわよ」
「(逃げたな、名雪…)そうですか…」
「ね、だから食べて」
「………はい」
震える手で、祐一はじゃむを受け取り、口に運ぶ。
(嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ…)
ぱくっ
「って言う、夢を見たんだ」
教室で話をしている、祐一と名雪、香里の3人。
「最悪の夢ね…」
「祐一、お酒は二十歳からだよ」
「そう言う問題じゃないでしょ、名雪」
「そうかな〜…? 」
「祐一さ〜ん」
教室の扉の所で、祐一を呼ぶ、佐祐理。
「どうしたんですか、佐祐理さん」
「31日に佐祐理の家で年越しのパーティーをするのですが、祐一さん達も良かったら、参加しませんか? 」
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