二人の四季・春たけなわ



年度が替わった新学期、この地方の桜はまだだけど、
あたし美坂香里は、朝の待ち合わせ場所へ急ぐ

「おはよう、香里、」
「おはよう、祐一

祐一は香里の状況を見てつぶやいた

「なんだ?走って来るほど遅い時間じゃ無いぞ?」
「だって・・・早く会いたかったから・・・」

二人は登校する周りの目を気にせず抱擁する

「嬉しい事を言ってくれるね、香里、毎日一緒にいるのに。」
「ふみゅう・・・ずっと一緒にいたいの・・・」

う〜〜〜・・・・

「?何か聞こえた?香里・・・」
「え?聞こえないわ。」

・・・だお〜・・・・・・

「この声は・・・」
「そうね・・・」

土煙を上げて二人に爆進する娘・・・

「「・・・・名雪・・・・」」
「置いて行くなんて、酷いよ・・・」
「行こうか、」
「そうね・・・」

腕を組み、二人は歩き出した

「ちょっとぉ・・・」

二人の間に入ろうと名雪がするのだが、
祐一は香里を抱える様にして避ける。
名雪は勢い余ってそのまま学校方面へ100m以上は進んだ。

「・・・相変わらずの暴走機関車だな・・・」
「速いけど、止まらないからね・・・」
「う〜・・・二人とも酷い事言ってる・・・」
「事実だ。」
「事実よ。」
「う〜・・・」
「香里・・・」
「何?祐一・・・」
「名雪が居るって事は・・・」
「・・・まずいわね・・・」

二人はぴったりくっつきながら走り出した

「う〜・・・二人ともかなり酷い事言ってる・・・」

不機嫌な顔の名雪も後を追って走り始めた









二人の四季 春たけなわ

「香里〜」
「何?」
「今日の昼さ、何処に行く?」
「・・・そうね・・・学食でアイスを買ってから中庭はどう?」
「・・・アイス?」
「うん」
「・・・OKだ。」
「名雪はどうするの?」
「コレを仕込んでくれ、香里。」

祐一が渡したのは、耳栓だった。

「何?これ・・・」
「耳栓だ。」
「それは解ってるわよ・・・どう使うの?」
「うむ、この目の前で寝てる物体に4時限の時に耳栓をする。」
「うん・・・」
「昼休み、チャイムが鳴ったら俺達は教室を出るんだ。」
「うん・・・」
「俺達が居なくなってから、斉藤か、七瀬さんに耳栓を外して貰う。」
「なるほどね・・・チャイムに反応させないって事ね。」
「そうだ。」
「でも、名雪ってこういう時だけは、体内時計で起きるわよ・・・」
「う・・・そう言えばそうかも・・・」
「ま、やってみるわ・・・」
「そうだな・・・」

昼休み、どうにか名雪を振りきって、二人は学食の購買部を覗いた、

「あれ?クーラーボックスの中が空だな・・・」
「・・・そ、そうね・・・・」
「いくら暖かくなったと言っても、まだアイスの時期じゃないと思うんだが・・・」
「・・・そうね・・・」
「どうした?香里、なんか呆れてる顔だが・・・」
「な、何でもないわよ、しょうがないから中庭に行きましょ。」
「そうだな、早く行かないと場所が無くなる」

雪の解けた中庭、食後に寄り添い微睡む二人の前に、緑のリボン・・・

「何やってるんだ?こんな所で・・・」

香里は何も言わない

「来たら・・・ダメなんですか?」
「それは・・・ちゃんと、家で寝ていないと・・・治るものも、治らないし、何より・・・」
「何より?」
「香里が心配する。」
「祐一さんは心配してくれないのですか?」
「当然、義兄として心配するぞ。
「ぇぅ・・・何かショックです・・・でも心配いりません、今日から学業再開ですから・・・」
「そうか・・・香里。」
「はい?」
「知っていて隠してたな?」
「ごめんなさい・・・ビックリさせたいって言うから・・・」
「了承。」
「え?」
「見事にビックリさせられたよ、」

祐一は自分に寄りかかってる香里をさらに抱き寄せる

「えぅ・・・そ、そんな事する人嫌いですぅ・・・」
「「あ・・・あははははははは・・・・・」」
「それよりも、ア、アイス食べませんか?」

栞は持ってた紙袋をどんっ、と差し出した

「・・・通りで購買にアイスが無かったわけだ・・・」
「そうね・・・まさか、と思ったけど・・・全部買ってるとはね・・・」
「いいじゃないですか、好きなんですから・・・」
「ま、溶ける前に少しは食べますか。」
「そうね、もったいないからね。」
「「でも、ちゃんと責任持って食べろ(るの)よ、栞。」」
「えぅ〜・・・ハモってそんな事言う人嫌いですぅ〜・・・」








おしまい

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