「ねぇ・・・・ここすごいさむいよ・・・・」
「あたりまえです、祐一殿、今後、夏と冬の間はこの土地で修行するのですから・・・・」
「え〜〜〜、そんなぁ・・・・」
「祐一殿はここでも、たっぷりと修行して、たっぷりと遊んで、力を付けていただきたいのです・・・」
「う〜〜〜・・・わかったよ・・・・これもちょっけいのしゅくめいなんだね?」
「そうですとも。」


4歳の冬、祐一は雪の街に始めて降り立った。



あの冬から5年・・・

大学を卒業した俺はまだ、この雪の街にいる・・・

これから起こる悲劇を回避する為に・・・









「ん・・・・」

晴れた朝、香里は心地よい微睡みのなか、腕枕をしてくれている男の胸にぬくもりを求める。

「ん?・・・・」

香里はうっすらと目を開ける。
夕べだいぶ気を香里に送り込んだ男は、まだ起きる気配が無い。

「こうして寝てる時って以外と可愛いのよね、祐一は。」

始めて身体を重ねた時とあまり変わらない寝顔に見とれていたが、
頬に軽くキスをしたあと、そっと起きあがり、ローブを身に纏ってシャワールームへ向かう。

「あぁ〜っ、こんな所に跡がぁ・・・今日は衿の大きい服を着れないじゃない・・・」

・・・かなり熱烈だった模様で・・・・シャワールームより香里のボヤキが聞こえてきた。




相沢祐一は大学卒業後、あの街でビル一軒を借り切って、
私立探偵事務所を開き日々街を駆けずり廻ってる。

「あのさ、香里、俺、探偵事務所開く。」
「正気?」
「でもって名義に香里の名前も書いておいたからな。」

情事の途中にそんな事をいきなり言われて、香里は唖然とした。

「何であたしも名義人になってるのよっ、」
「嫌か?」
「うっ、・・・」

祐一の、どこか悪戯気のある笑顔に香里は弱い、

「そ、それは・・・先に言ってくれれば・・・」
「すまないな、良い物件があったから、早急に手付けを打ちたかったんだ。」
「ま、まぁ・・・それなら許してあげるから・・・そのかわり・・・」
「解ってる、たっぷりと愛してあげるよ・・・」
「あんっ、・・・・」


・・・・な感じで二人で開設したのだった・・・


何処からか、祐一は資金を調達していて、多少暇でも大丈夫なのだが。
事務所が暇になる時は無い。
何故かわからねど、毎日仕事が迷い込んで来るのだ。

「あははは〜っ、祐一さんっお仕事ですよ〜っ、」

浮気の調査から、要人警護、猫探し、子供のおもりに食い逃げのおっかけ、祐一とのデート・・・・?

「・・・名雪さん、そんな依頼はお断りです、そんな依頼料よりも経費のかかる依頼は酷というものです。」

あと所員になったのは、倉田佐祐理に天野美汐の二人。
他の居座ろうとした人間は「役に立たない」からと、追い出した面もあるが・・・
特に、うぐぅやだぉ〜やえぅ〜が該当する。



「ん・・・おはよう香里、良く眠れたかい?」

祐一が起き出してきた。
シャワーを浴びて、鏡台の前で髪をとかしている香里に声をかける。

「先に行ってるわ、今朝は佐祐理さんが食事当番だから、早く祐一も来るのよ。」
「はいよっ、さて・・・俺もシャワーを浴びて来るか・・・」

ベットから立ち上がった祐一に、部屋を出ようとした香里が声をかける。

「祐一。」
「ん?」
「ちゃんと隠してね〜」

バタン

ふと祐一が自分を見ると・・・・全裸だった・・・・。

「ぐはぁ・・・・」




ぱっと見て、只の事務所にしか見えない。
中央には大きなソファーセットがあり、それをコの字型に祐一達のデスクが並ぶ。

「・・・・今日は暇だな・・・・」
「そうね・・・」

カタカタと香里がキーボードを打っている音だけが聞こえる、昼下がり。
散らかるほど物がない机の上で、祐一がぼやく。

「はい。」

香里が新聞の束を祐一を見ないでほおった。
それを目に通す祐一。

「良い話題が少ないな・・・利権ばかり求める公務員や政治屋、凶悪な少年犯罪、少女失踪事件・・・
この鈴木って代議士の目は濁ってるなぁ・・・比例でなければ当選するはずが無いよなぁ・・・」

などと、言いつつも、祐一の目はある一点の記事に集中していた。

「麗らかな午後を楽しむ一時も良いではありませんか?」
「美汐・・・相変わらずお」
「そのネタは使い古されてます、祐一さん。」
「ぐはぁ・・・」

電話の前で静かにお茶を飲んでいた美汐が落ち着いてお茶を置いた。

「一応打ち込みは終わったわよ、祐一。」

カタカタとパソコンを打っていた香里が眼鏡を外して祐一に振り返った。」

「サンキュー香里。」
「たまには自分で打ってよね、あたしより出来るんだから・・・」
「腹減ったな。」
「そうですね・・・」
「ちょっとぉ・・・」

バタンッ

「ただいま戻りましたですよ〜っ、」
「「「おかえりなさいっ」」」
「はぇ〜・・・みなさんおそろいでしたね〜っ、」

買い物かごをぶら下げて、満面の笑顔で佐祐理が事務所に戻って来た。

「そろそろお昼ですからね。」

美汐がお茶を飲み干してから、にっこりと微笑んだ。

真琴は人として戻っては来なかった・・・
が、祐一達と過ごすうちに、かなり表情が豊かになっている。
そんな美汐を見て、暖かな笑みを浮かべる祐一だった。

「そうそうみなさんっ、お昼ご飯の前に依頼ですよ〜っ、」
「ホントか?佐祐理さんっ、」

手を前で合わせて明るく答える佐祐理。
そうしてドアの向こうに声をかけた。

「どうぞ〜っ、」
「はい・・・・」

そこには懐かしい制服を着た・・・しかしどう見ても中学生にしか見えない少女が居た。

つかつかつか

少女はいきなり祐一の前に来ると、いきなり。

どげしぃっ!!!

と顔面に蹴りを入れた。

「ぐぁっ・・・・」
「私は高校生ですっ!!」

・・・何故考えている事が・・・・

「久々だったけど、口に出していたわよ、祐一。」
「そ・・・そうか・・・・」
「どうやら祐一さんのその癖は、この制服と関係あるかもしれませんね・・・」
「冷静に判断しないでくれ、美汐・・・」
「あは、あははは〜っ、佐祐理はお昼の用意しちゃいますね〜」

気を取り直して祐一は少女に言った。

「時にお嬢さん・・・」
「は、はい・・・」
「その制服で上段蹴りは良くないぞ。」
「は?・・・・」

一瞬何のことか解らなかった少女だが、思い当たったとたんに真っ赤になる。

づびしっ、ぐしっ、すっこ〜〜〜ん・・・・

祐一の言った意味が分かった香里が幻の右ストレート。
美汐のエルボークラッシュ
そしてお皿が祐一に飛んで来た・・・お皿?

「あはははは〜っ、お皿がどこかに飛んで行ってしまいましたぁ〜・・・てへ」

ぺろっと舌をだして暖簾から顔を出す佐祐理。

「俺が所長の相沢祐一、で、依頼というのは?」
「いつもながら立ち直りが早いわね・・・副所長の美坂香里よ」
「まぁまぁ、これ以上脱線しても仕方有りませんから・・・助手の天野美汐です。」

すっとたおやかに少女にお茶を出す美汐、依頼人用の玉露だ・・・

「そうね、こんなのだけど、腕は確かだから安心してね。」
「は・・はぁ・・・」

なんとなく信じきれないといった顔だが、少女は続ける。

「まず、名前を聞かせてくれないかな?」
「あ、私の名前は、「北畠美幸」といいます。高校一年生です。」
「・・・・」

「北畠」の名を聞いた祐一は一瞬こわばるが、すぐにいつもの表情に戻った。

「?あの・・・何か?」
「いや・・・何でも無い」
「で、どうしたの?」
「はい・・・兄が・・・兄が失踪したんです・・・」




続く




美坂香里
高校二年の時から祐一の恋人の座を獲得している、
探偵事務所の副所長、その頭の回転の良さを活用して祐一をサポート
高校三年の時に、祐一に学年首席を奪われて以来、
二人で常にワンツーフィニッシュを狙っている。
格闘武術を得意として、気を込める事により1mの鉄板すらぶち抜く。

倉田佐祐理
平安期まで遡る事が出来る旧家、倉田家の長女、
そのパイプを利用しての情報収集が探偵事務所での主な仕事。
その明るい声と笑顔は、依頼人の心をも穏やかにする。
和洋折衷の魔術を得意とし、攻撃よりも防御、治癒に傾いているが、
実は小太刀二刀流の使い手でもある。

天野美汐

事務所内ではお茶くみばかりさせられているが、
(客に美汐の入れたお茶が好評な為もある。」
気配を消すのが上手く、その冷静沈着な所も尾行調査には欠かせない。
召還術を得意とし、今では真琴やあの子、美咲を呼び出す事も出来る。
陰陽道みたいに式神を行使し、(実際は陰陽道の始祖と分かれた一派の継承)白兵戦では薙刀を使う

相沢祐一
特に理由もなく、「面白そうだから」と
探偵事務所を開設、いつのまにか裏社会でも有名な探偵となる。
依頼成功率100%を誇る。
その能力は不明
3人を同じ様に愛し、扱う為に、3人の間で争奪戦は起こらないが、
3人の暗黙の了解で、香里を本妻扱いしているらしい。
全ての武器を高いレベルで扱う事が出来る以外不明。


ぴろ
事務所のマスコットとして住み着いている猫。
本性は化け猫で、周囲の野良猫を操って対名雪防衛網を構築。
祐一に正体がばれたあと勝負して、完全敗北したらしい。
その後、その能力を使い、祐一の影武者になる時もある。

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