かぽ〜〜〜ん・・・・
黄金とまでは言わないまでも、豪勢な茶室に祐一達は居た。
「・・・一弥・・・・」
「はい・・・にいさま・・・」
「俺・・・・もう足が限界・・・・」
「ボクはすでに・・・感覚が・・・・・」
音を上げる男組、
香里と佐祐理は優雅にお茶を飲んでいた(実はやせ我慢)
「・・・・これぐらいで音を上げるなんて、人として不出来ですよ?」
茶器を操っていた少女が祐一達を振り返った。
あまりに自然だったので、祐一達も、まさか同じくらいの年齢の娘とは思ってなく、
唖然としてしまった。
それが口惜しい祐一は負け惜しみで、
「おばさんくさい事を言うなぁ・・・」
と返し
「失礼な、物腰が上品で優雅なだけです。」
少女もこう切り返して来た。
「申し遅れました、天野美汐です。」
一族史上最強と言われた5人がここにそろった。
深夜
静まった倉庫街の一郭に、いかにも妖しげな黒塗りの車が現れた。
その車はすれ違う様に接近し、隣り合った所でお互いの左側の窓を開けた。
お互いの後部からはアタッシュケースが出、
中身を確認した助手席の人物がアタッシュケースを受け取り、何事も無かった様に去って行った。
その廻りには誰も居ないと思いきや、
車をギシギシと揺らすカップルの軽自動車が居た事に連中は気付いて居なかった。
否
気付いて居ないのではなく、気付かれないと思い、無視していただけかもしれない。
「ねぇ、祐一・・・」
「ん?」
「行ったみたいね・・・」
「そうだな・・・・」
その車で最中のカップルを装っていたのは、祐一と香里だった。
「写真は?」
起きあがり、衣服を整えながら祐一が聞く。
「撮れたわ、ナンバーもバッチリ。」
衿を整えて香里が答える。
「上出来。」
シートを元の位置に戻し、エンジンをかけてから香里が聞いた。
「彼らが『S−NOW』を作っているの?」
「おそらくな・・・」
「・・・・」
理性のタガを外し、人を欲望のみに忠実な人物に変える麻薬、『S−NOW』
その成分は警察でも解析不能で、その存在と効能だけが若者の間で広がっていた。
祐一はそれが探偵を始めた真意だと言わんばかりにその事件を追っていた。
普通の依頼もこなしていますよ?一応・・・・
遠くで大きくぶつかる音と、爆発音がした。
「祐一っ、」
「急ごう、美汐の事だから失敗はしていないと思うが・・」
「了承。」
香里は音のした方向に車を動かした。
〜美汐〜
「来ましたね・・・・祐一さんの話では、この車が『S−NOW』を受け取った方の車のはず・・・」
「あぅ〜・・・美汐?」
「人を傷つけるのは本意ではありませんが、これも『S−NOW』を広めようとした罰です。」
美汐が手刀を黒塗りの車に向けるや、側に居た二匹の狐・・・式神が飛び出して行った。
「「りょ〜かいっ」」
消えるハズだった命、消えたハズだった命は、美汐の式神として、復活する事が出来、
美汐にとっておおきな力になっていた。
ボンネットを、フロントグラスをも通り抜けて威嚇する真琴と美咲、
運転を誤らせるには十二分だった。
「うわぁぁぁぁぁ・・・・・」
車は見事に電柱に追突、
美汐が符を投げると、逃げ出た男達の持つアタッシュケースに張り付き
麻薬は炎と化して消滅した、続いて車のガソリンに引火、炎上した。
それを呆然と眺める暴力団風の男達。
「成敗です・・・」
「あぅ・・・美汐・・お「物腰が上品で優雅と言ってくださいね?」・・・・クスン・・・・」
すっと、美汐の側に車が止まる。
「馬鹿言っていないで、気付かれる前に退散するわよ?」
「解りました、やはり彼らから鬼の気はありませんでした。」
「となると佐祐理さんの方次第か・・・」
香里の車に拾われて現場を後にする美汐。
「あ〜香里・・・」
運転する香里の髪をくるくるしていじっていた祐一が声をかけた。
「何?」
香里も祐一を見ないで返事する。
「帰りにコンビニ寄ってくれ。」
「いいけど?」
「こいつらににくまん買ってやらないとな・・・・」
後部座席の美汐の膝で眠る、二匹の狐をみながら祐一が言った。
「あとは佐祐理さんを回収するだけね。」
「そうだな・・・・いつも相手が一枚上手で逃げられてしまうけど、佐祐理さんの人海戦術なら・・・・」
「普通の人達に追える相手なら、すでに警察が補足してますよ?祐一さん。」
「そうなんだがな・・・・」
北川の話では、『S−NOW』は売買のすべてが警察には掴めていないらしかった。
末端の売人を捕まえるのがせいぜいである。
「まぁ、本命中の本命に出会わない限り、佐祐理さんが負ける事は無いだろ。」
「まぁ・・・そうなんだけどね、それに国崎さん達も居るだろうし。」
真琴、美咲、
元、ものみの丘の妖狐、現在は美汐の式神として現世に存在しているが、
人型を取る事はほとんど無い。
喋る事は可能だが、美汐のしつけのおかげで場所をちゃんと選んでいる。