さゆりんの場合









しんしんしんしんしんしん>

雪の降り積もる駅前

「雪が降っている・・・・・」

しんしんしんしんしんしんしん

駅前のベンチに座る少年はつぶやいた・・・・
もう一人の少年は慣れているのかまだ寒さには耐えていた。

「重く曇った空から、真っ白な雪がゆらゆらと舞い降りていた・・・・」

しんしんしんしんしんしんしんしんしんしん

作者にモノローグを書かせまいという意図なのか、
少年はもう読み飽きたモノローグを口に出す。

「冷たく澄んだ空気に、湿った木のベンチ。」

しんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしん

少年は空を見上げる

「・・・・・」

しんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしん

身体を震わせて、縮こまり、ベンチにさらに深く座る。

「人通りはあるものの、気配無しか・・・・」

しんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしん

「うざい・・・」

しんしんしんし・・・・・

さすがに雪も、いいかげん可哀想になったのか、静かになるが、降雪量は変わらな・・・・

しんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしん
しんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしん
しんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしん
しんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしん

「ぐはぁ・・・・」

何故か少年の上にだけ雪が多く降り始めた。

「わ、わかったから、やめてくれ・・・・」

しんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしん

少年の上に数十センチの雪を積もらせた雪は、満足したかの様、
おとなしくなる。

「ふぅ・・・・」
「あはは・・・祐兄が変な事言うからだよ・・・」

白いため息をついた少年は、駅前の広場に設置してある街頭の時計を見上げた。

しんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしん

「もう3時だな・・・・・」
「3時ですね・・・」

もう夕方に近い時間、雪はさらに降る事になるだろう・・・

しんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしんしん

「遅い・・・・」

少年らは、まずは挨拶をと片方の少年の叔母の家へ行く事をあきらめて本来の目的地に向かう事を本気で考えた。

「何で携帯で連絡しないんですか?」
「そういえばそうだな・・・何でだろ・・・」
「まぁ、祐兄は電話が好きじゃ無いですからね・・・」

空をもう一度見上げて、いざ動こうとしたとき。
視界を遮る影が目の前をふさいだ。

「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」

いかにもぼけぼけな眠たそうな表情をしている変な格好の女が俺の顔を覗き込んでいた。

「酷い・・・・わたしぼけぼけさんじゃないよ・・・」
「邪魔だからあっちに行ってくれ。」

もうさっさと行きたい少年は、邪険に言う。
だが少女はまったく意にかいせずに、自分の言いたい事だけを言う。

「・・・雪、積もってるよ?」
「そりゃぁ、2時間も待ってるからな、雪だって積もる。」
「ですね・・・」

さっさと切り上げたい少年は、ぶっきらぼうに答え、
横に居る少年も相づちを打つ。

「あれ?」

不思議そうにつぶやく

「今何時?」

あくまで自分のペースでしかものを言わない。

「3時だ、解ったらさっさと行ってくれ。邪魔だ。」
「わ、びっくり。」

「(・・・・こいつ、自己中の世界で生きてる・・・・)」

1億人中1億人が驚いていないと言うだろうと思うほど、言葉裏腹でおどろいていない少女、
少年はもうこんな少女と関わりたくないとさえ思った。
立ち上がり雪を振り払い、少女を押しのけてタクシー乗り場の方へ歩き始めた。

「まだ2時くらいと思ってたよ・・・って何処へ行くの?」

(それでも1時間の遅刻だ・・・・)

「君に関係ない。」

歩く少年に、鬱陶しく追いかけてくる少女。

「どうして?」
「・・・・なら言ってあげよう。
まず叔母の家に挨拶する事となったが、迎えが1時に来るというので待っていたが、この雪の中2時間も来ない。
それも強引に迎えに行くから待っていてと一方的に告げたのに、だ。
いまさら来たとしてもだな、家族同然と言っていた叔母の言葉を信じるならば、
その家族をこんな雪が降ってる日に2時間も待たせるとは嫌がらせにもほどがある、
さらにその待たせた奴が、自己中で自分本意な思考となればなおさらだ、
そんな叔母の家などわざわざ出向く必要も無い、本来の目的地、そちらへ向かう、以上だ。」

背後で猫が「がぁぁぁぁん・・・」と書いてあるプラカードを持っている、
その前で愕然とする少女。

「そういう事だから、以後一切赤の他人だ、従兄弟という事も忘れろ、いいな?」
「そんな・・・・祐一・・・・」
「絶縁だ。」
「わたし・・・・もう笑えないよ・・・・遅れたお詫びにコーヒーも買ってきたんだよ・・・・
ねぇ・・・・祐一・・・・あやまるから・・・・・わざとここを指定したことも・・・・
あのときのしかえしにわざと遅れた事も・・・・・あやまるから・・・・・ねぇ・・・・ねぇ・・・・・・」

そんな言葉も祐一には届かない。
過去の記憶を失っている祐一にとって、名雪一人の思い故にこの雪の中で待たされた事は
激怒こそすれ、優しくする必要は無かったのだ、
しかも連れもいる。
名雪はこの7年の大半を寝てすごしていた故に、7年前の出来事も去年や一昨年の感覚でいたのが間違いだったのだ。
祐一への想いを睡眠を多く取る事で流れる時間を遅らせて維持してきた名雪の敗因である。
まだ最初の一言が「遅れてごめんなさい」なら考慮出来るだろうが・・・




プルルルルル・・・・カチャ

「はい。倉田でございます」
「もしもし・・・・相沢と申しますが・・・・」
「相沢様ですか?」
「佐祐理さんをお願いしたいのですが・・・」
「承知致しました、少々お待ち下さいませ。」

携帯で佐祐理さんと連絡を取る。
暖かいタクシーの中、祐一と一弥はぬくぬくとリラックスした。

「・・・実家なんだから一弥がかければいいのに・・・」
「え〜〜祐兄がした方が姉さん喜ぶよ〜」

電話の向こうでどたばたと駆け込んでくる音が聞こえた。
・・・保留モード無いんかい・・・

「は、はい、佐祐理です。」
「佐祐理さん?祐一です、今から向かいますね。」
「親戚の方への用事は終わられたのですか?」
「いや、迎えをよこすとか言っていたけど来なかったからな。」
「それって今までですか?」

外交官と代議士な両親を持つ祐一と一弥は一弥の父が外務大臣であった頃に知り合い、
年齢が近い事もあって兄弟みたいに仲良くなっていった。
そんなとある日、首相の任期終了による慰労パーティーで祐一と一弥の姉佐祐理は出会い、
そして二人は恋に落ち、
交際を重ねて一夏を過ごして恋人同士となっていた
それ以来、手紙、Eメール、電話、ビデオメールと
遠距離恋愛を育んでいたのだった。

それを知った倉田父は速攻で相沢父と結託して二人を許嫁とし、
すでに役所へ提出するための婚姻届も用意しているという・・・・
祐一がそれを知ったのは自分の18歳の誕生日・・・

そんなおりに祐一の父親は駐在大使となり夫婦は妹を連れて外国へ、
それならどうだと倉田代議士は祐一を自分の家に居候させる事を決めた。
そう、事後承諾で決まっていたのだ・・・・
反対して独り暮らしも考えた祐一だが佐祐理と一弥のコールもあって決めてしまった両親ズに笑って承諾した。
一弥が今まで俺の家に居候して学園に通っていたのもあって、今回は交換の形な事もあっさり承諾した理由にもある。
ちなみに二人は同じ学園に通っていた。
中高一貫校でさらに実験校として六年間で単位を取得すれば良いと言う学園だったので俺と一弥はすでに単位を取得していたりする。
さすがにこの国では高卒の資格の問題で俺はあと一年、一弥は二年学園に通わないといけないのだ。
行きたい大学がスキップを取り入れていない事もある。
そんなんで転校する事に問題は一応無い。

「あはは〜ごちそうを用意して今か今かと御母様とお待ちしているんですよ〜」




うつろに、家にどうにか帰って、再び夢の世界へ逃げる名雪に
恋愛INGにらぶらぶなふたりだった











「さて・・・・・」

倉田家に暖かく迎えられた俺は、この北の街での新生活が始まった。
気分は嫁の実家に同居の入り婿状態だが。
忙しくほとんど家に居ない佐祐理の父親も、
不在の間の防犯と肉体労働に期待してくれているみたいだ。
でも一弥も一緒だから労働力という理由付けは弱いと思うぞ・・・・
お義父さんと呼ばないといじける実に少年の心を持ったまま大人になった様な人だ。
お義母さんも、俺と見比べて、

「あらあら・・・・佐祐理が好きになるはずねぇ・・・・一弥も早く良い人見つけないと・・・・」

と微笑んでくれている、似ているという事か?
まぁ・・・確かにそうでなければあの父親と親友になるまい・・・

「大丈夫ですよお義母さん、もう一つの意味でも一弥は義弟となるのですから。」
「あらあらまあまあ・・・・」
「はぇ〜それでは祐唯さんとですか?」
「ちょっ!祐兄、それは僕が言うまで内緒って・・・・」
「あははは、すまんすまん。」
「うぐぅ・・・」
「あらあら・・・祐一さんの口癖まで移って・・・・本当の兄弟みたいですねぇ・・・」

まだ中学の妹祐唯は兄馬鹿と言われようが可愛いと思う、
一弥に逢わせるまで俺の後ろをいつも着いてきていたのが懐かしいくらいに
最近は一弥にべったりだったのだ。
当然海外行きも抵抗していた祐唯だが、家事が壊滅的な母に泣きつかれて一緒に旅立ったのだ。

「そうかそうか・・・・一弥と祐唯ちゃんがなぁ・・・・」

丁度戻って来た倉田父がニヤリと笑っていた・・・・

数日後、祐一らと同じ様に婚姻届けが用意されていたらしい・・・・

「ふふふ・・・佐祐理を贈るんだ・・・祐唯ちゃんを娘に出来ればイーブンだ・・・」

娘を嫁に出すのに少し抵抗があったらしい・・・・






「約束の時間までまだあるな・・・・」

一緒の家に住んでいると言うのに・・・デートですからって別々に家を出た俺と佐祐理さん、
ちょっと早かった為に商店街をぶらぶらしていた。

「歩いていてちょっと小腹が空いたな・・・・」

ふと目に入ったのはたいやきの屋台、

「お、ちょうどいい。」

羽付きリュックを背負った小学生の後ろに俺は並ぶ、
30個・・・・ずいぶん多く買うんだな・・・・・

「はいよ、おじょうちゃん、鯛焼き30個。」
「うんっ、ありが・・・・・」

どんっ・・・・・・

少女はたいやきを受け取った後、俺を突き飛ばして走っていった。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

ぽかんとしてしまうたいやき屋のおやじと俺。

「は、しまったっ、泥棒!!」

食い逃げ、無銭飲食・・・・・・違う、こういう場合は万引きだ。

「おじさん、俺も手伝います。」
「ありがとよ、にぃちゃん。」

おやじに協力を申し出るとおれは一緒に追いかけ始めた。
が、小学生にしては結構速い。
しばらく追っているうちに、年齢か、おやじがへばってしまった。

「はぁ・・・はぁ・・・・にぃちゃん・・・・俺はもう駄目だ・・・・速い・・・・」
「解りましたあの桜並木に潜んでいて下さい、そこに追い込みます。
「あいよっ、頼んだっ、にぃちゃん。」

さ〜て、この韋駄天の祐ちゃんと呼ばれた俺が本気を出すか。

追いかけ、後ろから捕まえるのではなく、
わざと前に回り込んだりしながら、窃盗少女を桜並木に追い込む。

「止まれっ!」
「うぐぐぐぐぐぐぐぅ〜〜〜〜」

ばっと前を塞いだおやじとの連携で窃盗少女を捕まえる。

「うぐぅ・・・・・」

ぐちゃぐちゃと言い訳をする少女だが、おやじも俺も聞く耳持たない。
1個や2個ならまだゲンコツ一つで済んだものを、
さすがに数が多いのがいけなかった。
財布が無いなら受け取るな、注文する前に確認しろってなもんだ。

おやじは交番に少女を連れて行き、
おれは屋台で待つ事になった、
焼きかけのたいやきを見ていて欲しいとの親父の頼みを俺が承知したからだ。
戻ってきた親父が言うに、保護者が来たらたっぷりと怒ってもらう様言ってきたらしい、
ぬすんだたいやきは、そのあとに少女にあげる様、警官に言って渡してきたとのこと、
漢だぜ、おやじ。

ちゃんと購入したたいやきを持って、俺は待ち合わせ場所で佐祐理さんを待つ。

「あはは〜お待たせしましたぁ〜」
「そうでもないさ、ちょっと競争していたからな。」
「はぇ・・・そうなんですか?その紙袋は?」
「たいやきだ、おまけして貰ったからな、公園ででも食べないか?」
「ん〜・・・・上映の時間まであまり無いですね・・・・」
「じゃ、映画館の中で食べるか、今日のは確かSFXアクションものだよな?」
「あはは、そうですね〜」
「じゃ、行きますか。」
「はいっ!!」

楽しい生活が始まる。


香里編を書いてから数年・・・・再び新春に登場
帰ってきてしまったこのパターん・・・次の美汐編はあるのだろうか・・・・

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