序章









長いトンネルを抜けると、雪が降っていた・・・・

座席で寄り添い眠る少年少女

夜からの小雪が降りしきる北の街。
雪国の意地を見せるつもりなのか、
電車はダイヤ通りに駅に到着した。

プシュゥ〜・・・・・
ガコンっ、・・・

「寒い・・・・・」
「そうだな・・・・」
「雪降ったはる・・・・」
「雪国だからな・・・・」

ホームへ降り立った瞬間、
少女が呟き、続く少年が相づちを打つ。

「この街に戻って来るのは7年ぶりくらいだな・・・」
「うん、そうやね・・・」

漆黒のコートを着る少年の横に立つ、
真っ白なコートに漆黒の綺麗な髪の毛を腰まで伸ばしている少女が少年のコートの裾を掴んだまま、街を見つめる。
そうしてその裾を左右に揺すって、

「寒うて荷物が持てへんよぅ・・・」

と、少女が少年に甘えた声を出す。

「ん〜〜・・・すでに両手一杯に荷物を持たせているのに、さらに持てと言うのか?」

少年が少女の顔を覗き込む様に見つめ、少女の答えを待つ。

「うっ・・・・も、もうすぐ1時やでっ、待ち合わせの場所急ご!」

ごまかす様に少女は少年の腕を取り、改札口へ向かった。

「やっぱし寒い・・・戻ろか?」

駅舎を出て、身体を震わせて呟く少女。

「来たばっかりじゃないか・・・・」
「はぅ・・・・」

お昼時、屋根が雪で覆われている駅前、
雪が降っているのにも関わらず、人々はいつものように行動していた。
ベンチに座る、少年少女を除いて・・・

「来ないな・・・・」
「来んなぁ・・・・」

二人はベンチに座る身体を動かして、さらに寄り添う様に座り直す。

「祐唯の従姉妹が来るハズだよな・・・・」
「そや・・・・・か・・・」

少年はその後に出る言葉を言わせず、自分から言った。

「今日から、俺が『相沢祐一』・・・だろ?」
「せやね・・・ごめんな・・・・一弥・・・」
「ほら、違うだろ?」
「ゆういち・・・」

ぽて・・・・

祐唯は身体を一弥に傾けた。

「ん・・・・」

小さい頃、従姉妹が名前を覚えられずに間違えて呼んだ名前『祐一』
以来『相沢祐唯(あいざわ ゆうい)』はこの街限定で祐一と呼ばれていた。
ま、その頃は男女の区別とかあまり認識しない年齢であった事から、
男並な格好に行動力に富んでいた娘ではあった。
事故を経験してからめっきりとおとなしくなり、キレないかぎり大人しすぎる娘になってしまっていた。
そんな少女を支えたのが、一度死んだ少年。
かろうじて息を吹き返した少年は、すべてを捨てて、新たな環境で生活していた。
そして二人は出会い、惹かれ、
今では少年一弥が18歳になった日に入籍する約束までしていた。
祐唯も家族や一弥が側に居る時は明るく元気に戻れる。
今回、相沢でなくなる前に、相沢祐唯は雪の街に戻る決意をし、
少年も、捨てたはずの産まれ故郷に戻る決意をした。
但し、本当の名前ではなく、『相沢祐一』として・・・

この北の街に・・・・


一時間後・・・

「くちゅん・・・・」

横からくしゃみの声が聞こえる。
一弥が祐唯を見ると、寒さに震えていた、

「あ・・・まだ大丈夫だよ・・・くちゅん・・・・」
「・・・大丈夫じゃないだろ・・」
「にゃ?」

我慢する祐唯を一弥はひょいっと抱え上げ、自分の膝の上に乗せると、
自分のやたら長いマフラー(祐唯の手編み、当然二人で一つ仕様)でぐるぐる巻きにした。

「あわわっ、ちょっとぉ・・・恥ずかしいよぉ・・・」
「風邪を引くよりもマシだ。」
「うん・・・・」

抵抗を止めて、一弥に寄りかかる祐唯。

「えへへへ・・・あったかい・・・・」
「後でサービスして貰うさ。」

一瞬、頬を染めるが、ジト目で呟いた。

「・・・・・えっち・・・・・」

端から見ると、少年が着てる大きめのコートから少女が顔を出している風に見える、
見てる方が「お熱いねぇ・・・」と言いたくなる。

二時間後・・・・

「嫌がらせなんかなぁ・・・」
「・・・悪意としか思えないぞ・・・」

白いため息をつきながら、ロータリーにある時計に目をやると3時・・・・
厚く立ちこめた雲は、雪が降り止まない事を二人に教える・・・・

「もう限界・・・・かもしれない・・」
「うちも・・・・」

頭に雪が積もった祐一は同じく頭に雪が積もった祐唯に

「住所・・・・聞いていたよな?・・・」
「うん・・・・でも、迎えに来てくれはるって言うし待たんと・・・」
「そうは言っても、二人共凍死はごめんだ・・・」
「せやね・・・」

そう言って、祐唯が祐一の膝から降りて立ち上がって伸びをした、

「はぅぅぅぅ・・・・寒いよぉ・・・」
「我慢しろ、」
「でもでもぉ・・・」
「其処の喫茶店で暖まってから行くか・・・」
「うんっ、」

祐一が立ち上がろうとしたとき・・・

「・・・・雪・・・・・積もってるよ?・・・」

肩や頭に雪が残っていない、今此処に来たばかりな風の少女が二人に声をかけてきた。
どことなく祐唯に似た面影がある

「そりゃぁ、二時間も待ってるからね。」
「雪だって積もるよ・・・・」

声をかけて来た少女はきょとんとすると。

「・・・あれ?」

不思議そうに首をかしげる。

「今、何時?」

と聞いて来た、

「15時」
「わ・・・びっくり。」

全く驚いて居ない・・・・間延びしたのんきな仕草が二人を逆撫でする。

「まだ、2時くらいだと思っていたよ・・・」

祐一は祐唯とアイコンタクトで会話したあと、
少女の脳天にげんこつを落とした。

「それでも一時間の遅刻だ。」
「二時間も雪の中待たせるて、極悪だよっ、」
「う〜・・・・」

祐唯の言葉に、うなりながら涙目で見上げる、

「ちょっと・・・力を入れすぎかな?」
「問題無い、反省の色が完全に見えて居ない。」

たらりと汗を流した祐唯に祐一はこう呟いた、

「ちょっとじゃないお〜・・・・凄く痛いよ・・・・」
「でも、遅れたのが悪い。」
「やね。」

ぴしゃりと二人は名雪の反論を切った。

「う〜・・・・」
「煩い、黙れ。」
「・・・・・・・・わたしはあそこの喫茶店でケーキセット食べ放題で許したげるわ。」

祐唯は人差し指を顎に当てて、ちょっと思案したあと、
前屈みになり、名雪を覗き込む様に言って、撃墜率100%(相手が男の場合)の笑顔を向けた。
実は向かいにある喫茶併設洋菓子店の看板にあるケーキリストにさっきから目が行っていたのだ・・・

「げ・・・・」

なぜか嫌そうな声をあげる祐一。

「なに?」
「いや・・この前にケーキバイキングに行った時を思い出した・・・」
「み゛っ・・・・そないこと思い出さんでいいのっ。」

相手が見えなくなるほどの積み上がった皿を思い出して、祐一の表情が固まった。

「ま、まぁ今は祐唯に免じて保留にしてやる。」

おわびとしてギンギンに冷え切った缶珈琲でごまかそうと思ってい少女は滝涙を流してその珈琲をポケットに戻した・・・・

「ね、ねぇ・・・わたしの名前覚えてる?」
「覚える価値を認めん。」
「だおっ・・・・」
「謝罪すらせんかったしね、さ、謝罪したら思い出して貰える様言ってあげるから・・・」
「だ、そうだ、この寒空に二時間も待たせた迎えの人よ。」


そう言って祐唯は名雪を引きずって洋菓子店に進路を取った。

「ちょっ・・・・だおっ!!」

その看板に表示されているケーキ・・・・
手作りで評判だが、金額もそれなりな高級洋菓子店のものだった・・・・

「あの・・・他の店では・・・」
「駄目。」

祐唯は名雪の腕を引っ張って店のカウベルを鳴らした。

「残念だな・・・ロックオンしたら譲らないぞ・・・」
「だお・・・・今月まだいちごサンデー食べて無いのに・・・・」
「最初に遅れてごめんなさいと言えば良いものを・・・」















そして一つの物語が始まる・・・


そしてD.C.Al Fine


9/29

2006/11/15改訂

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