記憶に埋もれた日々、
祐一は5歳の時に祖父らによって引き合わされて少女達を思い出す。

年に二度、この極寒の地に、親戚の家に遊びに来るという名目で、修行に来させられていたのだ。
祐一はわがままな従姉妹を放りだして遊びに行く、と従姉妹に思わせて修行の場に赴いていたのだ、
まぁ・・・本当に遊んでるのも半分だが・・・

「俺の名は祐一、君は?」
「・・・・・」

おどおどしている少年にむかって祐一は笑顔を(のちに女の子を一発撃沈する、最強の笑顔)見せるが、
少年は萎縮して黙ってしまい、片手は姉らしき人物の裾を握ってる。

「駄目ですよ、一弥、きちんとごあいさつしなさい!」
「いや・・・怒る事は無いぞ、」
「ごめんなさい・・・・」
「いいって、」

一弥を叱責した一弥の姉に向かって、祐一はにこやかに答える。
一弥の姉佐祐理は、まともに祐一の目を見てその笑顔に撃沈した・・・
綺麗で屈託無く、心に鮮烈に焼き付く優しい笑顔だった。

「ほぇぇ・・・・・」
「一弥はこれから、俺の相棒兼親友になって貰うんだから、俺の事は祐一と呼べよ?」
「・・・・うん・・・」

やっと、一弥は声を出して祐一に答えたが、その表情は変わらなかった。

「じゃ、早速・・・・遊ぼう!」
「「えっ?」」
「たっぷり修行するだけでなく、たっぷりと遊ばないと、
柔軟な思考ってのが身に付かないとじいさんが言っていたからな。」
「いいの?」

一弥の問いに祐一は、笑顔で答えた。
よほど厳しくされていたのだろう・・・
遊ぶという選択肢を諦めるくらいに・・・

「おぅっ、あたりまえだっ、!」
「・・・・」
「いくぞっ」

差し伸べる祐一の手に、はじめての笑顔で一弥も手をさしだした。

「あのっ・・・」
「あっ、・・・・え〜〜と・・・・」
「姉の佐祐理です・・・」
「一緒に遊ぶぞ、」
「え・・・」

そう言うやいなや、祐一は一弥と繋いでいる手と反対の手で、佐祐理の手を掴んで走り出した。


のちの昔語りの逸話に残る悪戯はこの日に行われた。



「はい・・・兄が・・・兄が失踪したんです・・・」

その少女はそう祐一達に言った。


「ふむ・・・・警察には届けたのかい?」

沈んだ少女、「北畠美幸」と名乗るどう見ても中学2年生な容貌の高校一年の少女は俯いたまま首を振る。

「そうか・・・・・え?」

ちょっと思考して祐一が少女を見ると、涙目上目遣いで、美幸が睨んでいた。
(可愛い・・・香里、佐祐理さん、美汐と同等レベルに可愛い・・・・)
祐一が3人の同じ様な表情を思い出して3人を見ると、
思い出さずともその表情をしていた。

「え〜〜と・・・・ひょっとして・・・・」
「正解、口に出していたわよ、祐一。」
「ぐはぁ・・・・・」
「あはは・・・・この制服が原因だとしたら、着替えた方が良いですね〜」

佐祐理が助け船を出した。

「優しいなぁ・・・・佐祐理さんは・・・」
「「(ギンッ、)」」

香里と美汐に絶対零度の眼差しで睨まれた。

「そ、そうだな、美汐、すまないが、美汐の持ってる服で、似合いそうなのがあれば、貸してやってくれ。」
「どうして私なのですか?」
「それは・・・・」

祐一は、香里、佐祐理、美汐、美幸を見比べて美汐に視線を戻す。

「そんな酷な事はありません・・・」

香里も、佐祐理も言いたい事が解った様で、頭に大汗を浮かべていた。

「・・・・わかりました・・・・どうぞこちらへ、美幸さん」

美汐と美幸が事務所から出た後、

「この街に来ていた南の一族が壊滅したあと、単独行動の鬼狩が来ているはずだな、」
「そうね、現在行動してるのは北の一族メインよ。」
「香里、万が一という事がある、彼女から写真を受け取ったら、北川に身元不明の遺体と照合して貰ってくれ。」
「え〜〜〜あたしが北川君の所に行くの?」
「そうだ、」
「毎回デートに誘って来るのよ、もういいかげんにしてっ、感じよ。」

北川は香里と一緒の大学を目指すも失敗し、
何故か警察学校に入って警察官になっていた。
その不死身の再生力と行動力で、今は「刑事巡査」として
先輩の女性にこき使われてる。

「あいつも一応北の一族だぞ、情報は持ってるはずだ。」
「それでも〜・・・」
「悪いな、何か一つ言う事を聞いてやるから。」
「ほんとっ?」
「あぁ、」
「どんな事でも?」
「あぁ、」
「子供が欲しいって言っても?」
「あぁ・・・・ってなんでそうなる?」
「う〜〜・・・・けちぃ・・・」
「こらこら・・・・」

まったく・・・・そんな事をわざわざ言わなくてもいいのになぁ・・・

「仕方が無いわね・・・何か考えておきましょう。」
「そうしてくれ、あ、香里の周期は解ってるから嘘は無駄だぞ?」
「・・・・・馬鹿・・・・」

拗ねた顔になる香里に祐一は思わず了承しそうになるが
ぐっと堪えて佐祐理に話しを振った、
自分を置いて行かれた感じで佐祐理が少々不満気な表情になった事も理由だが・・・

「佐祐理さんは、倉田警備の特別班に、彼女の身辺護衛をさせて貰えるかな?」
「いいですよ〜」
「あと、結界も張っておいてくれる?」
「はい、祐一さんの為なら佐祐理、頑張っちゃいます、ですから・・・・」
「あぁ、佐祐理さんも一つな?」
「はいっ、♪」
「一弥と舞が戻ってくれば、護衛は任せられるんだけどねっ」
「そうですね〜、舞ったら、一弥に剣で負けたからむきになっちゃって・・・」

人前で剣の腕を見せなかった一弥だが、祐一がこの事務所を開く際、
舞のテストと祐一が称し一弥と勝負させたのだ、
結果は舞の完全敗北、
次の日、一弥を拉致して何処かの山に修行に行ってしまった。

「ま、一弥が一緒だから無事でしょ。」
「あはは〜っ、そうですね〜」
「料理もだいぶ佐祐理さんが仕込んでいたみたいだからね。」

特に意識していないが祐一は佐祐理の頭をなでなでしはじめた。

「ふわ・・・・」

佐祐理は気持ちよいのか、うっとりと祐一に撫でられている、
ふっ、と祐一の視界にもう一つの頭が入る、
香里だ、香里も物欲しそうに祐一を見つめる。

「香里もか・・・」
「てへっ、」

祐一は呆れた様な口調で、しかし暖かい笑顔で香里の頭も撫で始めた。

「(まったく・・・すぐに甘えんぼになるんだから・・・)」

それでも二人の頭を胸にかき抱く様にして優しい表情で撫で続けていた。

「(あゆもこんな感じの表情で撫でられていたなぁ・・・・そういえば・・・)」

あゆは現在、「水瀬あゆ」として、秋子さんの指導と、予備校に通い、大検受験を目指して頑張っている。

ちなみに寝雪は、今は一日21時間は寝て、猫苺狂いは相変わらずである。
最悪だったのは、おしゃべりな事である、

(う〜〜〜そんな事ないんだお〜・・・)

探偵には守秘義務がある、高校の頃から寝雪のおしゃべりには皆が困っていた所だ、
依頼人の事をぺらぺら喋られては堪らない。
寝雪は当然自分も参加させてくれると決めつけていたらしいが、

(寝雪じゃないよ〜名雪だお〜・・・)

そんな傲慢で自分本位すぎる寝雪にここへの出入り禁止を言い渡した。
寝雪はいつものごとく、紅生姜や謎邪夢による脅迫で撤回を求めたが、
ここに一緒に住むメンバーに、香里、佐祐理さん、美汐がいるので、
食事を使った脅迫には屈しなかった。
いや・・・・それほどにまで今までの名雪の行為に嫌気がさしていたのだ、
いくら蓄えがあったからと言って、大卒初任給レベルの金額を毎月無駄に消費していればそうもなろう・・・
大学合格と共に、同じ大学の香里、佐祐理、舞と大学の近くに家を一件借りて引っ越し、名雪のそばから離れた。
(のちに美汐も合流)
ま、そんな訳で、祐一が水瀬家へ遊びに行く以外、会う事も少なくなってはいるのだが、
それも、秋子さんとあゆに会いに行ってるにすぎない。

「いい加減、寝雪の電波も困ったものだ・・・」
「そうね・・」
「もう、たかられるのもゴメンだし。」
「栞もその一端だから、何も言えないわね・・・」
「あは、あははははは・・・・・・・」

どうやら口に出していたらしい・・・・

「違うわよ、祐一。」
「へ?」
「愛の力よ。」
「愛の力です。」

う゛〜〜ん・・・・思考のシンクロが出来るほど通じてるのか・・・・

「祐一さん、着替えて参りました。」
「「「あ・・・」」」
「私の居ない間に・・・そんな・・・酷と言うものです・・・」

佐祐理と香里が祐一の胸に体重を預け、頭を撫でている姿に美汐は不機嫌になった
まぁ、美汐も同じく頭を撫でてもらう事で機嫌を直したのだが・・・・

「こほん・・・・」

とりあえず咳払いをして、祐一は本題に戻る事にした。
が・・・・・
何故?という表情になる・・・

「はい?どうかしましたか?」
「いや・・・・その服なのだが・・・・」
「変ですか?」

美幸は、ピンクのフリルをふんだんにあしらったワンピースを着ていたのだ。

「美汐がそんな服を持っていたとは・・・・」
「・・・・そうね、あたしもそれは疑問に思ったわ・・・・」
「あはは〜っ、佐祐理はいっぱい持っていますよ〜」
「祐一さん・・・それは私がおばさんくさい服しか持っていないと思っていると捉えて良いのですか?」

なんか美汐の身体が震えている気がする・・・

「そ、そんな事は無いが、美汐の服はおとなしめのものか、和服が多いじゃないか・・・」
「昔・・・真琴に奨められて買ったものです。」
「なるほどね・・・・」
「お話を元に戻してもよろしいでしょうか?」
「美汐・・・そんな言い方だからいつまでもお・・・」
「物腰が上品なもので・・・」
「ちっ、今日も遮られた・・・祐ちゃん悲しい・・・・」
「祐一さんっ!!!」
「あ〜すまん、すまん、で、美幸ちゃんだったね、お兄さんの行動に心当たりは?」

すぱっっと真面目で真剣な顔に戻すと、祐一は美幸に兄の事を聞き始めた。

「あの・・・普段は真面目なのですが・・・私に黙って夜出歩くんです・・・」
「う〜〜ん・・・」
「彼女とかは居なかったのかな?」
「そんな人居ません、
・・・・居ますから・・・・

赤くなり俯く美幸

「ん?何か言った?」
「いいい、いいえっ、何でもありません。」
「あたしが見た所、美幸さん・・・・」
「は、はいっ、何でしょうか・・・」

香里は祐一譲りのいたずらっ子な笑顔で言った。

「お兄様、ラヴね。」
「あはは〜っ、佐祐理もそう思いました〜」
「そうですね・・・」
「な、な、な、何で解るんですかぁ〜・・・」

ぼんっっと音が聞こえるくらいに全身が真っ赤になり、湯気すら上げる美幸。

「な、なんでみんな解るんだ?俺にはちっとも解らなかったぞ?」
「まぁ・・・祐一だからね・・・」
「それが祐一さんなんですよ〜っ、」
「祐一さんらしいです・・・」
「????」

納得いかない祐一だが、話を進める事にした。

「お兄さんが心配だが、警察沙汰にする訳にもいかない・・・そうだね?」
「(コクン)」
「お兄さんの写真は持って来てるかい?」
「あ、はい、ここに・・・」
「香里・・」
「了承、」

写真を受け取る香里、記憶の中からこの地域に拠点を置く北の鬼狩の顔と照合する。

(祐一・・・)
(どうだ?)
(ビンゴ)
(そうか・・・・)

アイコンタクトで予想通りの結果である事を伝えあった。

「美幸ちゃん、依頼を引き受ける事にするよ。」
「ホントですか?」
「祐一さんは、こういう約束事で嘘は付かないから安心してくださいね〜っ、」
「あ、ありがとうございますっ、」
「それでだ・・・」
「はい?」
「おにいさんが何か事件に巻き込まれてる可能性もあるから、しばらくはここで暮らすといい。」
「え?でも・・・・」
「二人っきりなんだろ?」
「そうですけど・・・あれ?両親が居ない事言いましたっけ?」
「あ・・・」

しまった、という顔を一瞬する祐一だが、今度は美汐がフォローした

「着替えてる時に聞いたのを先ほど伝えて置いたのです。」
「あ、なるほど。」

(サンキュー、美汐)
(祐一さんの為ですから・・・)
(解った、あとでたっぷりと可愛がってあげる。)
(・・・・・ぽ・・・・)

「ま、まぁ・・・・そうでなくても、君一人で依頼に着た時点で推測出来る事だぞ。」
「そうですね、」

苦笑しながら祐一は佐祐理の入れた珈琲を含む

「そうね・・・学校が終わったら、食事の手伝いと、ここの雑用もしてくれるならバイト代も出してあげるわ。」
「いいのか?香里。」
「祐一もそのつもりでしょ?」

祐一は両手を挙げて、降参のポーズを取った。

「正解、さすがは頼れる副所長。」
「おだてても何も・・・・いえ、今夜は私が当番だから、愛のたっぷりこもったご飯にしてあ・げ・る。」

顔を赤らめて言う香里に、同じく顔を赤らめて祐一も答えた。

「楽しみだが、量に気を付けてな。」
「もうっ、栞じゃないから、ちゃんと適量よっ、」


栞も最初、食事担当と言って香里の部屋に居座っていたのだが、
一週間で運営資金を食費で使い切った、理由はKANONを知る人なら解るだろう
しかも冷蔵庫にはバニラアイスしか入っていない状態に・・・
香里と共に心を鬼にして出入り禁止を言い渡したのだった・・・・
(えぅ〜〜〜そんな事言う人機雷ですぅ〜・・・)


「で、どうだい?美幸ちゃん。」
「え、あ・・・はい、お願いします・・・・」
「じゃ、決まりだ、美汐、真琴と美咲を召還していいから、手伝ってあげてくれ。」
「わかりました。」







続く
5/26版


「はぇ〜・・・・祐一さんの笑顔が効かない娘も居るんですね〜っ、」
「だって、あの子は「お兄様ラヴ・・・」ですもの。」
「なるほど・・・ライバルに成らないからこそ、泊まり込みに賛成したのですね?」

「お〜〜い、出るぞ〜」

「「「は〜〜い、今いきま〜〜す。」」」




相沢探偵事務所
一階が駐輪駐車場として移動指揮車(軍用以上に情報収集能力を持つ、外見はキャンピングカー)
香里の使う軽自動車、祐一のバイク、美汐のスクーター、佐祐理の自転車が置いてある。
二階は事務所、リビングキッチン、装備部屋(変装用衣装や武器、祐一も女装する事がある)、など
三階には、祐一、香里、佐祐理、美汐、舞、一弥の部屋があり、一番安全な所にゲストルームがある、
因みに寝室が別にあるのは祐一だけで、寝室には3人が余裕で眠れる大きなベットがあり、
お風呂にも直結している。
和室は美汐だけで、掘り炬燵すら装備している。
四階は修練場で、良く祐一と香里が組み手をしている。
屋上は佐祐理と美汐が菜園にしている。

倉田一弥
このSSの設定では、一弥は生きており佐祐理の悲しみはありません、
故にあの性格は「地」となります。
正統古流剣術の免許皆伝クラス、我流の舞をあっさりと負かしてしまったが為、
舞に拉致されてどこかの山で修行につきあわされている。
気を込める事により、ちり紙で何でも切る事が出来る。

水瀬名雪
あまりもの傲慢で自分本位な思考故、高校3年の時点で、
祐一に見限られてしまっている。
朝は当然起こして貰えず、その遅刻記録が祐一達と同じ大学を落ちた原因である事に
いまだ気付かない、天然大ボケ猫苺狂いの眠り娘。
名雪好きの人には申し訳無いが、筆者が嫌いなのでこのSSでの登場は無いと思われる。





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