そこはとある大学病院の診察室だった。そこには医師と私の両親、そして私の4人がいた。




「……誠に申し上げにくいのですが……この病気は現代の医学では

完治させることも、進行を食い止めることも困難です……」



医師からそう告げられたとき。一瞬、時間が止まった………

再び医師が少しづつ言葉を選びながら話す.



「精一杯の努力はしますが……」



「先生!」



堪えきれなかった母の大きな声が医師の言葉をさえぎる



「あの子は…あの子は、助からないんですか!」



斜め下を向いたまま、視線を合わせることなく医師は、



「……もって、あと1年でしょうか」



「そんな………」



母は手で顔を覆ってしまい、その場に泣き崩れた。

私の前では決して涙を見せることのなかった母。その母が私の目の前で泣き崩れていた。



父は耐えてはいるが、その堅く握られた握り拳がその胸の内を代弁していた。











その日はそのまままっすぐ帰宅した。父、母、そして私。3人とも無言だった。



「香里。」



「なに?母さん」



「今日のことなんだけど…あの子には内緒にしておいたほうが…」



「母さん。」



私は強い口調で言った。

「もしかして、本当にあの医者の言ってることを信じちゃってるの?

もう、絶対助からないって思ってるの?」



「か、香里……そ、そりゃ、母さんだって助かるって信じたいけど…」



「私は信じるわよ、栞が助かるって。」



母は驚いたように私を見た。



「医者から言われて、それを全部真に受けて、そんな顔して栞の前に出るの?

医者だって人間よ、言ってることが外れる事だってある。

それにまだ時間はあるのよ、完治する方法がその間に見つかるかもしれない.

進行を食い止める薬が発見されるかもしれない。」





「助かる、栞は絶対助かるって信じなきゃ。あの子のためにも

信じてあげなきゃ。直すのが難しい病気かもしれない。でも、

そんな病気にあの子は立ち向かってるのよ。家族の私たちが信じてあげなきゃ、

あの子、誰が支えてあげるのよ!私たちよ、あの子の支えにならなきゃいけないのは

私たちなのよ!ここで泣いてて何の役に立つの?そんな暇があったら栞のそばについててあげるとか

やらなきゃいけないこと、私たちしかできないことがあるでしょ。」



















「ね、母さん。泣くより前に、することはあるよ。」


















そして、医師から宣告された一年が過ぎ。今、栞は私の隣にいる。

一年持たない、という医師からの宣告を受け止め、精一杯の事をしてきた私の妹。

そして何よりも



「生きる」



という勇気をもてた私の妹。



そして、そんな妹に生きる勇気を与えてくれた人が今やってくる。



「遅いですよ、祐一さん。」



「ごめんごめん、栞。待ち合わせの時間、間違えちゃって…」



「そんなこと言う人、嫌いです。」

幸せそうな妹の笑顔が、そこにはあった。




<後書き>

どうも、始めましての方もそうでない方も。

MIDと申します。始めて挑んだKanonのSS、いかがだったでしょうか?

普段は「ときメモ」でスポ根SS(^^;;やギャグSS書いてる私ですが、




今回の話は栞シナリオでの香里に対する反発から始まってます。



「いくらつらいからとはいえ、自分の妹の存在をなかったことにしたいって、言い過ぎじゃないか?」

と言う反発です。



個人的な話ですが実を言うと私も似たような体験があります。

弟がやはり、「最悪の場合も考えたほうがいい」と宣告されたのです。

幸いにも一命をとりとめ、今ではすっかり回復していますが、あとで医師から

「診察があと1日か2日遅れていたら手遅れだったでしょう」

と言われ、 背筋が冷える思いをした経験があります。



そういう経験があるからでしょうか、あのセリフにはすごく腹立たしかったんですね、

「いいかげんにしろ」と。

「いちばんつらいのは本人じゃないのか?」と。



ゲーム設定とは完全に違っちゃう話ですが、こういう話書かないと、香里が許せそうにない んですよ、個人的に。



自分の愛する人、家族……自分で何ができるか、何をしなければならないか。



それに対する私なりの答えがここにあります。



あなたは、あなたの大切な人に、何ができますか?

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