Al Fine







「けっぷ・・・」

祐唯達は、たらふくケーキを堪能したあと水瀬家に辿り着いていた。

「う〜・・・・お小遣いもう無い・・・・」
「自業自得だな、」
「う〜〜・・・・お店のケーキ全種類食べるなんて極悪だよ・・・・」
「俺は珈琲だけにしたんだ、感謝するんだな。」

祐唯はケーキを作るのも食べるのも大好きであり、
一度食べたケーキの味を再現するのが得意だった。
さらに、秋に行われた箏の演奏のピンチヒッターを頼まれた際に出した条件「ケーキ食べ放題」
積み上がった皿を見た部長が灰になったのを一弥はしっかりと覚えていた。

「気にしない、気にしない♪ケーキは別腹〜」
「う〜・・・気にするよ・・・・」

拗ねる名雪に上機嫌な祐唯、建前上始めて会う二人の仲の良さに、微笑みながらついてゆく祐一だった。

(祐唯は大丈夫だな・・・後は俺が上手く立ち回るだけか・・・・)

「どう?祐一、この街も結構変わったでしょ?」
「えっ?」

前を歩く名雪が後ろの祐一を振り返り訊ねてくるが、
祐一にその当時の町並みの記憶など無い。
返答に困る祐一だがとりあえず・・・・

「さぁ・・・・昔の町並みなんて忘れちまったから解らないな・・・・」
「そう・・・・」

寂しそうに顔を戻す名雪に、祐唯が助け船を出した。

「ねぇねぇ、なら、何かこの街の思い出に残っているのは?」

祐唯は震えるジェスチャーをしながら祐一をのぞき込む。
名雪が再び振り向いた時にはそのジェスチャーは終わっていた。
祐唯の言いたい事が解った祐一は

「そうだな・・・・表に出たく無いほど寒かったのは覚えているぞ。」
「あはは・・・・祐一はいつもごねたもんね・・・早く思い出して欲しいなぁ・・・」
「無理に思い出す必要も無いと思うぞ?」
「うちもそう思うわぁ、」
「でも、思い出して貰いたいって思う人がいるなら思い出すべきだよ?」
「そんなもんか?」
「うん、そうだよ。」
「かなぁ・・・」

その後、祐唯が上手くネタをふったりした事で、三人は寒さを忘れて家路を歩いた。

「ここらの特産って何かあるん?」
「そういえば買い物に無理矢理つきあわされた事があった気がする・・・」
「う〜〜無理矢理じゃないよぅ〜・・・」

「こっちならではの料理ってあるん?」
「う〜〜ん?苺?」
「それ料理ちゃうやん・・・」
「悪い所を指摘したら晩ご飯もおかずがたくあんだけにされた。」
「う〜〜・・・そんな事覚えてなくて良いのにぃ・・・」

「・・・迎えの人さんって、ほんま極悪非道やったんね・・・・」
「立場が弱いのを・・・傍若無人だったぞ。」
「う〜〜まだ名前呼んで貰えない〜・・・」

ネタ提供は祐唯だったのだが・・・・
大汗を頭に浮かべた名雪はどんどんやりこめられては行った。

そうこう言う間に門に着く。

「ここだよっ、」
「・・・・大きいな・・・・」
「そうだね・・・・」

水瀬家は、二人の予想よりも大きかった。
ぱっと見だけで大人 6人は余裕で暮らせるだろう・・・・

「さ、中にはいろっ」

名雪が二人を屋内に誘い、鍵を開けた。

「ただいま〜〜」
「「お邪魔します。」」
「違うよ、二人とも。」
「「えっ?」」

ふたりが名雪の顔をのぞき込むと、
名雪は満面の笑みのつもりで笑顔で言った。

「今日からここに住むんだから・・・・二人ともただいまだよっ」
「「・・・・・・・・」」

二人は呆れた表情で肩をすくめてから、
名雪の耳元に左右から近づき・・・・

「?」

「「勝手に決め(るな/ないで)!!!!」」

両側からの声の攻撃に、凍る名雪だった。

「そういえば・・・・・」

祐一の一言で一気に解凍される名雪。

「何か思い出した?」

笑顔になって聞いてくる名雪だが、その言葉は名雪の欲していたものではなかった。

「さっきの内容でもそうだけど迎えの人は何でも自分の思いどおりになると勝手に思いこんでいたな・・・・・」
「そういうのって、迷惑よね。」
「酷い事言われてる気がする・・・・・」
「「・・・・・・・・」」
「その沈黙は何?・・・」
「反省って言葉知ってるか?」

二人はそのまま名雪を放置した。


「だぉ・・・・・・・・」

いかに天然猫苺中毒の壱億年寝雪でも、効果があったようだ。

「私が言った事、覚えていたんだ。」
「当然。」
「えへへ・・・・」





ガチャ・・・

「「こん・・・」」
「いらっしゃい、二人とも。」

二人がドアを開けたら目の前に、祐唯の叔母 秋子がにこにこと笑顔で待ちかまえていた。

「にゃう?」
「うぉ?」

思わず抱きしめ合う二人、

「あらあら・・・・相変わらず仲が良いですね、さぁ、玄関に立ってないで中へどうぞ。」
「あ・・・・」
「あはははは・・・・・」
『おじゃま致します。』
「はい、いらっしゃい。まずは何か暖かいものを用意しますね。」
「・・・・わたし忘れられてる?」



こぽこぽこぽ

コーヒーメーカーから秋子は二人に珈琲を差し出し、

「二人とも珈琲で良かったんですよね?」

一弥の影響で祐唯も珈琲好きと聞いていた秋子は、聞く前に出していたのだ。
全部知ってるから大丈夫ですよ、という安心感を与えたいが為ではあったが、
秋子にしてはちょっと早計な行動でもあった。

「ありがとうございます、秋子さん、あ・・・・牛乳ありますか?」
「はい、どんなのが良いですか?祐唯さん。」

祐唯は低温殺菌特濃牛乳を入れて珈琲を飲むのが好みだ、
女の子の味覚は甘いモノに関して満足度を得にくい、
それが甘いモノは別腹などの言葉に繋がるのだが・・・・・

「俺はこのままでいいです。」

カフェ・オ・レで飲む祐唯の隣、一弥(祐一)はブラックで美味しそうに珈琲を飲む。

「秋子さん・・・・このブレンドは一体・・・・」
「それは私のオリジナルブレンドですよ、名雪も珈琲は飲まないから、そんなに美味しそうに飲んでくれると嬉しいですね。」
「あはは、今後は秋子さんに注文するかな?」
「いいですよ、」
「ほんと、美味しい〜」

祐唯も横で相づちを打つ。

「おまえ・・・・解るのか?」
「解るよ、こうやって牛乳で苦みだけを押さえれば。」

可愛く頬を膨らませながら、祐唯はコクコクと珈琲を飲む。
牛乳を入れる理由の一つはそうだが、
祐唯が猫舌なこともその理由だ。

「う〜〜〜〜・・・・・・」
「煩い。」

7年振りの再会にもっとはしゃぎたい名雪だが、こう仲むつまじい所を目の前で展開されて、不機嫌度は上がる、

が・・・・・

「そういえば、もっと早く到着してるハズなのに、どうしてこんなに遅くなったのかしら?」

秋子の素朴な疑問が名雪には死刑宣告に聞こえた。

「それはですね・・・・・」
「だ、だめだめだめだめだめ!言っちゃ駄目!!」
「うざいぞ。」

立ち上がって祐唯の言葉を止めようとするも・・・・・

「・・・・・・名雪が遅れたんですね?それも数時間・・・・・雪の中に・・・・・名雪。」
「は、はいっ!おかあさん!!」

背筋を伸ばし、硬直して返事する名雪。

「1時にちゃんと迎えに行くと名雪が言ったから任せたのを解っているわね?」
「う・・・だって・・・」
「言い訳はもう聞きません。」

すでに大好物のケーキで償って貰った祐唯が秋子をなだめようと声をかける。

「あ〜でも、そのお詫びに奢って貰ったので・・・・・」
「いえ、祐唯さん、名雪には遅刻をした時はペナルティを受けると、この前学校に呼び出された時に約束しましたので・・・・」

どうやら、名雪は朝寝坊が多く遅刻をばっかりで、学校からの呼び出された事が有るようだ。

「・・・・迎えの人って、時間を守れへんの?」
「・・・・そうみたいだな・・・・」

秋子の青筋を見て、二人はポツリとつぶやく。
・・・まだ名前を呼んであげる気は無いみたいだ・・・

「名雪・・・・」
「はい・・・・・」
「一ヶ月の苺禁止」

がぁぁぁぁぁぁぁぁぁん・・・・・・・

としなだれる名雪。
名雪にとって苺は主食だ、

「それと、二人に迷惑をかけた罰にコレを・・・・・」

びっくぅ・・・・・

テーブルに出されたオレンジ色のジャムを見て、名雪は震え上がった。

「あれ?それって。」
「・・・・・アレだな・・・・・」
「あら、解ります?」

秋子が出したソレをみて、きょとんとする二人に秋子が微笑んだ。

「当然ですよ、・・・・・ここに・・・・・」

ごそごそと自分のバックから祐唯は二つの瓶を出した。

「こっちがお母さんの新作で、こっちが私の新作です、是非秋子さんに試食して欲しくて持ってきました。」
「あらあら・・・・・祐唯さんが、冬貴子姉さんのを継承していたのね?」
「はいっ」

嬉しそうに話す二人を見て、名雪の顔がますます青くなる
謎ジャムが3種類・・・・・

「あきらめるんだな・・・・祐唯は試食させると決めたら絶対に食べさせる。」
「だお・・・・・・」

合掌

「何か、酷い事言われた気がするよ・・・・」
「俺は、祐唯の作った物は全部美味しい・・・・・が、他人はどうかは関知しない。」

少し照れてそっぽを向く祐一

「私の作ったのって、祐一は美味しいと思ってくれてるんだぁ・・・・・えへへ・・・・・」

照れて祐一の脇をつんつんする祐唯。

「こっ、こらっ、脇をつんつんするのはやめいっ!」





二人は夕食をごちそうになったあと、秋子とリビングに座って珈琲を飲んでいた。
すでに名雪は自室で眠っている。

「だいたいの話は姉さんから聞きました、本当に良いのですか?」
「はい。」

ふぅ・・・・とため息をしながら秋子は、

「本当は一緒にこの家に住んで欲しかったのですけどね・・・・」
「すいません、秋子さん。彼女は昔から自分の都合の良い解釈しかしませんし、それで無用のトラブルは避けたいのです。」

祐唯の言葉に、思いっきり頷いてしまう秋子だった。

「そうですね・・・・祐一さんがこの家に住むと思いこんでいたみたいですし・・・・秘密を守る事が出来ないほどのお喋りだから・・・・」

我が娘ながら、かなり甘やかしてしまったと内心反省する秋子だった

「それだと・・・・初日に二人は恋人同士で婚約者とか・・・・同棲してる・・・・なんて事がばれていそうだな・・・・・」

トラブルを想像して苦い顔になる一弥、祐唯は美少女なのだ、前の学校でも毎日沢山のラヴレターが届くほど。
・・・・・・一弥もかなり格好いいのだが・・・・・

「明日、彼女のご飯は全部じゃむ、朝は私の、昼は秋子さんの、夜はお母さんの、それでしゃべらない事を約束させる。」

名雪が聞いていたら「もう私笑えないよ・・・」と言うであろう事を祐唯は言った。

「いいですね、それ。」

あっさりと賛成する秋子

「見た目と臭いだけ苺じゃむっていうのもありますよ」
「それ、頂いていいですか?祐唯さん。」
「当然です。」

ニヤリと意気投合する祐唯と秋子
祐唯のジャムは初めて作った時から試食している一弥には只の美味しいジャムだが、それに秋子と冬貴子のが加わるとなればそうもいかない、
会話内容の転換を図った。

「荷物が明日届くので、今夜は泊めて頂きたいのですが。」
「それは大歓迎ですよ、祐一さん。」
「良かった。」
「一緒の部屋で良いですね?」
「にゃうっ!・・・・」

祐唯の表情が真っ赤となった。

「今夜はご馳走ですね〜何か好きなものありますか?」
「あえて言うなら・・・かしわですけど・・・」
「丁度良かったわ、新鮮なのを獲って・・・いえ、買ってきたばかりなのよ。」
「獲って?」
「気にしないでください・・・」
「・・・わかりました・・・」










つづく

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