そしてD.C.Al Fine

「・・・・ん・・・・・・」

手足の肌寒さに目が覚める祐一。

「・・・・・・ここは・・・・」

見慣れない室内に一瞬とまどうが、思考がはっきりしてくるごとに現状を把握した。

「・・・・そうだったな・・・・・」

今日は冬休み最終日・・・
祐唯の叔母の家・・・
挨拶に来てそのまま泊まり・・・
客間に布団を並べて眠った・・・
そこまでは思い出した。
時計を確認すると8時、荷物が届くのは正午との話だからと、
今日の午前中の行動を思案しながら、祐一の身体を抱き枕にしてまだ眠っている祐唯の髪をなでる。
髪を撫でられる祐唯の表情は眠りながらも気持ちよさそうになってゆく。

「ふみゅ・・・・・・」

なでなでなでなで・・・・・

「ふみゅふみゅ・・・・・・」

祐一も男、ついつい手が布団の中に潜り込んで・・・・・・・

「げ・・・・・パジャマ着てない・・・・・」

夕べ、隣の布団に入った祐唯は秋子さんから借りたパジャマ・・・・何故かジャムの瓶の模様・・・・
を着ていたハズだった。

「確か、1時まではタイマーで暖房が入っていたから、祐唯が入ってきたのはその前か・・・・・」

祐唯は淡いピンクの下着姿で祐一にしがみついていたのだ
寝起きの頭でまだぼ〜〜〜とした思考しか出来ていない一弥。

「しがみついてる感触から解れよ、俺・・・・」

どたどたどたどたどたどた・・・・・

「・・・・・ん?」

どたどたどたどたどたどたどた・・・・・

「廊下・・・・・か・・・・・」

廊下の向こうから、

「う〜〜〜どうしよう〜〜〜〜」

全然ちっとも絶対に困っていない口調の声が聞こえる。

「・・・・・五月蠅いな・・・・・」

祐一は優しく眠る祐唯を自分の身体から離すとドアの前に立ち・・・・

どたどたどたどた・・・

「やかましい」

どかっ!!!

「だおっ!!!」

思い切り、力を最大限に入れてドアを開けた。
ー注ー
祐一は名雪を祐唯から聞いていた情報と、昨日散々待たされた事で、良い感情は持っていません。

ドアの攻撃
苺喰睡眠魔人「だお〜」にヒット
だお〜は反対の壁まで吹き飛んだ
だお〜は動かない
だお〜が転がり戻ってきた
ドアはピンボールの要領でだお〜を弾いた

だんだんだんだんだんだん

だお〜は階段を転げ落ちていった
ドアの勝利
ドアは1ポイントの経験値を得た

「・・・・・・朝から五月蠅いぞ。」
「だお・・・・・・」

落ちてきた名雪をみても、全然驚かないで落ち着いて秋子さんは言った。

「あらあら・・・・・寝惚けては駄目ですよ、名雪。」

どうやら寝惚けて階段から落ちるのも日常茶飯事らしい・・・・
祐一も下に降りてくる。

「一体・・・・何騒いでいるんだ?」

朝の気分を害された祐一は半分不機嫌に聞く。

「う〜〜〜身体が痛い・・・・制服が無いんだよぅ・・・・どうしよう・・・・」
「あらあら・・・・・そういえば昨日干したばかりでしたね・・・・お風呂場にありますよ?」
「あ、そういえば夕べにお母さんに渡したんだっけ・・・・」

再びどたどたとお風呂場に向かう名雪。

「まだ眠っていても良かったのですよ?祐一さん。」
「なら、せめて静に騒ぐ様にして貰いたいものです。」
「あらあら、ごめんなさいね、祐一さん。ホント困った娘で・・・」
「・・・」
「努力しているといつも口ばかりなんですよ・・・」
「・・・ご苦労様です・・・」

秋子も苦笑いしている様子を見ると、すでに何度も言ってはいるみたいだった・・・

「う〜〜まだ湿ってる・・・・」

お風呂場から名雪が出てくる、それでもちゃんと着ている・・・・変なヤツだ・・・・

「所で、今日はまだ休みだろ?なんで制服なんだ?」
「あ〜わたし部活があるんだよ〜」
「ふ〜〜〜ん・・・・・何部?」

あまり興味無さそうだが、社交辞令的に祐一は聞いた。

「うん、陸上部だよっ」

ピシィ・・・・・

祐一の刻が一瞬止まった。

「はぁ?そんなのとろとろぼけぼけが陸上部ぅ???」
「酷いよ、祐一、これでも部長さんだよ〜〜」
「・・・・・信じられない・・・・・」

信じられない、それしか祐一の頭には浮かんで来なかった。

「名雪、早く食べて行かないと・・・・」

秋子が名雪の朝食を運んで来た、来たのだが・・・・
朝食として出されたパンの上に乗るおれんぢに硬直する名雪。

「朝はしっかり食べないと駄目ですよ?」
「おかあさ〜〜ん・・・・(涙)」
「名雪はお喋りですからね、祐唯さん、祐一さんの都合も考えないで、二人の事を言いふらしたら・・・・・」
「・・・・・(ゴクリ・・・)」

秋子はオレンジ色のジャムを3色グラデーションで並べ、

「名雪の食事は全部コレですからね?この薄いオレンジのジャムにこの濃いオレンジのジャムをおかずで、
このコーラルオレンジのロシアンティーを飲み物で・・・・」
「わわわわ、解ったよ、お母さん!」
「解ってくれるとお母さんは嬉しいです、あ、ソレはちゃんと食べて行ってね。」

パンよりも厚く塗られたジャムを口に入れて硬直する名雪
今回の遅刻で名雪のみ集合時間を今までの30分ではなく1時間早く伝える様、部員の全員一致で決まったらしい。




「それで、祐一さん達は今日はどうされるのです?」

祐一に珈琲を差し出して秋子は尋ねた。

「そうですね・・・・ちょっと知人に逢っておこうと思います。

ブラックで一口、満足に唸って祐一が答えた。

「知り合いがいるのですか?」
「はい、全国模試の会場で知り合ったのですが、丁度転校先の生徒なので。」
「あぁ、名前の事などに関してですね?」
「はい。」

とんとんとんとん

「うにゅうにゅ・・・・・・」

どうやら祐唯も起きてきたみたいだ、

「おいおい・・・・秋子さんに借りたパジャマはどうした?

祐唯は祐一のシャツを羽織った状態で降りてきたのだ。

「はみゅ・・・・あ・・・・いつもの癖で・・・・」
「そうだったのですか、ごめんなさい、いらないお世話だったみたいで・・・」
「あ、ごめんなさい、秋子さんっ、」

ちょっと悲しい顔をする秋子に、祐唯はあわてて取り繕う。

「ごめんなさい、いつもパジャマは着ていないので・・・・」
「いつも?祐唯さんはいつも祐一さんのシャツを着ているのですね?」
「えっ、あっ、は、はぃ・・・・」

縮こまる祐唯を微笑ましく見る秋子。

「コイツ、新品でなく、俺が最低一度は着たシャツしか着ないんですよ、秋子さん」
「あらあらまあまあ、祐唯さんは祐一さんが大好きなんですねぇ・・・・」
「あ、あははははは・・・・・」

祐唯の「何て事言うのよっ」という目を流し、祐一は横の席を引いて祐唯を座らせた。

「では二人とも朝ご飯にしましょうね。」

そう言って秋子は台所に消えた。

「かず・・・祐一、変な事言わんといてっ、」
「い〜じゃん、事実だし。」
「う〜〜・・・・」

さすがは従姉妹、唸る時の表情が似ているな、と祐一は笑みを浮かべて珈琲を口に含んだ。

「秋子さんの御飯もなかなか美味しいな、祐唯。」
「せやね、お母さんの味に近いけど、全体的に濃い感じがする。」
「あらあら・・・・祐唯さん良く解りますね、何が違うと思います?」
「う゛〜〜ん・・・・まずはですねぇ・・・・水と素材の土壌と醤油?それと・・・・」

ぴしっ・・・・

「あ、凍らはった・・・」
「さ、流石です祐唯さん・・・・私が教える事は無さそうですね・・・・・残念・・・」

寝雪とではほぼ実現出来ない娘に教えながらの料理・・・・・
今回秋子はその希望が叶うとまで思っていたのだが残念な事に祐唯の腕は秋子に匹敵していたのだった。

「そんな事無いですよ、この地方料理を教えて下さいね。」
「はい♪」








駅前の時計台の前、
一人の少女が時計を気にしていた。

「・・・・ちょっと早かったみたいね・・・・」

厚手のコートに身を包んだ少女の吐く息が白く、即凍ってキラキラと輝く。

「ふぅ・・・・・」

ふわふわのなみなみな髪型をした一見クールな少女は友人との待ち合わせで、
昨日二人が待ちぼうけしていたベンチの前に立っていた。

「しかし・・・あの二人がこの街に来るなんてね・・・」

数回しか会った事の無い相手だが、やはり友人と久しぶりに会うのは嬉しい。
出会いは一年の時に参加した夏休み合宿講習会、
たまたま同室だった大人しくて可愛い女の子・・・だったハズ・・・
仲良くなって次に会ったのは二年の夏休み・・・・
さらにその彼氏も交えての・・・・
何か思い出したのかちょっと顔を赤らめながら最近はまず見ない心から微笑んでいた。
袖をまくって腕時計を見るのも寒いのか、少女が時計台を見上げた時。

「か〜おりん♪」
「ひゃん!」

後ろから少女に抱きつかれた。

「祐唯?!」
「あったり〜♪」
「よっ、久しぶり。」

抱きつかれた少女、美坂香里が振り返ると、そこにニヤニヤしながら祐一が立っていた。

「あ・・・・」
「あれ?かおりん赤くなってる〜」
「ちょっ、そんな事無いわよ、それに祐唯!」
「何?」
「胸揉むのやめて。」

抱きついた祐唯の手は香里の胸を掴んで・・・片手はすでにコートの中に入っていた。

「あ、あはは〜っ、よく成長してるからつい・・・」

祐唯も負けていないと一弥は呆れつつも思って居た。

「ついじゃ無いでしょう〜!」

笑いながらも手を振り上げた香里から身体を離した祐唯は香里の前に回り込んで。

「お久しぶりっ!香里」

笑顔で挨拶した。

「おひさしぶり、祐唯」
「「あはははははは」」

きゃいきゃいやってるふたりに、おいてけぼりな祐一が声をかけた。

「スマンが寒いから、まずはどこか入らないか?」
「あ〜〜せやねっ、かおりんどこか良いお店知ってる?」
「かおりんってゆ〜なっ!」
「はうっ・・・」

軽くおでこにデコピンされた祐唯がわざと派手にのけぞった。

「そうね・・・あたしが良く行く店があるけど行ってみる?」
「あぁ、いいぞ。あ・・・そこはケーキは・・・」
「当然祐唯も満足するはずよ。」
「ほんと?」
「行ってみてのおたのしみ〜」
「やたっ!かおり〜ん!」
「ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

ケーキ好きな祐唯は目がきらんと光ったかと思うと、そのまま飛びついてキスをした。

「あ〜〜あ・・・・場所考えてくれないとこ・・・・ま・・・・る・・・・って」

周囲の視線に気付いた一弥は、慌てて二人を引きはがした。
その際、糸を引いていたのを見逃さなかった一弥だった・・・・ディープですか・・・・
一弥は頭を抱えた。
一弥、両親、元の学校での幼なじみの双子のみ祐唯はフランクな方だった

(そういえば幼なじみの瑞穂と刈穂はファーストキスを祐唯に奪われたと言っていた気が・・・・)

「とりあえず行くぞっ」

とりあえず一弥は二人を抱えてその場から逃走した・・・

「うううう・・・・又・・・・」
「挨拶挨拶♪・・・あ・・・一弥にもして欲しかった?」
「そっ、・・・そんなこと・・・・」
「あ・と・で・ね(はぁと)」
「うぅ・・・・うん・・・」
「おまえらなぁ・・・・あ、香里、どっち?」
「次を左。」
「あいよっ、」

二人を脇に抱えて戦線離脱してる祐一は疲れたた表情で呟いた・・・・・

「ふぅ・・・俺も意外と力あったんだな・・・・」

美少女二人を抱えて走る姿もそりゃぁ目立ったのなんの・・・・
その日、正体不明な二人よりも名の知られている香里の母が商店街では人気だったらしい・・・

「美坂の奥さん、娘さんも楽しい恋をしてますね。
「まあまあ、香里ちゃんもそんな人が居たのね、今度是非紹介してもらわなくちゃ♪」

つづく

[PR]動画